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動物好きの侯爵令嬢、結婚相手を探しに行く  作者: 霞合 りの
第一章 優しい兄の愛ある提案
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1-1.今日という今日の日、とうとう兄に怒られる

よろしくお願いします。

「アディ! ……アデリン! 今日という今日は……」


兄のダリウスが足音を響かせ、怒りをにじませた声で足早にやってくる。その後ろを、兄の飼い猫、黒猫のタオがテテテテテと遅れないようについていく。慌てて廊下の飾り甲冑に隠れて、兄が通り過ぎるのを首だけで覗いた私は、ハッと気がついた。


手に数冊の、見慣れない豪華な本を持っている。


あの本は……!


私は思わず、兄の前に飛び出していた。タオがサッと逃げて壺の中に隠れた。


「お兄様! では、あの本が届きましたのね!」


私に直接届けるようにと言ったのに、お運び少年ったら……と思いながら、私は渋い顔のダリウスを見た。ダリウスは本の背表紙を見るその前に、私を冷たく一瞥した。


「なんだこの本は? ……”デリス沼での怪奇現象を紐解くーあの生物は本当にいたー”、”世界の珍獣のホントウソ”……あとは異国の本だが……全部動物関連の本だな」


私は狂喜乱舞しながら、ダリウスの持っている本へ手を伸ばした。


「ええ、探しておりましたのよ! サーモス店主が探してくださったのですわ! ありがとうご」

「いくらだったと思ってる」


兄が遮った。私はにっこりと微笑んだ。


「払えるお値段ですわ」


それでも兄は渋い顔で忠言してくれた。


「お前には高すぎる」

「でも私の財産から払っております。自分で仕事もしておりますし、お兄様に言われる覚えは……」


私が反論をすると、ダリウスは遮るように強く言い放った。


「衣装代がかかっていないだろう!」


私は一瞬息を止め、再び微笑んだ。


「……なんですか、それは?」


笑顔が引きつっているように見えたら、それは気のせいよ。絶対に気のせい。


ダリウスはため息をついて本を脇に抱えた。絶対に私には渡さないつもりだわ。


「衣装代だ。ドレスに靴に髪飾り。お前の装いは、一昔前の揃いばかりだ。お前は侯爵令嬢なんだぞ。舞踏会にも出るだろう。頼むからそれなりの格好をしてくれ」


最後は懇願のように、情けない響きの声を出した兄に、私は悠然と言い放ってあげた。


「もちろん、舞踏会用のドレスはありますわ」

「舞踏会? そのドレスはいつ作った」

「……えーっと……」


あれは……確か……社交界デビューの頃……


兄は本を抱え直した。多分、ちょっと重たいからだと思う。


でも私に渡すわけにも落とすわけにも、使用人を呼ぶわけにもいかない。


ふん、だ。兄様なんて、腕が腱鞘炎になってしまえばいいのよ。そして、おめあてのロザリー嬢とテニスできなくなってしまえばいいんだわ。どうせ兄様のことなんて眼中にないのだし。


「アデリン、社交界デビューして何年だ?」


私はすっとぼけて視線を逸らした。


「三年かしら」


兄がすかさず言葉を挟んだ。


「その間、お前のためにドレスメゾンが採寸に来たことは一度もない」

「ですが、マダムがお忙しいのに呼ぶなんてできませんわ」

「侯爵令嬢が呼びつけるのに躊躇する必要はない!」


ダリウスの怒号が廊下に響く。ちらちらと見るメイドの視線が、……また私が怒られているのだと認識すると、やれやれと呆れたように離れていく。


なにそれ、ちょっとおかしくない? 旦那様に怒られてかわいそうなお嬢様とか、なんか、そういう?

もしくは、あの行かず後家が旦那様を怒らせて、ダメなお嬢様ね、っていう憎らしい視線とか? ないの?


なにその残念な子を見るような視線は?


私が不満で口を尖らせると、兄は深く深く頭を下げて、ため息をついた。その頭に、タオが飛び乗った。いつの間に。


「亡き父上はお前を甘やかしすぎた」

「そんなことはありません。厳しくしつけていただきましたわ」


「そうだな、学問や狩猟、その他すべて、令嬢に必要ないもの、すべてだ。おかげでお前は、ペット販売なんておよそ令嬢らしくない仕事など始めて!」

「成功しておりますわ、お兄様。タオだってそのおかげで出会えたのではありませんか。ちなみに今の売れ筋はウサギですの。お庭の一角を囲って、犬が入らないようにしてウサギを放つと、それはそれは可愛らしくて」


「ウサギの話はしていない、アデリン」


兄が鋭く口を挟んだ。


確かに。


「……はい、お兄様……」


私がうつむくと、ダリウスは困ったように私の頭に手を置いた。タオがするするとその腕を伝って、私の頭の上に移動した。ふわりと温かい、黒猫のびろうどのような毛並みの尻尾が私の耳をくすぐった。


するとダリウスは、優しい声で言った。


「俺だってこんなことは言いたくない。お前が好きなことをしてもいいと思っているんだよ、アデリン」

「じゃ」


私が顔を上げると、タオはバランスを崩して私の肩にずり落ちた。そのタオの頭を軽く撫で、ダリウスは同じ優しい口調で続けた。


「結婚しているのならな」


その言葉に、私は文字通り固まった。




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