7-1.動物茶会
細くて長い生き物が出てきます。ご注意ください。
翌日、ランディが連れて行ってくれた”いいところ”は、公爵夫人のお茶会だった。
公爵夫人と知り合いなんて、格の違いを感じるわ……
そして、私は庭の広さと華麗さに、言葉を失った。
それに、今回のお茶会の趣旨ときたら……!
「お気に召しましたか? お嬢様」
「ええ! もちろん!」
別名、公爵夫人のペットのお披露目茶会、通称、コンパニオン・アニマル・パーティー。
「最高だわ……!」
庭に放たれている動物と、それを見守る使用人たち、そして充分な大きさの檻やカゴ。広い空間を使って、素晴らしく配置されている。
毛並みの素晴らしい犬に、程よくツンツンしている猫に、可愛らしさ満載のうさぎたち。各テーブルの鳥かごには色とりどりの鳥がいて、テーブルクロスはさりげなくその鳥たちに合わせた色になっている。檻には少し一般的でない動物たちがいた。毛並みのいいアライグマ、狐、蛇。
「蛇……!」
私は檻に駆け寄り、さらに奥のケースの中で生き生きととぐろを巻いている、真っ白な蛇を眺めた。
「美しいわ……」
ツヤツヤの鱗、するすると滑らかな動き。白さが緑に映えて、一層キラキラして見えた。
「私! 次は蛇を!」
興奮してランディに顔を向けると、ランディは無表情で私の後れ毛を整えると、そのまま私を促した。
「おいで。公爵夫人に紹介しよう」
「いいの?」
「いいさ。そのつもりで来た。どのみち、主催者に挨拶しないでどうやって帰るんだい?」
多少、緊張した面持ちで、ランディは私の手を取って、腕を組んだ。
「呆気にとられるとは思うが、適当に相手をしてくれ」
「適当って」
言いながら、他の客と話をしている公爵夫人の近くまで行った。公爵夫人は華やかで、ふくよかな明るい女性だった。正直、どんな服をどう着ても、彼女の存在感には敵わないだろう。
そして、実際に顔を合わせると、ランディの言っている意味がわかった。
「あらー! ランディったらよく来てくれたわね、いつも返事すらくれないのに……まぁ、まぁ! なんて可愛らしいの! 素敵なお嬢さんね、名前は? まぁ、アデリン様とおっしゃるの? あぁ、そうなのね、ストローブ侯爵の妹さん。お姿を表すように可愛らしいお名前ね! そう思わない、ランディ? それというのもね、今回はうさぎを大切に飼ってくれない人がいて、本当にひどかったのよ。だからこの会を開いたの。可愛らしさもそうだけど、命を扱うということを」
口を挟む暇がない。
そこへ、ランディが無理やり会話をねじ込んだ。
「公爵夫人。これではアデリンがお話しできません。うさぎのことなんですけど」
「うさぎの? 何かしら?」
公爵夫人がうふふと笑った。目を走らせていた私は、動物たちがよく見えていた。少なくともあのうさぎたちは、うちのうさぎだ。
「あの、うさぎは……私どもの領地のうさぎでしょうか」
「ええ、そうよ、もちろん。ストローブ侯爵領に買いに行ったの」
「だとしたら、私の店ですわ」
私が伝えると、公爵夫人は目を輝かせて手を組んだ。
「んまぁ! あの誠心誠意尽くしてくださる、ペットショップの? なんて素敵なんでしょ! もっとお話を聞かせてくださる?」
「ええ、もちろん!」
どんとこいだわ、動物談義!
ペット愛の啓蒙!
ノーモア虐待!
「それじゃ、僕は行くよ」
テーブルに促された私に、ランディが耳打ちした。振り返ると、ランディは目を細めて私を見ていた。
「どこへ?」
「挨拶。知り合いが来てるから」
「私も行った方がいい?」
私が言うと、ランディは不思議そうな表情の後、少し笑った。
あ、馬鹿にしたな。私だって、少しくらいは知っている。その日のパートナーはだいたい、挨拶にはお付き合いするのだ。
「いや。公爵夫人と話していると言えば、みんなわかってくれるさ」
「そう? なら……」
「会話の熱が冷めた頃に戻ってくるよ」
ランディは言うと、私の髪飾りを軽くつついた。
「これ、似合うね」
さすが分かっていらっしゃる。そうです、それはカミーユ指導のもと、ジジが作ったランディ好みの髪留めなのです!
「褒めていただいて嬉しいわ、ランディ。連れてきてくれてありがとう!」
私はランディにぎゅっと抱きつくと、すぐ離れて公爵夫人に向き直った。
「公爵夫人、お待たせいたしましたわ」
しかし公爵夫人は目を丸くしてランディを見ていた。
「ランディと仲がいいのね?」
「そうでしょうか? 悪くはありませんけれど」
私がちらりと振り返ると、ランディは自分の手を開いたり閉じたりしていた。そして最終的に握りこぶしを作り、ぎゅっと握っている。
「……何をしているのかしら?」
私が思わずつぶやくと、公爵夫人はクスリと笑った。
「感触を確かめてるのよ。たった今感じたぬくもりを味わってるの。そしてすぐに抱きしめ返さなかったことを悔やんでる」
「は、はぃ……?」
私は首をかしげ、そして答えた。
「うさぎのことですか? それとも、傍らに遊びに来た犬の?」
「そうね、例えるなら猫かしらねぇ。女性は猫のように気まぐれって言いますもの。鈍感な猫ほど落とすのが難しいのでしょうから、きっと苦労するわね」
「そうなんですか。猫は確かに、手懐けるまで苦労しますよね」
「でも仲良くなってからは最高に可愛いわ」
「それは本当にそうでございますわね! 私も、うちのペットショップに来た初めの猫が、懐いてくれた時のこと、まだ覚えておりますわ。本当に可愛くて可愛くて、……手放したくありませんでしたの。でも、すぐに売れてしまいましたわ。お買いになったご夫人は今でも時折遊びに来てくださって、大切なお客様なんです」
「それは素敵ねぇ。もっと聞かせて。ところでね、次に来るペットなんだけど……」
「ええ、私も考えておりましたが、シロネズミがいいと思いますの」
私は言いながら、先ほどの檻の中のケースを思い出していた。
キラキラと輝く白いアレ。
「でも今は少し考えが変わりました。蛇も、とっても素敵だと思っておりますわ。公爵夫人の蛇の飼育の方法、お聞かせ下さいませんか?」