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動物好きの侯爵令嬢、結婚相手を探しに行く  作者: 霞合 りの
第十一章 公爵夫人の舞踏会
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11-5.まさかの喧嘩

何かが電光石火のごとく、私とフランソワの間を駆け抜けた。


と思うと、フランソワが誰かに胸ぐらをつかまれていた。


「お前……! こんなところで何をしてるんだ!」


「ラ……ランディ?!」


私が驚きの声を上げると、フランソワもぎょっとした顔で相手を見た。


「ランディ様、……え、なん……」

「ジャン、お前にならいいのかと思ったのに、なんだ、アデリンの何が不満だ?!」


他人に聞こえないように低く小さく話す声は、逆にすごく恐ろしい。


不満も何も、その人はジャンじゃなくて、結婚詐欺師で私を騙そうとしていただけなんですよ、あの時は……


「え、ちょ、アデリン様、言ってなかったんですか」

「ごめん、そんな暇はなくて」


というか、必要性も感じていなくて。


だって詐欺師なんて、もう二度と会うことはないと思っていたんだもの。


「勘弁してくださいよー! マジやばいじゃないすか」

「なんの話だ、ジャン」


ギリギリと首を捻じ上げ、今にも殴りかかりそう。こんなに怒ったランディを見るのは初めてだ。


「ランディ、やめ」

「アデリンも! なんで許すんだ。和解か? 自分を裏切ったやつを? なんでそんなにこいつをかばうんだ? そんなに好きなのか!」

「えぇぇぇぇぇ……」


確かに、カーラとフランソワが婚約者同士なのは、パッと見ただけで一目瞭然だが、なぜランディが怒る? ランディは私とは話したくないんじゃなかったの? さよならだって言ったじゃない。


なんだか無性に腹が立った。


お似合いとか言ったって、それだってランディが勝手に決めたことだ。ジャンが私を選ぶなんて、誰もわからなかったことだ。私は申し込みたいと言っただけで、受けてもらえる保証はなかった。違っていたところで、文句を言われる筋合いはない。


「違います、なんとも思っておりませんわ。ああ、ごめんなさい、カーラ様」

「いえ、……いいえ、いいんです。私こそ申し訳ありませんでしたわ」


言いながら、カーラが目を丸くしている。


こんな温室育ちのような令嬢に、こんな場面を見せるなんて……でも怯えてないわ。意外と耐性はあるのかも。まぁ、兄が三人もいるのだし、血の気の多い方たちだし……


だが、こんなところで、彼の素性がバレてはかなわない。カーラの兄とか兄とか兄とか父とか……うん、かなり怖い。


私はカーラに耳打ちをした。


「……失礼ですが、カーラ様」

「はい、なんでしょう?」

「フランソワ様には、ご自分のことを言うのは口止めされてるのですよね?」

「ええ、そうです。バレたり別れたりすれば、兄に牢に入れると言われております。その時は私も入ると言っておりますが、兄がどこまで本気なのか私にもわかりませんの」

「あぁー……、」


フランソワが必死な理由もわかった。


「無理、無理ですよ、アデリン様!」


半泣きで私に訴えかけてくるが、ランディの怒りが凄まじい。私が近づいたらフランソワが殺される気もする。だが、視線も集まりかけてきた。一体どうしたらいいのだろう。


私は急に疲れてきた。


何だかもう……面倒臭い。どうしてこんなことになるの? 兄が悪い、絶対に。来たくなかったのに。


帰ろう、この舞踏会が終わったら、領地に帰ろう。財産差しとめになったって、私にはペットショップがある。


「ランディ、よしてくださいな。舞踏会よ、パーティーなのよ。いくら甥っ子でも、招待客に殴りかかるなんて礼儀知らずだわ。ご自分でもそう思うでしょう?」


言う私のうんざりした表情を見て、彼は冷静になったらしい。フランソワから手を離し、逆に申し訳なさそうに、フランソワの肩を叩く。


「申し訳ない。僕は……」

「まぁ、こんなところにいらっしゃったの、ランディ様」


救世主……!


振り向くと、ロザリーが扇子を顔の前に広げていた。


……違ったかもしれない。


「あぁ、ロザリー嬢。申し訳なかったね。知り合いを見つけたものだから」


ランディが輝くばかりの笑顔をロザリーに向けた。なんという変わり身の早さ。これが社交が苦手な人だなんて信じられない。きっと苦手過ぎて気持ちを隠すことばかり上手になったんだろう。だってまだ表情が硬いし、全く楽しそうじゃない。


私があっけにとられているうちに、ランディは素早くロザリーに歩み寄り、ロザリーは甘えたようにランディに寄り添った。


「ランディ様ったら、私を選んでくださったのをお忘れですの? 私、たくさんのお申し込みをお断りしたんですのよ。ですから、今日は私と一緒にいてくださらないと」


さすが、モテる令嬢は違うわ……私はどんな状況でも、そんなことを言えそうにない。


この半分張り詰めた空気をバッサリと吹き飛ばず華やかさ、これロザリーなり。


どちらにしろ、ロザリーの表情からするに、ランディが一番の本命なようだ。ロザリーが本気になったら、誰だって落ちるしかない。期待なんて持てなくてすっきりだ。


「そうしたほうがよろしいですわ」


私はランディに笑顔を向けた。精一杯の笑顔だが、余裕があるように見えてるといい。


「単純なことです、私は選ばれなかっただけなのです。誰にも。まぁ、……もちろん、ランディ様には興味のないことでしょうけれど」


私が冷たく言い放つと、今度はフランソワが唖然とした。


「えぇえ……嘘でしょ……」






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