13-3.容赦のない事実
衝撃。
ロザリーが泣くなんて。プライドの高い、取り乱すことのない淑女のロザリーが。
これは……ロザリーの完敗となるだろう。カーラとの戦いにおいて。
「カーラ……」
フランソワが頭を抱え、ため息をついた。
わかる。わかるよその気持ち。やってしまったな、そういうことだよね。それ、よくダリウス兄様が私にしてることだから。はたから見ればよくわかる、今度から気をつけよう。
そうやって気持ちを立て直したフランソワは、ロザリーに向き直った。
「ロザリー様、僕はこうなるとわかっていて、あなたに声をかけました。そう、僕は怒っているんですよ」
フランソワは続けた。
「先ほど言いましたよね、契約違反だと。僕はプロです。守秘義務を守っています。僕が牢屋につながれようと、一国の王になろうと、僕はどの仕事のことも話すつもりはありませんでした。あなたのことだって」
そして、ため息をついた。
「僕がカーラという後ろ盾を得て、あなたに不利な事を言うとでも? アデリン様と親しくしそうだから、排除しようと? 僕だってプライドはあります。カーラが後ろ指を差されないように立ち回る必要がある。あなたは政治の観点からも、僕には触れてはならなかった。それなのに、なんて浅はかなんでしょう。ランディ様を手に入れたくて焦ったのですか?」
「あなたに何がわかるのです!」
見ていた私は恐怖で叫びそうになってしまった。ロザリーの殺気が恐ろしいことになってる。フランソワが、彼女の殺気で息の根を止めてしまわないか心配だ。でもフランソワは笑顔だった。
「わかりますよ。だって僕は結婚詐欺師ですから。恋愛時の心理はよくわかります。あ、元、ですけど」
さすがの元詐欺師、フランソワは、全く飄々とした様子だった。そして、フランソワはランディに頭を下げた。
「始まりは僕から仕掛けたとはいえ、申し訳ありませんでした」
「フランソワ、……正直、僕はアデリンを騙そうとした君を許したくはない。僕は、例え嫌われていたとしても、アデリンのことを大切に思っている。大切に思う相手が騙されたとしたら、怒るのは当然だ」
「そうですね。あなたが僕に殴りかかったように」
フランソワの言葉に、ランディはバツの悪そうな顔をしたが、フランソワは気にしてもいないようだった。あの時は驚いていたけれど、納得できることだったようだ。私にはよくわからないけれど。
「……突然殴りかかったのは悪かった。だが、アデリンは君を許したね」
「ええ、恐れ多くも」
「それなら僕は……君を許さないとならないな」
「さすが、お優しいですね」
フランソワの声が柔らかく響いた。
「僕は狙った獲物は逃さないのに、アデリン様は逃してしまいました。どんな色男相手でも勝っていたのに! でも、勝てませんでした。それは、ランディ様のお人柄と強い想いです。どんな聖人がライバルの僕と、下心なく友人になろうと思います? どこまでもフェアに真摯に想いを込めていた……そんな方に、勝てるはずもありません」
ランディが首を横に振った。
「臆病なだけだ」
「アデリン様だって、同じはずです」
「でも僕は嫌われている」
「でも、あなたの事情を知れば、お気持ちも変わるのではないでしょうか?」
「そうだろうか……」
考え込んだランディのつぶやきは、希望と絶望がないまぜになった、不思議な響きがあった。フランソワがクスリと笑った。
「実際のところ、なぜ婚約者候補の中からお選びにならないのですか? どんな事情をお伝えしたら、彼女たちに理解をしていただけるというのですか?」
すると、ランディは考え込んだまま、即答した。
「それは……僕がアデリンを愛しているということだ。……この上なく」
その言葉を聞いて、フランソワがため息混じりにつぶやくのが聞こえた。
「あぁ、ここにアデリンさまがいてくれればなぁ……」
ごめんなさい。出ていけないわ、さすがに。私なんて、ロザリーには嫌われて、ランディには失望されて……