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Angel Break!【1年生編/最終世代の学園】  作者: 山野佐月
【1年生編/最終世代の学園】
63/66

第鬼話【学園は天を隠す】スタート編

 誰にでも、忘れたい過去があるものだ。

 俺にだってある。両親と妹のことだ。彼らを失ったことなど、忘れてしまえば楽になる。

 だから、いっそのこと忘れてしまいたい。

 だが実際には、記憶を喪失するというのは気合ではできないことだ。突発的に、事故的にでもない限り、人間は起こったことを忘れることが出来ない。

 失敗も、禍根も。

 脳内に居座り続ける。

 しかしそれは何もかも悪いというわけではない。

 人間はそういう、忘れたくなるような失敗を重ねて、何が正解か、最適解かを、学んでいくのだから。

 では。

 学ばずとも……絶対に最適解を出せる人生を送れるとしたら、果たして失敗経験は必要だろうか?

 よく考えれば、『失敗は成功の母』とは言うが、絶対に何もかも上手くいく孤児には、母親なんて不必要なのではないか。

 今幸せなら……わざわざ思い出して辛くなる過去なんて、忘れてしまえば良いじゃないか……

 それを実践したのが、生徒会長である。

 鬼月ビオラ。

 しかし、彼女に欠如しているものは、本当に過去だけだろうか?

 それは彼女ではなく、運命が決めることだ。


 〈5-3〉

「nameと名前って似てるよね」

「似てるも何も一緒じゃん」

「いや、ローマ字の話。nameとnamae」

「おお。確かにaだけの違いだな」

「でしょ」

「脂身とアブラゼミみたいなもんか」

「脂身とアブラゼミはローマ字が2つも違うじゃん。abubamiとaburazemiて」

「肉とかけまして蝉とときます」

「おお…?」

「やっぱり蝉を溶かして肉にかけます」

「蝉が可哀想だろ!!」

 ……

 なにこの会話……?

 自分で話してて頭がおかしいのかと思った。

 さて、それはそうと、俺たち人助け部は6人とも、部室に集結していた。今日は誰も事件に巻き込まれていない、平和な日だ。

 それは即ち菓子パの開催を意味していた。

 溜め込んだお菓子を大テーブルに極限まで積み重ねて、それを食べ終わるまで終わらない地獄のパーティ。

 俺はこういう日が楽しくてならない。

「いやな、何で脂身なのかって言うとな」

「ん?」

 俺は玄関口のカバンからピンク色の物体を二つ持ってきた。注目が集まる。

「マジでやばいベーコンを入手したんだ」

「うわっ!マジでやばいベーコンだ!」

「合わせて400はある」

「……400g……⁉︎」

「400?ってどれぐらい?凄いの?」

「凄いよ」

 俺はキッチンに立ち、調理を始めた。

 片方は厚切りのまま料理にするので取っておいて、まずもう片方を薄く切り始める。

「ねえクレナイ、それ衛生的には大丈夫なの?」

「大丈夫大丈夫、寮で凍らせて持ってきたから」

 薄く切ったベーコンの帯を、なんか美味しいらしい味付けで焼いて、その間に厚切りの方をなんか美味しいらしい味付けをする。

 それが出来たら、今度は厚切りを焼いて、帯になんか美味しいらしいタレをつける。

 厚切りにもタレをつけて、帯を巻きつけてボール状になったら完成!

「お待たせ!ベーコンのベーコンボールだ」

「ちょっと待てや」

 関西弁で突っ込まれてしまった。

 どうしてだ?食べる前から…………

「いやもうそういう問題じゃなくね?」

「ベーコンじゃん」

「ああ、ベーコン主体の料理だ」

「ベーコンしか無いじゃん?」

 俺が食卓にベーコンボールに置くと、時破田が笑顔で「おお、いいね。後は……卵とかピーマンとか、チーズとか……ポテトも欲しいね」と言ってきた。

 作れ、という怒りが伝わってきた。

 はい。


 〈5-7〉

 ということで、神影襲来から数週間が経って、季節は冬に到達しようとしていた。

 人助け部は特に問題なく、ガヤガヤと楽しく過ごしていた。これはとてもいいことだ。

 部活内でのポジションもそれぞれ確率しているようだった……俺とリリーと、キャサリン、シモンが特によくはしゃいでいて、時破田は少し落ち着き、倉谷はさらに落ち着いている。

 そんな感じ。

 男女比もいい感じで、バランスの良い部活だ。

 そして活動も順調……拡大化もして、学校内での評価も上がり、もはやこの部活は、天角学園の頼れるお兄さんみたいな存在になっていた。

 それもそうだ。

 俺は達成使い、キャサリンは絶級能力者。

 後は全員、封印能力者。

 それこそ『神影』のような反則的な存在でない限り、大抵どうにかなる武力があるのだから……考えてみれば恐ろしい話だ。

 まあしかし、問題解決もそうだが、本来の活動目的は心の更生とアフターケアだ。

 勿論それも上手くやっていけている……今のところ、何も問題はない。

 もうなんか、1年生とはほぼ知り合いになったようなもんだし、明確に敵対している人は全くいない。

 1組はもう普通の学生と見分けがつかない。

 2組は林道くんが再び失踪した隙をついてクラス全体で団結させた。

 3組はキャサリンとすら良好な関係になっており、4組に関しては各人の故郷の人とすら仲良くなっている。

 5組にはあと2人、知らない人たちがいるが……あとの5人とは、すごく親しい仲だ。

 だから……最近、異能業界の大人の話題に絡んだせいかよく聞くようになった『コミュニティ』という言葉を使うのなら、『天角学園1年生』というコミュニティが、人助け部を中心に完成しつつあった。

 理事長とも仲良くなったし、『天角竜馬の加護とやら』からの脱却は、たしかに大丈夫だったのかもしれない。

 今のところ、

 異能界隈での一番の事件は、やはり先の『神影襲来』ということになるだろう。お偉いさんまで焦るような事態には、まだ俺たちも流石に対応できない。

 だが二番目は、『異能解放』……

 こんな表現をすれば怒られそうだが、封印能力者の集団が起こした事件……程度。それぐらいなら、人助け部だけでもなんとか出来るだろう。

 口に出したらしばかれそうだが。

 はい。

 ということで、そろそろ今回のイベントが始まるのであった……俺は時破田の要望通りの材料を買いに、永代市に向かった。

 実は今はまだ土曜の朝。

 買って帰ってきても昼ぐらいだろう。


 〈2-8〉

 1年2組、殺人者クラスには、封印クラスに選ばれなかった封印能力者がいる。

 1人は林道栄徹。少し前学園に帰還したが、すぐにまた行方不明になった。

 そして、もう1人が、桜原棘(おうはらおどろ)

 かつて、『敗北撲滅運動』というとんでもない活動をしている組織、ホワイトウルフに所属していた。

 そしてそこで信仰されている、クラン・ルージングという男のことを尊敬していた。

 だが、学園に入学して早々に、それらは砕かれた。手短に言うと、そういう『宗教的』にねじ曲げられた人生哲学を薙紫紅に語って共感を求めたところ、

『お前はそれについてどう思ってんの?』と返され、自身がそこまで真剣に考えてなかったことに気づき、

 なんかモヤモヤしたから八つ当たりしてたけど、最終的に女の子に泣き落とされたのだ。

 ……うん……僕の話だね……

「……」

 さて、突然だが僕は今、教室の居心地が悪い。

 というのも、今の僕はいわゆる『仲間はずれ』状態にあるのだ……なんだか最近の2組の生徒は、アスクブランクのような組織だった感じではなく、まるで普通のクラスメイトのように結束している。

 なんか……授業もしているらしいし……

 そして、学園だけじゃなく、ホワイトウルフからも除名されそうになっているのだ。

 何故なら、ここ最近、妙に殺人をする気が起こらないからだ。任務をもらっても、決行していないから。

 まあ流石に封印能力者とは言えど、給料を渡しているのに仕事をしないというのはやはりまずかったのか。

 しかし。

 なんかもう、それでもいいやと思っている自分も確かにいる。だから僕は困っているのだ……

 ……学校にも行く気はないし、殺人ももう趣味じゃない……任務もない……暇なのだ。

「コーヒーお待たせ致しました〜〜」

「……ありがとうございます……」

 ということで、

 その日することは、遅めの朝のカフェで決めるという毎日を僕は送っていた。

 まあ、絶対を作り出す能力なんて物を持っているから、生活に困ることはありえないし、何かしようと思えば何でもできる……はずなのだが。

 何もできないでいる。そうだ、今の僕は、こじらせた富豪のような生活をしていた。

 そしてすっかり牙も無くなったようで、さっきコーヒーを持ってきてくれた女性店員だって、ほんの半年前は(第二話桜原編参照)僕を怖がってまともに喋れなかったのに、今やなんか、普通の客と店員になっている。

 周りの客もそうだ。

 医療用メスでコーヒーを混ぜていても、ノーリアクションになった。なんか突っ込んでくれればいいのに。

 とある紳士的なハットを被ったおじさんなんか、この前挨拶された……

 ……まあ別に、僕はサイコパスだし、猟奇殺人犯ではあるが……それを目指していたわけじゃない。だから扱いがどうであろうと別に構わないが、

 そこまで僕の殺気は衰弱してしまったのか……と思うと、まるで……そうだな、過去を置いてきたようで、

 卒業アルバムをドブに落としたような気分になるのだ。

 それまで、何が自分だったのか分からない。

 それとも僕には中身が無かったのか……

 ……無かったのか。

 ……まあ、そんな憂鬱的なことを考えている時だった。

 僕の目の前に、女の人がやってきて、

「相席してもよろしいか?」

 と聞いてきた。僕は何も言わずただ頷いて、良いですよ、という意味の会釈をした。

 僕は携帯を取り出して、自分の世界に没頭する。目の前にどんな人が来たかとか、そんなことに脳内を割きたくなかったのだ。

 だが。

 これが実は良くなかったのかもしれない。

『敵』は、よく観察してから戦う。それが、正面から命のやり取りをする殺人者の心得なのだ。

 しかし僕はもうほんとなんか、そういう以前の物を全て忘れてしまっていたようで、

「……」

 顔面に拳が当たるまで、その攻撃に気がつかなかった。


 〈1-8〉

 自分が7m程ぶっ飛ばされることに気づいた……その時には、時すでに遅し。

【絶対行使】で防御することも間に合わず、僕はカフェの外まで殴り飛ばされた。

「……!!!!」

「……」

 顔を殴って、上に飛んで行くって……それはなんだ?……めり込んだってことなのだろうか。

 自分の今の顔面の惨状を見るのは気が失せたので、着地したらすぐに治癒を…

「⁉︎」

 足を地面に着いたら……そのまま左に倒れた。

 なんだ……筋力不足……?

「どうやら、腕が鈍ってまともに動けないようだな。桜原棘くん。こんな時になんだけど、私のことは知ってるかい?」

「……」

 落ち着け……状況を冷静に判断しよう。

 僕は顔を治癒して辺りを見回す。大交差点の横断歩道…の前まで来たようだ。周りの一般市民たちは何事か何事かとざわざわしている。

 そして僕は立ち上がる。

 目の前から真っ直ぐにこちらへ向かってくる女……背丈は僕より上だ。

 まあ僕の身長はそんなに高くないけども。

 それでも何だか……いや、身長だけではない。何もかもにおいて上なのだと思い知らされるような風貌をしている。

 制服を……着ている。ならば、外部からの敵?天角学園には制服はないはずだから……

「…お前のことは知らない……」

「そうか。まあそれなら、私もその程度ということか」

「……お前」

「お前はこう思った筈だ。天角学園の生徒じゃないのなら、下手に手出しはできないと……」

「!」

 見透かされた。

 すごく気持ちが悪くなる………。

「……お前……何者だ…」

「君の予想はハズレだ。何故なら学園から制服が廃止になったのはつい最近のこと……私の入学時点では、まだ制服はあったんだよ。」

「……答えろ」

「もう一回聞くぞ。私を知っているか?というか……誰だと思う?」

「……知るか!……」

 僕は左右のポケットからメスを合計10本取り出し、能力【絶対行使】を発動する。

 銀色のオーラを纏わせる。

「付加する『絶対』は…確定攻撃!」

 そして投擲する。

 真っ直ぐに飛んで行くメス。人類の役に立つ為に生まれてきた刃物をこんな風に使うのは僕とジャックザリッパーぐらいだろう。

「じゃあ正解を教えてあげようか。私の正体は……」

 そして。

 彼女はメスに突っ込んでいく。

 すると次の瞬間に僕が見たものは、目の前にいるその女だった。

 いつのまにか…やはり鈍ったわけではなかったのか、僕はまた合計10本のメスを取り出していた。だが、必中のはずの投げたメスはどうなったのか、

 彼女に至近距離までの接近を許した───!

「分かったか?」

 まるで……時間が飛んだような感覚だった。

「……そ……その名前は…なるほど……」

 あれ?

 誰だったか……思い出せない。

 さらに次の瞬間。僕はまた殴り飛ばされた。

 そして……意識を奪われた。

 やはり鈍っていたのか……?僕は……

 いや………………あいつが強かったのか……?


 〈4-8〉

 永代市市。

 それは、阻害地区で唯一、平和的な区域。

 ありとあらゆる商業がこっそりと実験をしていて、たまに常軌を逸した大安売りが行われていたりするので、お金が常にギリギリな俺にとっては嬉しい場所なのだ。

 ついでに消費税もない。

 もう言ってしまえば、阻害地区には全ての税金がない。何故なら、無法地帯を国の一部として認めてしまうわけにはいかないからだ。

 さて、ベーコンボールをまともな料理に昇華させるために、卵とピーマンと、チーズとじゃがいもを買いに、俺は小舟に乗って永代市に来た。

 あ、そうそう……阻害地区は三つの離島で構成されている。ここ、商業実験場、それから学園のある廃墟地帯、さらに軍事実験場の、三つだ。

 俺は大安売りをしている店を探す。

 無かったら無かったで仕方ないが……しかし、ここは結構広くて、大抵どこかはやっている。

『需要と供給の曲線』とか、『神の見えざる手』とか、そういうのを否定したい人たちがいるのだ。

 卵なんか、ただで配ってることもある。

 嬉しい。

「…………」

 さあ、まずはどこに行こうかな。

 地下の方に行くのもいいが……まあでも、やはりスーパーだ。前に店内の商品を全部半額にしていたあそこに行こう。

「…………ん?」

 その時だった。

 何やらザワザワと声が聞こえてくる。

 あまり良い雰囲気ではないようだ……と思っていると、よく見ると誰かが前から歩いてくる。

 皆、そいつに道を開けているようだった。

「失礼」

 そいつは俺の横を通り過ぎていった。

 俺は音源で何が起こっているのか気になったので、近づいてみる……すると、

 そこには男が倒れていた。

「……!!」

 そいつは全く知らない奴だった。

 しかし手に札束を持っていることから、恐らくここじゃよくある強盗だろう。

 ん?………よく見ると、拳銃を持っている。

 これはどうやら確定だ。

 そしたら、さっきの制服の女の人は、こいつを倒したということなのか……大人の男を。やるなぁ。

 俺は感心しつつ、買い物への旅を続けた。


 電話が鳴った。

「はい、もしもし私だ」

「会長〜?今どこです〜?」

「今は永代市だ」

「まだいたんですか?」

「ああ……物騒な男というのを、人間違いしてな……以前に暴れてた生徒がいたから、てっきりそいつかと思ったんだが、全く関係なかったらしい」

「真犯人の方は?」

「なんてことはない、拳銃ゲットしただけの雑魚だったよ。今からそっちに戻る」

「オッケでーす……急いで下さいね。もう3年生の皆さんは痺れを切らして待ってらっしゃいますから」

「ああ。15分で着くよ」

 彼女は、みんなの生徒会長である。

 鬼月ビオラ。彼女の人望とカリスマは、計り知れない……日課のパトロールを終えて、次に向かっていくのは天角学園の体育館。

 この、体育館で行われたある決議が、彼女の……いや、彼女らの次の目標を決定させた。

「やあやあみんな、落ち着いて落ち着いて。君らの気持ちもよーくわかる。だがまずは冷静になろう。

 冷静に……まずは、神の影という、ついこの間に世界を襲った脅威についてから、確認していこう……」


 〈4-7〉

 翌日。僕は人助け部にお邪魔することにした。

 別に、何か文句を言いに来たわけじゃない。ただメロンソーダが飲みたくなったから、ドリンクバーを借りに……いや、嘘をつくのはやめよう。

 かつて僕を負けさせたあの2人に……薙紫紅とリリー・シエルに、弱音を吐きたいのだ。

 それに、昨日謎の女にやられてしまったことについて、誰かに言いたい(口に出さなければ強がることもできない)というのもあるし、ついでに彼らに毒づきたいというのもある。

 とにかく……木製の部屋で、気軽に話してくれそうな奴らに絡みたいのだ。

「……」

 部室の前まで来たが、やっぱりさすがに、気がひける……宿敵というほどでもないが、一応敵だったのだから……

 と思っていたら、

 僕は扉にあった張り紙を見つけた。

 《今日人生相談をした人には先着10名に図書カードをプレゼント!気軽に入ってね♫》

「……」

 こういうのも、ユニバーサルデザインというのだろうか……いや、ちょっと違うか。

「……どうも……メロンソーダと図書券を貰いに来たよ……って……あれ……?」

 僕が部室に入ると、そこには誰もいなかった。

 電気はついているし、鍵もしていなかったのに……留守?なんてセキュリティの甘さだ。

 僕はとりあえず、地球の未来を守るために、使わない電気を消して、1人、机に座った。

「……」

 ここに来てもすることはない。

 メロンソーダだって、何だか飲む気になれない……やっぱり、僕は元気がないらしい。

「…………」

 そんなこんなで、僕はモヤモヤとしたまま、やる事もないので寝てしまいそうになった……

「おや、お主は2組の桜原くん」

「!!」

 ふと、声をかけられて眠気が吹き飛んだ。

 部室の玄関に、なんかとんでもないオーラを纏った奴がいた。金髪でかんざしをしている。

 こんな絶対的な強者は見たことがない。

 一体、誰……いや、知らないでもないな。そうだあいつは、『キャサリン・ヴァルキューレ』……他人より強くなる能力者だ。

 体育祭のリレーでぶっちぎっていた……

「……ごめんね……図書券が貰えるってことでお邪魔していたんだよ……鍵も空いてたし……」

「そうであったか。申し訳ないが、明日また来てくれるか?今日は急に、部員全員用事が入ってしまってのう」

「……わかった……しかし何があったんだ?……」

「なんか生徒会と戦うらしいのじゃ」

「……‼︎」

 ビッグニュース……学園の二大部活が、このタイミングでぶつかったのか。

「それがの?昨日みんなで卵ピーマンポテトベーコンボールチーズを食べていたんじゃが」

「なにそれ」

「急にこの部室が襲われたのじゃ」

「……襲われた……?」

「うむ」

 襲われた……という表現が、正しいのか。

 一人一人でも、ここの部活はかなり強いはずだが……生徒会側の戦力も、それなりにあるということか。

 ……彼らとぶつかることで、1年生にとっては不気味で得体の知れなかった生徒会も、正体が見えてくるのかもしれないな……。

「で、奴ら難癖をつけてきてのう?」

「難癖?」

「うむ。最近この学校は、ある人物の加護から脱退したのじゃが……それはほぼ理事長の独断で、3年生はかなりそれに反発したらしいのじゃ」

「……」

 まあそれはそうだろう。

 普通は知らないだろうが、学年に1人くらいはその存在を知っているものもいるだろう。

 天角竜馬。

 この学園の創設者にして初代理事長……ここみたいな特殊地区も彼が作ったのだ。

 僕も詳しいわけじゃないが、まあ凄いやつというのはわかる……

「でのぅ!奴ら、その原因が妾らにあるって言ってきたんじゃ!まあ100%ないと言えば嘘になるが……」

「……」

 多分、理事長が実際一番アテにしているのは2人……『シエルの血統』……つまり、明らかに才能が凄いリリー・シエルと、1対1なら負けないキャサリン・ヴァルキューレ…まあその2人が一つのコミュニティにいるというのは、彼にとってはかなり、有難いことだろう。

 100%とは言えないが、

 40%は多分ある……生徒会が目の敵にするのも、まあ分からないでもない。

「……うん」

「しかしじゃ。こちらとしては、神影襲来の際にそこまで協力的とは言えなかった生徒会に、あとからやいやい言われてあまり良い気分ではない」

「……うん」

 まあ、あれも本来は理事長の任務だから、別に参加しなくても良かったわけだが……

 いや、生徒会の擁護はやめよう……人助け部にとっては、そりゃ気分は良くないだろう。

「だから、話し合ったんじゃが……脈絡がなくてのう。やはり拳で語り合おうということになった」

「……」

 君らの悪い癖だ……と言おうとしてやめた。

 なるほどそんな事情が……ならば、仕方ない。今日は帰るとしよう。

「で、今はそれぞれ戦う相手の元に行ってるのじゃが、この部屋の電気と鍵のことを忘れていてのう。消して、締めに来たのじゃ」

 育ちの悪さが分かるな。

 普通出て行く時に気づくだろ。

「しかしここは開けておこう。桜原くん、ここでくつろいでいくがいい。食べ物も飲み物も読み物もあるから、好きにしてくれ。テレビもある。」

「……」

 それもありだ。

 ここは共用スペース……学園の誰が入り浸ってもいいことになっている。

 しかし……身内扱いとは、それはそれで悲しいな。

 まあいいや。

「じゃあの、あ……ただ、ここは午後の5時には締めなくてはならないのじゃ、もし妾らが戻ってこれなかったら鍵閉めは頼むぞー」

「……いや」

 待てよ。ここを楽しむのもいいが……

 もっと楽しいことがあるのかもしれない……?

「……ちょっと待ってくれ」

「うぬ?」

 僕はキャサリンを呼び止めて、一つお願いをする。

「その話……もう少し詳しく教えてほしい」

「うむむ……では、ついてくるがよい」


 〈5-7〉昨日。

「うめえ!」

「だね。ベーコンは冷めちゃったけど」

 俺たちは完成した真・ベーコンボールを堪能していた。しかし意外にも凄く美味くて、6人で食べていたらあっという間になくなってしまった。

「はぁ……」

 無言が訪れる。

 さあ次は誰が話し出すのか…俺は様子を見ていると、時破田が携帯を見て何やら深刻な顔をしていた。

「ん?どうした?時破田」

「あのさ……今気づいたんだけど……」

 時破田は全員に見えるように携帯を前に出した。そしてそこに書かれていたのは、学校からの一斉メール。

 《みなさん御機嫌よう。理事長の須川朝登です。

 月曜日にもちゃんと連絡しますが、この度この天角学園に二つの転機が訪れようとしています。

 一つは、学園の名称を改名します。

 読み方はそのままで、漢字を変えます。

 そしてもう一つは、進級&卒業テストの導入です。

 2年生は次回から、1年生と3年生は今年度からです。冬休みの1日前に実施します。

 範囲は月曜日に職員室前に張り出します。

 普通の公立高校を目安とした基準で作成します。

 これから冬に突入します。勉強、頑張ってネ!》

「……」

 俺は……何が問題なのか分からなかった。

 同じくリリーとキャサリンもぽかんとしていた。

 何だ……理事長が、『頑張ってね』の『ね』をカタカナにしたことに青ざめているのか……?

「ああ。そういうことか?」

「え?どゆこと?」

 時破田と、シモンと、倉谷が……震えていた。

 何だ……進級テストの方?そんなに嫌なのか?

「勉強しとらんのじゃろ」

「あ!」

 なるほど……キャサリンは長生きしてるからどこかでは勉強していただろう。俺は授業があった……

 しかし、他クラスじゃ授業は行われていなかった……(授業するまでもなく賢い3組は事情が違うが)……つまり、少なくとも高校に入ってからは自堕落な生活を送っていた彼らは、1年間の勉強がテスト範囲など無理だ!!!!!!

 だから絶望してたのか!

「や、やばい……やばくない?」

 時破田が珍しく、そして久しぶりに焦っている。なんか最近はクールキャラになっちゃって寂しかったから、少し俺は懐かしくて嬉しい……が。

「で、でもほら!能力で覚えれば!」

「あ、そうか……ナイス!シモン君!」

「え?シモン、そりゃないでしょ」

「えっ……」

 なんだか嫌な予感がする静寂が訪れた……そして、リリーが禁断の一言を言ってしまう。

「能力に何でも頼るのは良くないよ」

「リリー!馬鹿!」

「え?」

 3人に、ずぅんとした重い空気が流れる。

 この一言さえなければ……彼らは勉強地獄にならなくて済んだのだ。能力を使った学習に後ろめたさを感じることもなかったかもしれない。

「ていうかリリー、お前は勉強してんの?」

「ああまあ……暇だったから」

 暇を勉強で潰す人なんて初めて見たわ!

 そうかだからリリーは余裕なのか……しかし、やはりこういうところが、リリーの天才的なところだ。

 さて。

「で……どうすんの?」

「そ、そりゃ……さすがに今からは」

「だだだだだだだよなぁ?」

 倉谷が焦りすぎておかしくなっている……

 こんな倉谷は見たくなかった……

「でもまだ12月じゃ。3月まで大体3~4ヶ月あると考えれば、頑張りさえすれば特段無理でもないのう」

「……」

 逃げ道がなくなってゆく。

 ああ、可哀想に……しかし、そうは思うが優越感があるのも事実だ。やはり真面目にやってきた人間は報われなくてはならないからな。

「ふふ……」

「何笑ってんの!」

「ごめん」

 さて、しかし部員の危機を放っておくわけにもいかないだろう。ズルをせずに勉強するのは確定とはいえ、少しは何か救済措置があってもいいだろう。

「……あ」

 そうだ、ある意味ズルではあるが……秘密兵器があるじゃないか。俺もそれを使ったんだ。

「なあ、それなら─────」

 その時だった。

 ドガンッ!と、何かが破壊される音がした。

 俺の左のほうで……そして俺がそちらへ振り向いた時には、全てが済んでいた。

 いつのまにか時破田が俺を守ってくれていて、リリーと倉谷は臨戦態勢になっていた。

 そして、破壊された、部室の扉……その向こう側からこちらへゆっくり歩いてくる影が一つ。

 煙が立っていて、よく見えない。

「……!」

 俺は息を飲む…まさか、この部室が敵襲される日が来るだなんて……そんなことを思って、同じく戦闘態勢に入る。手袋をはめて、早速だが『篠方』の準備をする。

 すると、煙の中から、1人の男が現れた。

 俺たちと同じくらいの背丈だ……が、年上なのはわかる。2年生だと推測する。

 その手には、凝ったデザインの剣が握られている。電気を帯びているようで、こんな時に何だが凄くかっこいいと思った。

「ええ……はい!人助け部のみなさーん」

「……」

 またまた、静寂が訪れる……笑顔のその男を、全員が警戒している。

 こちらは何も答えない。

「なんじゃ!いきなり来て壊して、妾らに何か恨みでもあるのか!どういうつもりじゃ!何の用じゃ!お主は何者じゃ!その剣は何じゃ!」

 訂正。

 キャサリンが全部聞いてくれた。

「ええ……今回は生徒会を執行する……ということで、みなさん死んでくれるか?」

「ふざけるなよ」

「んじゃまあ、とりあえずもう一発行っときますか……防御しろよ?」

 すると、彼は何やらブツブツと話し始めた。


 絶望して希望せよ。

 収束して解放せよ。

 その冒険譚は誰にも知らされず、土に埋まってゆく。されど私だけがそれを知っている。

 私たちを照らせ。

 私たちの進む道を、照らせ……『聖剣』


 そしてその男は剣を頭上から振り下ろした。

 ……その瞬間、まばゆい光に俺たちは包まれた───その名前を聞けば、それも納得だった。


「『聖剣エクスカリバー』」

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