北斗七星はどこに輝く
「さあ!9回の裏ツーアウト満塁、迎えたバッターは4番の桐谷です!」
球場内はあと一つのコールで溢れている
「対する漆輝投手は、8回までは打ち込まれていませんでしたが、疲れが見えたのでしょうか」
あと一つのところで3人にヒットを打たれた自分が情けない
4-1でこちらが勝っている、こいつを抑えれば俺達の勝ちだ
「よし……来い!」
「うおおおおおお!!」
カキーン、という音と同時にボールが俺の耳を掠った
あと数センチズレていたらなんてのんきな事を考えている場合ではなかった
そう思って俺はボールの飛んで行った方向を向いた
その打者が打ったボールは────────
スタンドに突き刺さった
「嘘だろ……………」
俺はその場で立ち尽くした
チームはそのままサヨナラ負け敗戦投手はもちろん俺だった
試合を終えてロッカールームに行くと、監督が俺に近づいてきた
「漆輝、今日の試合は残念だったな。お前のスタミナを考えたら、9回で変えておくべきだった」
「いえ…そんな…監督の責任じゃないですよ、打たれたのは自分のミスです」
「そーんなことで不貞腐れてたのか?お前」
誰かが俺の背中を叩いた、振り向くとバッテリーを組んだキャッチャーの姿が目に映った
「お前が投げた球、全部生きてたしコントロールも球威もあったじゃないか。それで打たれたんだから仕方ないさ、この南が言うんだからお前も少しは気負うな」
「あぁ…ありがとう」
そう言われて南に励まされた。思えばあのバッター、三冠王を取っていたんだっけ
俺程度の実力ではとてもかなう相手ではなかった、という事かもしれない。
「ただいまー」
今日は何故だか実家に帰りたくなったので実家に帰ってきた
「おかえりー、あれ?津七じゃん」
そう言って来たのは俺の兄、二蘭府だった。
「兄さん?帰ってきてたの?」
「ハハハ、2週間オフだったもんで、つい」
兄さんはメジャーリーガーだ。だからいつもアメリカにいる。
「兄さんの所ってどのくらい強いの?」
「俺のとこか?そうだな…俺が来てから1回ワールドチャンピオンになったし、プレーオフも3回は出ているからかなり強いんじゃないか?」
「へぇ…兄さんのチームってすごいや、うちと戦ったらどうなるのかな」
今では日本もメジャーに負けず劣らずの実力を持っている
たとえ兄さんのチームが相手でも負けないはずだ
兄さんはこう言った
「いずれ日米親善試合でもするだろう?その時にお前のチームと戦ってやれるのかもしれないな
ま、お前の実力なんて3Aくらいだろうから俺達から三振なんて取れないだろうがな、ハッハッハ」
「馬鹿にしてろ、すぐに見返してやるからな」
「ふん、出来るものなら、な。そんな事より、久しぶりに1打席勝負でもしないか?」
その言葉を聞いて俺は驚いた
「1打席!?兄さんと?」
「あぁ、5年振りだろ?やるか?」
兄さんはメジャーリーガーの中でもかなりの実力者だ、常にスタメンマスクを被りそれでいて本塁打王や打点王等を何度も取っている
そんな奴に勝てるのか…?
「………よし!やろう!」
外に出て2人で準備した
「よーし、じゃあ最初から本気出すからお前も本気出せよー」
「わかってるって」
兄さんとこうして野球やるのも久しぶりだ、それも本気の野球をやるのなんていつぶりだ
「じゃあ、この球は打てるかな!」
お得意のジャイロボールを投げた
「へぇ、中学の時は130も無かったのに、今では101マイルも出せるのか」
「へっ!これだけじゃ終わらねーよ!」
流石に兄さんなだけはある。今の見送り方、そして見ただけで球速も見破られた。
引っ掛けるか?いや、あのパワーだと持ってかれるな
落として様子見かな
「これならどうだ!」
「っ!お前、コントロールいいなぁ~」
「どうも。さて、あと1球だよ」
もはやどのコースに投げても打たれる気配がしてきた
ならここで、兄さんでも見た事のない魔球を投げる!
「兄さんにこれが…打てるかな!」
通常のシンカーにジャイロ回転を加えた特殊な変化球、球威もスピードもあるボールだ、兄さんもこれには
「見せてやる!これがメジャーリーガーだっ!」
カキーン、という音が響いた
これがメジャーリーガーなのかとのんきな事を思っている場合じゃない
軽く場外は行ったであろう弾道に唖然とした
「お前の変化球、大したものだよ、球威があって打ちづらいとは思う」
「でもな、この程度の変化球、俺の相手ではない!」
完敗だ、兄さんはとても強かった。
やはり俺なんかがメジャーに行っても3A止まりなのだろうか
その事実が受け入れられなかった。
でも俺にはまだ打撃や守備、走塁が残っている。
まだまだ兄さんには劣っちゃいない
でも、さすがに打撃だけはかなわないだろう
そういえば今日は日曜日、明日はオフだ
久しぶりにバッティングセンターにでも行ってみようか