002 仲間
俺達は作戦終了後、基地内にある自分達の艦へ帰艦した。
「隊長、お疲れ様でした」
「レイヴンこそお疲れさん。的確に射ぬいたみたいだな、流石だ」
「有難う御座います。ですが中隊規模をお二人で殲滅する方が流石と思いますが」
「レイヴン一人でも可能だろ」
俺が指揮する隊員の一人、レイヴン・ギアード。階級は少佐だ。
彼は狙撃を得意とし、搭乗するディシディアも超望遠光学スコープとセンサーを追加し、尚且つ機体制御連動照準システム、狙撃時各関節ホールド機構を搭載したスナイパーカスタムとなっている。
元々西側に所属していたレイヴンは、俺達の部隊を苦しめたが、狙撃位置を把握出来たことにより弾を掻い潜って接近戦を挑み行動不能にさせ、俺の隊に来ないかと誘ったことで東方へ荷担してくれた一人だ。
「あ、レイヴンお疲れ。お陰で楽出来たよ」
「お疲れ様です。レオンハート中佐」
「もぉ、相変わらず固いんだから。アーシェでいいのに、ねぇサキ」
彼女は特攻娘のアーシェ・レオンハート中佐。
射撃、近接戦闘をそつなくこなすオールラウンダーで、搭乗するディシディアもライトチューンとセンサーの有効索敵範囲の強化程度だが、本人は「これがあってる」と言っている。
アーシェとは部隊配属からの腐れ縁だ。
「ああ、こんだけはっちゃけてくれても良いんだぞ」
「いえ、上官ですから」
「全くねぇ。うち等は気にしないのに」
「アーシェは目上に対する敬意を知らんからな」
「失礼な!ちゃんと他の上官にはタメ口聞きませーん」
「猫被ってるんですね」
「なんか言ったレイヴン?」
「いいえ、何も言っておりません」
『アテンション。特機の皆さん、スコット中将から伝令が届きました。直ちにブリーフィングルームまでお願いします』
格納庫で談笑していると艦内放送が流れ、機体は整備班に任せて俺達は作戦会議室に足を運んだ。
「サキ、アーシェ、レイヴン、ご無事で何よりです。」
「ありがと。それで中将からなんの通達があったの?セシル」
セシル・ハイリオーネ中佐。第三次大戦から運用されているこの強襲揚陸艦ラズベルドの艦長を務める。
優れた判断力と作戦指揮が買われ、艦長の座に着いたが本人はCIC管制官で良いと乗る気ではなかったのを、半ば無理矢理座らす形にされた。彼女も昔からの戦友である。
「本艦は明日0900時をもって、シャシス防衛基地の奪還作戦を行います。今回は単独ではなく第三独立強襲部隊との合同作戦です」
「ロイ率いる部隊か。んでそのロイは?」
「詳しいことはそちらに任すと…決まったら連絡してくれと言っていました」
「ハァ、ロイらしいね」
「アイツだけ送らせるか」
「いいね!それ」
「もう、真面目にやってください。レイヴンも黙ってないで何か言ってくださいよ」
「い、いや俺は…」
「まぁ、冗談はさてより。シャシスへの進路は比較的安全なんだよな?」
「はい、情報ではですが」
「ならいつも通りで良いだろ。先程の部隊もそこから送られてきただろうし戦力は小なり低下しているだろ」
「敵部隊の進行ルートを見てもその可能性が高いですからね」
「この艦とセシルは三ヶ月振りの戦場だな。大丈夫か?」
「はい、腕の良い操舵士もいますので不安はありません」
「よし、では奪還作戦だが」
レイヴンによる敵のレーダー範囲外からの管制塔への攻撃後、艦から対地ミサイルの掃射を行いCCAによる特攻をかける。
まぁ、レイヴンが管制塔を狙撃してくれれば後は自由に動けという名ばかりの作戦だ。
今回はロイの部隊も居る事だし気軽にやろうぜと言ったらセシルに怒られるだろうと思い黙っていた。
「レイヴンは愛機にEスナイパーを装備させるよう整備班に伝えとけよ」
「了解しました」
「俺からは以上だが、セシルからは?」
「あの、やっぱり艦からの攻撃は止めません?今回の目的は奪還ですし」
「それ私も思ったけど楽出来るから口にしなかった」
「しかし、現状は何が何機いるか分かんないんだろ?」
「そうですけど…」
「分かったよ、んな顔するな。掃射はなし!その代わり艦を寄せるからな」
「はい。それなら施設を破壊しても中将に言い訳が出来ます」
「怒られる心配してたのね…」
「ったくなぁ。レイヴンには悪いが、対空兵器がこの4ヶ所に存在するから確認出来たら破壊してくれ」
「ハッ!お任せを」
「セシル、俺も後で連絡するがロイに内容を伝えといてくれ」
「要は自由に動いてくれってことでいいんですね?」
「流石だ、よくわかってるじゃないか」
「…いつもの事ですね」
「レーダーさえ無力化してしまえばこっちの物なんだからいいんだよ」
「了解です」
レイヴンの狙撃後、CCAによる奇襲を掛けるという作戦に変更され、俺達は解散した。
俺とレイヴンは格納庫に向かい、機体の整備状況の確認と武装の変更を頼みに行く。
今回の要でもあるEスナイパーライフルは、バックパックに粒子タンクを追加装着してそれにケーブルで接続する形のスナイパーライフルである。
タンクから供給されることにより、高出力のエネルギー弾が射出され長距離射撃を可能とし連射性も高いが、距離にもよるが5発程度で容量が空になり撃てなくなってしまう弱点がある。
「おう、話し合いは終わったのか?」
「はい、先程終わりました」
「今度は艦ごとか?」
「そうだぞ、ジドも戦場へ逆戻りだな」
このオヤジはジド整備長。機体の修理はもちろんのこと、改修やカスタムの技量で右に出るものは居ない腕の持ち主だ。
「構わんさ」
「明日の朝に出すんだが、今日中にレイヴンの機体にEスナイパーを取り付けてくれ」
「ほう、今回は長距離戦か。わかった、取り掛からせよう」
「ついでに俺とアーシェの2機を山林戦のプリセットにしといてくれ」
「わーったよ。ライフルは持ってくのか?」
「いや、いい。それより左のヒートソードを新品に換えといて欲しい。レイヴンは何かあるか?」
「いえ、先の戦闘でも特に不満はありませんでした」
「了解だ。今日中に終わらせておくから後で確認しといてくれ」
「ああ、宜しくな」
「宜しくお願いします」
翌朝、機体の確認を終えた俺達は出航時間を迎えようとしていた。