4.人間を作る
蛇を作り、トルニテアに生き物が溢れ、それが当たり前になった頃。ふと、私は思いました。
「神の形をした生き物は何故いないの?」
もちろん誰も造らなかったからに違いはないのだけれど、造ってはいけないとは誰も言わないはず。
私は小さなものから大きなものまで、土を捏ねて造り出した神の形をしたものに命を吹き込んだ。
女神の形のもの、神の形のもの。私を大事にしてくれる力の神に似せたもの……。
そうしてできた生き物を神と呼ぶわけにもいかず、人間と名付けて野に放った。
大して強くはないが知能は高く、己より強い生き物に道具を駆使して勝利する事もある。
神と同じ言葉を操り、群れを作って行動する彼らは、貪欲で、浅はかで、愚かで、儚く、美しい。中々に面白い生き物になったと思う。
後に、他の神々によって獣人や森の民、大地の民、海の民など、人間に近い亜種が多く生み出されることとなる。
ソレらがトルニテアの生態系の上位につくのにはそれほど歳月はかからなかった。
人間の中でも能力の高い者、そうでない者、個体差はあるけれど、皆が体に魔力を宿し、魔力を多く持った個体が上位の存在として多くを束ね、自身の体が適応できる属性の魔法を使って、その他多くの生物の活動さえも抑圧するようになったのは……想定外。
さらには、同種同士で争うのだから……。
「理解できない」
悲しい独り言。
ソレを理解するために彼らの行動を見守る日々。
人間という生き物が造られて百年もたてば、神々の中に人間の営みに干渉する者が現れる。
兄である力の神もその一人。
やがて彼は武神として人間に信仰されるようになるのだけれど、それが何故か少し寂しくて……俯きたくなった。
神々は人間の営みに関わり、加護といって少しの力を与えることもあり、故に神としての新たな名をもらう者は多くいた。商いの神、物作りの神、音楽の神……たくさんの神が信仰されトルニテアでの地位を得てゆく。
なのに私は蛇を統べる神。
私が造ったはずの人間に存在を知られる事もない。
ただ、ただ、人の営みを眺め、蛇達と会話し、大地に魔力を注ぐ日々に変化はなかった。