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動物好きの侯爵令嬢、結婚相手を探しに行く  作者: 霞合 りの
第九章 親しき仲にも礼儀あり
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9-3.大いなる矛盾

「……いないよ」


ランディが微笑んだ。


でも、なんとなくわかった。何かを黙っていて……私に言うつもりもない。これだけ何度も会えば、わかるんだ。私、信じてもらえていないんだわ。


「本当ですの?」

「本当だよ。君こそ、本当に、僕にいると思ってる?」

「……私にはわかりませんわ。考えもしませんでした……」

「おや、どうして?」

「だって、エスコートも苦手だと言うし、世間の評判もそんなに嬉しくないようでしたし、犬に癒され、猫が欲しいと言っていたから、……私と同じで、人より動物の方が好きなのかと思っていただけです」


すると、ランディは腕を組んで考え込む仕草をした。


「うーん、僕はね、犬より人に癒されたいと言っていたと思うんだけどなぁ」

「……そんなこと、おっしゃってました?」

「うん。誰か僕を癒してくれないかなと思っているんだ」

「まぁ。他人頼りにしないで、自分で癒したほうが効率的ですわよ」


言いながら、私は心臓がドキドキしてきた。


ランディは嘘をついてる。きっと、お慕いする方がいるんだわ。でも私には、いることすら、言ってもくれないんだ。


もう、私にはランディを見ることができなかった。


「そうだね。それができたらどんなにいいか……おや、アデリン。まるで突然明るい光を浴びた猫だ。なんでそんなに眩しそうにしてるんだい? ほら、こっちを向いて」


言われて、私が直視を避けるように上目遣いに見上げると、ランディは機嫌を取るように私の顎をさすった。


……それね、猫だからね。私、猫じゃないからね。


私が空咳をしてランディの手を払いのけると、ランディは、今度は私の頭をグリグリと撫でた。


「可愛い、僕のアデリン」


そうよ、私は”可愛いアデリン”。ランディの可愛い”妹”。ちょっとした変化でも、ランディのことならなんでもわかる。妹分としては、申し分もないでしょう? だからせめて、協力させて欲しいのに。それすらさせてくれないなんて。


私は妹分にもなれなかったんだわ。


「私には何も教えて下さらないのね」


私はしょんぼりとそんなことを言いながら、自分の中の矛盾とも戦っていた。


知ってしまったら、私はきっと嫉妬してしまうだろうな。ずるいと思ってしまう。だって、とても優しい顔をしているんだもの。きっと、すごく好きなんだわ。私にもそういう人がいたらいいのに。


「君に言って、いいことある?」

「だって妹分ですのに。それにほら、私は当て馬要員ですもの、何らかのご利益はあるかもしれなくてよ?」


私が言うと、ランディは乾いた声で笑い飛ばした。


「妹分ね。そう、ダリウスの大事な妹と思って接してきたよ。僕が君を大切に思うことはわかっているだろう? 紳士らしく、誠意をもって、君と親しくしてきた。君だって、僕に心を許してくれていると……で、君は? お相手はいつ見つかるの? 僕はいつまで待てばいい?」

「……”いつまで”?」

「僕だってボランティアで、ここまで気にかけたりしないってことだよ」


ランディの言い分に、私はムッとした。


「それは……兄に代わって謝罪をいたします。私などの相手をさせて、申し訳ありませんでした。さっさとこんなところから帰って、お友達なり、意中のお相手のところなり何なり、お出かけになるとよろしいですわ」


言いながら、私はランディを引っ張ると、ドアのところへ押しやった。


そうね、当然だわ。ランディは私の世話なんて、とっくにしたくないんだ。楽しいと思っていたけど、これは義務だったのね。例え、ランディが兄に弱みを握られていようが、兄代わり役を心底楽しんでいようが、私には関係ない。だって、私はランディと仲良くなりにきたわけじゃないんだから。


そうよ。お相手探しなのよ。何しに来たの、アデリン。


私は自分に言い聞かせた。


簡単に破れることがわかっているだけの恋をしに来たんじゃないのよ。貴族としての義務とやらを果たすための、これから先も生きるための、そのためのお相手を探しに来たんじゃないの。


しかし、なぜか慌ててランディが私を振り返ってドアの手前で押しとどめた。


「え、ちょっと待って、アデリン、アデリン!」

「じゃ、なんですの?」


「君は僕がここに遊びに来て困ってる? 本当は嫌い? 僕に好かれたら、……僕が来るのが嫌だから、そんなことを言ってるのか? 君にとって僕は単なる兄代わりってだけ?」


私は目を丸くしてぽかんと口を開けてしまった。


ランディはまるで、私に好かれたことがないかのように言う。何かの聞き間違いだ。私が好きでもない相手とお茶を飲んだり、はたまた本を貸したりするだろうか。


「まぁ、ランディ……何をおっしゃってるのか、わかりませんわ」


私にとってランディは、吟味するような相手じゃない。まして、してもらえるような相手じゃない。兄のおかげで目にかけてもらえた、ただそれだけの、キラキラした遠くの人だ。そのはずだ。


「あのね、アデリン、君はとても素敵な子だよ。誰にも相手にされないなんて、そんなわけがないじゃないか。実際のところ、僕は……出会う前から素敵な子だと思ってた。でも、こうして話してみてよくわかった。君は本当に素敵な子だ。自信を持って」


ランディに褒められるなんて。一体どういうことかしら。


私は訝しく思った。


以前ほどは田舎令嬢に見えなくなったということ? からかわれてる? それとも……


ランディの笑顔には曇りがなかった。馬鹿にしてるそぶりも、嘲笑もない。


……社交辞令かもしれない、でもきっと、嘘は言ってない。


私は頬が熱くなるのを感じた。


それだけのことが、こんなに嬉しいなんて。私ったら、なんてバカなんだろう。




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