7-2.お茶会の帰り道
「はぁー、素敵だったわぁ……あの蛇。ねぇ、ランディ、次はシロネズミって言ったけど、違ったわ。白は白でも、次は白い蛇よ。他の白くない蛇ももちろん可愛かったし、あぁ、次は蛇の時代ね!」
帰りの馬車で、私は隣に座るランディに興奮気味に言った。ランディは笑いながら馬車の窓枠に肘を引っ掛けて、頬杖をついて私を見ていた。
「公爵夫人とは、他には何を話したの?」
「え? あぁ、あのね、公爵夫人は本のコレクターでもいらっしゃって、動物関連のご本を集めてらっしゃるのですって。それでね、私の読みたかった本、”デリス沼での怪奇現象を紐解くーあの生物は本当にいたー”や、”世界の珍獣のホントウソ”も持ってらっしゃるんですって。それも、もう読んだそうなの! あぁ、いいなぁ、私も今頃は読んでいたはずなのに……」
あの時、お運び少年が兄に渡さなければ……
兄があんなことを言いださなければ……
私は悔やんだが、仕方ない。取りに行けなかった自分が悪いのだ。
それに、それがなければこのお茶会にも行けなかった。兄にランディに頼んでくれたことを感謝しなければあらないわ。不本意だけど。
「他には?」
「そうね……あとは、蛇のお話を聞いていただけだわ。長いこと飼ってらっしゃるから、いろいろご存知で……失礼だったかしら」
「公爵夫人はお話しするのが大好きだから、問題ないよ。嬉しかったんじゃないかな」
「そう? ならよかったわ。あぁ、私より動物が好きな方にお話を伺うのって楽しい。私の子達も家に置いてきているから、寂しくなってきてしまったわ……」
「寂しい? もうお屋敷に帰るの?」
「え? いいえ、まさか! 旦那様を見つけないことには帰れませんわ」
「君は使命感が高いんだね」
感心したように言うランディを前に、私は口をつぐんだ。
あの本をこの手に戻すために旦那様探しをここにしに来たなんて、ランディには言えないわ。
「僕は動物は好きだけど、蛇はあんまり、だなぁ……良さはわからないけど、話は聞くよ。アデリンがペットショップで扱うの? どうやって飼うの?」
「新たに温室を作ろうと思うの。小さなものよ。その中で、細かく区切って、住めるようにしようと思うの。ガラスを使えばなんとかなると思うんだけど、……どうかしら?」
ランディはうんと頷いた。
「できそうではあるけど……餌は? どうやって?」
「それは専用の従業員を雇おうかと思ってるわ。街中で野生のネズミを見つけてきてもらった方がいいか、森で探してくるのか、考えていて……」
「肉食なんだ」
「そうね。主にネズミを食べてるそうよ。シロネズミとは一緒に飼えないわ」
「温室に小動物……それだけの手間をかけて、実際飼う人がいるかな?」
「きっと、いるわ。現に、公爵夫人は何匹も飼ってらっしゃるって」
「あの人は別格だよ。お金もあるし、手をかけてくれる使用人を専用に雇っているからね。でも、他の人は違う。そこまで余裕のある人は少ない。身の丈に合わないペットは売れない、そうだろう? だから、売るなら、あまり大きくならない種類の蛇にしたり、餌が難しくないのを選んだ方がいいね」
「なるほど! そうね」
「まぁ、でも、温室を作って蛇を飼って餌を調達して、それだけの設備投資をして、回収できるもの? ウサギみたいに万人に受けるとは思えないからなぁ……」
そう言って、ランディは視線をカミーユに流した。私は沈黙した。カミーユは両手で耳を塞いでいた。
そう、カミーユは蛇が嫌いだ。
お茶会は馬車で待っててもらって正解だった。
「そんなに買いたいという人が来るとは思えないな。次の”かわいいペット講座”は、やっぱりシロネズミにして、蛇は、受注制にしたらどう?」
「受注制?」
「君の店は、馬でも犬でも、特徴やイメージを伝えれば、それに近いペットを探してくれるサービスがあるんだろう? そうしたら、蛇もそれに加えるといい」
私はその言葉をよくよく吟味した。
「蛇の? ……蛇専用の受注窓口を作るってことね。他国や地方の、動物施設や愛護協会には、蛇のホットラインを作ればいいんだわ」
私の言葉に、ランディは頷いた。
「それがいいと思うね。そうしたら、新しく作る必要もないし、付け焼刃で詰め込んだ分野外の知識で、蛇が無駄死にする可能性がなくなる」