5-3.反省と説得
「……どうなさったんですか?」
ジジが採寸のため、メジャーを私の胸の前に掲げ、ぎょっとした顔で尋ねてきた。
さすがにこの距離ではごまかせないか。
私はため息をついて、肩をすくめた。ちらりとカミーユを見たが、目を合わそうとしてくれない。
そんなに私が悪かった?
思いながら、私はジジに説明を始めた。
「……だから、少し悪かったなと思って……」
ジャンとは気まずいまま別れ、私は逃げるようにこちらへやってきた。
「はぁ、……まぁ、……なんと言いますか、……そうしたら、その、ランディ様という方のお好みのドレスをお仕立てします?」
「どうしてそうなるの?」
私は呆れたが、ジジは話を進めた。
「ご機嫌を損ねてしまわれたけど、仲直りしたいんですよね? いましたわ、以前にも、採寸したご令嬢で、恋人と喧嘩を」
「恋人などではありませんけど」
「例え話ですわ、お嬢様。男性のご機嫌を損ねたとお思いで、仲直りしたいと思ったら、こちらから歩み寄らねばなりません。その一つが、見た目から入ることです」
「見た目?」
「そうです、ドレスを相手好みのものに新調すれば、自分のことを考えてくれたんだなと、嬉しくなって、こちらの謝罪も聞いてくれるものです」
「謝罪なんて……」
「喧嘩するほど仲がよろしいんですもの、もしかしたら、イチコロでハートを射抜かれてしまうかもしれませんわね」
ジジが笑い、カミーユが軽く鼻を鳴らした。
「あら、カミーユさんもお怒りなんですか? お嬢様に。侍女がお怒りなんて、珍しいことですわ。よっぽどのことでしたのね」
「私は悪くないわ……と思うのよ。ジジもそう思うでしょ?」
「さぁ、……私はその場にいなかったので、話を聞いたとしても、なんとも言えませんわ。ただ、ランディ様という方は、嫉妬なさった気がしますけど」
「嫉妬?」
「そうです。お話によれば、王都に来て、男性に振られっぱなしで友人もできないお嬢様だったのでしょう? ですのに、自分が友人第一号だと思ったら、すでに自分より親しそうな男性の友人と、仲良くお話しなさってるんですもの」
ジジの言葉に、私は首をひねった。
「私、ランディの娘ではなくてよ?」
「まぁ、父親の気持ちですって?」
「兄様と同じでしょう? 保護者ってことよ。兄様はいつだって子供扱いなんだもの」
だいたい、兄からの手紙の返事は全く意味がなかった。ランディについての文句も受け流し、質問したけど仲の良い友人としか回答してくれなかったのだから。それって、私がまだ子供だから、何も知らないと思ってるからだと思うの。
しかしジジは私の話を流して、にっこりと微笑んだ。
「それで、ドレスはどうなさいますか? そのランディ様という方のお好みで? どんなものがお好みなんでしょう?」
「……知らないわ。だって、会ったばかりで、何も話してないんだもの」
「それなのに喧嘩なさるなんて、よっぽど息が合うんですのねぇ」
「やめて、ジジ。だから好みなんて知らないし、知るつもりもないの」
ランディの好みなんて……もう少し大人っぽいドレスが好きかしら? 胸元が開いているより、背中が開いているような、それでいて清純さを保つような……
考えて、途中でハッとした頭を振った。
違う、違うったら。
「新しく作るドレスは、街歩き用よ」
「幾つか作りましたわ」
「違うの、もっとね、土地を見て回れるような、……犬と戯れても思い切り動けるような、そんなドレスがいいの」
「なるほど。それでは、こちらでペット用の運動場を探すおつもりで?」
「ええ、そうよ。ただ、あっても来てくれるとは限らないのよね。呼び込みしないとならないかしら? 新しい社交場として宣伝するとか……」
「それでしたら、ペットショップを移転なされては? お嬢様がこちらにいる間だけでも」
「それは……無理ね、いつまでいるかわからないし、帰ってしまうから、その後の処理が大変だもの」
「そうですか」
頷いたジジの言葉を吟味して、私はハッと思いついた。
「あ、でも待って。新店舗ならいいかもしれないわ」
「新店舗?」
「そうよ。支店、っていうのかしら。王都でもあるでしょ、お菓子屋さんやドレスメゾンが。そうしたら、一定数が見込めるし、誰も来なくても、場所を使うことができる……いいわね! カミーユ、これから見に行くわよ!」
カミーユが驚いた顔をした。
「今からですか?」
「そうよ! 善は急げっていうでしょ! まだ日は高いし、歩いたって、そんなに大変じゃないでしょ。うちの領地の空き地を確認したときなんて……」
「そのお話は後にいたしましょう。何はともあれ、元気になられたようで、安心しましたわ」
「ええ。もういいの。いつか、ランディに会った時に、失礼なことをしたと謝るわ。それまではもう、考えないことにする」
話しながら私は早々と帰る支度を始めた。カミーユが荷物をまとめ、私の服を確認する。ジジが店のドアを開けた。
「ところで、お嬢様、空いた土地を見に行くには、どうなさるおつもりですか? 知り合いの不動産も、旦那様もいらっしゃらないんですよ?」
店のドア口を通り抜けながら、私は考えを巡らせた。
「そうね、どうしようかしら」
私は店を出たところで、驚いて足を止めた。