第鬼話【学園は天を隠す】レッドカード編
「ああ、因みに俺は出ないからな、球技大会」
「何!?」
衝撃の告白があった…倉谷から。
どういうことだ、奥義使い(マスター)である倉谷に出てもらえれば百人力だというのに……!
「お前は俺をやたらと評価するがな…そもそも奥義使いじゃ封印能力者には勝てないだろ」
「どういうことなの、倉谷くん」
彼は言った。
状況はこうだ……まず、部長であるリリーが動けない以上、生徒会長の相手は副部長である紅になる。
しかし生徒会執行部の他の生徒は皆、封印能力者である。……副会長だけは記録がなかったが、かつての悪名と実績からそれを推理できる。
「そして俺も封印能力者……だがしかし、俺はお前たちのように、封印された状態でも能力を自身に使えるわけではない」
「ああ……そういえばそんなタイプだったな」
先を基本とするか後を基本とするか。
リリーは凍らせる、時破田が移動させる、という能力だとして、それはそれ以前の状態がないとできないことだ。既に凍った物は凍らせられないし、座標が『変わる』ためには変わる前の座標が必要になる。
それに対して、例えば、
マリー(紅ティラバス出張編を参照)の能力は吸血鬼化だが、彼女は生まれた時から半吸血鬼人間なので、発動したにすぎない。だから、後を基本とする。
シルフィードなら、破壊する能力だが、それも実は後を基本にしている。何故なら凍らせるのとは違い、破壊活動は無限に行えるからだ。
まあこの辺のことに関しては、実はハッキリと学説があるわけではない。
この定義が本当に正しいかも怪しい話だ。
既に矛盾が起きている……倉谷はなぜか、後を基準にする能力だが、【戦士の手紙】は『遠ざける』能力なのに、前を基準にする時破田のテレポート能力との違いがそこまでない。
おっと、早速話が逸れてしまった。
タイプは確実に存在する。それは確実だ。
倉谷は封印中、能力が全く使えなくなるタイプの人間だった。
「ああ、それなら、いい奴を知っておるぞ」
「?」
ここで、倉谷は辞退し、助っ人として参戦する、懐かしの『桜原棘』と合流することになるのだった。
相変わらずメスを持っていたので、
なんとなく安心してしまった。
〈5-9〉
「ということだから……球技大会の対抗戦に出させてもらって……とても感謝するよ……」
「桜原、しかしそんなに出たかったのか?」
「うん……まあね……」
かつて敵対したことは既にみんなに話してあるので、やはりシモンや時破田あたりは警戒している。
しかし俺やリリーといった当人が全く何も気にしない様子で作戦会議を始めようとしているので、彼らは同時に困惑していた。
「副会長をぶっ潰したい」
「よし……じゃあ桜原の担当は夜宵阿摩羅副会長だ」
俺は大テーブルに模造紙を広げた。
それは昨日作ってきた、生徒会メンバーのディフォルメしたキャラクターで分かりやすい対戦表である。
「これ何?」
「生徒会長がこっちで決めろってさ。向こうはメンバーに2年生が3人いることもあるから、そうしてもらいたいとのことだ」
「なるほど」
つまり対戦表を完成させなくてはならないのだ。
「もともと副会長の競技はバスケの1on1だと聞いていたんだが、さっきの放送で変更が分かった。」
「謎のお楽しみタイムね」
「そう」
「……それに……心あたりは……ある…?」
「ねえ。だからまあ、競技は不明なんだが、それでもいいか?」
「構わない……大丈夫」
「オッケー」
俺は『桜原棘』と名前を書き、その下にディフォルしたキャラクターを書いた。
「さらっと見せてきたけどそのスキルえぐくね?」
「あはは……長年、犯人の特徴をよく書いてたからな。その副産物だよ」
そして俺はその下……生徒会長戦の相手の部分に、とんでもない美青年を書き、その上に『薙紫紅』と付けた。
「嘘つけや」
「で、さて……残るは、例のエクスカリバーの奴と、コミュ力の低い人と、時破田が昨日苦戦してた……」
「苦戦?」
「?」
「苦戦してない。余裕だったよ」
「……すまん」
「何?何謝ってんの?殺すよ?」
怒られた。
一体昨日、どれだけ煽られたのだか……しかし、2人の相性が悪いのなら、穏便に対戦相手は変えたいところ。
「あたしがそいつ担当するから」
「……」
俺は「はい」と言うしかなかった。
またデフォルメしたキャラクターを書き、名前を記した。笑顔が思い出せなくてキツかった。
大丈夫かなぁ……?
「じゃあ、時破田がテニスで。残りはどうする?」
すると、キャサリンは提案してきた。
「昨日の通りでいいじゃろ。妾が剣使い君、シモンはコミュ力低い子ちゃんで。な?シモン」
俺のせいで凄いアダ名がついてしまった。
葉付さん……悪いことをしたな……
「はい。僕もそれがいいです」
「ほんとか?じゃあキャサリンがバドミントン、シモンが卓球だな……よし」
対戦表が確定した。
第一試合……2時間目
疼vsキャサリン バドミントン
第二試合……4時間目
鉋vs時破田 テニス
第三試合……6時間目
葉付vsシモン 卓球
第四試合……放課後
夜宵vs桜原棘 ?????
第五試合……夜の部
鬼月vs薙紫紅 バレーボール
「じゃあこれで、金曜日頑張ろう!」
「「「「「おお!」」」」
ということで、若干変更はあったものの、人助け部の対戦状況は整った。
そして、それまでに各自トレーニング……ということになった。
俺は得体の知れない生徒会長が相手。
……奥義の復習から、勝てるように頑張ろう。
〈5-8〉
「よー紅ちゃん。俺のこと覚えてるか?完全悪のアイゼンストリーム・ソリッドだぜ!今日はちょっと用事」
「何勝手に入ってんだぁあ!!!!!」
俺は『篠方』で空気を砕き、何故か急に現れたアイゼンさんに暴風を浴びせた。
アイゼンさんは何やら机の上に置いてあったものを手で抑えて、 風を真っ直ぐに浴びた。
目を閉じなかった。
こういう細かいところは強者感が溢れていて、俺としてはめちゃくちゃ好感度が高いんだが……
「……失礼。でもこの学寮の鍵をどうやって手に入れたんです?」
「ふっ……これだよ」
すると、彼女は右手に何かを持って見せた。
チャリっと音がした。
「合鍵だ」
「ふざけんな!!!!」
二度目の篠方を発動した。また、眉ひとつ動かさなかった……そして彼女がまた抑えたのは、なにやら美味しそうな料理だった。
「……失礼」
「時速300kmってとこか。まあまあだな……でもまあ、その辺のことも含めて色々話そうぜ。ほれ、晩御飯も作ったからさ」
「……」
この人はいいお嫁さんになるんだろうな……
──────────
相変わらず油が凄いアメリカンな料理ではあるが、この人の料理は美味い。
俺は食べつつ、近況を報告した。
既に流したリリーのことも詳しく説明した。
「へえ、なるほど……まあ、想像通りだな。リリーちゃん……こんな時期にもう『起きた』のか」
「起きた?何がですか?」
「能力が」
「!」
アイゼンさんはあっさりと、核心に迫ることを言った。どうやらこの人は情報をたくさん持っているらしい。
「能力が……起きる?具体的に何が起こってるんですか?それは……」
「んん…まあ簡単に言うと、その能力の存在価値とか、使命とか、そういうことに能力自身が気づいたってことなんだよ」
「……能力には、武力以上の意味があるんですか?」
「ああ、お前それも知らなかったのか」
彼女は驚いた。
そしてゆっくりと説明を始めた。
「そもそも異能は手段だ。手段には必ず、目的がつきまとう。その目的に気づけた時、異能は……人間で言う、やる気が湧いてきたような状態になるんだ」
「なんだか自我があるみたいですね」
「まあ、それに近いかもな……武器を持って豹変する人間がいるみたいに、能力を持った時点で、人の人格はひとつ増えるって仮説もある」
「…目的を見つけてやる気が出るとどうなるんです?」
「お前ならどうなる?」
「………」
「俺ならゴールまで一直線に進んでいく。能力もそういうことだ。まあリリーちゃんの様子をちゃんと見ていれば、それは問題ない…だろう。だが……」
すると。
アイゼンさんは突然、俺に指を指した。
「……?」
「もし、もしだ。今後リリーちゃんが何かを起こすことになったら……お前が心配するべきなのは、その時安直にリリーちゃんを殺そうとする輩だ」
「!」
たしかに、それは盲点だった。
そうか。問題を解決するだけじゃダメなんだ。
「そこで」
そこで。アイゼンさんは自身のスマートフォンの画面を俺に見せてきた。そこにあったのは、男の顔だった。
第一印象は…海外の、実力を伴ったチャラ男。
「誰です……?」
「俺の友達。お前と同じく『篠方』を使える。というかお前よりずっと使える」
「……!」
俺はなんだか嬉しくなった。
レアな奥義である篠方……それを使う仲間がいることを、初めて実感できたからだ。
「……ん?」
しかし俺は気づいた。
友達?
完全悪の、アイゼンさんの友達…?
「この人まさか……」
「ああ、完全悪だ。名前はジョン。ジョン・W・ビー。この世で最もワガママな奴だ」
〈3-7〉永代市に現れた不審者。
それはやはり桜原棘のことではなく、ジョン……ジョン・W・ビーのことなのであった。
「っあー……ん?あー」
紅ちゃん。おいおい断りたいって?
駄目だ。こういうのは断れるもんじゃねえ。
俺ならともかく、湖奈々の推薦だぜ?……おい急に萎えるな。まあ、あいつと紅ちゃんは相性はいいだろうさ。
それは保証する。
そうだな、先に人物像は教えておこうか。
「……日本わかんねぇ。んだよ……地図もねえし……ああクソ!腹立ってきた……地形を変えてやろうか!」
ヤツはとんでもない悪だ。
戦闘能力においては俺や湖奈々より数段劣るが、しかし『完全悪さ』ならヤツはぶっちぎりだ。
「おじさん、ちょっといいか?廃墟の中にある学園ってところを探してるんだが……」
「あ?」
「…………は?」
異常に我慢が出来ないんだ。
例えば最初は大人しく道を聞いただけ……悪意は全くなかったとしても、「あ?」とか返されて、少しでも嫌な気分になったら、次の瞬間には殺しちまう。
え?絶対嫌って?
まあまあ聞けよ。続きがあるんだ。
「ったく…もっとなんか……そうだ女に聞こう。女は丁寧だからな……てか、湖奈々のド糞馬鹿野郎はもっとまともな地図寄越せってんだ……ああ、ちょっと聞いていいか?廃墟の中にある学校を探してるんだが……」
「ひ、ひぃ!」
「え?……おいどうした、何かあったか…?」
「ち、近づかないで!人殺し!」
「……あ、ああ。いやそんなことはどーでもいいんだが、廃墟の中の学校を探してて……」
「誰か!誰か!助けて!」
「まともな会話をしやがれボゲェ!!!!」
あいつは意味もなくキレない。
ただ、人がめんどくさいと思うことをさっさと解決するタイプなんだ。え?そういう域じゃない?
まあまあ。
あいつはいいところもあるんだぜ?
気分を損ねさえしなければ大人しいし、それどころか慈善活動を進んでするような優しい心も持っている。
え?何が何でも嫌だしなんなら討伐する?
無理無理。
え?人殺しには俺は強い…?ああ、まあ確かに達成使いならそうかもしれないけど、あいつの経歴を知ったら戦う気も失せるよ。
「はあ……11人も殺っちまった……しかし最初からババアに聞くべきだったな。ババアは何故か勇敢で物知りだからな……さて、向かうとするか……」
あいつは周りを巻き込む。
そもそもあいつは生まれながらの悪……完全悪ではあったが、ある時点までは普通の人生を送っていたんだよ。
若干、素行が悪かったらしいが……
しかし、辺境の村に生まれた貧乏なただの一般人に過ぎなかった。でもそんな彼に、転機が訪れた。
彼の国で民族紛争が起きたんだ。
そんで若かったから戦場に行って戦って……いつしか精神がボロボロになった。それと同時に、悪の本性も見せ始めた。
「なんだあれ……舟か。ざっと100個はあるな……生徒の登校用か?しかし舟を漕ぐのは久しぶりだな……テンカク学園とやらの生徒は、毎日舟で学校行ってんのか?大変なこった」
裏社会に入って薬物に染まった。
悪さも働きまくった……その時、喧嘩の中で開発したのが、『自慢の右』こと『篠方』だ。
え?篠方はそんな簡単に会得できない?
ああ……紅ちゃん、そっか知らなかったか。
「ふぅ……いい運動になったな……ああ……静かな街じゃねえか。気に入った。これで女が居ればもっといい」
まあこれはね、わざわざ完全悪を推薦した理由でもあるんだけど……というか、紅ちゃんは多分もうすでに経験した事なんだ。
小さい時、湖奈々に出会って、それから達成使いになったんだろ?でもそれは、あいつが強いからじゃなくて、とあるメカニズムに乗ったからなんだ。
そもそも紅ちゃんはその当時も極限状態にあったと聞いてるが、それだけじゃ普通達成使いにはなれない。
いや、全くとは言わないが……確率は低い。
その確率を跳ね上げることができるのが、湖奈々の存在だ。しかしあいつは達成使いにさせることが出来るんじゃなく、なりやすい環境になれるんだ。
ハッキリ言えって?
悪い状況があった方が技術は発展しやすいってことなんだよ。
友人や恋人を失った作曲家は名曲を作り出し、
戦争に狂った人々は技術革新を起こす。
犯罪者がいるから警察ができたし、
病気があるから薬ができた。
純度100%の悪である湖奈々が間近にいたからこそ、紅ちゃんは達成使いになれたし、完全悪に生まれたジョンだからこそ、篠方も通常より早く会得できた。
そういうこった。
「ってか、こんな時間にゃ学校に例のガキはいねえよな……自宅の方に向かうか」
だから紅ちゃん。ブースターってことだ。
ジョンに師事すれば戦闘力は格段に上がる。
これを捨て置くって選択肢は絶対にない。
性格に難はあるが……まあ、暴れ馬をうまく使うような気持ちでいれば大丈夫だよ。
「誰が暴れ馬だと?脳内ストリーム」
いつのまにか横に男がいた。
俺は驚愕する。
「!!!!!!」
「ああ。お前がクレナイか。達成使い(フィニッシャー)なんだってな……にしては覇気がねぇな」
「あれ、もう来たのかよ、ジョン、頭の足りない不良のクソガキにしては早かったじゃんか」
「死ね!!!」
わずか数秒後……
俺の部屋は原型をとどめていなかった。
冬の風が吹きさらしになった……
「ああ。しまった……寒いじゃねえか」
「ごめんな紅ちゃん、あの馬鹿が」
「ああ!?」
なるほど完全悪……というか、庵内さんは優しい方だったんだな……
……どうしてくれんの……?
〈6-8〉
俺は夜中の学校に忍び込んだ。
期せずして学寮が使えなくなってしまったから……あの2人は適当にどこかで野宿するそうだが、俺は絶対に嫌なので、どこかの教室で寝させてもらうことにした。
ちなみに今も明かりはついていたりする。
夜にしかできない実験を、3組の生徒が行なっているからだ。
だから、今の俺にはありがたかった。
セキュリティはほとんどないし、どうどうと真ん前から学園に入っていける。
……そういえば、封印クラスの生徒とか、キャサリンとか、理事長あたりはここで寝泊まりしていたか。
まあわざわざ会いに行くこともない。
俺はまっすぐに、1年1組教室を目指した。
「……」
と、その時、何やら特別明るい光があることに気づく。校庭の方からだ。
「…なんだ……?」
近づいてみることにした。
すると、だんだん工事の音が聞こえてきた。
そして、俺がそこで見たものは……
「……!」
校庭が、倍近くにまで増えていた。
そもそも校庭の一番奥にはイチョウの木を生やしていたのだが、その先にさらにもう一つ分くらいの校庭ができていた。
「な、ん……」
「あれ?君は紅くん。どうしたんだこんな夜中に」
その時。俺は全く気づけなかった。
いつのまにか背後を取られていた。
だがそれは暗殺者のそれではなく…どちらかというと忍者のそれであった。
分かりやすくするために感想を言おう。
『速い!』
そう。先輩を『速い』と感じたのだ。
「せ、生徒会長……」
「いや…忘れてくれ。人のことを詮索するのは良くないな。…どうだ、少し話さないか?コーヒーがある」
「……」
───────────────
「えっ、じゃあこれは……」
「そう、球技大会の為に拡張した。よく見たら狭かったんでな。はは」
「…そのお金はどこから…」
「ポケットマネーだ。私は決してお金持ちではないが、カネ集めの方法くらい知っている……正規の業者は頼めなくて『裏』に頼んだら、思ったよりかかってしまってびっくりしたよ」
「……それ……カネ集めの方法って…」
「株だ」
「株……なるほど」
俺は株で成功している人を初めて見た。
上手くやればいいのか……よし(その後俺は株に手を出し大失敗するがそれはまた別の話である)。
「にしても……イベントに本気なんですね」
「私は人生に本気だ」
「……」
「人生はいくら濃密に過ごしても、すぐに過ぎていってしまう……私は誰よりも早く、大きく行動することで、無駄な時間を作らないようにしているのだ」
「……なるほど、勉強になります」
「球技大会も、けして一イベントでは済まさない。参加する者全ての人生において、一番楽しかった出来事にする。確定だ」
確定……彼女はそう言った。
それだけ覚悟があるというだろう。
「……」
「どうした?悩み事でもあるのか?」
「……いや」
「それとも質問か?反論か?なんでも受け付けよう」
やはり強い、と思った。
まっすぐで誠実で、それでいて熱い。
人間として強すぎる、と思った。だが…………俺はそれが奇妙だった。ここは本来、弱い人間が集まる場所だ。
俺はそれなりに人の考えを聞いてきたが、
だいたいの人物は、戦いの最中に不安そうな顔をして語りかけてきた。「俺は間違ってないよな」みたいな言葉を、別の言葉に変換して……
それなのに、どうしてこの人は、こんな学園の生徒のくせに、星空の下でコーヒー飲みながら、胸を張って後輩に人生哲学を語れるのだろうか。
強い。強すぎる。
「……あの」
「ん?なんだ?」
俺はうっかり聞いてみたくなった。
これは一応、少しだけ俺にも関係あることだから。
「……キャンディ先生とは、どういう関係で…?」
「…………」
彼女は黙って、空を見上げた。
どうやら教えてくれないようだ。
「す、すみません」
「いや……ひとに説明するのは難しいというだけだ……私はあの人に育てられ、あの人は私に助けられた」
「!」
「実はそういう関係なんだ……まあ、それだけじゃないがな。とにかく私は、少しだけモヤっとしているんだ。あの人にしてしまったことについて……
……だがまあ、君には関係のないことだ」
「そうですね」
それからは会話はなかった。
俺は結局、プールのシャワーを借りて体を洗い、その後は1年1組に泊まり込んだ。
そして朝……起きて校庭を見ると、
その面積は実に本来の三倍にまで増えていた。
「……」
なんだか、そして何故か、
球技大会がとても楽しみになってきた。
「……いーい朝だよ……」
〈5-9〉そして……
木曜日。球技大会の前日。
人助け部のメンバーはそれぞれトレーニングをしていた。どこで……かというと、周りにあった廃教室を勝手にジムにしてしまったのだ。
理事長に偶然見つかった時はどうなることかと思ったが、笑顔で見逃してくれた。
はい。
それはいいとして、一方その頃、
副会長戦を代理で担当してくれる桜原は、自らが拠点としている廃屋で、1人、手紙を見ていた。
──────────────────
それは僕に届いた手紙である。
まあ内容はだいたい予想できた。
「……はぁ……」
桜原棘は組織から強制除名する。
君の代わりとなる人材を雇うことが出来たからだ。
今までの任務ご苦労だった。
しかし働かない者には費用をかけられない。
「……」
役割が一つ終わったということだ。
これでもう、何故かやる気が湧かなくなった殺人を断ることをせずに済む。
「……はぁ……」
これで正真正銘の暇になったわけだ。
いや……学生なんて本来そんなものか……?
……何にしろ……
既に能力で進級試験の勉強も済ませたし(何故か能力を使ったら駄目みたいな雰囲気があるけど僕はそんなことは知ったこっちゃない)、
球技大会の練習でもするとしようか……
と、僕がダンベルを作り出そうとしたその時だった。ポケットで携帯が鳴った。着信があるようだ。
メールだった。
内容は……
999:justice
「……」
暗号だった。
ホワイトウルフの中ではよく使う物だ。
数字と英語、それ自体には何も意味はない。
これが送られてきたら手紙の文字列を縦に13・横に5ずらせという指示だ。
そうすると別の文章が浮き上がってくる。
「……おいおい」
内容はこうだった。
追伸。もし君がNo. 1夜宵阿摩羅を撃破もしくは捕獲し提出すれば、除名は取り消しとする。
…………
ホワイトウルフは、彼を見つけることが出来なかった。実際、以前の捜査には僕も手を抜かずに協力したが、それでも痕跡の一つも見つからなかった。
何故なら彼はとんでもなく強い能力者で、とんでもなく“プロ”な殺人鬼だったからだ。
僕のように、いつでも何となくの人生じゃない……明確な殺意と、その理由を持っている、血も凍るような殺人鬼……それが彼だった。
だった。
「……はぁ」
僕は夜宵阿摩羅とその後会話を重ねたが、結局、喧嘩になったようなものだった。
彼の言葉はこうだ。
“何だか信じられない話だ。僕が殺人鬼?
たしかに僕は記憶喪失で、2年前より以前のことは分からない……だが少なくとも僕は記憶を失くしてから、真面目に誠実に生きてきたんだ。
だいたい君は殺人鬼ではないか。どこまで信頼していいのかな……
そもそも僕は異能力の類いは持っていない。部員の封印能力者の鑑定だから間違いない。”
…………
異能力の話は僕にもよく分からないし、実際僕も鑑定してみたが確かに今の彼は無能力者だった。
しかし……記憶喪失が2年前で、行方不明になったのも2年前。名前も顔も同じ。
本人であることは確定だ……何があったのか。
僕はダンベルを片付けた。
相手が無能力者なら、球技大会で負けることはありえない。鍛えても時間の無駄だ。
そして昼寝をはじめた。
ある意味で、尊敬していたあの人が戻ってくることを信じて……しかし、その願いは叶わない。
今後、永遠に。
そしてその方が、彼にとっては幸せなのだ。
……いや、世界にとっても、誰にとっても……
世界は役割で出来ているのだから。
その闇は僕が背負うことにする。
夜宵阿摩羅には球技大会以降、関与しない……無論、ホワイトウルフにも、提出などする気はない。
もし、神様がそれを良しとしなくても……
………………僕には関係ない。
〈7-8〉金曜日。
俺が天角学園にやってきた頃には、入学式には誰もいなかったものだが……何ということだ、1年生も3年生も揃い踏みで、外部からも人が来て、
すごい人の数になっていた。
「うおおおおおおおおお!」
「はやくしろー!生徒会長ー!!」
「……すげえ」
凄いと思った。人助け部もかなり貢献しているが、彼女の手腕をまず褒めたくなった。
この、あの、天角学園で、
こんな熱狂を作り出せるだなんて……!
「皆の衆!」
その放送は一つのトリガーになった。
生徒と関係者たちは、運動場や各教室、体育館に集まって、『それ』を待ちわびていた。
「待たせたな!8:50分だ!それではただいまより……」
かつてない旋風が学園に訪れた。
騒がしいホームルーム教室で、俺はそれを感じていた。
「おい紅、早く行こうぜ!」
「あ、ああ……」
球技大会が───────────
「第一回天角学園球技大会を……」
──────────────始まる!
「開催する!!!」
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生徒会長→鬼月ビオラ(????)
副会長→夜宵阿摩羅(無能力者)
会計→疼アキレア(????:剣を召喚する能力)
庶務→鉋ローズ(絶対生存:不死身になる能力)
書記→葉付桃(絶対消去:全てを消す能力)
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