6.人の世界
ダリスが持て余した時間は人間の暮らしについて話をしてもらうことにしている。
今までの暮らしで知り得なかった情報は聞いていて楽しい。蛇達も彼の話は好きなようだ。
聞くに、どうやら人の世界は複雑らしい。
生きるためには魔法を扱わなければならないし、それができなければ穀潰しと言われる。
魔法が使えても、強者に従わなければならないし、人同士で豊かな土地を奪い合わなければ満足できない愚かな一面も持つのだそう。
それから、人は土に水を混ぜて作った事もあって、多くは水や土の属性を持っていて、火の属性を持つ者は持て囃されるようだ。
ダリスのような白い髪をしている魔法の属性を持たない者は、決して欠陥品というわけではなく、どちらかと言えば精霊と対話のできる上位の存在なのだけど……。
精霊の見えない多くの人間には理解されないらしい。
そんなに火を扱える事を讃えるのなら、精霊に力を借りればいいのに……。精霊と対話が出来るのだから、彼らは力を貸してくれるし、自分の持つ属性も何も関係なく魔法をつかえるはずだ。
蛇達がダリスに協力してくれるよう決まり事を皆で考え、最終的に魔法陣を用いた魔法……。魔術を作り出した。
魔術をダリスがうまく扱えるようになれば、彼はもといた人間の世界に戻れるはず。
なのに、魔術を覚えてメキメキ成長していくダリスを見て不思議とそのままでいてほしいと思った。幸せになってほしいと願っていたはずなのに…………。
「リザ、僕は一度、もといた集落に戻ろうと思う」
「……そう」
ダリスを住処に迎えてしばらく経つ。
私と違って人間の体は食料の摂取や排泄が必要になるけれど、この地は食べるものが自然と実るので人間のように農作業をする必要はない。外に出なくても生活はできるのだ。
だからこそ何故?
この生活に飽きたような感情には触れたことはない。むしろ、好んでいてくれたはず。
「もう、戻らない?」
「戻るよ。必ず! ただ、町に行った蛇達が言うことが気になって……。ここは平和だけれど、外はそうじゃないかもしれない。何が起こっているのか知る事は悪い事じゃないはずたよ」
最近蛇達は「人が野を焼いた」「人同士で争っている」そういった事を口にする。
外が危険。なら、ここに居ればいいのに……。
人間は弱い。すぐに死んでしまう。
だからこそダリスが居なくなってしまうのが怖い。
彼といるのは心地いいのだ。
言葉が柔らかくて、心の響きさえも濁りを感じない。彼が密かに秘める私への讃称も……。
彼の全てが私を満たしてくれているようにも思える。
だから。
「いや」
「リザ……」
彼の服を掴んで俯いた。
「すぐに戻るよ。だから、少しだけ待っていて」
安心させるようにニコリと笑顔を見せるダリスは、そっと私の頭を撫でた。
あぁ、私は一体どうしてしまったのか……。
ゆっくりと彼から手を離した。