7-4.ジジとランディ
馬車が家に着くと、爺やがすぐにやってきた。
「これはこれは。ランディ様、お久しぶりでございます」
「やぁ、爺やだね。久しぶり」
爺やの視線が突き刺さってきた。言いたいことはわかる。私を街から送ってくれたのだ。誘わないわけにはいかない。
「ランディ、うちへ少し寄って、お茶をしていらしたら?」
「いいのかい?」
「ええ、もちろん。お世話になってしまったし、これで本当の仲直りよ」
「喧嘩なさってたんですか?」
「いいえ? 違うわよ?」
私はにっこりと否定した。爺やに言ったらすごく怒られそう。ジャンのことだって報告はしているけれど、別にそれだけなんだから。
「それではランディ様をお迎えする準備を……ところでお嬢様、ジジ様がいらしておりますが、何かお約束を?」
ジジが来ているなら先に言ってよ! ランディを誘わない口実に……させないために言わなかったのね、はいそうですか。私は諦めて爺やに答えた。
「いいえ、していないわ。でも、素敵な小物を探しているから、何かいいものを持ってきてくれたのかもしれないわね。すぐに居間に行きましょう」
居間で少し眠そうにしていたジジは、ランディを見ると、ぱっちりと目を開け歓声をあげた。
「アデリン様! この方はなんです? モデルです? 男性の夜会服は少ししか作ったことがないんです! あぁ、是非とも作らせていただきたいですわぁ」
私は慌ててジジを抑えた。
「まぁ、ダメよ、ジジ。だってランディはたくさん服を持ってて、もういらないくらいだと思うわ」
ランディが首を傾げ、ジジを興味深そうに眺めた。
「君は誰?」
「あぁ。ごめんなさい。私が今ドレスを作っていただいてる、ドレスメゾンのデザイナーなの」
「ジジと申します。よろしくお願いいたします」
ジジは目を覚ましたように、頭を下げた。
「うん、よろしく。アデリンのドレス、どれもとても彼女に似合って素敵だと思っていたんだ。この短時間で、どこで作ったんだろうって思っていたけど……君が作ってくれたのか。目の保養になった。礼を言おう。ありがとう」
緊張した面持ちだったが、ジジはパッと嬉しそうに笑顔になった。
「いえいえ、こちらこそ、喜んでいただけたようで嬉しいです。お嬢様のドレスの中で、どれがお好みだったでしょうか?」
「うーん、それはですね……」
「ジジ、やめて」
「どうしてです? 今後の参考にしたいんですが。お嬢様もお知りになりたいでしょう?」
「いいえ、知らなくていいわ」
「まぁ」
それに、ランディに見とれてしまったことを考えると、どうにも恥ずかしくて、いたたまれなかった。
ふと気がついたように、ランディは私の頭を指差した。
「もしかして、この髪飾りを作ったのも、君?」
「はい! そうでございます! カミーユさんご指導のもと、ランディ様の……えぇっと、ご一緒なさる時に、お嬢様にそれにふさわしいお姿をと思いまして、以前、作らせていただきました」
「そうかい……僕の好みは……わかりやすいかい?」
「私にはわかりかねます、ランディ様」
「へー……」
しばらくの間、笑顔のジジを、値踏みするように、ランディはじっと見た。そして、おもむろに口を開いた。
「……作りたいの?」
飛び跳ねるようにジジが頷く。
「はい、はいぃぃ」
「それなら……アデリンと揃いならいいよ」
「揃い?」
「僕の家はドレスメゾンが決まっているから、他で作ると文句を言われるんだ。でも、女性のドレスと揃いで、となれば、女性の方のドレスメゾンで作っても文句は言われない。だから……」
ランディの説明に、ジジとカミーユがうふふと笑う。
「何か?」
「いいえ、問題ありませんわ」
「揃いって? どうやって揃えるの? 何のために?」
「そうですわね、そりゃ、仲睦まじさをアピールするためですわよね」
私は困惑した。意味のある服とは思えない。
「そんなの、いつ着たらいいの」
「定番ですと、店の宣伝にもなったりしますけど」
「それでいいんじゃない? 君のペットショップの宣伝をしてあげよう。口約束でない証拠に、僕の名刺を渡そう。これをうちで渡して、アポを取るといい」
そう言って、ランディは華麗な所作で美しい名刺をジジに渡した。
なるほど。
「それならいいわ。使えそう。ねぇ、ジジ、お揃いってどんなところがお揃いなの?」
「そうですね。一見わからないけど、というのがいいと思います。色使いやトーンは同じで、エレガントなものにしましょう。女性は星屑のチュールレースをたくさん使いたいと思います。胸元のポケットと、ウェストのリボンを同じにして……もちろん、裏地がドレスと同じにしようと思うのですけど、さて、それは出来上がってからのお楽しみです!」
「ケチィ」
「楽しみになさってくださいませ!」
ジジは胸を張り、意気揚々と帰って行った。