003 幕間:愛すべき幼馴染の長所と短所
すっかりムクれてしまった幼馴染がさっさと洗濯を終えてしまい、この話題から逃げるために先に帰ってしまうかと思えば、私たちの洗濯物も一緒に洗ってくれた。
帰る途中でシアと別れ、ミリアと歩きながら思う。
(良い娘だ……)
少しからかい過ぎたかなと反省する。しかし、ミリアはともかくシアは少し言いすぎなくらいに言わないとこの手の話題に興味すら示さないところがある。
「ねえねえ、アン。」
「何?」
逆にミリアは何も言わなくても、興味深々だ。ミリアの家は村で一番羊を持っていて、使える牧草地の面積も広い。それ故にミリアの家と縁続きになりたい家は多く、すでに縁談がいくつも舞い込んでいるという話だ。
それ故に本人の天然な所とは裏腹に耳年増で、ドキリとするようなことを突然言ったりするのだ。だからいつもミリアと話すときは思わず身構えてしまう。
「シアはどうして男が嫌いなのかな?」
「嫌い……ではないんじゃないか?普通に話してるようだしね。」
ブランドンはよくシアに話しかけているし、それを嫌がっているようには見えない。ブランドン以外の男たちとも話しているのを見かけたことがあるが、嫌がっている風には見えなかった。
「あ~、う~ん。なんていうか嫌ってるっていうか、避けているっていうか……。」
親指でこめかみを抑えてうんうん唸る妙な癖を出し始めた、ミリアを見てわが友人について少し考える。
シアは可愛い。フィオナさんの娘だし、それは折り紙付き。そして、同年代の男は男同士で遊ぶのに夢中であるが、しかし女の目も気にし始めてもいる。それなのにシアときたら……。
「そうだね、恋愛から逃げている……といったほうが近いかもしれないね。」
「そう!私もそれが言いたかったの!」
鼻息荒く何度も頷くミリアをなだめつつ、思い返す。シアは働き者だ。自分の家のことだけでなく、村の他の仕事もよくこなす。特に共同作業場でよく見かける。
共同作業場に来る女は基本的に既婚者が多い。それは、働き盛りの年代だからというだけでなく、逆に未婚の女は共同作業場ではない場所に用があるのだ。
それはフェタルの練習場であったり、男子達が自分の家の家業を手伝っているところであったり。つまり男が活躍する場所に行き、応援したり差し入れたりするわけだ。
そこで、女は色々品定めするし、男もいいところを見せようと奮起するから、親たちも強く咎めたりはしない。自分たちも通ってきた道だからだろう。
しかし、シアは違う。全くしない。親に頼まれて行くことはあっても、自分から行くことはない。フェタルに至っては一度も応援に来たことがない。
「一度聞いてみたことがあるの、『なんでフェタル見に行かないの?』って。」
「へ~、なんて言ってたんだい?」
「あのね~。」
ゴホンと一度咳払いすると、締まりのない顔を精一杯しかめっ面にしてミリーは声色低く話し始めた。
「……『フェタルなんてやって遊んでる男どもを見たら思わず殴りこんで、洗濯場に引っ張って行きたくなるから』だって。」
「……それは、シアらしいというか。」
そうか。これは重傷だ。フェタルを観戦して声援を浴びせている村の娘が聞いたらどんな顔をするか少し見てみたくもあるが。
「あとね『でも、応援してる娘達の為に我慢してる』って言ってた。」
「そうか……。」
正直、その娘達の分もシアがやってあげていたりする。だからそれを手伝いに私たちも頻繁に作業場に顔を出しているわけだが……。
「それにしても、フェタルで応援に行ってる娘達もまだまだだね~。」
「ん?何が?」
口元に手を当てていつものミリアの表情でシッシッシと笑い声をあげている。意味ありげに私を見上げて、ミリーは言った。
「だって、結婚相手は結局親が決めるんだもん。仕事さぼってフェタル応援に行ってる娘よりも村の作業頑張ってる娘の方に嫁に来てほしいに決まってるのにね~。」
「ミリー、まさか共同作業場によく顔を見せてるのは……。」
「いやいや、シアを手伝うためだよ~。もちろん、それも狙ってるけどね~。」
「それもあるのかい……。」
「あ~、やっぱりアンはそういうの狙ってなかったんだ。も~、シアもアンもまだまだだな~。」
「ミリーは意外と考えてるね。」
少し関心すると、ミリーはその大きな胸を反らして満面の笑みを浮かべた。
「そうでしょ、そうでしょ~!えらい?えらい?」
「それが母親の受け売りでなければ、もっと関心したんだけどね。」
「え~、なんで分かるの~。」
これ以上調子に乗らないようにミリーの頭を軽く小突くと、ぶ~と口をとがらせて両手をバタつかせる。ミリーの家が大きいのは父上じゃなく母上のおかげだという評判だからなのだが、父親の名誉のために黙っておこう。
「……内緒。」
「え~。む~、アンもシアもお母さん達からすれば嫁に来てほしい娘なんだって教えてあげたのに~。」
「う~ん、その辺りがシアが男達に言い寄られない理由かもね。」
「え、なんでなんで?」
「親から勧められた娘は何となく避けたくなる年ごろだろう。」
「そうなの?」
「兄がそんな感じだったね。」
「ふ~ん、変なの~。」
「男は多少は変さ。」
「あ、確かに!こないだ朝にね~、兄様がコソコソ洗濯場に行ってゴソゴソ自分の下着洗ってた!皆の洗い物に入れとけばやってあげるのにね。」
「……それは、忘れてやりな。」
知りたくなかった友人の家族の痴態を聞かされて少しげんなりした。