祝えないから呪うだけ
夜の2時。もうそろそろ寝なければ。でないと明日がきついぞ。
そんなことを思っている時、近くでガタガタガタ…!と音がした。なんだろうと視線を向けると、先程まで閉まっていたはずのクローゼットが開いている。
なになになに?怖いんですけど。
「怖いんですけど」
あ、口に出してしまった。独り言は恥ずかしいから止めようと気をつけていたのに。
母に独り言を盗み聞きされて笑われた記憶は未だ新しい。
恐る恐るとクローゼットに近づいて、中を覗き見る。
「うわっ!」
なんかいる。白くてモコモコしてるのが。
呼吸をするように上下するモコモコ。何コレ。
『…う』
え!?なんか喋った!?
『呪う…呪う呪う…』
こっわ!!なにこれ気持ち悪!!
『呪う』って言ってるよね!?
可愛い猫ちゃんとかなら歓迎だけど、この白いモコモコ日本語を喋るし怖いんですけど!!
「あんただれ!?」
『呪う…呪う呪う…』
あんた、それしか言わないのね。
なに、何を呪うって言うの。
『呪う…呪う…』
それはただただ「呪う」と言い続けた。
…もういいや。寝よ。
このまま考えても埒が明かない。
見れば、時計の針は2時半を指している。
こんなので30分を無駄にするなんて。私の睡眠時間を返して。
今日は寝る。歯磨きして寝る。おやすみ。
鳥の声は聞こえないけど、清々しい目覚め。
若さのおかげかな、昨日の疲れは一欠片たりとも残ってないみたい。
昨日のことを思い出し、ふとクローゼットへ目をやると、モコモコはまだそこに。
「…まだいたの!」
『呪う…呪う…』
私の声に反応したのか、静かだったものが再び「呪う」と連呼し始めた。
「ねえあんた、呪ってくれるの」
ずっと「呪う」を連呼しているんだから、呪うためにいるんでしょ?
話しかけると、ぴたりと声がやんだ。
ふうん、やっばり。これはそういうものなのか、となんとなく思った。
「それなら、あの人を呪ってくれないかな」
それは、長い間片想いをしていた相手。
数年前に、私の親友と付き合い始めた、憧れだったあの人。
親友とはもう何ヶ月も話していないけど、仕方ないよね。羨ましくて、妬ましいんだもん。
「幸せな二人を見ているのが辛いの。ねえ、呪ってくれる?」
それが頷いた気がした。
いや、顔も頭もどこかわからないけど。
『呪う…呪う…』
「ありがとう!」
風のうわさで聞いた。
親友とあの人が別れたらしい。
ある晩、親友から電話がかかってきた。
あの人は事故にあって、足が動かなくなったんだって。
そう。足が早くて、運動会では女子生徒の目線をすべてかっさらっていたあの人が。
私のせいで、もう走れないんだ。
なんだか少し嬉しくなって、「それで、どうして急に電話してきたの?」と親友に聞いた。
「ああ、それは…」
『呪う…』
それはまた、突然喋り始めた。
「え?」
電話越しの親友にも聞こえたみたい。
「あ、なんでもない」
『呪う…呪う呪う…』
ちょっと静かにしてよ。もう呪わなくていいんだって。
「うーん…。今日は、やっぱりいいや」
え?
「どうかしたの?」
「う…ううん?なんにもないよ?
えーと、じゃあそろそろ。また電話するね。おやすみ…」
その日の電話はそこで終わり。
数日後、私の目が見えなくなった。
私を暗闇が包み込む。
『呪う…呪う呪う…』
怖い。そう思った瞬間に、またあの声が。
ああ、そう。呪うんだね。わかったわかった、わかってるから。
ほら、呪いなさい。呪えるだけ、呪えばいいのよ。
『呪う…呪う…』
何故だろう、なんだか安心する。
「私たち、結婚することにしたの。一番に報告したくて」
『呪う…』
「この間、言おうと思ったんだけど言えなくて。だって、彼のこと好きだったでしょ?」
『呪う…呪う…』
「一度別れちゃったけど、やり直そうって。そしてずっと一緒にいてくれって言われてね」
『呪う…呪う呪う…』
「彼の足はもう動かないけど、私は彼を支えるって決めたの」
『呪う…呪う…呪う…』
「式に呼んでもいいかな」
『呪う…呪う…呪う…呪う…』
無理無理。行かないよ。
だって目が見えないんだもん。
「どうかな、いつなら来れる?」
『呪う…呪う呪う…呪う…』
私はそれに答えずに、ただただ二つの声を暗闇に溶かし混ぜていた。
『呪う…呪う…呪う…呪う…呪う…』
その声が、何度も増えて無くなって。
『呪う…呪う呪う…呪う…呪う呪う…』
私の返事をずっと黙って待っている親友に、こう言った。
『呪うよ。おめでとう』
読んでくれたのですね!ありがとう!!
こんな物語ですが、どうでしたか?
この意味のわからない物語を皆さんがどう解釈したのかが知りたい。
今、私はそんな気持ちでいっぱいです!!
よろしければ感想をお願い致します!!




