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Angel Break!【1年生編/最終世代の学園】  作者: 山野佐月
【1年生編/最終世代の学園】
59/66

第六話【学園は世界を震撼させる】新編

 ダーク・バランス、巫槍が前から走ってきた。

 そして俺の目の前にやってきてこう言った……

「林道栄徹!お前は倉谷の方を頼む!」

「え、あ、ああ!」

 彼はもともと、外で待機してもらう協力者だったのだ。以前から日本を『張っていた』らしい(シールド編1話参照)。

 そして落ちていく2人……倉谷瑞と薙紫紅を救出するために、外からやってきたのか……ん??

 俺は一つ現れた事実に考察をする……

 最強の防御能力と言われる『具現蒼穹』を持つこいつが中に入ってきたということは、そして紅の味方をするということは、それと同じ分、凄く厄介な敵が増えるということで……

「ふん!」

 俺と巫は2人を引き上げ、横に寝かせる。

 そして俺は前を見る……

「……おいおい……」

「さぁ、ここからが正念場だ」

 屋上への階段……の前を塞ぐように、俺たちを足止めせんと立っている男がいた……ヤツだ。

「灰芒稲妻じゃねーか!!おい!!」

「あれ?知ってたのか?」

「知っとるわ!!!」

 彼は同年代の男子ではあるが、この学園の生徒にとっては馴染みのない存在だろう。

 だが、異能の業界では有名も有名な、とんでもない男……らしい。戦闘力はさることながら、何でも、日本政府を裏切ってある異能団体に肩入れしてるとか……

 いわば問題児だ。

 そして彼は自分では動かない……ある命の恩人を慕っていて、その人の命令以外では活動しないのだ。

 そして命令されれば止まらない。

 必ず任務を完遂して帰っていくという……!

「さて、で、お前はどうするんだ?」

「えっ」

「紅の味方をするのか、敵になるのか……」

「……俺は」

 どうしよう。正直、さっきの戦いを見て、どちらも応援したくなくなった。

 あんなにボロボロになってまで戦う2人は、もう外の世界に出ない方が良いんじゃないかとまで思ったのだ。

 まあでも、ここは……

 アイゼンさんや鈴木さんに申し訳ない。

「紅の味方をする」

「良し……じゃあ倉谷と紅を、外に出すんだ……それか、回復させるだけでもいい。とにかく僕はあいつを抑えておくから、話を先に進めろ!」

「ああ!」

 俺たちは走り出した。

 奴に向かって……奴は、死んだような目をしていて不気味で……正直近寄りたくないが、でもやるしかない。

 すると、奴は何か口を開いて……

 ……喋り……出した?

「時間切れだ」

「!」

 俺たち2人は止まる。巫槍の方も何かを察したようだった。俺にも、何のことかすぐに分かった。

 時間切れ。残りは……0秒。

 理事長の封印計画に、俺たちは駆けつけられなかった。と、そんなところで、『盟友解放作戦』は失敗に終わり、少しやるせない気分で俺は立ち尽くしたのだった。


 〈3-8〉薙紫紅は目覚めた。

「ん……」

「『ん』じゃねえよ!おい!紅ちゃーん!無事か?ようやく起きたな!おい!」

 なんだかテンションの高い誰かが……というアイゼンさんがいた。やれやれ、俺は何回目覚めれば……

「ああああああああああああ!!!!!」

「残念。時間切れだ」

 俺は脱出の失敗に気づき、絶望と共に起きた時、円型に座っているうちの1人になっていた。

「ああ……あああ……」

「ショックそうだな、紅ちゃん」

 俺は確かにショックを受けて、ガックリして膝から崩れ落ちた。もう……立ち直れない……

「まあ、起こっちまったもんはしょうがねえよ」

「でも……あ、理事長は!?学園は、地球はどうなったんですか!?」

「落ち着け。その話をしにきた……周りを見ろ」

 ここで俺はあたりを見やり、ようやく、自分がなんか凄いメンバーの元にいることに気づいた。

 味方。

 アイゼンストリーム・ソリッド。

 鈴木礼二。林道栄徹。

 敵。

 倉谷瑞。マリー・アルカード。

 シルフィード・N・ブレイヴァー。

 そして……知らない男子と、何故か……近藤いつみさん(第二話アスクブランク編参照)?それとかんなぎ……

「巫!?」

「よう。僕も来てたんだぜ」

「お前も来てたのか……あ、じゃあ、理事長の動向を探るために阻害地区に残ってたのか」

「そういうこった……まあどうなろうと、僕は全然関係なかったようだがな……」

「?」

「現状を説明するぜ紅ちゃん」

 アイゼンさんは再び話し始めた。彼女は立ち上がって、円の周りをゆっくりと歩きながら解説を始めた。

「まず……お前と倉谷ちゃんの傷は徹っちゃん(林道栄徹)が完治させた。」

 確かにそういえば、受けたダメージの痕跡がない。完全に全て治っている。

「あ、ありがとう……」

「気にすんな」

「で、事件だが……ここは地球の、いつも通りの学園だ。火星に飛ばされたりはしていない。

 そして、地球自体も無傷……懸念していた、大量に光速で降ってくる『参画者のなり損ない』も大丈夫だ。全ては終わった……」

「……良かった……」

「ああ。良かった。地球の危機は去ったわけだ。だが……それが誰の手によるものかというのが問題だ」

「……?」

 そうだ……理事長は知らなくて、異能団体は放置するという、とんでもない状況なんだったな……

 一体誰が、この危機をなんとかしてくれたんだ?

「湖奈々がやったんだよ」

「庵内さん!?」

 何してんの⁉︎そういうことするタイプだっけ⁉︎

「ああ。びっくりだろ?でもあいつは、あれでも愛国心……じゃなくて愛”星”心がある奴なんだ」

「まあ庵内さんなら楽勝でしょうね」

「ああ。それに、今のあいつは別にそこまで強いわけでもないし……なんならこいつでも何とかできた」

 そう言ってアイゼンさんは、謎の男子の両肩に手を置いて肩を揉み始める。

「……」

「今はどうでもいいが……こいつの名は灰芒稲妻。悪いな、世間じゃ色々言われてるが、俺と同じ所属だ。そっけない奴だが、悪い奴じゃないんだぜ」

「はぁ……」

「話が逸れたが…実は、湖奈々が対処した後に、俺、一回連絡取ったんだよ。そしたら、やっぱりどこの団体も全然動く気配は無かったってさ……」

「……そうですか」

「それについて話したいんだが……さて」

 一周回って、俺の隣に帰ってきたアイゼンさんは、これまでとは違う真剣な目つきで話し始めた。

「……!」

「なあお前ら、お前らの中には感づいてる奴もいるだろうが…ここから1年ぐらいは気を抜くなよ」

 俺への説明、ではない。

 説明ですらないような……世界に喧嘩を売っているような気迫で話している。

「幸いここには、完全悪に達成使い、学園の人間に政府の人間、警察、異能コミュニティに繋がってる人間、黒の実験場の患者に、ダーク・バランスまでいる。

 家に帰ったら仲間に伝えろ……お偉いさん方の動きが最近おかしいから、十分気をつけろってな……」

 ……あれ、政府の人間?

 そんなのどこに……と俺が見渡していると、近藤いつみがこちらに向かってピースしていた。

 俺が「お前まさかスパイだったのか!?」という視線を送ると「てへっ!」というジェスチャーが帰ってきた。

「……アイゼンさん、具体的には何が起こるとか、そういうのはないんですか」

 その直後、そんな真面目な質問をぶつける。

「さぁな……達成使いの覚醒とやらが起こるかもしれねえし、シエルの血統や『例の』奴らが何かしでかすかもしれねえ」

「……リリーを疑うのはやめてあげて下さい」

「悪かったよ紅ちゃん。まあ、あの子、思ったより良い子っぽかったから、危険度は低いと思ってるぜ。しかし危険因子なのは事実だ。他には、もっと大きい神の影が落ちてくるかもしれないし、もしくは宇宙人が侵略しにくるかもしれねえ」

「何ですかそれ……」

「で、あんた、完全悪の言うことをどこまで信じてもらえると思ってんだ?」

 ………………

 場の空気が一気に凍った。

 巫が……巫がぶち込んできた!!

「お、おい巫!お前協力体制じゃなかったのか!なんて失礼なことを言うんだ!」

「協力は終わった……失敗にな。紅、俺も分かってるよ。完全悪だから疑うってのは、良くないってことぐらいな」

「じゃあ……」

「でもな紅、至極当然の言葉に乗せられて、最後には殺し合いをさせられそうになったことを忘れたのか?」

「そ、それは……」

「それにお前、この場でそこの完全悪と対等に話せるのはお前と僕ぐらいだぞ?」

「……分かったよ」

 まあ確かに、アイゼンさんが明らかに一つ次元の違う強さなのは分かる。なら、防御最強の巫と、絶対死なない俺ぐらいしか、武力まで対等にはなれないだろう。

 しかし、『だけ』ではなく『ぐらい』という言葉を使ったのは、あの灰芒稲妻のことを考慮してのことだろうか…………ってあれ?

 なんか…………あいつもしかして寝てる?

「ぐー……ぐー……」

「……」

 寝てるじゃん?

「巫ちゃん。君の言うことは分かる。だが、それは君の意見だろ?みんなの話の邪魔をしちゃダメじゃないか」

「大人はいつもそう言って、本質から逃げる……遠回しに言った言葉の、その面だけを掌で上手く転がして、話題を変えようとする。実際は図星を突かれて困っているか、相手が子供だからという理由で敬意を持たずに対話をする意思がないかのどちらか……どちらにしても、薄っぺらい人生をダラけて送って、勉強するという意思が欠如してるからそうなるんだ」

「あ?」

「やめて!喧嘩はやめて!あと巫!そんなんだからお前いつまでも友達できないんだぞ!」

「お前で十分だ」

「友情が重い!」

「対話……?そっちこそ、ロクに話そうともせずに、好き勝手言ってくれてよぉ、周りと違うことして目立ちたいだけなんじゃねえのか?」

「……」

 違うのだ。一見正しそうな意見に見えて、アイゼンさんはとても的外れなことを言っている!

 巫はそもそも、この中の誰よりも立派な人間なのだ。たくさん本を読んで学習し、自らの身を削って世界に貢献して、数々の命を救ってきた男!

 アイゼンは気づいてないだろうが、彼女より、よっぽど教養や知識があって、そもそも人と『対話』をする方が難しいぐらい凄い奴なんだ!

 まあ性格の良くない部分が前面に出てたけど……

 これ以上口論をしても何も残らない!

 いや、禍根が残る!

「巫、俺の言いたいことは分かるか」

「なんだよ」

「戦いはもう終わった。アイゼンさんの言うように、これから何か起こるかもしれないが、とりあえず今は、地球が無事だったのを祝う。それだけしてりゃあ良いじゃんか。何も口論することはねえんだよ」

「まあ、それもそうか」

「そういうところ、お前の面倒くさい所だぜ?もっかいぶっ飛ばしてやろうか!なんちゃって〜」

「は?」

「ごめんなさい」

 夫れ。

 今度こそ本当に話題を変えよう。

「しかしアイゼンさん、今回みたいに組織の上層部で情報が隠されちゃったら、俺たちなんかどうすれば……」

「そこで、だよ。そこの近藤いつみちゃんだ」

 アイゼンさんは指をさした。

「彼女はかなりの地位についていて、正確な情報を得られる政府の人間……そしてなおかつ自由行動ができる、結構特殊で、我々にとっては便利な存在だ」

「……いいのか?」

「え?何がですか?」

 話を聞いとけよ!

「俺たちへの情報提供だよ。このメンバーの中には色々と問題のあるやつもいるから……」

「問題……なら、今回の政府の対応の方が問題でしょう。私、何も聞かされてなかったんですよ」

「……」

 直属の部下にすら話さないのか。

「これは詳しくは言えませんけど、政府にも隠し球がある……でも、あの人達からも動く気配はなかった。本当に放置するつもりだったんですよ?先にルールを破ったのは向こうです」

「まあ……それはそうだけど……」

「さぁて!」

 アイゼンさんが、話をぶった切るように大声を出して立ち上がった。

「業界人はみんな、何となく察知していることだが、今年は激動の年になるだろう。これも何かの縁だ、来るべき時に備えて、俺たちで一つ繋がりを持とう」

「……?」

 みな、真剣な目をしているが、俺はいまいちピンとこない。繋がり?コミュニティというのを作るのか?

「連絡先の交換だ」

「…⁉︎」

「というのは当たり前として、情報の交換をしよう。団体……という程でもないな。グループだ。そうだな……グループ名は『Road』(道)とかでいいだろ」

「賛成!」

「賛成賛成!!」

 やたら賛成の声が多かった。なんで?

 とにかく。

 俺たちは情報共有を約束して、一つの繋がりを持つことになった。Road。

 俺は携帯を持っていないので、その日家に帰ってからパソコンに連絡先を登録したのであった。


 〈6-8〉

「理事長ォおおおおおおおお!!!」

「やあ、薙紫くん。よく来たね」

「……」

 勢いで出てきたけど、おもいっきり間に合わなかったから凄く気まずい。この空気はどうすればいい……?

「心配してくれたみたいだね。だが、君の宿敵のおかげで助かったよ。いやぁ彼女は凄いなぁ」

 その時。俺は気づいた。

 理事長の見た目が老けていることに。

 そしてさらに、表情が柔らかくなって若返ったように見えることに。

「……庵内さんは、そりゃ凄いですから」

「だね。」

「…………理事長、大丈夫ですか?」

「ん?ああ……びっくりさせたかな……私の雰囲気は変わっただろう」

「はい……」

「だが本当の私はこんな感じだ。すまないね。今まで仏頂面ばかり見せて。教師失格だな」

「いや、元気にしてるなら全然良いんですけど…」

「なっはっはっは」

 隣で笑うのはキャサリン・ヴァルキューレだった。いたのか……お前いたのか。

「くれない。朝登くんは確かに元からこんな感じじゃ。安心せい、『神影』の任務が済んだ今、もう表情は固くならないじゃろう」

「……まあ、そんなもんか」

 確か、うちの顧問と副顧問もそんなことを言っていた。“あの人は本当は良い人なんだ”と。

 よっぽど辛い任務だったのか……

「ところで」

 理事長がこちらを見始めた。

 なんだ?なんだなんだ?

「君、今、何か物足りないと思ってるだろ」

「!」

 俺は言い当てられて驚いた。

 まあ確かに……今回の本題である『存在の影』に関われず、しかも封印からの脱出も叶わなかったから、正直、あれだけ戦ったのに、消化不良感が否めない。

「私もそうだ……権力を持つ者には真実を隠され、計画は上手くいかず、助けてもらった相手にも手柄を主張されない……どころか何でもなかったかのように去っていく。本音を言うと、私は心の奥底で、行き場のない怒りを感じているんだよ」

「……」

「そこで提案だ」

 このセリフが出てくる前に、俺は理事長の佇まいから言いたいことを汲み取った。

 今の彼はまるでやんちゃな少年のようだ。

「君、今から私を殴れ。本気で。ただし一発。私も後でやり返すから、その時は歯を食いしばれ」

「……ははっ、良し、乗りました」

 お互いを使って、八つ当たりを済ませてしまおうという提案。面白かった。

 この人は面白いことも言える人だったのだと、今更になって気付かされた。

「うおおおおおおおおお!!」

 俺は理事長の顔を。

 理事長は俺の顔を殴った。

 これで過去の関係は洗い流した。これからは、敵から味方にシフトチェンジだ。

 理事長は自分と俺の傷を直して、そして手を出してきた。俺をまっすぐ見る目からは、確かに『教師』というものが感じられた。

 俺たちは握手をして、ようやく、

 普通の、生徒と教師になれたのだった。


 〈7-0〉

 ところで、『神影』と呼ばれる物……『反存在の参画者』を封印する計画は、かなり大規模なものだったらしく、協力者もかなりの人数がいたらしい。

 ということで、作戦成功を記念して、明日に祝賀会を開くことになったらしい。

 ついでに子供も参加オーケーで、学園と関係者の一大パーティが開かれようとしていた……

 会場は永代市市に取ったらしく、今動ける者は準備に駆り出され、学園はいつのまにか静かになった。

「……」

 俺たち人助け部は、なんと作戦の要を担当していたというリリーの帰還を、屋上で待っていた。

「紅ごめんね、ずっと黙ってて……」

「いいよ気にすんな。もう終わったことだ」

「リリーさん、遅いですね……」

「あやつ、何をしておるんじゃ……?」

 そして理事長もいた。

 全員が空を見て心配していた。

「作戦終了までは何ともなさそうだったのだがな……それに封印は解いてあるし、よっぽどのアクシデントがあったのか……?」

「あたし、見てこようかな……」

「僕も……」

 そう言っていた時だった。

 皆の心配をよそにして、グラウンドにリリー・シエルが墜落してきた。

「リリー!」

 能力で飛んでいく時破田とシモンと理事長と……俺はいつのまにか屋上に取り残された。

 いや、あと一人……

「気の利かんやつらじゃのう?見やれ、くれない。あれが気の利かんやつらじゃ」

「あはは……」

 キャサリンも飛んでいけるはずだが、なるほど俺のことを考えてくれていたのか……さすがこういう所は年長者というあるだけある。

 見た目から年の差を感じない分、こういうところで見せつけてくる。おかげで俺は孤独でなくて済んだ……

「じゃあ頑張って来るんじゃぞ」

「行くんかい!」

 俺は急いで駆けつけようと、廊下を走っていく……そうだ、今度は通りやすい、普通の廊下だ。

 屋上から下に行くことを勿体無く思った。まだ戦いの余韻が残っているな……

 と、その時だった。

 俺を待ち伏せする一つの影。

 少し前も同じ場所で殴り合った男……そう、倉谷瑞が、俺を待ち構えていた。

「……!倉谷!どうしたんだ?」

「紅……いや、ちょっといいか……?」

「?」

 彼はなんだか申し訳なさそうに話し始めた。

 目を合わせない。

「まず……頼みがあるんだ」

「なんだ?できることならなんでもやるぞ?」

「『刃渡唯』は諦めてくれ」

「……⁉︎」

 …………………………

 刃渡唯。俺にとっては、中学時代の友人……ではなく、知り合いですらない関係だった相手。

 しかし彼女は3年間、毎日話しかけてくれたにもかかわらず、俺は無視し続けた。

 そうするしかなかった。

 ところが、先日、倉谷によって新たな事実が発覚した……何でも、もし話していたら、

『命以外の全てが終わっていた』とか……。

「……諦めるって、どういうことだよ」

「俺と唯は双子だった」

「……!」

 驚愕の事実。そう、倉谷も、元の苗字は刃渡……やっぱり同じ家族で、同じ親の元に生まれていたのか。

「……だった?」

「そう。だった……まだ全ては話せないが、今は違うということだけ、覚えておいてくれ。そして、だから今あいつがどんな状態かも分からないんだ……うかつに、刃渡家に関わることはやめてほしい」

「…なんだか、もうちょっと踏み込んだ話なのかと思ったら、そうでもないんだな」

「言っただろ……刃渡家には闇がある。それはもうずっと昔から……あの『神影』が生まれたような頃からある、歴史が深すぎる暗黒なんだ」

「!……神影のこと、何か知ってるのか⁉︎」

「何でも知っている……だが忘れなくちゃならないんだ。今は、お前に警告するために一時的に記憶の封印を解除しているだけ……俺はこれを知っていると、また刃渡家に戻ってしまうから。」

「……」

「いいか、諦めてくれ。頼む。頼むから……お前がどういう奴なのかは、この1週間で十分理解した。お前はあれを知ったら、必ず足を突っ込んで……そして」

「あーあーもういい、わかった。わかったよ」

「……」

 彼が下手に出て頼むことが珍しいということは、俺ももう分かっていた。

 こんな頼み方をされたら聞くしかない。

「……ただし」

 ただし。タダで引き下がる俺でもない。

「条件がある」

「なんだ?できることならなんでもやる」

 その時、俺はもう完全に遅かったのか、リリーを連れて人助け部の面々がこちらに帰ってきた。

 俺にはそれが見えたが、言うのはやめなかった。

「お前、うちの部活に来ないか?」

「……!」

 後ろの人たちが驚いていた。

 そして返事を気にしていた。

「……」

「できることだろ?それに俺も見張れるし……良い提案だと思わないか?」

「……なるほど」

「返事は?」

「乗った」

 その瞬間、わー!!!!っと、『うちの部活』のメンツが倉谷に激突していった。

「うわぁああなんだ!?」

「いらっしゃーい!新入部員だぁー!」

 ということで彼は、押しつぶされるという形での歓迎を受けて……見事、俺たちの仲間になったのだった。

「がああああ!放せええええ!!」

「ぎゃははははははは!!!」

「あ、リリー!無事だったのか!良かった!」

「あ、クレナイ!クレナイも大丈夫だったんだね!それと、私が無事じゃないわけないじゃん!」

「確かにそりゃそうだな」

 そんな会話を交わした。

 いや、本当に、こんな平和に終わって良かった……新入部員もゲットして、大団円だ。

「……そういえば、紅」

「ん?」

「奇跡は信じて正解だったみたいだな?」

「あはは……そうだな、確かに」

 大団円だ。

 だがしかし……あれ?何か足りないような……いや、青春という点ではかなり満ち足りている……理事長のおかげでストレスも発散できた。

 だけど……あれ?

「あ、そういえば紅、宇宙であんたの宿敵の……なんとかさんと目があったんだけどさ」

「ああ……庵内さんか」

「今この辺にいるっぽいよ?」

「マジ……で……?」

 そうか。

 それだったのか。

「ち、ちょっと行ってくるわ!」

「いってらー」

 思えばあの人とは夢の中で会っただけで、ちゃんと生存確認はしていない!それに、俺も成長したというのに、まだそれを報告もできていない!

「あ、船の乗り場に向かってるっぽいよ!」

「サンキュー!ナイスGPS!」

 俺は走って向かった。

 なんかずっと走っているような気がするが、この時もかなりのダッシュだった。

 しかしチャンスは絶対逃したくない。

 一発ぶん殴る!


 〈5-3〉本当にいた。

「…………!」

「あれ?紅くん。追いかけてきたのかい?」

「ま、まあ……」

「はは。じゃあせっかくちゃんと会えたから、お姉さんからお褒めのお言葉をあげよう」

「いりませんよ……」

 久しぶりの会話だった。こうしてみると不思議な感覚だ……身長を抜かしたこともそうだが、それより以前に、あの人を互五感で感じていることが、不思議で不気味で、それでいて悪い感じがしない。

「まずは、人助け部の正式な創立、おめでとう。倉谷くんの参入で男女比の問題はクリア、ついに本当に正式な部活になったわけだ」

「あ、ああ……その辺うやむやになってたけど、そんな話もありましたね……」

「そしてその倉谷くんに対する勝利、おめでとう。奥義使いに勝つなんて、いよいよ化け物じみてきたね」

「はは……そうかもですね」

「さて」

 そして、庵内さんは少しこちらに寄ってきた。距離が3メートルほどになると止まって、こう言った。

「君がここに来たのは、こういうことだろ?」

「……はい。そうですね……ははっ」

 俺は既に手袋をはめていたから、ダッシュの準備をすることで、彼女に臨戦態勢になったことを示した。

「いつでも来な。能力は使わない……」

「じゃあ……顔をぶん殴りますね!!!」

 俺は瞬時に全力を出す。


 足で地面に対して『跳ね返し』の技『天開蒼炎』を使い加速して『天戦増幅』の準備を右手でして左手で篠方を使い右前方を真空にして庵内さんの態勢を崩し命中率を上げ右足を踏ん張って思い切り超スピードで顔面に右拳を叩き込「ふふっ……」


 彼女の笑い声と共に、俺が今出せる全力の高等技術は、あっけなく、かき消された。

 彼女の人差し指が俺の頭に当たり!

 その瞬間、全ての勢いが消え失せ、俺はそのまま、下げられた人差し指と共に地面に『落とされ』、顔が地面にめり込んだ。

「か、か、か、」

「か?」

「敵わ……ない……」

「ふふっ……そりゃそうだろう。私は完全悪だからね……格闘技だってかじってる」

 かじってるってレベルじゃないのは、プロフェッショナルである倉谷を見れば分かる。

 いや、倉谷にもこのレベルは不可能だろう。

 やはりこの人は強すぎる……とても、勝てない。

「だけど紅くん、強くなったね。」

「……!」

 一番言ってほしかった言葉をもらい、俺は動揺する。今負けた時点で、そんな良い言葉は無くなったと思っていたのだ。

「君と何年か前に戦った時、君は光の剣を使っていたね……私は負けたけど、君も私に触れられなかった」

「……」

「だけど、どうだ!」

「⁉︎」

 庵内さんが、大声をあげた。

 ……キャラが違う。こんなテンションは出さない人だ……いつも、「やあ。出直してきな、少年」って感じの雰囲気の人なのに……

 なんだか、嬉しそうだ……⁉︎

「君は私の人刺し指を使わせた」

「漢字が間違ってて怖い!」

「本当に、強くなったねぇ。紅くん。」

「……!」

 感激で言葉を失う。宿敵のはずなのに、いや、宿敵だからかは知らないが、俺は感情が逆に無くなってしまう。

「私は嬉しい……君が本当の意味で強くなっててさ。本当に嬉しいんだよ……武力の話だけじゃない。度胸とか度量の話でもある」

「……」

「アドバイスをあげよう」

「……アドバイス、ですか」

「ああ。何年か前に、君にアドバイスをしておいて良かった。こんなにも強くなったのだから。だから、また今度会うときにもっともっと強くなってて貰うために、私は君に新しいアドバイスをあげよう。」

「……はい。しっかり聞きます……!」

 庵内さんの本性?が出ている時に助言を貰えば、確かに俺はもっと強くなれる気がする。

「……!」

 唾を飲み込む。緊張して……待つ。

「君に前に言った言葉は……“諦めずに前進すれば、道は必ず見える。”だったね。」

「はい」

「今回のアドバイスはこうだ……

 “君が見ているのは暗闇だから、前に誰がいるかは分からない。だから、ずっと前にいると思っていた人も、実は後ろにいるかもしれない。

 仲間が大切なら、時には後ろに進む必要もある。その覚悟を身につけろ……”だ。」

「ありがとうございます!」

 俺はしかと、胸に、刻みつけた。

 この言葉も、意味が分かる時が来るのだろう。

 そしてそれまでに、成長しなければならない。

「じゃあ、私は帰るね〜」

「そ、そんなあっさりな……」

「紅くん」

「!」

 ということで、一発ぶん殴ることは出来なかった……だが、俺はこれからの自分の成長への期待を募らせて、いい気分で彼女を見送れた。

 クルーザーに乗り込んだ後、こう言われた。

「私を失望させるなよ?君はいつか私を倒してくれると信じてるからな」

「……!は、はい!頑張ります!」

「頑張れ」

 その時の庵内さんは凄い良い笑顔だった。

 完全悪ではなく、人間の笑顔だった。

 あんな顔を出来るだなんて、知らなかった。

 あの人の強さは、意外にも、そういう底知れなさから一番感じさせられるのだった。


 〈6-8〉

 翌日の朝。

 ……久しぶりに学寮の自室で眠った俺が、起きてはじめに見たものは……完全悪の笑顔だった。

「よぉ紅ちゃん!俺だぜ。アイゼンストリームだぜ!覚えてるよな?わざわざ起こしにきてやっ」

「ぎゃああああああああああああああ!!!!」

「うわびっくりしたぁ!!」

 何……何?

 何故アイゼンさんが俺の聖域に?

 俺はびっくりして飛び上がり、距離を置いて、壁に持たれかかった。

「おいおい、せっかく完全悪が起こしてやったってのになんだよそのリアクションは」

「な、な、なんでいるんですか!!!」

「え、いや……今日はパーティの日だろ?だから楽しみで早く来ちゃって」

「はい……」

「朝から市場の辺りに行って見学してきたけど、それでも時間が余ったから」

「はい…」

「この辺に共同で使ってる廃れた診療所があるって聞いたから備品をプレゼントしてやって」

「善行……?」

「そろそろ向かおうかなって時に」

「はい」

「紅ちゃんしか使ってない学寮があるって思い出して、朝飯作ってやりに来たんじゃねえか」

「……今、6時ですよ……?」

「細かいことは気にすんな。朝飯作ったから食えよ」

 そうしてちゃぶ台に出されたのは、健康的な日本の朝食……ではなく……凄く……油…な……ステーキ……

 ステーキと……米……米は良い……

 油……油で焼いたの……油ステーキ……?

「油が半分ぐらいありそうなフード…」

「大丈夫大丈夫、健康的な油だから」

「朝からこんなに油分とったら、パーティの食べもん食べれなくなっちゃいますよ」

「……」

「えっ何ですか」

「立食パーティーはガツガツ食わねえよ」

「朝食もガツガツ食いませんけど!」

 その時、隣の部屋からドンドンと音が聞こえてきた。しまった。大声を出したから壁ドンされたのか。

「……え?」

「ん?どうしたんですかアイゼンさん」

「お前……ここヤバいんじゃね……?」

「えっ?」

「分からないのか……?」

 そして……

 会場についた俺とアイゼンさんは何故か一緒に回る感じになって、色んな人と挨拶を繰り返していた。

「アイゼンさん……お腹空きました……」

「だから言ったろ?立食パーティーは物食う場所じゃねえんだ。物を食わずに話す場所だ」

「子供ブースないかなー」

「ねえよ」

 その後、俺はアイゼンさんとは離れて、色んな人と回った……まあさすがに1時間もすると物を食べる時間が出てきて、腹も満たされた……

 で、さらに時間が経つと、立食パーティーは崩壊してゆく……悪い意味じゃなくて、だんだんと宴会に変わっていったのである。

 俺は人助け部が集まると連絡を受けて(テレパシーで)、みんなの元に集まった。

「ようみんなー楽しんでるか?」

「なんでクレナイが主催者面してんの……?」

「楽しんでるよ」

「そりゃ良かった……それにしても、パーティって感じゃないよな、これ」

「宴じゃのう。まあ妾らもこちらの方が居心地が良い」

「それは確かに」

 そんな風に俺たちが固まって話をしている時だった。前のステージに誰かがマイクを登ってきた。

「……あれ?」

 理事長だった。この宴の幹事だ。

 そして彼は場が静かになると、話し始めた。

「先生が話し始めるまでに5分かかりました」

「嘘つけや」

 おっと……うっかり突っ込んでしまった。

「今日は皆さんに一つ大切なお話があります。そして、それは同時に今回の会のメインイベントでもある」

「……?」

 会場がその言葉にそわそわしていた。俺も、メインイベントという言葉が気になって仕方なかった。

「……」

 理事長は黙った。

 言うことを躊躇っているのか何なのか、マイクを持って俯いている。

「?」

「これから言うことは、重大なことだ。だからひょっとしたら、気分を悪くする人もいるかもしれない。

 しかし、この一歩を踏むことは私たちの学園にとって必要なことであり、避けては通れない道なのだ」

「……」

 すると彼は頭をあげて、大声で言った。

「本日をもって天角学園は、初代理事長・天角竜馬の加護から脱却し、独立した団体になることをここに宣言する!そしてこの……阻害地区も我々が頂く!」

 その瞬間だった。

 その言葉の意味を、学園の生徒や殆どの関係者は理解していなかった。そもそも天角学園の名前の由来が創立者にあることも知らなかったのだ。

 だが理解するものもいた。

 客席から飛び上がり、理事長をめがけて攻撃を仕掛ける者が現れた。3人、全員知らない大人だった。

 しかし殺意がえげつないことは分かった。

 左から順に、封印能力者、封印能力者、絶級能力者!俺は反応が遅れ、目で追った時にはもう遅かった。

 その3人は既に押さえつけられていた。

「……!」

 今度は左から、巫槍、灰芒稲妻、そしてキャサリン・ヴァルキューレがいた。

 この時、少なくとも彼……謎の多い男、灰芒の戦闘力がかなり高いことが発覚した。

 理事長は話を続ける。

「天角竜馬に届くであろうメッセージを諸君らにも言っておきたい。『阻害地区内での犯罪を許容する』というルールを作ったのは他でもない天角竜馬だ……本来なら、きちんと紙で交わした契約を破ることは許されないが、この中でなら何の罪にもならない……もちろん、君たちが私の命を狙ってきたことも」

 会場に静寂が訪れる。

 少しの音も立ててはいけない雰囲気だ。

「……」

「逃がしてあげなさい。その人たちを」

 3人は合図と共に手を離し、逃げて行く3人を追わない。しかしあいつらは逃がしていいものなのか?

「だが今後一切、天角竜馬派閥の人間はここの敷居を跨がせはしない。廃墟地帯、永代市、そして軍事実験場の土地は今より学園の支配下に置く」

「……」

「これは私の覚悟だと思ってもらいたい。神影の一件はもう終わったのだ……もうあいつの力は必要ない。これからに求められるのは柔軟性だ。

 諸君らの中には感づいている者もいると思うが、これから何かとんでもない事が起こるのはもう確実的だ。あの存在の影というのが一番の証拠だ。

 このまま、得体の知れない男の元についているのは危険だと考えた。だから決別した。」

 まだ静寂は続く。

 息を飲んで見守る。

「この状況は、完全悪の力を借りなければ実現しなかった平和なのだと考えて欲しい。もう奴は、いてもいなくても一緒なのだ。なら、情報もロクに与えられず、ただ言うことを聞けだなんて……不愉快なだけで、なんの徳にもなりゃしない!」

 理事長は声を荒げ、訴えかけるように言う。

 それまで、よっぽどストレスを感じていたのだろう。

「賛同する者は拍手を!しない者は、かかってこい!私が直々に相手をしてやる!」

 場の静寂が。

 崩れる───少しずつボリュームは上げられ、最後には、まばらだった拍手は歓声の嵐に変わった。

 俺は全てを把握出来なかったが、学園がさまざまな物と決別したということはわかった。

 ……とまあそんなところで。

 俺が入学してからここに来るまでに、かなりの時間がかかった……だがしかし、満を持して、ヤバい時間がやってくるということだ。

 あともう少しだけ物語は続いて、俺たちは1年生というものを終えることになる。長いようで短かかった。

 さあ、2年生の間は、今まで以上に気を引き締めなければならない。

 もう、前進するだけでは駄目なのだ。


 あの会場の全員が拍手をしたわけではない。

 協力者の中には、反対意見も多かった。

 もう決まってしまったことは仕方ない……が、例えば、3年生には反対派が多かったが、その想いはどこに収束するだろうか。

 俺たちは一年間をかけて、1年生の生徒の更生をかなり促進させてきた。しかし、

 それと同じことを3年生でしている奴らがいる。

 誰だ?

 それは、過去篇の後のお楽しみ。

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