5.白と出会う
変わらない日常に変化が起きた。
私の目の前に一人の人間が現れたのだ。
その人間は白い髪をした神の形……男であり、私と蛇達を交互に見て自分以外に蛇が見える人がいる事にとても驚いていた。
そして彼は私に自分の事を冒険者だと言う。ただ、彼が嘘をついているのは心の声がものがたっていた。
どうやら、騙そうというより隠したかったようで、髪や瞳の色に白を持つ人間は属性魔法の基盤を持たない故に、住んでいた集落から追われた身のようだ。
ほとんどの人間はどんなに魔力の弱い者でも、火を起こす水を溜める畑を耕すなどの、日常生活に役立つ小さな魔法は使えるもの。
ソレが出来ず、全て手作業でしなければならない白い髪の彼は役立たずの烙印を押されたらしい。
彼は私を見たり地面を見たりを繰り返し、頬を赤くしてみたり、深呼吸をしてみたり、落ち着かない様子をみせる。
実際に心の中は落ち着きなどなく、嘘をついてしまった罪悪感や、私への感情、今後の事など、まとまらない考えが忙しなく行き交っていた。
「君は、何故ここに?」
「ここが過ごしやすいから……でしょうか」
トルニテアには季節があり、私は寒いのがあまり好きではないし、蛇達も寒さは好まない。生物の蛇も冬は耐え切らず眠ってしまうほど。
なので、この周辺は私の力で気温の変化が無くしているし、常に何かしらの木々に実がなり、草木には花が咲いている。
人間の暮らす場所とも離れているし、今日まで蛇達と力の神以外誰もこなかった。
「こんなに森の奥で暮らしているの?! 他に誰かと暮らしているんだよね?」
「蛇達と私だけよ」
「そんな!」
「何を驚くの?」
瞬きを繰り返し、信じられない気持ちと私を心配する気持ち。私を守りたいなどと考えているのが伝わってくる。
「一人で寂しくないの?」
「蛇達がいるわ。時々兄も来てくれる」
「時々……」
時折、一人取り残されたような孤独を感じることもあるけれど大した問題はない。
それが生まれた時に与えられた役目なのだから。
「ダリス……それが僕の名前。君は?」
白髪の彼は意識的に笑顔を作って話しかける。怖がられないように、嫌われないようにと願いながら。
「名前はないの」
「えっ、今までなんて呼ばれてたの?」
「彼らは私を呼ばないわ」
「お兄さんには??」
蛇達は私を女神様と呼ぶ事はある。でも、それは名前ではない。力の神も妹と呼ぶ。
私は無言で首を左右に振った。
「……貴方が付けてくれませんか?」
彼は名付けて欲しいと言われるとは思っておらず、おかしなくらい驚いた。
それから逆に私が驚くほど長い時間悩む。
「リザ……」
「…………」
「リザって名前はどうかな? 人に名前をつけた事なんてないから、これでいいのか分からないけど……」
「リザ……が私の名前…………」
ふわふわしていた自分がしっかりと地に足をつけたような感覚。思いの外気に入りました。
「まって、気に入らないなら他に考えるから!!」
「いえ、リザでいいの。ありがとう。お礼に何か願いをききましょう」
笑みを作ってそう言うと、彼、ダリスは赤くした顔を伏せてこもり気味の声で答えた。
「僕もここで暮らしてもいいかな」
と。
それまもた一興。
私は、ダリスに蛇達と共に過ごす許可を出しました。