5-1.まずはお友達から?
翌日、またカミーユにお願いして、本屋へ行ってみることにした。
もしかしたらいるかも。私の未来を買ってくれる……違った、自分の未来を売ってくれる人が。
「いたわ!」
私がカミーユをバンバンと叩くと、カミーユは呆れた顔で腕をさすった。
「本当に彼に提案するおつもりですか?」
「もちろん」
「どんな方かも知らずに?」
「それをこれから知るんじゃない。ここで合わなそうだったらやめておくけど、良い人そうだったら、提案しようと思ってるわ」
「あなたを利用しないとも限りませんよ。人はお金が絡むと変わりますから」
「わかってるつもりだけど……何事も、試してみなきゃ始まらないわ。ペットショップだって、最初は大変だったでしょう。覚えてる? カミーユ、私たちはあの日……」
「この調子ですと、思い出話を三時間して、このままジャン様にお声がけもできないと思いますが、よろしいのですか? ええ、私は問題ありませんが」
「悪かったわ」
私はすぐに話をやめると、少し咳払いをして喉を整えた。
「……よし」
そしてちょっと可愛らしさを演出し、ジャンに向かって歩いて行った。なお、服装は、私の手持ちの服を、ジジに今風に仕立て直してもらった、それなりの服だ。新しすぎず古すぎない、ジャンだってちょっとは私にプラスの印象を持つだろう。
「……ジャン! またお会いできましたわね!」
私が駆け寄ると、ジャンは嬉しそうな笑顔になった。
「会えるのはもっと先かと思っていましたよ、アデリンさん。お会いできて嬉しいです」
「私もよ、ジャン。ちょっとお話しない?」
「ええ、いいですね」
そうして私たちは店の外に出て、思った以上に弾む会話を楽しんだのだった。
「そういえば、お一人とおっしゃっていたけれど……お友達や恋人はいらっしゃるでしょう?」
会話が途切れた瞬間、私はなるべく自然に質問を投げた。思惑がバレませんように。すると、ジャンは慌ただしく身だしなみを整えた。
「え?! 恋人など……まぁ、友達はおりますけど、結婚など、まだ考えられません。好きな方もいませんしね」
「ジャンは好きな方と結婚するのが理想ですか?」
「ええ、できれば。私も継ぐ家などがあれば別なのでしょうが、天涯孤独となれば、好きなように生きたくなるものです。それに、作家志望ですからね。ロマンティックな感情に憧れています。恋をして、愛し合い、互いを尊重し合い、互いのために生きる……そんな生活を夢見てはいますよ」
天涯孤独の理想家とは。
下手にカネカネ言うと引かれるだろうから、ここは慎重にいかないとならないわ。
私がさらなる情報の得方を考えていると、ジャンは恥ずかしそうに頭を下げた。
「あ、すみません! 昔から、夢ばかり語ると言われていて……」
「いいえ、素敵ですわ。私もあなたのような夢を、みたいものです」
私が甘えたように言うと、ジャンは照れ臭そうに頭をかいた。
本当にジャンに甘えられたらいいのかもしれないわ。
今はまだ私には打算しかないけれど、私だって夢を見てる。
ジャンなら……もしかして……
「アデリンさん、それは嬉しいですね。お互い、そのような相手が見つかるといいのですが」
あなたのお相手に、私を数えてはくれないの?
そう尋ねようとしたが、できなかった。
「やぁ、アデリン。アデリンじゃないか?」
そうやって、前方からやってきたのは、なんとキラキラの笑顔を振りまく、ランディだったからだ。