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動物好きの侯爵令嬢、結婚相手を探しに行く  作者: 霞合 りの
第三章 見た目だけではどうにもならない
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3-2.我にロマンティックを与え給え

何が悪かったのかわからない。


でも目の前で、フレッドが引きつらんばかりの顔で私を見ている。


「……アデリン嬢、この詩を知っておいでで?」


フレッドが戯れに暗唱しだした詩を、私が一緒に暗唱したところだった。

途中まではうまくいってたんだけど……うーん……?


「ええ! 詩人のモラン大佐の甘い恋の歌ですわ。続きはこうですわね。


『スミレのごとき 優しき君の面影よ

私を見上げる瞳を思い出し

心が震える夜を過ごす


君を想う時 私はあまけて

君の夢を美しいものにしよう』


……あぁ、覚えているのはここまででしたわ。天翔けるなんて、ロマンティックですわねぇ」


私がうっとりと言うと、フレッドはなんとも言えない顔で私を見た。


「……そうですね」

「何かございまして?」


首を傾げた私に、フレッドは肩をすくめた。


「いやはや、あなたは才女でいらっしゃる」

「まさか。ただ詩を知っていたくらいで?」

「いいえ、それだけではありませんよ。この詩は学問として詩歌を学ばないとなかなか知ることのない詩です。それを諳んじられるなんて、男性でもなかなかできないことです。その上、先ほどからお話ししていると、歴史にも神話にもお詳しい。私の知識が付け焼き刃だとつくづく思い知らされましたよ。ダリウス殿が言っていた意味がわかりました。あなたは読書が好きだとおっしゃっていましたが……」

「ええ、大好きですわ」

「それ以上です。余暇の時間も読書をしてお過ごしなんですね」

「ええ、はい」


あとはペットショップに行ったり、家で飼っている動物たちと遊んだり。山を馬で駆けたり、川で魚を釣ったり。


「あれはとても女性的で美しいものです。書籍を読んでいる姿というのは……だが、男はいただけません。なよなよしてるだけではありませんか」


突然話が変わり、私は首を傾げた。


「どうなさったのです?」

「いえ、我々は男ですから……先日、そのような男がおりまして、非常に不快だったものですから、つい」

「ですが、あなたはどうやって読むのです?」

「もちろん、机に向かって」


私も机に向かって読むこともあるけれど。


「……どのように読むと男らしくないとおっしゃいますの?」

「ソファでだらりとしながら読むなど、言語道断です」


残念。それはとても楽しいのに。フレッドは人生の大半を損しているんじゃないかしら。私だって自分の部屋以外ではやらないけど。


「そうですか……私、女性でよかったですわ」

「ええ、それに、とても美しいです。加えて、聡明な方だ」


フレッドはごくりと喉を鳴らした。


「アデリン嬢、私にはお金はありません。ですが、あなたのような方を探していました。共に苦労して欲しいとは言えませんが、私のことを心の片隅にでも考えてくださいませんか」

「……どういう意味ですの?」

「私にはまだ、力が足りておりませんが、いつか、必ず……」


まぁ。そんなことおっしゃらずに、私が、と言おうとしたその時、木の陰から男性の声が近づいてきた。


「『君を想う時 私はあまけて

君の夢を美しいものにしよう


天馬ペガサスは君に愛を届けるだろう

君に恋焦がれる 私の気持ちを糧にして


さぁ 今夜も飛び立つがいい』」


私はハッとした。続きを思い出した。


「『まばゆい星が守る 君の夢の中へ』! ああ、思い出しましたわ! なんでこの詩を覚えているかって、そう、天馬が出てきたからですの! ペガサスは羽のついた馬のことですの。本当にいたら、とっても素敵だと思いませんこと?」


フレッドに勢い込んで言うと、彼は困った顔で私を見た。


「私は何も言ってないですよ」

「ええ、もちろん、どなたかが……あら。どなたですの?」

「私ですか?」


木の陰から出てきた、恐ろしくうっとりする声の持ち主は、月の光の中に出て、これまたうっとりとする容姿をしていた。


「こんばんは、お二人さん。良い月夜ですね。私はロカール伯爵ランディ・メルレと申します」


私は目を瞬かせた。思わず見とれそうになり、慌てて頭を下げた。


「……アデリン・ヴォーコルベイユと申します。ストローブ侯爵の妹……です……」


ちらりと目を上げると、彼は優しく笑って、こう言った。


「ええ、ダリウスには世話になっています。お待たせいたしました、僕のお嬢さん」



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