2-3.縁というのは不思議なもので
ジジが訝しげに私の顔を覗き見た。
「えーっと、失礼ですが、お嬢様は、何しに……ああ、ドレスを新調しにいらしたのですよね?」
「ええ、そうなの。ドレスがあまりに古くさいのに、舞踏会にいくつも出なければならなくて、たくさん新調しなければならないの。いろいろなドレスをね」
「そう……ですか……」
それしか言わないジジに、私は驚いて尋ね返した。
「あら。ぜひ私にやらせてください、と言わないの?」
すると、ジジはプイと顔を横に向けた。小柄な体を全部使って、とても可愛い。
「私だって身の程をわきまえています。侯爵令嬢が、義理もない、名もなきこんなドレスメゾンで作るわけがありません。大手のシャイーか、トレゾールか……そこらへんが妥当なんじゃないんですか?」
「どうして? 私、その大手のシャイーもトレゾールも知らないわ」
「お言葉ですがお嬢様、シャイーは先ほど、門前払いをいただいたところですよ」
カミーユの言葉に、ジジは困った顔をしたが、私にはどうでもいいことだった。店のあり方を決めるのはその店だ。私が文句を言う筋合いはないし、弾かれたところで、何も問題はない。メゾン・シャイーにこだわっていたわけでもないんだから。
「ああ、あそこ……なら、なしね。向こうもお客は選ぶそうだから、私のような令嬢を相手にしても、宣伝効果はないと見たんじゃない? むしろ、評価を下げるって。私、すごく時代遅れなようだし、威厳もないしね。そう思うでしょう、ジジ?」
私が聞くと、ジジは諦めたように同意した。
「確かに、侯爵令嬢と言われても……ピンときませんね、もっと威丈高な方ばかりだし」
「他の方は知らないけど……私が令嬢らしくないというのは、仕方ないのよ。だから、お兄様はドレスを買いに行くように言われたのだし、身支度にはどれだけお金をかけてもいいって言われたんだわ」
私が言うと、ジジは驚いてカミーユを見た。カミーユは、声を小さく、それでも限度がありますよと言ったけれど、私は肩をすくめた。
私の衣装だ、かかりすぎるほどかかることは、きっとないだろう。
「ジジ、あなたはないって言ったけど、私にはこのメゾンに義理があると思うの」
「何を? 先ほど助けたことですか? あんなのは別に」
「そうではないわ。ルルよ。ルルをこんなに素敵に刺繍してもらって、あなたには感謝してるわ、本当よ。伯爵夫妻も、およろこびになったでしょう?」
私の言葉に、ジジは目をパチクリとさせた。
「ええ、……はい。それはもう」
「そうでしょうとも!」
私はテンション高く、クッションを上に掲げた。
「さすがに、ドレスに犬の刺繍をつけるわけにはいかないけど、……あなたの刺繍技術は気に入ったし、トルソーのドレスも、とてもしっかり作られているわ。私のドレスは、ぜひあなたに頼みたい。期日まではとても短いけれど、少しの期間だけ、私に時間を割いてくれる? 最新流行まで行かなくても、それなりに見栄えのする、……兄が渋い顔をしない程度でいいんだけど……、そういうドレスと、髪飾り、靴に至るまで、全て揃えたいの」
ジジは不安そうにカミーユを見て、私を見た。私が本気だと知ると、ジジはごくりと喉を鳴らし、私の目をじっと見返した。
「私でいいんですか?」
「ええ。あなたがいいの。このメゾンの名前も気に入ったわ。自分に似合ったドレスを着た時の、キラキラ輝いた目をイメージしてるのでしょ? 私も同じよ。私のペットショップで運命の出会いを果たしたお客様の目は、みんなキラキラしてるもの。私たち、目指してるものは同じなんだわ。ね、作る気になった?」
すると、ジジは嬉しそうに微笑んだ。
「そこまで言われては、敵いませんわ。わたくしジジ、名誉にかけて、お嬢様が誰より素晴らしく見えるドレスをお作りいたします!」
ジジは胸を張って、目をキラキラさせた。まるで店の名前のようだ。
「お願いするわ。私、旦那様を探さなければならないの」
「お任せください!」
ドンと胸を叩いた後、ジジは驚いたように飛び跳ねた。
「……え? 旦那様?!」
失礼ね。
私だってなんとかなるはずよ。
うん、そうよ、ドレスさえ出来上がれば。