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動物好きの侯爵令嬢、結婚相手を探しに行く  作者: 霞合 りの
第八章 お相手探しはまだまだ続く
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8-1.新しい物語

三日後、私は馬車の前にいた。


小ぶりだけど、しっかりした作りで、生前、父親が旅行用に使っていた馬車だ。旅行用のため、あえて侯爵家の紋章は入れず、見た目も目立たない。馬車の中に入ると、そこに紋章がしっかりと入っているが、もちろん、外側へはわからないようになっていた。内装は豪華で過ごしやすく、とても良い馬車だ。


「これに……乗っていっていいと思う? 兄様……ストローブ侯爵には言わないでおいてくれる?」


馭者に声をかけると、彼は笑いそうになるのをこらえるように、小さく頷いた。


「ええ、旦那様にはお伝えしないことをお約束いたします。もちろん、重大な出来事が起きたらお伝えいたしますが。しばらく使っていなかったので、私どもは使えるのが嬉しいのです。こちらへお嬢様がいらしてから、使っていただけると思ったのに徒歩ばかりで、……随分と寂しい思いをしました。今後とも、ぜひお使いくださいませ」

「まぁ……ごめんなさいね。そんなこと思いもよらなかったわ。考えてみれば、あなたたちはそのためにいるんだもの、お願いしないとならなかったのに」

「お気になさらないでください。本日はどこへ参りましょう?」

「ありがとう。そうしたら、そうね……兄様にそれらしい手紙を書こうかしら。ランディにも本のお礼を伝えないと。あ、でも、とにかく、土地を見に行って、本屋に行って、それから……」

「お嬢様」

「何、カミーユ」

「そんなに急がなくても、時間はあります。舞踏会がある日は無理かもしれませんが、その他の日には、いくらでもお出かけは出来ますわ。さぁ、最初はどちらにまいりますか?」

「そうね……本屋に行って、レターセットを買おうかしら」

「本を買うのを諦めたのは良い心がけですわ」


馭者にドアを開けてもらい、私は馬車に収まった。カミーユが乗って、無事に馬車は出発した。


歩いた方が楽しくはあるけれど、馬車の方がラクだ。特に、ランディに借りたイタチの本は面白く、寝るのがなかなか大変だったから、ぼんやりと馬車に揺られて本屋に行けるのは幸運だった。


馬車から降りると、店頭に置いてある本の背表紙を、ジャンが物色していた。


「ジャン」

「アデリンさん」


ジャンが優しい笑顔で振り向いた。


「こないだはごめんなさいね、大丈夫だった?」

「僕は何も。あの紳士は?」

「ええ、あの……本を貸していただいたの。お願いしていたのに、私がすっかり忘れていたから……怒ってしまわれて」

「そうだったんですか。貴族なら、さぞかし貴重な本をお持ちなのでしょう」

「ええ、そうだったわ。イタチの本を知っていて?」

「もしかして、”風のイタチ、その生態”ですか? 一度、少しだけ読んだことがあります……飼うのが難しい、風のように去っていくイタチのことですよね?」

「ええ、そうなの」


私はそれから、ジャンとイタチの話で盛り上がった。読んだばかりの本だったから、私がほとんと話してばかりだったけど。


「ジャンはどんな本を書くの?」

「空想科学です。ちょうど、イタチが出てきますよ。主人公がヒロインを助けるために、ウサギとイタチを仲間にするのです」

「まぁ……どのようなお話? 聞いてもいいかしら?」


意外。童話とか書いてるかと思ったわ。


「ええ、もちろん。動物たちは進化して、自分で話すことができる種になった、近未来の世界が舞台です。もの話す動物たちは優遇と冷遇の両極端な世界でした。この場合、ウサギが優遇、イタチが冷遇ですね。彼らは人間を嫌って逃げ出したわけですが、偏見のない主人公に出会い、助け合うことで、絆を深めていく、と言う話です」

「ヒロインはどこで絡んできますの?」

「それが、主人公の幼馴染で、実は王女だった娘なのです。騎士候補生として育った主人公とは仲が良くて、騎士になったら迎えに来ると約束していたわけですね。なのですが、王家で問題ができ、彼女を一族に無理やり加えることになったのです」

「まぁ、ひどい話」

「彼女は抵抗したのですが、国が相手ですから、できませんで、塔に幽閉されてしまうのです。出られる時間は、国の行事があるときだけ。それは、彼女が持っている力が、国の維持に必要だったからです。そして、ウサギたち進化した種にもその秘密があって……と言う話です。最後は、ハッピーエンドと決めていますが、二転三転しますよ」

「面白そう! 出版されたら、絶対読みますわ!」


うん。すごく面白そうだけど、多分、面白いと思うの私だけだわ。


「ジャンは才能があるのね。私、話なんて何も思いつかないわ」

「そんなことありません。才能があるのなら、売れてますよ」

「でも……いいえ、励ましても仕方ないわね。でも私は面白いと思うわ! 他にはないの?」


私の言葉に、ジャンは少し照れなら答えた。


「他には……ロマンス小説を少々」

「あら」

「とある貴族のハンサムな男性が、田舎の令嬢に恋をするんです。何年も思い続けて、悩んでいたところ、その兄に話を持ちかけられるんです。どうだ、僕の妹を手に入れないか、と」

「どうしてそんなことを?」

「その兄は、その貴族の男性が自分の妹を愛していることを知っていたからです」


私は首を傾げた。


「何でプロポーズしなかったのかしら」

「それは、何と、会ったことがなかったからなのですよ」

「直接お話ししなくても、好きになるもの?」

「ええ、そういうものですよ。些細な出来事から興味を持って、目に入るたびに惹かれていく……これぞ、片思いの醍醐味です!」


私はため息をついた。


「その女性はよっぽど素敵なのね」

「いいえ、それが、普通の方なのです。まぁ見た目は綺麗なのですが、美貌を磨きもせず、田舎暮らしに満足していて、のんびり生きているのです。その姿が、逆に、その男性の心をつかむわけですね」

「なるほどねぇ。その男性はどうするの? お兄さんの話を受けるの?」

「もちろん。お兄さんは言うのです、チャンスをあげるから、妹を落としてみろ、と。そうでなければ、妹は嫁に出してしまうぞと」

「まぁ! それはワクワクしてまいりましたわ! つまり、ぐずぐずしていると他の男に取られてしまうぞ、と発破をかけたわけね!」

「そういうことです」


どちらかというと、そっちのほうが売れそうだ。


「その話はどうやって終わるの?」

「まだ決めてないんです。ライバルが登場しましてね。彼女と気の合う、素敵な男なんです」

「あら……身を引いてしまうの?」

「あなたならどうします?」

「そうね……何とかアピールしたいところだけど……好きな人には幸せになってほしいから……その女性が、誰を好きかによるかしら」

「そうですね。僕も、そう思いますよ」


ジャンはにっこりと微笑んだ。



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