12-1.公爵夫人探し
ランディたちがその場を離れた後、私はカーラ達とも別れ、兄のダリウスを探した。
「ダリウスおに……」
呼びかけ途中で、私は口をつぐんだ。
……ランディと話してる。
私は恨めしい気持ちで咄嗟に身を隠した。
隣のロザリーともにこやかに……何、屈辱とか感じないの?! 終わった話だっていうの? ロザリーもロザリーよ、ダリウスのお誘いは断ったくせに、ランディとは来てるなんて。まぁ、もう三年も前だけど。
ロザリーには、うちからも正式に婚約者としての話が入ったはずだし、侯爵家として、恥じない地位もある。もちろん、派閥とかあるだろうけど、うちとランディの家は対立だってしてない、いい関係だ。天秤にもかけないで、袖にしてくれた相手に笑顔見せるとか、兄は本当にお人よしすぎる。
心配してあげたのに。何の未練もない顔しちゃって。……いつの間に断ち切ったのよ。悔しい、私もその方法を教えてもらう。絶対に。
私は兄に声をかけるのを諦めて、さっさと公爵夫人を探した。
帰ろう帰ろう。
公爵夫人にご挨拶して、さっさと帰ろう。
しかし、探してもなかなか見つからなかった。そのうち、私は同じように公爵夫人を探しているロザリーと鉢合わせする可能性に思い当たった。
あまりに嫌で、一か八か、公爵夫人の部屋に向かうことにした。着替えやちょっとした休憩に、部屋に戻ることが時折あるから、その行き帰りに出会えればさっと挨拶できて帰ることができる。
廊下をキョロキョロしながら歩いていると、ラッキーなことに公爵夫人の侍女に出会った。
確か、名前はクララ。
「あの……クララさん、でしたかしら?」
「はい、お嬢様、どういたしましたか? ……まぁ、アデリン様」
クララが笑顔になった。
「覚えていてくれたの?」
「はい、もちろんです。お話が合う方がいて、奥様はとても喜んでおりましたので」
「良かったわ。実は、具合が悪いので、もう帰ろうと思っているの。だから、公爵夫人にご挨拶しようと思っていたんだけど、お会いできるかしら?」
「奥様はペット達とその部屋におりますわ。よろしければご案内します」
「行ってよろしいの?」
「ええ、アデリン様なら」
クララは頷き、私を先導するように歩き始めた。私は慌てて追いかけた。
「本当はご家族やご親族以外はダメなんですけどね、特別です」
「どうして?」
「それはもちろん、同じように動物をお好きだからですわ。それに、あのランディ様がお誘いになった方ですもの。あら、今日はどちらに?」
「一緒ではありませんわ」
「まぁ」
「ランディは……ランディ様は、ロザリー様とご一緒です」
「他のご令嬢とご一緒なんですか? あらまぁ、……そうでございますか」
言ったきり、クララは何も言わず、公爵夫人の部屋のドアを叩いた。
「奥様、アデリン様がご一緒です」
「まぁ素敵! お通しして」
呼びかけの通りに、クララがドアを開けると、暖かい空気がもわりとした。
「あらあら、ごめんなさいね、こんなところまで来ていただいて。すぐに出るところだったんだけど、テトちゃんが甘えてくるから、なかなか離れがたくて」
明るい声で公爵夫人が言った。
甘えてくると言っても、蛇だ。
どうしてるのかわからないけど、公爵夫人の手にぐるぐる巻き付いているからには、これは甘えているということなのだろう。
やっぱり次は蛇……このつやつやしたウロコにうねうねした動き、うっとりするほど綺麗。
「そうでしたか。こちらこそ、お部屋まで来てしまって……」
少し視線を落とすと、公爵夫人の足元には、小さな犬と小さな灰色の猫が戯れていた。衝撃的に可愛い。
「そういえば、ランディは?」
声をかけられ、ハッと顔を上げた。公爵夫人と目が合った。彼女は心配そうに私に歩み寄ってきた。
「一緒じゃないの? あの子ったら、ちゃんとお相手していないの? いやぁね、後で説教してやらなくちゃ」
「いえ、いいえ、私、今日は兄と来たんです。それで……あの……」
ランディと一緒じゃないんです、と最後まで言い切れなかった。
私は泣いてしまったのだ。
今度こそ、本当に。