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12-4.詐欺師という仕事

あまりにもあっけらかんとしていたので、その場の誰もが唖然としていたに違いない。


「それが僕の仕事ですからね! あ、元ですけど」

「仕事……」

「そうなんです。僕はそうやって生きてきました。若い頃から続けてきたのでベテランですよ。僕はアデリン様をターゲットにするまで、カーラ様をターゲットにしていました。まんまと騙してお金をせしめて、……と言ってもそんな大金じゃありませんでした。だからそれほど貯まりませんでしたので、次を探していたんです」


そして、フランソワはロザリーに視線を移した。


「その時に、ロザリー様に教えていただいたんですよ。『アデリン・ヴォーコルベイユと言う、野暮ったくて騙されやすいお金を持った結婚したがりの令嬢がいる』って。僕は喜びました。お金が欲しかったから。それで、情報をもらったんです」


な、なるほどー!


私は叫びそうになって慌てて口を押さえた。


あんなに条件にぴったりの人、そんなにいるわけないもの! そうなのか、”ジャン・スコット”は私のための、私が望んだ条件がすべて入った、理想の結婚相手だったんだ……


ロザリーが扇子で顔を隠しながら、ツンと顔をそらした。


「何を仰ってるのか、わかりませんわ」

「そうですか? 残念ですね。わざわざ街中で隠れてる僕のところまでやってきて、依頼したのに。忘れちゃったんですか?」

「依頼? それは……アデリンを……ジャンと、いや、フランソワと結婚させようと?」


呆然とつぶやくランディに、フランソワは機嫌よく話した。


「うーん、まぁ、僕は結婚相手というよりは騙す方ですから、結婚するつもりはありませんでした。もちろん、ロザリー様もそれは承知でしたので、……アデリン様が騙されて男に逃げられればいい、そう思われてたということです。接触には成功しましたし、彼女の好みも調査してありましたから、すぐに落とせる思っていたんですけど、どうもしっくりきませんでしてね。うまくいきませんでした」

「……でもアデリンは……君に……」

「何もおっしゃいませんでしたよ。ランディ様と親しいのですか、と聞かれただけです」

「どうして……?」


ランディは訳がわからない、という顔をした。そう。私も訳がわからない。


それでもフランソワはニコニコして話を続けた。


「確かに、アデリン様は”野暮ったくて騙されやすいお金を持った結婚したがり”でした。でも、僕が思い描いていた人とは違っていました。もっとひどい、性格の悪い人だと思ってたんですよ。どっちでも騙すには問題ないのですけど、情報は正しくいただかないと。まぁ、僕は優秀ですから、自分で調べて、その都度修正していきましたけどぉ」


楽しそうだ。あえてなのか、わざとなのか、もともとなのか……詐欺師はよくわからない。


「アデリンを……騙したのか……」


ランディは呆然として言った。フランソワをまだジャンだと思っていた頃、ジャンが捕まった時の私と同じだ。でもすぐに納得した私と違って、ランディはまだ信じられないようで、困惑したままだ。


「そうなりますかね」


フランソワはにっこりと笑ったが、ランディは不機嫌に顔を歪めたままだ。


「アデリンは……君、と言うかジャンを応援していた。作家志望だったジャンと結婚して支援するのだと言っていたくらいだ。僕だって、君を……応援していた。それなのに、あれが……全部、演技だったということか?」

「仲良くしていただいて、嬉しかったですよ、ランディ様。もちろん、全てが演技だったわけではありません。本を好きなのも作家志望も、僕の一部だったものです。いつもそうですが、なるべく本当の自分で仕事をするのが僕のモットーですので。でもあの時、僕はアデリン様の”理想”を演じていましたから。今の素の僕とは全然違います。最初、わからなかったでしょう?」

「確かに、同一人物だと気づくのは時間がかかったよ。でも、まさか……詐欺だったなんて……」

「そこが僕たち詐欺師の腕の見せ所ですから」


フランソワはあくまで穏やかに続けた。


「でも、結局、アデリン様は僕に惚れ込んではくれませんでした。条件は一致するのに変だなぁって、最後の最後まで思っていましたが、原因はわかっています。僕は本気で自分になびいてくれない人は騙さない主義なので、パトロンになってくれると言われても、お断りしたでしょうね。申し訳ありません、ロザリー様。紹介していただいたのに失敗しました」


そう言ってフランソワが頭を下げると、ロザリーが憎々しげにフランソワを見た。ランディはその顔を見てぎょっとしていたが、おそらく、ロザリーにはその姿は見えていなかったに違いない。


「否定なさらないのは、それが当たっているからですわね、ロザリー様」


カーラの声が、泣きそうに揺れていた。


「私、信じておりましたのに……私に彼の……フランソワの行き先を隠してらしたのですね。私が探しているのを知っていながら……愛しているのを知ってらしたのに」


カーラの言葉を聞いてもなお、ロザリーは扇子で口元を隠したまま、何も言わなかった。まるで汚らわしいと言いたげに、二人の姿を見ていた。


フランソワはその視線に傷つきもせず、肩をすくめた。


「僕は詐欺師ですから、そういう目で見られるのは慣れていますよ。元ですけど。一度はカーラ様にだって、その視線をいただいた。だからと言って、開き直る気もありませんが、あなたに臆する気もありません。あなたも同じようなものですからね」


フランソワはカーラに振り向いた。


「僕はこんな人間だよ。それでも僕でいいの?」


すると、カーラは目に涙を浮かべながら微笑んだ。


「……そうやってあなたが経験してきたのなら、きっとわかるはずですわ。私よりあなたを愛する人はおりません。あなたがいいんです……あなたでなければ」


決意に満ち、希望にあふれた言葉は、キラキラと眩しかった。


そんな風に思えるまで、彼女はきっと悩んだだろう。詐欺師だった人の言葉を信じられないかもしれないし、全てが嘘だったと思った時の絶望感と喪失感がずっと心に残ったかもしれない。


それでも、私が彼との間の、確かな友情を思い出したように。


彼女はきっと、彼との間に、愛を見出したのだ。だって、フランソワがカーラを見る瞳は、愛する人を見るそれだもの。


「きみはばかだなぁ」


ひどく愛おしそうに、フランソワが言った。


私はなんだか、心が温かくなって、それだけで満足した。


きっと、カーラもそうだっただろう。


よかったよかった。

幸せになってね……


私の当て馬人生、最大で最高のカップルだわ……


もう思う残すことはない。家に帰って、動物達と戯れよう。本の海に埋もれよう。ペットに癒されて、大切にして、それが私の最高の人生だ。


足元にまとわりつくクルンと頭の上のグレイが、同意するように私に擦寄る。


だよね? だよね!


お店の二号店については、王都のちょっとしたはずれで、世話のしやすい動物だけ置いて、あとは受注で探す方が、売れる商法かもしれないわ。

自分のためにペットを見つけてもらうなんて、貴族っぽいもの。


そして、フランソワは雇うだけじゃなくて、本当にペットショップを任せようかしら。

動物虐待のチェックなんか、厳しく漏れずにしてもらえるかもしれない……


よし、今度、二号店の話を公爵夫人にしよう。


私には仕事しかない。


完全に敗北を認めたといえば、兄だってきっと、諦めてくれるだろう。





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