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動物好きの侯爵令嬢、結婚相手を探しに行く  作者: 霞合 りの
第十五章 恋に落ちるのは一瞬で、伝えるのには幾星霜
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15-1.それは君のこと

動きにくい舞踏会用のドレスが憎い……!


「アデリン、逃げないで、僕の話を聞いて、欲しい」


荒い息が、ランディから私の手に伝わった。今まで聞いたことのない、寂しそうな口調に、私は思わず振り返った。


目が合うと、ランディがホッとしたように頬を緩めた。


「僕は……君の理想の兄になれないばかりか、君を困らせてばかりだ。ごめん」


そんなこと。


ないのに。


私は思い切り頭を振った。


私の方こそ……自分の気持ちに気づかないふりをした。私をかまうのに飽きた時、やっぱりそうだったでしょと傷つかなくて済むから。


それでも、私が口を開いて言えたのは、本当に、聞いてもどうしようもないことだった。


「……どうして逃げたことが、おわかりになったの」


ばれないように逃げたはずだったのに。


すると、ランディはクスリと笑った。


「部屋の中が、すぐに静かになったからね。隙間風が吹いた気がして、気になったんでジャ……フランソワに外から回ってもらったんだ。そうしたら、部屋の中には誰もいなかったから、きっと窓から逃げたんだろうって」

「なんで? 部屋は隠れ場所がいっぱいあったでしょう? そこに隠れてるとか、思わなかったの?」

「何のために? それにね、フランソワは知っていたんだ。君が運動神経抜群で、窓から逃げることも容易いってね」


あの男……やっぱり侮れない。


「ねぇ、アデリン、情けない男の話を聞いてくれるかい」


ランディは、自分の手を優しく私の手に重ねた。


「僕はいつも、自分の気持ちを隠してきた。本が好きなことも、女性のエスコートが苦手なことも、全部。人に言うのは君が初めてだった」


そうなの? そうは見えなかったわ。私は思ったけれど、思うように声が出ない。


「フランソワには、感謝しないとならないな、僕は」


硬い声で言いながら、ランディは私の手を壊れ物のようにそっと手に包んで口元へ持っていった。うっとりするほど優しく、ランディの唇が手に触れた。背筋がぞくりとするほど心地よい。


「感謝?」

「あぁ。でなければ君を諦めるところだった」


緊張が伝わる私の手に、囁くようにそっと言葉を続けた。


「教えて欲しい、アデリン……何を、期待するって?」


私は首を横に振った。


「なにも。何も期待しておりませんわ。失言でした。手を離してください」

「いいや。離さない。言っただろう、僕はいつも、自分の気持ちを隠してきたって。自信がなかった。みんな僕の表面的なものばかりを見て、僕を見てはくれないと思ってた。だけど、見せようとしなければ、わかってもらえないのは当たり前だ。ただ君を待つだけで満足してはいけなかったんだ。それなのに、君を責めるようなことをして、僕はバカだった」

「そんなこと……」

「さっき、僕は、自分に足りないのは勇気だと、そう言ったよね? そうなんだ。僕には勇気が必要だった」


そしてランディは私の手をとって跪き、私を見上げた。月明かりの中で、それはとても幻想的で、まるで妖精王の再来だった。


「アデリン、……愛してる」


私は何も言えず、ただ私の手に口づけするランディを見つめてしまった。


私ったら。ロマンス小説の読みすぎね。あの時、初めて会った時に、妖精王だと思ったのは、そうだったらきっとこうやって愛を囁いてくれるからなんだわ。この人がそうしてくれたらいいのにって、思ったからなんだわ……


そんな夢物語みたいなことが現実に起きるなんて。


すると、ランディは肩の荷が下りたようにホッとした笑顔を浮かべ、立ち上がった。


「混乱させてしまって、申し訳ない。君は扉の向こうで聞いたから、わかっているだろうと思ったんだけど……意味は伝わっているかい? 君は、僕に意中の方がいるのかと聞いたが、僕は答えられなかったんだ。なぜなら、それは君だったから」


彼と話したことが頭の中を駆け回る。


もちろん、よく覚えていた。なぜなら、私はそのことばかり考えていたから。意中の人が羨ましくて、でもそのことを隠して。


でもさっきは、それ以上にインパクトのある出来事が起こってしまい、一瞬で霧散していたけど。ロザリーとカーラの……特にカーラの顔は忘れられそうにない。


「君は意中の方のところへ行けと言ったね。そう、行ってたさ。時間を作って、できるだけ君に会いに来ていたんだ……伝わると思っていた。女性は、特に婉曲表現を好むというし、直接言うなんて恥ずかしかった。それに、……本当に自信がなかったんだ」


今度こそ、勘違いでも聞き間違いではなかった。逃げられないのもわかった。彼が言っていることは嘘でも冗談でもない。


それはもう、釈然としないけれど、よくわかった。


だが、私の顔は、おそらく誰が見てもぽかんとして、納得できていない表情だっただろう。


なぜ釈然としないかといえば、理由がわからないからだ。


ランディはいつも変わらなかったし、会った回数だってそんなになかった。私程度、いや、それ以上の令嬢はたくさんいる。それのに、どうして?


一体いつから? 何を根拠に? まさか私の願望を叶える魔法使いがどこかに……


「初めて君を見かけたのは、君の家へ、ダリウスを訪ねて行く前だった」


突然、なんの話?


「ストローブ侯爵領の首都の小さな本屋で、君を見かけた。あの時、手には”古今東西 不思議動物”って分厚い本を持っていて、店主と楽しそうに話してた」


”ここんとうざい ふしぎどうぶつ”……


あれを? あの姿を? 見てたの? ……見られてたなんて! 恥ずかしいったらないわ。あんなデビュー前の芋くさい私なのに。今だって多少、マシになったくらいだけど、見られはするでしょう?


……デビュー前?


私は驚いて顔を上げた。


「でも、あれは……」


私はランディを見た。その・・ことに、顔に血が上る前に気がついたからだ。逆に、ランディが赤くなった。


「そう。もう四年も前の話だ」


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