4-1.兄の友人
翌日、早速、兄が頼んでエスコートをしてくれた男性からの謝罪と感謝の花とカードが届いた。
ついでに、なぜかランディからも。
可憐で華やかな花束は、そちらに疎い私でもときめいてしまう、さすがのチョイスだ。
こちらも謝罪と感謝だ。一体、何に感謝しているのかわからないが。
「何よ、あのランディって方は……!」
兄にちょっと文句を言ってやろう。ついでに、どんな人かも聞いてみなくちゃ。
ちなみに、フレッドからは届かなかった。
私が兄宛に手紙をしたためていると、紅茶を淹れてくれていた爺やが首を傾げた。
「”ランディ”? もしや、ロカール伯爵ランディ・メルレ様のことでしょうか?」
「ええ、そうよ。爺やは知ってる?」
すると、珍しく、爺やは顔をほころばせた。
「もちろんでございます、お嬢様。旦那様とごく親しくて、よくお屋敷にも遊びにいらしておりました。今は亡き前の旦那様ともお親しく、ご葬儀に駆けつけてくださいました」
「あら……そうなの」
全然覚えがないけれど、それは私が泣いていて周りが見えなかっただけだろう。全てを仕切ってくれた兄には頭が上がらない。
「はい。とってもハンサムな方でらしたかと思いますが。それに、とても物腰柔らかく、女性たちから人気で、特に、独身令嬢からは常に狙われているといった次第で」
「兄様とは随分違うわね……」
「お立場が違いますよ。旦那様は、すでに侯爵となられ、今はお忙しいですから。お嬢様は知らないでしょうが、旦那様も、舞踏会に出れば令嬢が群がる方ですよ? ですから、前旦那様がご存命だった頃は、ダリウス様とランディ様は、美丈夫の双璧として憧れの的だったのです。もちろん、今でもです! ですから、お嬢様は、旦那様の評判を下げないように、くれぐれもお気をつけくださいませ!」
やだわ。最近、爺やは最後には小言になってしまう。
わかってる、わかってるわ。あんな兄でもそれなりなんでしょうとも。
でも、五回も当て馬になり、毎回謝罪と感謝と婚約発表が続き、その上、ランディの襲撃で逢いびきもダメになったとすれば、やさぐれたくもなる。
ああ、私はいつになったら”世界の珍獣のホントウソ”を読めるんだろう?
その中に、飼えるような動物がいたら、珍し物好きの貴族なんかに売れるかもしれないわね。
もちろん、ちゃんと飼育してくれるか、調査してからだけど……
そこまで考えて、ランディに言われたこと思い出した。
『別の話題を引き出して、そちらに夢中になってしまう。これじゃ、お相手と理解し合えないよ?』
「余計なお世話だわ」
「なんですと?」
しまった。
「いいえ! とにかく、それじゃ、私なんかと結婚しなくたって、引く手数多じゃないの。美貌の変態で、誰も相手にしない方なのかと思ったわ」
「ランディ様は何かおっしゃっておりましたか?」
「ええ、……私が旦那様を探していると言ったら、僕はどうか? ですって。失礼しちゃうわ」
「それで……お嬢様は何とお答えしたんですか?」
今日は随分と爺やは聞きたがりだ。やはり、兄の友人の情報は押さえておきたいということか。
「もちろんお断り……というか、無視よ、無視。どうせ、私が間に受けたら、『冗談だったのに』なんて言って、笑うに決まってるんだから」
「そういう方だとは思えませんが……」
爺やが首を傾げたので、私は肩をすくめた。
「だったら、爺やの考えが違うのか、変わってしまったのよ。お父様が亡くなったのは二年前だし、それ以降、まだ誰もうちには訪問していなかったんだから」
「そうかもしれませんが……」
爺やは不満そうだ。でも、その不満顔に私も不満だ。
「いくら友達の妹だからって、誰とでも結婚できる人が私なんて選ぶわけがないでしょ?」
「そうとも限りませんよ、お嬢様。爺やは知っておりますとも、お嬢様が素晴らしい方であることを……」
爺やの説教というかポエムが入りそう。私は慌てて話を変えた。
「あ、いいからいいから。カミーユはどこ?」
私の言葉に、爺やは頭を下げた。
「ジジ様がドレスの小物をお届けに来ておりまして、その対応をしております」
「わかったわ。ジジに聞いてみたいこともあるし、居間に行ってみるわ」