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動物好きの侯爵令嬢、結婚相手を探しに行く  作者: 霞合 りの
第八章 お相手探しはまだまだ続く
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8-2.舞踏会の一幕

今日もハズレだった。


私は舞踏会で初めて会った男性にエスコートをされながら、ただ黙ってワインを飲んでいた。


「やはり男たるもの、学問に剣術に、バランス良くなきゃならない。それにエスコートも上手に。どうですか、アデリン嬢。アーサーはよくやっておりますか?」

「ええ、それはもう、よくしていただいておりますわ」


私は笑顔で応えた。値踏みされるような視線は、どうにもいただけない。私自身を所望してくれると嬉しいけれど、きっとそうではないんだろうな。……そう思える雰囲気だ。


「そうですか? 何かあったら遠慮なくおっしゃってくださいね。我々男性の仕事は、ソファでのんびり刺繍や読書をするあなたのような女性を、経済力や政治力で守ることですから。趣味に費やすなど、もってのほかです」


困ったわ。ペットショップを全力でやってるなんて言ったら、逃げられてしまうわ。お兄様ったら、こんな人をお相手に選ばなくても!


「その点、ランディ殿は素晴らしい」


知った名前を耳にして、私はちらりと遠くに見えるその姿を盗み見た。今日も見目麗しく、完璧な舞踏会の花形だ。令嬢たちがダンスをねだろうと、順番を待っている。知り合いの男性と談笑しながら、その合間に促されて令嬢にダンスを申し込み、ダンスが終わればまた友人と談笑し、と、その姿はどれも嫌味がなくスマートだ。


こう考えるとものすごく遠い人だ。きっと兄だって、同じくらいに遠いのだろう。二人の性格を考えるとうらやましいのかわからないけど、結婚相手探しとしたら、私よりはマシだろうと思う。彼らに視線を送る令嬢は、基本的に、本人目当てなのだから。


こちとら、ランディやダリウスと知り合いになりたくて、声をかけてくる男性に囲まれてるだけだ。


「お知り合いなんでしょう?」

「え? えぇ、兄の親友ですから、王都で一緒にいられない兄の代わりに、気にかけていただいておりますわ」


アーサーはちらりとランディを見た。


「今日はお話にならないのですか?」

「ええ」


ランディと話したいのなら、そう言えばいい。それなら、送り出してあげるけど? 私が紹介してあげるとは思わないで欲しい。そんな人を相手にしてたら、ダリウスの妹などできはしない。そう言えば思い出した、私が舞踏会に出たくなくなったのも、兄のせいじゃない? 怒られる筋合いはないわ。


私が済まして会話を終わらせると、アーサーは慌てて取り繕うように言葉を重ねた。


「あぁ、アデリン嬢。あなたのお兄さん、ダリウス殿も素晴らしい方だ」


男性が頷いた。


「そうですね。若くして侯爵の地位を継いだのに、立派にこなしていらっしゃる」


そうかしら。

結婚願望のない妹を無理に結婚させようとし、その上当て馬になるような男性のエスコート……今回は大丈夫でしょうね?


「兄を評価いただいて、ありがとうございます、お二人とも」

「ですから、今日はあなたをエスコートできて嬉しいと思っておりますよ、アデリン嬢」

「こちらこそ、光栄ですわ」


数人の男性たちが朗らかに笑う。


楽しそう。まったく、お気楽でいいことね。


 おそらく先にランディを褒めたのは、ダリウスを褒めるための布石だろう。私に話を聞かせ、兄に媚びを売るという算段だ。


お生憎様。兄は自分の交友関係に、私の意見など聞いたことがない。


ただ、私はどこの誰がペットショップにきて、買って行って、大切に育ててくれているかを話すことはある。それが効果があるとすれば、兄も動物好きで、同じく動物を愛する人たちを好ましく思っているだけにすぎない。


だからつまり、兄の好感度が欲しければ、ペットを飼って大切にすれば良い。

もし、素直に、兄に目をかけて欲しいんだがどうすれば良いのかと聞いてもらえるなら、私はそう助言するだろうけれど。


そうでないのなら、私には何も言うことはない。私の前で兄を褒めても意味がないし、それ以上に、私を褒めても意味がない。


こんな話も、ペットショップでなら愚痴ることもできるのに。ご家族が嫌がるけど本当は飼いたいと遊びに来てくれていたご令嬢や、身元のしっかりした店員達と。


あるいは、懇意にしていた領地の本屋で。私を変人扱いする店主や、ご主人の本を探しに来る侍女達と。


でもここには、誰もいない。


兄と言い争った勢いから、あえて長期休暇とだけ伝えて、爺やを通して指示や連絡をすることにしてしまった。それを今更変えるつもりもない。大手を振ってみんなに自慢してやるんだ、ってそんな気持ちだった。


でも舞踏会で友達も作れず、こんな風に誰かのおべっかを薄ら笑いでごまかして流して、浮いた話もない。今日だって、私を通して兄と知り合いたいだけで、私のことなんて誰も興味がない。まともに相手にしてくれたのは、兄の友人のランディだけ。それもとびきりハンサムで優しくて楽しくて、そんな素敵な人が私の提案に乗ってくれるはずもなく。


こんなことで、旦那様が見つかるのかしら。やっぱり、ジャンにお願いするしかないのかしら。


貴族の方がダリウスは認めてくれると思うけど、条件ではなかったはずだ。


私を受け入れて、愛してくれる人……


私はかすかに頭を振った。


高望みはやめよう。友情で十分だわ。愛の一部ではあるんだから。



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