8-3.招待状の到来
家に帰ると、爺やが立っていた。
「お嬢様、公爵夫人からお手紙が」
「公爵夫人?」
何かしら、先日の蛇の話かしら? いつになるの? と言う催促だったら申し訳ないわ。
あれはやめることになったと伝えた方が良いかしら。
そうよ、蛇の哺育団体を紹介してもらおうと思っていたんだっけ……
私は考えを巡らせながら、手紙の封を切った。
すると、現れたのは華麗な印を押した招待状だった。
「舞踏会の……招待状……?」
メッセージには、明確に、公爵夫人の舞踏会にお招きいたします、と書いてある。爺やとカミーユがワッと寄ってきた。
「まさか!」
「お嬢様が!」
「失礼ね……」
私は微かに震える手で持ちながら、招待状を眺めた。
「驚いたわ。本物よ」
「ありがたいことでございます。これで求婚者も増える一方でしょう」
「今まで一人もいなかったけど……」
爺やの言葉に私は事実を被せながら、不安になって爺やに尋ねた。
「私が行っても大丈夫かしら?」
「問題ありません、お嬢様。私が指導した限り、マナーはしっかり学んでらっしゃいます。今までも問題はありませんでしたでしょう?」
「でも……今まで、兄の名代だったのよ。いきなり私が名ざしって。それも公爵夫人……」
すると、カミーユが勢い込んで私の腕を掴んだ。
「大丈夫ですわ。ペットの話で盛り上がられたではありませんか。あの細長い生き物の話で盛り上がれるお嬢様は、公爵夫人にとっても貴重な方だと思います!」
「だと良いけど」
”あの細長い生き物”だって可愛いのに。
私は招待状をひらひらとさせた。まぎれもない本物。分厚くて質の良い紙だ。
「舞踏会だから、きっとお茶会みたいに動物たちに会えるわけじゃないと思うけど、愛好家たちには会えるかしら?」
楽しみだわ、と鼻歌を歌いながら、ウキウキと出席の返事を書き、爺やに手渡したところで、カミーユが心配そうに言った。
「ですが、お嬢様、どなたとご一緒なさるおつもりですか?」
「どなたって……」
兄に頼むのは最後の手段、ここまで来て誰にも頼めないって、私の交友関係が貧困すぎる。
こういう時には誰に頼めば良いのかしら。
親戚? 今までエスコートしてくれた男性? とんでもない。とすれば。
「……ランディ?」
しか思いつかない。
「できるのですか?」
「やってみるわ。他に知り合いはいないし、ランディが一緒なら楽しいし、緊張しなさそうな気もするし……ジャンは貴族じゃないから頼めないもの」
爺やとカミーユは顔を見合わせたが、すぐに爺やは私に頷いた。
「さようでございますか」
「でも、いつランディに会えるかしら」
「近日中に、本を返しにいらっしゃるようですよ」
「それなら、その時、聞いてみるわ」
私はホッとして、着替えながら、ランディにどうやって切り出すか考えることにした。