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5-2.言葉の応酬

「ランディ……」


私がつぶやくと、ジャンは驚いて私を見た。


「どなたですか?」

「知り合いなの……ええ、兄の……友達で」

「お兄さんがいらっしゃるのですね」

「そうなの」


私の気分とは裏腹に、ランディは上機嫌だった。


「アデリン。こんなところで会えるなんて、自分の幸運に感謝したいな。……そちらは?」

「ええ、あの、……お友達の、ジャン。ジャン・スコット」


ランディの視線に、ジャンは慌てて立ち上がった。


「あ、ぼ、僕は……ジャン・スコットと申します。アデリンさんとは昨日、本屋で知り合いまして」

「へぇ?」

「ゆ、友人になったところで……」

「そうかい。僕はランディ・メルレ。貴族でね、今日は本を」

「ヒェ、……貴族……」


ジャンが身を縮こませると、ランディは片眉をあげて私を見た。


ええ、ええ、知らせておりませんとも。だから何?


「アデリンが僕と会っても嬉しそうにしていないのは、そのせいかな?」

「あなたに会いたいと思ったことなどありませんけれど」

「それはご親切にどうも」


ランディは嫌味たっぷりに微笑む。悪魔の微笑みと言いたくなる美しさだ。


相手にしてくれそうにもない方と話すなんて、時間の無駄よ。私は王都ここに旦那様探しに来たのだもの。


ジャンが私に小声で聞いてきた。


「……アデリンさんは貴族と知り合いなの?!」

「ええ、あの、……兄が」


間違ってない。


「すごい方なんだね、あなたのお兄さんは……僕なんて全然……」

「そんなことないわ。肩書きなど関係なく、あなたはいい人よ」


私がジャンを励ますように軽く肩を叩くと、ランディは軽く笑った。


「昨日あったばかりの割に、仲がいいんだね、君たち。すでに一夜を共にした?」


カッとなって、思いつく前に言葉が出た。


「なっ ばっ 馬鹿にしないでください! まだ友達になったばかりですわ! 失礼な!」


すると、ジャンは私をかばうように前に立った。


「ええ、あの、僕たちは本当にただの友達なんです。昨日、本屋で、僕がえぇと、彼女を転ばせてしまったので……」


う。真実と違うけれど、正したらランディにあらぬ誤解を受けそう。申し訳ないけど、このまま使わせてもらっちゃおう。ありがとう、ジャン。


「そうよ、心配してくださったの。だから、大丈夫だと会いに来たのですわ」

「へぇ、いい口実だね。好みの女性を転ばせてみたり? いい男だと思ったら会う約束を取り付けてみたり?」


ランディは私の”旦那様探し”について揶揄しているに違いない。確かに私から見てジャンには……打算的な下心もあるけれど、そうじゃなくてもきっと、話をしたかったと思ったはずだ。だって、作家志望なんて、話せば面白いに決まってる。


「そんなんではありません。節操がないと思われるのは心外です。女性はですね、いい男だったら誰でもいいわけではありませんわ。私は彼と友人になりに来ただけですし、あなたのことはお誘いしておりませんでしょ」

「はぁ、僕をいい男だと?」

「思わないほうがおかしいでしょう、それだけの容姿に、話術と教養があって、嫌う女性がいるとでも?」


特に貴族では。


「ふぅん……」

「まぁ、印象自体は最悪ですけれどね」

「じゃ、僕の方も言っておくよ。男だって女性なら誰だっていいわけではないよ。美人である必要もない。ただ気が合えばいい」

「それはこっちのセリフですわ! 男性はいつだって、美人で可愛くて気の利く、華奢で従順な女性が好きじゃありませんの。私のような男に生まれればいいと言われた女は、選ぶ土俵にすら上がりませんのよ」


なんでこんなにイライラするんだろう。ううん。ランディにイライラさせられているんだわ。ランディが私にイライラしているから? なんで?


「そんなことはない。では、彼なら選んでくれるとでも? 僕に劣るから? そんな失礼なことを考えて、君は彼と友人になろうとしてるのかい?」

「違いますわ」

「ジャン・スコット君、どうだい、値踏みされる気分は? 君は僕に劣ると言われたようだけど?」


なんて失礼な。


「ランディ! あなたよりジャンのほうが数倍良い方です!」

「初めて街中で会った相手を、よくそんなに信じられるな」

「あなたが最悪なのです」

「そうか。では、僕に会いたくなかったと」

「はじめに申し上げましたわ」


私が冷たく言うと、思いの外、ランディは傷ついた顔になった。


「そうだったね。……今度から声をかけないことにしよう。どこかに行くのなら、馬車に乗るかと思ったんだが、それも必要なかったな」


言い放つと、私に背を向け、来た時と同じように、あっという間に行ってしまった。私たちをオロオロと見ていたランディの従者が、慌てふためいてランディを追いかけていく。


「あ、あの、よかったんでしょうか……」


ジャンが恐縮したように私に言う。


「いいんです。だって、親切にされたって困りますから」

「どうしてですか?」

「あの方が……私を選ぶわけがありませんもの」

「それはどういう意味で……」


ジャンが言いかけて、途中で止めた。


私が泣きそうな顔をしていたからに違いない。事実、私は涙が出そうになるのをこらえていたのだ。


ランディが悪かったのに。なんで私がこんな気持ちにならなきゃならないの? 金持ちプレイボーイの気まぐれに付き合わされるこっちの身にもなってほしいわ。





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