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Angel Break!【1年生編/最終世代の学園】  作者: 山野佐月
【1年生編/最終世代の学園】
66/66

第鬼話【学園は天を隠す】サーブ編

 天角学園には剣士や剣豪が多く在籍している。

 今までに人助け部に関わった者たちを例えるならば、まず筆頭に上がるのは2組の『種子島軽』だ。

 本人曰く『しゅしじま』と読むらしい彼女だが、彼女は2組のシリアルキラーな生徒にしては珍しく、人を殺さない人間である。その代わり動物を殺す。

 最低なことに、今までに3種の動物を絶滅させてしまったらしい。

 彼女の快感のために……なんて事だろうか。

 聞いた話によると彼女の殺人術は『竜すら殺す』らしく、その宣言が本当であることを証明するような、超巨大な剣を持って戦うのが彼女のスタイルらしい。

 猛獣を見ると殺したくなるらしく、

 1トンもある、自分より長くて厚い『竜殺しの剣』を何個も同時に振り回し、敵を殲滅する……

 華奢な体で、顔色ひとつも変えずに。

 俺は走りでの勝負(と言って良いかは知らないが)でしか彼女を知らなかったので、それを聞いた時は心の底から驚いた。

 ……だがしかし。

 3組の生徒にも劣らない、その身体能力の才能……そういうものは、残念ながら異能の前では100%活かすことができない。

 何故なら、異能の火力は並大抵の物理攻撃では上回ることができず、さらに自衛としての能力発動速度は、ほぼゼロだからだ。

 まあこの辺は、彼女の自業自得でもある。

 直接手を下したい願望があるから才能が殺人術に昇華したのであって、彼女が動物の殺害に楽しさを覚える人間でさえなければ、多分能力になっていたはずなのだ。

 だから。

 誠実な人間は強く、そうでない人間は弱い。

 結果的にはそうなるのだ。

 さて、では天角学園の剣士で最強は誰か?もしくは一番誠実な剣士は誰か?

 2、3年生のことはよく分からないが、

 それは恐らく生徒会の『疼アキレア』である。

 キャサリンの評価はこうだ……

「確認できたのは魔術師と退魔師の力ぐらいじゃな……じゃが、恐らく彼はもっと多くの種類の力を使えるはずなのじゃ。闇属性の後に時間を置かずに聖属性を使ったりと、色々めちゃくちゃじゃったわ。まあ簡単に言えば、彼がやってるのは、歴史のいいとこ取りじゃな。戦闘力は意外にも低いが、成長率は他のどんな能力よりも高い……間違っても敵にしたくない能力じゃ」

 敵になってしまったが。

 まあキャサリン本人が当たってくれるのだから、問題は無いにしても、彼も彼で怖いヤツだ。

 能力名は不明。

 効果は……聖剣に魔剣、魔法剣に妖刀まで、伝説上の剣を現代に召喚し、使うことができる能力。

 第一試合、2時間目!

 競技は1vs1バドミントン!

 キャサリン・ヴァルキューレvs疼アキレア!

 暫定最強の剣士と、最強を上回るキャサリン……勝負の結果は見え透いているが、

 俺は実は少し、彼の方を応援していたりした。


 〈6-9〉

「というか今更だけど、能力の方は大丈夫なのか?キャサリン。存分に使えないのは、リリーと同じじゃなかったっけ?」

 俺は本当に今更聞いてみた。

 場所は体育館、時間は2時間目の途中。

 朝から続く熱狂が鳴り止まない中で、俺は突如冷静になった……そうだ。

 キャサリンはそもそも、弱体化することで天罰を逃れていた(禁断少女編参照)のだ。

「封印能力者と戦えるだけの力は戻ったのか…?」

「ああ……そういえば……どうかのう?」

「ええ⁉︎」

「冗談じゃて。心配せずとも、【臨時雇い(サバイヴリンク)】なら正常な状態に落ち着いておる。今まで通り、一時的に超えるだけの能力じゃ」

「本当に……大丈夫か?」

「大丈夫じゃ。…実は、妾の能力の様子は朝登君に見張っておいてもらっておるのじゃ」

「理事長に?」

「うむ。問題が生じればすぐに分かるようにのう。じゃが、色々テストしても全然問題はなかった。封印能力相手にバドミントンするぐらいなら楽勝じゃ」

「なるほど」

 その時だった。俺は背中に寒さを感じた。

 こんなに暑いのに何故……などとは思わず、察知していた。人の怒りは周りを寒くさせるのだ。

「……!」

 背後にいる人物のことは想像できた。

 先日、勝手に助けられたことから……キャサリンを因縁の敵としたらしい、疼アキレア……!

「よーよーよーよー」

「……」

 ヨーヨー……?

「こんにちわー……キャサリン・ヴァルキューレ」

「お主は本当、堅物なのか軽薄なのか分からんの」

「黙れ……今日はお前を潰しに来た」

「……ごくり」

 封印能力者と絶級能力者が目線で火花を散らしていた。こんな迫力は、逆に庵内さんやらは持っていなかったから、俺は体を硬直させてしまう。

「そこの君」

「はい!」

 呼びかけられた!なんか怖い!

「俺の態度の変化について……流さずにちゃんと説明しろと思ったよな!」

「……⁉︎」

 正直ちょっと思ったけども。

 この人は…なんだ、説明したいのか……?

「生徒会長は恩人だ」

「!」

「だから言われたことは全部やる。だが、気が乗らないことや興味のないことをする時は、出来るだけ軽薄になるように心がけているんだよ……今は、挨拶をしてこいと言われたから来ただけだ。だが俺は今、バドミントンに対してやる気に満ち溢れている!」

「は、はぁ……」

 まあ俺からすれば、だから何だという感じだった。

 さあ、そろそろ時間が迫ってきたようだ。

 体育館の玄関から生徒会長と葉付さんが現れ、一番真ん中のコートまで近づいていくと、周りの人間もそれを囲うように座り始めた。

「……!」

 そして何やら葉付さんが、倉庫から器具を持ってきていた。二つ……1mぐらいの太い円柱の先に、電球のような光源が取り付けられている。

 ……生徒会長……手伝わないのか……

 設置が終わると、生徒会長は大声で叫んだ。

「諸君ら!それではついにこの時間がやってきた!生徒会vs人助け部の、第一試合だ!!!!」

「おおおおおおおおおおお!!」

「いーぞー!」

「はやくしろー!」

 歓声が上がった。さすがの人気だ。

 そしてその掛け声と同時に、キャサリンと疼アキレアはコートに入場していった。

 ちなみに今更だが、今日はみんなジャージを持参している。この学園には体操服がないからだ。

「では、行ってくる」

「頑張れキャサリン!!」

「頑張れー!」

 俺も応援する。さらには、元々嫌っていた3組の生徒まで、応援に駆けつけてくれた。

「ではルールを説明する!」


 〈5-9〉

「第一試合はバドミントン!だが、普通のバドミントンでは物足りないであろう……今回は特殊な器具をこちらで用意させてもらった!」

 それが、先ほどの電球などである。

 これが今回の特殊ルールになる。

「名付けて『防衛バドミントン』!基本的には、普通のバドミントンの羽を使い、床についたら得点、打ってコート外に出れば相手に得点だが、そこにさらにもう一つ要素を追加する!後ろの電球を破壊できれば、一気に10点!勿論電球を破壊してからコート外に落ちた羽は得点にはならない」

 ざわめきが起きた。

 まあ、普通のゲームなら、どう考えても割に合わないということは誰にでもわかる。

 だが次の言葉で、観客は納得した。

「100点先取だ!どちらかが100点を取った瞬間に試合終了だ!では、開始せよ!」

「……⁉︎」

 100点先取……ってそれは、どれだけかかるんだ……いや、あの2人なら、それだけあっても面白い試合にしてくれるだろうという、生徒会長の期待なのか……!

 すると、生徒会長は小声でこちらに話しかけてきた。

「安心するがいい。逆にそれぐらい無いと、試合がすぐに終わってしまうだろうからな」

「……?」

「私と君がするバレーボールとは違い、バドミントンはたった一回で相手コートに攻撃しなければならないスポーツだ。だから……」

「……あ、なるほど」

 その時だった。

 試合開始のホイッスルが鳴った────俺はその時、生徒会長の方を見ていて、コートから目を離していた。

 突如、バリッ、という音がした。

「⁉︎」

 俺が驚いて見ると、キャサリンの後ろの電球が割れていた……つまり彼女は試合開始から1秒も経たずに、10点取られてしまったということになる。

「キャサリン!!」

「おぉう……なるほど、これは面白いのう」

 彼女は汗をかいていた。

 しかし一歩も動かず、ただ構えたままだった。

 葉付さんによって電球は取り替えられる……その間、彼女は思考している。

 何故こんなことが起きたのか、考察しているのだ。

「……」

 そして何か分かったようなリアクションをして、笑顔を取り戻した。

「大丈夫じゃ、みんな!何も問題はない!」

「……ほ!本当に大丈夫か!」

「まあ見ておれ!」

 次のターン。疼アキレアのサーブ。

 羽根が高く上がる……その下で、俺含む観客が目撃したものは、赤黒く輝くキャサリンのラケットだった。

「怒れ!『魔剣グラム』!」

「……!」

 そしてサーブが放たれた次の瞬間。

 羽根は疼の電球を破壊していた。

「…………なるほど、噂は本当だったか」

 数秒遅れ、周囲がざわつき始める。

 2人は笑いながら睨んでいる。

「相手を超える能力。末恐ろしいな……それに、突破口もどうやら無いらしい」

「それは良かったのじゃ」

「魔剣グラムの詠唱も、そんなに適当に済ませることは普通出来ないんだがな……なんだか気が乗らない」

「なら、大人しく負けてくれるかのう?」

「……あいにく、そうもいかない。俺はなんとかしてお前に勝つためにここに来た」

「……!」

 すると、疼アキレアは連続で剣を召喚し始めた。

 体育館に何本もぶっ刺さる……後で修繕しなくてはならないということは今は置いておくとして、ただそこにあるだけで床を傷つけるだなんて、あれらの剣の質の高さが分かりやすい。

「聖剣デュランダル、聖剣エクスカリバー、聖剣アスカロン、魔剣グラム、魔剣ダインスレイブ、魔法剣クラウソラス、偽剣レーヴァテイン、

 そして日本枠の妖刀クサナギとムラマサだ」

「日本枠……」

「ああ」

「……わかったぞ、それをラケットにするのじゃな」

「そうだ。これらの伝説を斬らずに使うのは少々勿体無いが」

「……オーケーじゃ」

 いやいやいやいやいやいや。

 勝手にコート上で変な決定がなされたけども、剣をラケットにするのはとにかく、いくつも用意するのは普通にレギュレーション的にアウトだろ!

「ねえ生徒会長、あれ!」

「ん?あれがどうした?まさかルール違反だとでも言うつもりか?」

「!」

 生徒会長はニヤついてこちらを見た。

「私は別に駄目だと言った覚えはないが」

 この人は……!


 〈5-8〉

「まあでも、彼女の攻略法としてあれはある意味正しいのかもしれないな」

「?」

「キャサリン・ヴァルキューレ……相手を超える能力だって?それならフィールド内にあるあの剣のエネルギーより強くなるんだろう?」

「……まあ、そうですけど……」

「疼の方は、確かにラケットがいくつもあって便利かもしれないが……逆にあれでは引っかかったり遠回りをしなくてはならなくなるデメリットもある」

「そうですね……キャサリンの方が有利になってると思いますけど、攻略法ですか?これは」

「ここからなんだ」

「?」

 コートでは激しい打ち合いが既に始まっていた。体に当たったら死にそうな勢いで羽は往復し、

 逆に球と羽が分離しない理由が分からなかった。

「まず、臨時雇いという能力について……疼は推理をしたのだろう」

「推理?」

「ああ。……まずは、能力が超える『相手』の定義について。彼女は恐らくこうしたスポーツのような1対1が約束された場では、対戦相手しか超えることができない」

「!」

「つまりあくまで自分より強いだけ。私だとか、うっかり体育館に遊びに来た理事長とかより強くなる必要はなくなる」

 そういうと彼女は親指で後ろの方を指した。

 体育館をこっそり覗く理事長がいた……

「どうどうと入ってくればいいのに……」

「そして、二つ目に……バドミントンに限らず、スポーツは格上が勝つとは限らない」

「……」

「コンディションだとか、照明の角度だとか……もしくは運勢まで、試合には沢山の要素が混在する。それらの要素の中で、疼の方が有利なことがあっても、彼女はそれを超えるなんてことはできない」

「……まあ、そうですかね……」

「そしてだ……最後に、そもそも彼女は一体何を超えなくてはならない?」

「……何って、あの剣でしょう?」

 俺はそれらを指差す。

 さっき名前を羅列していた……俺は神話とかは全然詳しくないのだが、それでも聞いたことのある名剣だらけだった。種類を問わず、古今東西から持ってきたようなラインナップだった。

「それが攻略法になるのだ、紅くん」

「…………?」

「例えば……彼は草薙の剣のことを、妖刀クサナギと呼んでいたが……あれは元々神さまが使う、神聖なものだ。妖刀というには、綺麗すぎる存在だ」

「……まあ確かに」

「そしてもう一つの妖刀……村正。こちらは妖刀だろう。人殺しの魔力を持つと言われている。彼女は、この二つを同時に超えなければならない」

「そ、それで……?」

「神性のあるものと、祟られているもの……彼女は、剣を持つのではなく、彼女自身がその両方の性質を持つことになる。するとどうなるか?」

「!」

 俺はふとコートを見た……すると、キャサリンの息が上がっている。……辛そうだぞ⁉︎

「だ、大丈夫かキャサリン!」

「大丈夫じゃ!話しかけるなぁ!」

「フン!どうやら正解だったようだな」

「相反する2つの力は合わさって消える……最終的に相手に勝っていなければならない彼女の能力は、他の剣の力を使って、それを止めなければならない。……ふふふ、どうやら随分しんどそうだな?」


 〈7-8〉サバイヴリンク。

【臨時雇い】と書いて、サバイヴリンクと読む。それが彼女、キャサリン・ヴァルキューレの能力。

 その効果は相手の力を超えること……でもあり、生き残る(サバイヴする)ことでもある。

「うぉおおおおおおおおおおおおお!」

「キャサリン!無理するな!棄権しろ!」

「!」

「試合を投げれば不戦敗だが……バドミントンで無理して身体を壊すことはない!」

「黙っておれ!」

「このままじゃ負けるだろう!これは生き残りをかけた争いじゃなくて、ただの試合だ!状況が悪い!」

「だから黙っておれ!妾が負けるとでも思っているのか……⁉︎ この姿では分かりにくいがな、何年生きてると思っとるんじゃぁああ!」

「……!」

 俺は彼女の言葉に騙されない。

 ……キャサリンは膝をついた。

 そして後ろの電球が破壊され……10点を奪われる。

「くっ……!」

 今の点数は、疼アキレアが52点、

 キャサリンが61点……だがしかし!最初はキャサリンが押していた……つまり先に大量得点出来ていたのに、もう追いつかれつつある!

「……!」

「紅くん。棄権は本人にしか出来ないよ」

「わかってますよ……」

「さっきはいい例えが思い浮かばなかったが、今、いいのが出てきた……酸性と塩基性の関係だ」

「……」

 生徒会長が言いたいのは、あの剣の力はpHの濃度と同じだということだろう。酸性と塩基性が混ざれば中和反応が起こってしまう……

「毒ガスとかも発生したりしてな」

「!」

 その時だった……キャサリンがまた倒れる。

 なんだかさっきから、どんどんしんどくなっているようだ……!

「おい……何を言うなよ、くれない」

「……キャサリン、もうやめてくれ……」

「もう一度言うぞ……妾は何十年生きてると思っとる?ここの生徒たちが生まれるずっと前から、妾は、それぞれの状況の敵と戦ってきた……」

「……だからって!」

「具体的に言うと妾は平安時代に生まれた」

「マジで!?!?!?!?」

 全てが吹っ飛ぶ衝撃……いや、キャサリンがかなり老獪というのは今や周知の事実になったけども、平安時代って……どれぐらい前だ……?

「約1000年前だ」

「!」

 いつのまにか、後ろでコソコソと覗いていた理事長が、俺の真後ろに立っていた。

「約1000年前に彼女は……出身国は知らないが海外で生まれ、色々あって日本にやってきたらしい」

「色々……」

「ああ。その頃には今とは逆に世間で『能力』が受け入れられたから、彼女は化け物退治を生業にして生活していたらしい」

「……」

「だから彼女の友達に、安倍晴明とかがいるかもしれないな……はは」

 理事長ジョークだろうか?

 俺はさらっと受け流した。

「……そうですか……あんまり、戦士っていうイメージはなかったです。言動はともかく、見た目は完全に帰国子女じゃないですか」

「そうだな。だが事実だ……ところで生徒会長」

「何だろうか?」

 期せずして、うちの学園の最強候補が3人ぐらい集まったというのを、俺はこの時知らない……

「若く、活発な身体で、バドミントンが生まれるよりも前に生まれた彼女が……ずっと付き合ってきた能力の弱点を克服してないとでも思うのかね?」

「理事長。では何ですかあのザマは」

 実は俺も理事長の言葉には賛同できない。キャサリンは以前、その能力の不具合のせいで死にかけている。

 俺含め学園の生徒たちの協力があって、彼女は『神の領域』の天罰から逃れられたのだ。

「いいや……能力が堆積する現象は、本来彼女にとってプラスにしかならないはずだ。『天使』や『天罰』といったものが強さを規制するから死にかけたんだよ。彼女の能力の不具合でもなんでもない。正当な進化……の一つのはずだった。」

「進化……」

 たしかに、ただ強くなることだけを考えれば、一度超えた相手をずっと超えられる方が良いに決まっている。

「……では、相反する二つの力を同時に手に入れた時に消えてしまうことも、進化して乗り越えたと言うのですか?それにしては彼女は苦しそうですが」

「もし、その『苦しみ』こそが進化の結果だと言ったら君はどう思う?」

「……?」

 俺の頭にも疑問符がつく。

 ……?つまり、弱点を解決する方法が、苦しくなること、ということなのだろうか?

 理事長は何を言っているんだ……?

「あれは一体、何が苦しいんだろうな?」

「……それは、神聖な刀と妖刀の両方が混ざって、何か有毒なものが発生しているのでは?」

「違うよ。紅君はわかるかい?」

「えっ、えっと……」

 一応俺はこれでも百戦錬磨だ。何かそれらしい結論を導き出せ……ない。こんなケースは2,3回だ。

 理事長に対して、首をかしげる。

「ま、普通は分からないものなんだがな、彼女は自分が弱かった頃の記憶を思い出しているのだよ」


 〈5-9〉

 キャサリン・ヴァルキューレの過去を、誰も知らない……彼女自身も、千年前の自分の姿など、ぼんやりとしか思い出せない。

 だがしかし、彼女は決して完全に忘れることはない。何故なら人間は過去の経験を通して今を生きるのであり、それを忘れてしまえば、生命の危機が訪れるからだ。

 野良犬がたむろする場所を覚えられない子供は、いつか怪我をする。同じように、キャサリンが異能の業界に片足を突っ込んだまま過ごす以上、過去の出来事を忘れてしまうようでは……いや、忘れるだけならともかく、『思い出せない』ようでは、この時代まで生きながらえることは出来なかっただろう。

 ……何も長々と解説するほどのことでもなく、単に、経験を活かすことが出来るということなのだ。それが長生きすると思い出すのに苦労するというだけで。

「彼女の能力は、あの方法では封じられない。だがしかし【サバイヴリンク】という能力名からも分かるように、あれは『生きる』為に相手を超えるだけの能力だ。生きてさえいれば能力を完遂したことになり……例えばそれが洗脳状態だったり、監禁されていたり、もしくは眠らされていても、サバイヴリンクは助けてくれない」

 今のキャサリンは苦しそうだ。

 ……でも、生きているのだから、それでOKだと能力は判断する。能力の弱点と言っても良さそうな点だ。

 そういえば、俺も似たような弱点を持っていたか。達成使いは死なない……が、死にさえしなければ、俺がどんな目にあっても良い……相手の実力を超えられない分、俺の方が危険だ。桜原君にはサイコロステーキにされたことがあったが、あれは桜原君の能力で『生存』が確定されていたからああなったのだ。何故か元の姿に戻れたけど、あのまま、桜原君が死ぬまでサイコロステーキだったかもしれない。考えると恐ろしい。

 だから、キャサリンもサイコロステーキ化する恐れがあるということだ。

「だから。だからこそ、彼女は過去の記憶から探している。即ち彼女の千年前……『陰陽師』をやっていた頃の記憶をな……」

「陰陽師……⁉︎」

 安倍晴明が友達というのは、案外冗談にならないのかもしれない。……しかし、陰陽師……そんな雰囲気はしない……キャサリンは口調は『のじゃ』とか言ってて、髪にはかんざしをつけているけど、その髪は金髪だし、能力名は英語じゃないか。

「それはイメチェンしただけだ。まあとにかく、日本の化け物と戦っていた数年間の記憶の中に、彼女があの状況から抜け出すヒントがある」

 すると生徒会長が突っ込んだ。

 不満そうな顔をしている。

「千年も生きているのに、何故、その数年間だけが特別なんです?他の期間は戦っていなかったんですか」

「良い質問だ。他の期間だって勿論戦っていたとも。なんなら世界大戦の空爆を防いだりとかもしていたらしい。……だが、そうだな、言い方が悪かったな。彼女はな、その数年間以外はあまり思い出したくないんだ」

「どうして?」

 理事長は少し黙って、また話し始めた。

 そしてキャサリンの方を見た。

「『妖怪変化を退治する物語』がその数年間のメインテーマだからだ。それ以外の時間は、友達や知り合いに『先立たれた』記憶の方が強いからな」

「……!」

 そうか。そういうことがあるのか。

 なるほど……彼女のような人間特有の現象だ。

「ただ、それでも、かなり苦しそうだ……まあ当然といえば当然だ。ある過去だけを思い出すなんて不可能だからな。人生は全部繋がっているのだから」

「……」

 と、その時だった。

 本競技は、バドミントンに加えて後ろの電球を守らなければならないわけだが、キャサリンの頭の上にも電球が現れた。

「ああそうか!そうじゃった!妾思い出したぞ!!」

「なんか元気そうじゃないですか?」

「何よりだ」

「……」


 〈6-8〉現在の点は、キャサリンが61点、疼アキレアが89点である。

「大ピンチじゃねえか」

「紅、案ずるな!妾は思い出した。こんな時どうすればいいかをな!」

「……」

 キャサリンはバドミントンを高速で返しながら解説を始める。……さっきまでの動きより、断然速い。

「光と闇のエネルギーが打ち消しあってしまうとせっかくのコピー能力も台無しじゃ!そこで妾はその二つのエネルギーを使わない!!」

「使わない?……そんなことが出来るのか⁉︎」

「いや……出来ないはずだ。彼女が相手を超える能力なのだから、使う能力の取捨選択は出来ないはず……」

 だが、彼女は手に力を集めた。

 すると、右手は輝き、左手は黒ずむ。

「『同じ場所』では。最初からこうすれば良かったのじゃ!」

「……右手にクサナギ、左手にムラマサのエネルギーを持ってきたのか!」

「……」

 生徒会長はさっきからずっと黙っている。

 しかしキャサリンは話し続ける。

「そう、そして更に、陰陽師時代に使っていた清濁併せ呑むこの『必殺技』こそが、この『防衛バドミントン』の必勝法じゃ!喰らえええええええ!!!」

「?」

 すると、キャサリンはラケットを投げ捨て、右手と左手にエネルギーを込めて、打ち出した。

 疼アキレアはぶっ飛びコート外へと飛んでいき、そのまま円柱にぶつかり、電球は割れた。

「ぐふっ……」

「どうじゃ!妾の必殺技は」

「お前何やってんだよーーーー!!!!」

 思わず叫んだ俺に、キャサリンは『?』というような表情を向ける。いや『?』じゃねえよ!

 と、するとキャサリンは何故か不敵に笑み、生徒会長の方を指差してこう言った。

「ぶっ飛ばしたんじゃ。これで10点。まさか反則とは言うまいな、鬼月きさらぎビオラ生徒会長!」

「……」

 生徒会長は黙っている。

 すると、黙って、疼アキレアの方へ歩いて行った。

 彼女は手を差し伸べ、疼アキレアがその手を取ると、強引に引っ張って起き上がらせた。

「何やってんすか!」

「こいつはこの程度で肩が外れる奴じゃない。おいアキレア、気合い入れろ、返事できるよな?」

「お、おう……」

「よし」

 そしてキャサリンの方を見て彼女は言った。

「勿論、反則ではない。このアキレアが対応できなかっただけのこと……だが、ぶっ飛ばされたのは『こいつ』だけではない」

「え?」

 と───その時、急にキャサリンの後ろの電球が割れた。観客、当人以外、意識の外の出来事だった。

 どよめきが起こる。

「……⁉︎」

「なっ、なっ……なんじゃ……?」

「エネルギー波を出してアキレアの電球を破壊したのは良かったが、羽根のことを忘れていたようだな。これでアキレアの得点はプラス10点で99点、あと1点で勝利ということになる」

「……!」

 そう、本来のラリーで飛んでいた羽根が、体育館の上の方でずっと浮いていて、それが落ちてきたのだ。

 しかし……何故キャサリンは気づかなかったんだ?

「……あ、そうか」

 そうだ。だからキャサリンからの質問にすぐに答えなかったんだ。疼アキレアの方へ近づいて、会話をして、手を差し伸べて、それを見させた。

 注意をそらしたんだ。

「なんてことじゃ……まずいのう」

「……落ち着けキャサリン!点を取られず39点取ればいいんだ!」

「……よし、仕方ない……のう。そろそろ本気をだす。皆の衆、下がっておれ」

「……?」

 すると、キャサリンは静かに構えて、そして目を閉じた。すると、辺りに風が起き始める。だんだんと風は強くなっていき、見物する生徒は退避していった。

 まるであれでは……台風だ。

 すると理事長が話す。

「あれこそが、彼女が【臨時雇い(サバイヴリンク)】を手に入れる前の実力……先天的に持って生まれた能力。サバイヴリンクの付属でない唯一の能力だ。ほら見てみろ、彼女の頭のあたりを」

「……え、そんな能力あったんですか……?……頭……えっ……?……何かあります?」

「そろそろだな」

「?」

 すると、彼女の金髪から耳が生えてきた。

 あ、あれではまるで……!

「そう、狐の妖怪……『妖狐』。彼女の正体は本当は人間ではなく、狐だったんだ」

「まじですか⁉︎」


 〈7-5〉

「というのは嘘だ」

「……」

 なんなんだよ……びっくりした。

 そうだった、もう理事長はこういうユーモアを容赦なく言ってくる人だったんだ。

「しかし能力が妖狐のモチーフなのは間違いない。聞いたところによると、彼女は日本に来てから色々あって神社で過ごすことになり、その時死にかけの狐を発見、怪我を治療し餌をやったところ、懐かれ、一緒に過ごして、先立たれたわけだが、その狐は神社の御神体からエネルギーを吸収して、死ぬ間際にキャサリンに渡したらしい。それがあの能力の源だ。最初はギリギリ異能というレベルの能力だったが、キャサリンは物凄く才能があったためにとんでもない強能力になった」

「理事長あの……他人のプライベートを語るときはもうちょっと遠慮した方がいいですよ」

「そうだな」

 キャサリンは尻尾こそ生えないが、神々しいオーラを放っていた。そしてそこから、彼女の挽回劇が始まった。

 点差はどんどん縮まって行く────

「……でも、あの能力、封印能力の域には達してませんよね。支配属性も無さそうだし、どうして疼先輩を圧倒できるんですか?」

「お、気づいたか。それはあれだ、封印能力というのは『世界を破壊できる能力』だが、それはつまり『その気になれば世界を破壊できる』という話だからな。……ほら、彼女の起こしている風をよく見ろ」

「え?」

 見てみるが、よく分からない。

 あの風に何かあるのか?

「あれは『受け流し』だ。妖狐の能力の自動防御機能の応用……つまりは、『威力』を出すと『周りの生徒に当てるぞ』という脅迫だ」

「……!?!?」

 つまり人質を取っているのか。

 ……そうだ、そもそも【臨時雇い】で攻撃は対処できるのだから、それも可能なのか。

「えげつない戦略をする……が、しかしそれで負ける奴でもないだろう。彼は……疼アキレア。まさかこのまま価値を譲るとは思えない」

 そして、99対90。ついに迫ってきた。

 すると、疼アキレアは突如、持っていた聖剣エクスカリバーを手放し、素手になった。

「……?なんじゃ?」

「今の点は大体10点差だ。そろそろ、キャサリン・ヴァルキューレ。お前の脅迫にも乗れなくなってきた」

「……ま、そうじゃのう」

 どうやら気づかれたようだ。キャサリンがその実、生徒を殺す気などさらさら無いということに。

 ……しかし、殺人者も沢山いる学校だし、何より現代と違う価値観も持っているキャサリンが相手なのだから、ここまでは脅迫に乗らざるを得なかった。

 つまりここからが勝負だ。

 もう疼アキレアには、負けてやるつもりは無い。

 疼アキレアのサーブ。

 彼は羽を持ち、『新しい剣』を取り出した。

 それを見て、体育館にいた全員が、疑問に思った。彼は何をしているのか?

 せっかくの名剣達を使わずに、新しいものを取り出した?結局、昔のものは今のものには敵わないのか?

 違う。

 彼はそういうつもりだったわけではない。

「『泉剣(せんけん)ガントル』」

「……なんか……その剣、嫌な感じがするのう」

「分かるか。実はこの剣だけが出所が分からない」

「……」

「俺の能力は【絶対政権】。ある一定の強さを超える、世界中、歴史中の剣を召喚できる能力だ。そしてその詳細まで分かる。……だが、この剣は、他のどの剣よりも切れ味が良いが、製作人も、製作年も、材質までも、何もかも分からない。強さ以外は意味不明の剣だ」

「……妾も、聞いたことがないのう……」

 泉剣ガントル。

 まるでプラスチックのおもちゃの様な形で、両刃の、70cmぐらい……の剣。白に青いラインが縦横無尽に走っている……

 ……あれは本当にこの世のものなのか。

 まるでキャサリンの神々しさを忘れる様な剣だ。神を憎むような……

「……!」

「どうだ?これを使えばお前にも勝てるか?」

「……ふむふむ、なるほど……」

「聞いてるのか?まあとは言っても俺もあまり多く使ったことはないが……」

「……よし。来い。妾も【臨時雇い】で迎え撃つ」

「…………これで最後だ」

「かもしれんな」

 体育館に緊張が走る。

 ま、まるでガンマンの早撃ちの前のようだ。

「……」

「…………!」

 そして────泉剣ガントルによるサーブにより、バドミントンの羽根は高速で射出された。

 すると……あたりは刻まれる。

 コートはズダボロに、ネットもバラバラに。

 キャサリンは⁉︎

「ふっ!」

「⁉︎」

 なんと……後退して、電球の前にいた。

 マズい。羽根はコートに向かっていく軌道だ!コートに着地すれば1点、今99点なんだから、100点先取のこのゲームなら……負ける!

「はははははは!これが!絶対政権の能力!」

「なるほど、恐ろしい切れ味じゃ。だがしかし……

【サバイヴリンク】!!」

 キャサリンは、電球の方へ向かう斬撃を迎えうち、事態は落ち着いた……羽根はコートを切り刻んだが、間違いなく着地して……1点が疼アキレアの方に入ることになる……

「……くっ……やはり強かったか。」

「……」

 さすがのキャサリンも、試合では必勝ではなかったか。まあ仕方ない。まだ1敗だ。全く取り返せる。

「生徒会長。このゲームは我々の負けです。さすがは生徒会のメンバーと言うべきでしょうか」

「それは嫌味か?紅くん」

「?」

「この勝負、間違いなくアキレアの負けだ。奴め、最後の最後で要らんことをしやがって。まあ、彼の悪いところが出たな」

「え?」

 どういうことだ?

 俺が疑問に思っていると、生徒会長は疼アキレアのサイドの電球を指差した…………あれは。

 割れている。

 疼アキレアはそれに気づき、青ざめていた。


 〈7-8〉

「つまり【臨時雇い】で即座に剣の機能を理解し、つまりは泉剣ガントルの『後ろ方向へも斬撃を飛ばせる』特性を知って、妾はコートに羽根が落ちるより電球が斬られる方が早いのが分かったので電球を守ることにした、そしてお主の電球が切られた時点で妾はプラス10点で100点を取ったので勝負は終わり、お主がコートに羽を入れて100点を取っても関係ないのじゃ!!!!」

「……!」

 さらに生徒会長は付け加える。

「そして、何よりキャサリンが90点を取るまで強く攻撃出来なかったのは、それこそ彼女の殺気の為せる技だな。人殺しならぬ、化け物殺しの目に、アキレア、お前は圧倒されたわけだ」

「……なるほど、一本取られた」

 ……そうして、一呼吸置いて歓声が上がった。

 第1試合、バドミントンはキャサリンの勝利だ。

 二人は握手をして、それぞれの陣営に帰ってきた。

「いやー……怖かったわ……」

「そうだったのか?まあ接戦だったもんな……はは、そういえば他の(人助け部の)奴らは結局最後まで見にこないで、薄情な奴らだぜ」

「今も練習しとるんじゃから仕方ないのじゃ。それより怖かったのはあの剣じゃ」

「剣?ガントル?っていう奴のことか?」

「ああ。ほれ」

 彼女は自分の腕を見せた。

 なんとそこには、切れ傷があった。

「え……⁉︎切られたのか?」

「いや。そうではないのじゃが、コピー能力に対する罠が仕掛けられていたらしい」

「……罠?」

「うむ。……まあ、ちょっと普通じゃないわな。あの剣は……ガントル。覚えておこうぞ」

「うん……そうだな。しかし、恐ろしいもんだ……神さまが作ったんじゃないか?あの剣」

「ははは。そうかもしれんのう」

「あははは……」


 まさか半分正解だとは夢にも思わなかった。

 続く。

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