第六話【学園は世界を震撼させる】続編
研ぎ澄まされた勝負への感覚と、完成度の高い技の数々では、果たしてどちらの方が強いのか……
俺、林道栄徹はその決着を見た。
重力に貼り付けられながらも、しっかりと…薙紫紅と倉谷瑞の、待ちに待った勝負の決着を見たのだ。
〈3-8〉
先に仕掛けたのは紅だった。
ポケットから小石を取り出して空中で殴る……小石はその場で動きを止めて、目の前の空気が砕ける。
「篠方!」
「……!!」
空気が砕けるというのは本来ならおかしい話だが、篠方という奥義は科学的なことを無視できるらしい。
そもそも物体というのは原子やらイオンやらが結合してできているのだ。だからそれをズラせばどんなものでも割ることはできる。
だが、割った後、空気は固体のように別々に分かれることはない。普通なら……それをやってのけるのが篠方という奥義だ。
だが、俺にでもわかるデメリットがある。
空気を砕いて殴り抜けて……なら、一瞬かもしれないが、自分の前に真空状態ができるのだ。
激しい戦闘で息が上がっているような状況では使わない方が吉だろう。
「【激動】」
それに対して倉谷は手をグーにして前に出して、指を勢いよく開いた。そして……
「!」
吹っ飛んだのは紅の方だった。
錯覚かもしれないが、紅の右肩あたりに何かがぶつかった気がした。
「な、何を……」
「威力が弱いな…お前が弱ってるのか」
「うるせえ!」
本来なら篠方より弱い奥義なんだろうが、紅はかなり体力を無くしている……だから手のひらで破られた。
篠方は使わない方が良さそうだ。
それよりさっきの奥義…アスカ。
あれの原理は本当に恐ろしい……え、なんで分かるのかって?そりゃあ俺は元殺人鬼、解析の能力の一つや二つはある……
というか、奥義は異能ではないから、すぐにネタが割れるのだ。一見超常的なことをしていても、よくよく見れば実に科学的なのだ。
アスカは、サッカーボールほどの大きさの衝撃波を飛ばす奥義らしい。
その衝撃の力の源は、『大自然鼓動』と呼ばれる物だった。大自然鼓動とは、地球に関連する運動のエネルギーだ。地殻変動や引力、自転の回転力に公転の移動力。
アスカは、そういう運動の『流れ』を足の裏から手の中に集めて、放出できるのだ。
「……」
「ぐっ……!」
紅はこう考えただろう。『篠方はやめよう』。
体への負担が大きいから……
そして前進、もとい彼は突進していった。
その決断自体は正しかった。但し、
「【劇薬】」
倉谷にはそれに対応する為の時間が十分にあった。
「【逆鱗】」
ぱんっ、と音がした。すると突如、紅は立ち止まる。俺にはこの時、何が起こったのかわからなかった。
紅は何か、周りを見回しているようだったが、そんな場合じゃないのは一目瞭然だった。
倉谷が目の前に来ているのに、紅はそのさらに遠くの景色を眺めていたのだ。
「……⁉︎」
「【激白】」
「…………!!!!!」
その時…紅は絶望の顔をしていた。
俺は後で分かった…紅は見えなかったのだ。
倉谷が。奥義…アリアによって、意識下から消え去っていたから。
そしてさらに、紅は肩をポンっと叩かれた。
それから…紅は動けない。上を向くことすら出来ない。ただ、下を向いて、凄い顔をしていた。
だがあれは知っている。
あの表情は…諦めかけた人間がよくするやつだ。
「こ、んの、野郎ぉおおお!」
だが。紅は殴りかかった。諦めてはいなかったようだ……だが、しかし。
「……」
その拳はあっけなく止められてしまう。
「俺に勝つって……?」
「な、クソ!離せ!」
「できるもんならやってみろよ」
すると、倉谷はさらに能力を使った。
狭かった廊下が、縦にも横にも無限に伸びて…ついには広大な白い空間になった。
そして奥義『アリス』が発動する。
「……う、うおっ、な…!!!!」
紅がゆっくり少しずつ、後ろにズレていく。
本人の意思に反しているようだ……後退する速度は少しずつ
「それは相手を長距離ぶっ飛ばす技なんだよ。さあ、お前は残り1時間弱で俺を倒さなくちゃならないわけだが、1キロは吹っ飛ぶだろうな……」
「や、やめろ!」
「じゃあ、速度が出る前に俺を倒せばいい」
「……ちっ……!!」
すると紅は、投球フォームをとった。
「……!」
手には小石が握られている。
その目は倉谷を真っ直ぐ見据えている。
そして、振りかぶって、投げた!
「篠方……じゃないな?【激動】!」
倉谷は衝撃波を飛んでくる小石に放った。
だが。ここで、予期せぬ事態が起きた。
「……!」
小石が衝撃波にぶつかって、木っ端微塵になると思いきや……なんと、速度を落とさずに貫いたのだ。
「……何⁉︎」
「ええ⁉︎」
俺は思わず叫んでしまった。
だがそれでは終わらない。貫いた小石は倉谷に真っ直ぐ飛んでいき……腹に直撃したのだ!
「がっ…!!!……何……だと……!!!?」
「どうだ!」
紅はガッツポーズをする。
後退が止まったのだ。彼は走り出した。
がしかし……
「激白『ハイドロ』!」
「え?」
その瞬間だった。紅は突如ぶっ飛ばされた……俺は目を離していなかったが、いつのまにか消えていた。
アリス・ハイドロ……?
「ぎゃあああああ!覚えてやがれええええ!」
悪役のような捨て台詞と共に、紅は地平線の先に消えていった。これは……まずい。
残り時間はあと…50分!それだけしかないのに!
事態は最悪だ……!
「……林道君、少しお話しようか?」
「え!?」
そして何故か話かけられるし……
〈5-4〉
「とは言っても、会話というより問答だ。質問に答えてほしい」
「はっ…どういう義理でそんなことをしなくちゃならねえんだか……まあいい、質問?すればいいぜ。だが俺は黙りたい時は黙るからな」
「君、どっちの陣営につくんだよ」
「……!」
まあその話とは思っていた。
その平等公平なゲームにおいては大切なことだ。
陣営の戦力は同じにしないといけないから……
「そもそもどうしてここに来た……君のことはよく知らないが、しかし人助け部と交流があることは知っている。だが紅と仲良しというのは聞いたことがないな……」
「まあ…確かに俺はあいつの敵にも味方にもなったことはねえ」
「なら、どこかの組織に入ってるのか?それで、何か言われたのか?それなら納得できるが……」
「いいや」
俺は否定する。
事実!庵内さんは紅の危機でも「助けてやれ」とは言わなかったのだ……様子を見てこいと言うだけで。
「じゃあ…さっさと答えろ、どうしてここに来た」
「俺が紅の逆を目指してるからだよ」
「……?」
俺は、思考異常を喪失し、罪を償って、生まれ変わった。過去の罪が消えることはないが、俺は確かに新しい自分になったのだ。
そして俺の元に現れたあらたな思想は……
「俺は正義の味方になりたい」
「……なりたい、ね。名乗ってたんじゃないのか?最近は……というかそれ以前も」
「違う。以前の俺ならそう言って殺人に明け暮れていたが……今は、子供の頃に漠然と夢見ていたヒーローなんか目指しちゃいない」
「じゃあ、なんだよ」
「……まあそこから先は自分でも分かってない。だから本当はまだ名乗っちゃならないんだ」
「なんだそりゃ」
「だが…気づけたことがあった。どんな人間の視点からでも悪に見える、絶対的な悪は存在するってな。俺はそれを潰したい」
「……それもまた極端で子供っぽいな」
「だからこそ」
「?」
「紅のようなやつは死なせちゃ駄目なんだよ……正義の味方と『悪の味方』は両方存在しないと駄目なんだ」
「ほう……」
すると、彼の顔は少しだけ驚いた顔をした。
「それは分かってるんだな……だが、話がそれでしまったな。結局君はどっちの陣営に入る」
「……まだ決めねえ」
「ん?」
「紅がお前に勝つまで…待つ」
「……フン」
会話は終わった。そして、倉谷はまたずっと先を見据えていた……その先には、一つの点があった。
〈4-7〉遥か先。
俺は……かなりぶっ飛ばされたようだ。
林道君と倉谷がもう見えない。
さあ、どうするか……俺は走って向かいながら考えることにした。
「……」
あいつは今きっと、俺に失望してる……
俺があまりにも簡単にこんなにぶっ飛ばされたから…だがあいつ、結構鬼気迫っていたような気がする。
とにかく。
まだ、いまいち本気になれていなかった俺が悪かった。「本気を出せば出来るんだ」というと信用できないが、少なくともこんなヘマはしなかっただろう。
本当に舐めていたのは俺だった。
……のかもしれない。
しかしどうやって勝つかを考えなければならない。奥義使いに勝つ方法……それも短時間で、体力の少ない状況でやってのけなければならない。
「……」
あいつの『ハイドロ』とかいうのは置いておいて、有効打になる攻撃を考えよう。
まず、篠方────しかしこれは使えない。
使っても残り1…か、2回。そしてそれで決めなければ、後の戦いは不利になる。
あ!でも、一つ良いのがあった……『溶撃』!筋肉に負担のかからない篠方だ。ゆっくり動かす技だから……しかし相手を溶かしちゃうんだよな。
でも何かしら使いようはあるだろう。
採用。
投石────これは本当に良さそうだ。
あいつの衝撃波…『アスカ』を破壊できた。
殴るのに比べて時間のかかる攻撃ではあるが、しかし採用する価値は十分にある。
あとは…神拳奥義の打ち消しというのがあったが(2話桜原編参照)、倉谷には使えなさそうだ。
俺ももっと持ってないものか、奥義を……しかしこれ以上はただの殴る蹴るで、あいつにいなされそうなものばかりだ……
……いや、まてよ?
そんなことはない……そんなことはない。
そうだ、あれがあるじゃないか、あれが……あ!そうか!!倉谷のあの技って……!
「……」
そう考えると、あいつも恐ろしい。
あいつは技術を悪用するつもりもないのに、あれほどの理論を使いこなせるとは……人間なんか、戦争の時が一番発展するものだろう。
いや、『あれ』だけじゃない。
いかに多くの超常的な科学が彼に味方しているか、わかると怖くなってきた。
「……!」
見えた。倉谷と林道くんだ。
もうすぐに着く。
さあ、出会い頭に攻撃してやるか……あいつは確かに凄く見えたが、タネが割れればさほどでもなかったな。
「うおおおおおおお!」
「来い……紅」
俺は両手を前に出して、ぱんっ、と音を鳴らした。
「──────!」
その瞬間。倉谷の目は俺を捉えられなくなる!
これら先ほど俺が受けた攻撃『アリア』と同じだ。音がなって、相手が見えなくなった。
だが、それ以前に俺はこの攻撃を受けたことがあったんだ!入学してすぐの頃に……クラスメイトから!
右から声がしたと思ったら、左から攻撃され、廊下の端までぶっ飛ばされたことがあったのだ!
「はぁあああ!」
原理はそれと同じ…なら、『後で教えてもらった』俺にはその対策も出来るし、相手に仕掛けることも……!
と、その時だった。
俺が倉谷の背後に回った時、ぱんっ、と、音がした。
その瞬間、視界に異変が生じた。
真っ暗で、何も見えなくなったのだ。
「…⁉︎」
「逆鱗『ハイドロ』」
そして、そんな声が聞こえた……俺は何も見えないまま、頭に激痛を食らって、倒れ込んだ。
かかと落とし。さらに
「かっ……はっ……」
「どうした……そんなものか、悪の味方は」
「……!!」
「次は……俺のターンでいいんだよな?」
「ぐっ……はぁ……はぁ……!」
「絶望しろ……『敗北』を刻まれながら……お前が自惚れたことを後悔させてやるから」
「─────!」
〈3-8〉倉谷瑞の奥義。
激流:広範囲に斬撃を与える。
必要動作:綱を握る。
激動:衝撃波を飛ばす。
必要動作:指を折りたたんで開く。
激震:相手の動きを停止させる。
必要動作:どこかで衝撃を体に与える。
逆鱗:相手がよく見え自分が見えなくなる。
必要動作:手を叩いて音を出す。
劇薬:次の攻撃力と速度を上げる構え。
必要動作:姿勢を低くする。
激白:相手を遠くまで吹き飛ばす。
必要動作:相手に一定時間以上触れる。
────────────────
「おいもうやめろ!やりすぎだ!」
「これが決闘というものだ!どうせ死にやぁしない……外野は黙って眺めてろ!」
声が…響く。
俺の意識は朦朧としていた。
身体に浴びせられる幾多もの打撃。それが来ることをわかっていても、俺は避けられなかった。ああそうだ、前にも壁に打ち付けられたことがあったっけ……
「……」
出てはいけない、人体が破壊される音が鳴る。
だがさっきから、ダメージは入っていない……これ以上は死ぬから、達成が守ってくれているのだ。
だが痛さは同じように伝わってくる。
異能のように直前で消えたりしない、ちゃんと当たる拳なのだから……なんだか変な感覚だ。
倉谷は怒っていた。
静かに、激しく、情熱的に。どの言葉が…もしくはどの動作がトリガーになったのかは分からないが、とにかく俺が許せないらしかった。
「……馬鹿……め……」
俺は声を振り絞って彼を煽ることにした。
「無駄に体力を消耗してる……な……」
「黙れ!!!」
蹴飛ばされた。俺は立ち上がれない。
体力も何もかも限界が来たようだ……俺の意識は朦朧として、もう前が見えなくなる……
「お前が俺に勝つって……?笑わせるな…!俺はそういう言葉が一番嫌いなんだよ……!!この俺が負けてたまるか……!!!」
「……」
「もう二度と……同じ轍は踏まねえ!!!!」
「…………」
走馬灯のようなものが見えた。
ということは恐らく、俺は倒れた…倒されたのだろう。つまり負けた……戦場なら、死んでいた。
いや、殺されないけど……
「……」
俺が見ている光景は何か……
……わからない。ただ、俺は黒い空間に居て、テレビのように流れる映像を見ていた。そこに映し出されたのは宇宙だった。……宇宙?
「……?」
宇宙といえば……そうだ、庵内さんと宇宙で戦ったことがあった。天使の力を借りて……最強vs最強の戦いをしたんだっけ……あれも随分前の話だ……
あの頃の俺は今に比べればずっと強かった。
……今の俺はあの頃に比べれば全然強くない。
だけど……確かあの時、何かあって、戦いの後、俺は前より強くなったような……なんだっけ?
とにかく、悪い気はしない出来事だった。
何か……思い出せない。
こんな経験、もう忘れないものだと思っていたけど……意外と忘れてしまうものだな。
よし。
そんなことより、さっさと戻らなければ……時間はあと40分……も、ない。ここから何とかして勝って、理事長の元に行かなくてはならない。
「なぁんだ、言葉は忘れても、私の伝えたかったことは忘れてなかったみたいだね。偉い偉い。」
「…………」
「どうした?返事をしろよ」
「……⁉︎」
真後ろにいたのは、あの人だった。
俺は振り向くと同時に少し身構える。
「庵内……さん……!」
「やあ。その通り、庵内湖奈々だよ。元気してた?紅くん。直接会うのは久しぶりになりそうだね」
「……?」
「まあそれはいいとして……案内するよ」
「⁇⁇」
「早く着いてきな。ここは君の記憶の中……つまりは走馬灯だ。君の今までの人生を振り返って、彼に……刃渡瑞に勝つ方法を考えようじゃないか」
「……庵内さん、攻略法はいいんだけど……俺にはもうそんなに時間がないんだ」
「そうだね……そしてそれは今、全人類がそうだ。でもね紅くん、今のまま戻ったって勝てないよ?」
「それでも……」
「勝てないよ?」
「……」
「おいで」
俺は以前にも夢の中で庵内さんに会ったが、あの時は『会った』という感じがしなかった。
だが今は、はっきりと感じる。
復活して、なりを潜めて、ついに俺の前に現れたのだと。何が目的かは知らないが……だが、わかる。これは妄想じゃない……彼女はたしかにそこにいる。
……それにしても、庵内さんと前に戦った時(絶級ティーチャー)はずっと大きく見えたのに、背が伸びると景色は変わるもんだな……まさか庵内さんを見下ろす時が来るだなんて、想像もしていなかった。
それは嘘だ。
だが、俺も成長したということか……
「さて、夢の中…もとい走馬灯の中だから、君の記憶にあることは全て再現できることになるけど……まあ私が操ってあげるよ。はい、これなんだ」
周りの様子がパッと変わった。
そこは、ありふれた『家』の玄関。
「……」
「正解は旧薙紫家。君は以前住んでいたこの場所で、惨殺された家族を見て、原因が自分の呪いにあることに罪悪感を覚えて、思わず逃げ出した……そして」
また変わった。
今度は薄暗い自然の中に。
「この丘の森の中で自給自足の生活を送ろうとする……がしかし、体を鍛えたのは良いものの、すぐにその生活は破綻して、」
変わる。
銀行だ。火事になっている。
「君は誰も傷つけずに銀行強盗をやってのけ、警察に保護される。そしてそれがきっかけで、裏の社会に参入することになる。『クリムゾン』とか『殺撃崩し』とか言われ始めたのはこの頃……そして一年と半年ほどが経過して、私や巫くんに出会う」
景色は戻る。
再び宇宙に戻ってきた。
「ねえ、紅くん、ここで言った言葉を覚えてるかい?」
「……何でしたっけ。忘れました」
「思い出せない?」
「……思い出したくない……ような……」
「それは多分、逃げたいんだよ」
「……?」
「あのね。もう一度言うよ。」
庵内さんは言う……〇〇〇〇〇〇〇〇……
────……◇◇◇◇……
「……まあそんなところで、私たちは封印され……そして君は思考異常の専門家を目指して奮闘を続ける。中学時代は孤独に過ごし、」
急に明るくなる。中学の……教室だ。
ああ、端の方に俺の席がある。
「犯罪者、暗殺者、格闘家に殺人鬼、魔物に妖怪、色んな者達を相手にして、そして……」
「もういいですよ」
「時破田心裏ちゃんの紹介により、天角学園に入学……そしてアブノーマルな者達の集まる学園で、ようやく初めて『友達』ができる。それからは、呪いの効果こそ強くなるものの、巫くんと仲良くなれたり、色んなコミュニティと繋がりを持てたり、いいことずくめ……つまり、君にとって居心地が良くて、めでたしめでたし……で、君の人生は合ってるかな?」
「……合ってますよ」
とても嫌な気分だ……そうだ、この人は完全悪、久しぶりにあった昔の友人ではないのだ。
「いやはや全く、今話してた間、ずっと戦ってたってんだからね。ねえ紅くん、私は君が彼に勝てないことの方が不思議だ……彼なんか、戦闘経験もほとんどない、甘ちゃんじゃないのかよ」
「……まあ」
「君はね、紅くん。さっきのアドバイスをちゃんと胸に刻み込めば、簡単に勝てるんだよ。覚えたかい?」
「……はい」
そうだ、この感覚は悪くない。
まるで生徒と教師のような雰囲気、これは素直に懐かしいと感じる。
だが俺はそれでも不安だ。
「つれない顔をしてるね」
「え……」
「それでも不安なら……そうだね、どうしてほしい?横でチアガールでもしようか?」
「……⁇」
チア内湖奈々、爆誕せり……?
「それか…あ、そうだ、名前をつけてあげよう。」
「名前?誰のですか?」
「技の、だよ。例えばそうだな…………」
俺は。
技名を伝授された後、眠くなって倒れた。
だがきちんと…………覚えている………………
何故だろう、あの人はどうしても好きになれないのに、とても勇気が湧いてくる…………!!
「これ……だけ……痛めつければ……分かってくれたか?紅……!お前は俺には勝てないんだよ!」
俺は目覚めた。
途端、体に激痛が走る。
が、痛くない……俺はもっと酷い痛さを知っているし、もっと痛めつけられたことも、ある。
「……はぁ……はぁ……聴こえて……ないか」
足音がして、彼が去っていくのがわかる。あいつは今、勝った気でいるんだろう……だが……
「待……て……!!!」
「……!?!?!?!?」
引き止めた─────引きつらせた。
彼の顔を……彼はこちらを怖がるように振り向いて、ゾンビでも見るかのような目を向ける。
「俺は負けるつもりは……ねえ!!!」
「往生際が……悪いんじゃねえのか!ええ!?なんでまだ立ち上がるんだよ!さっさと倒れて……ここにいてれば安全なのに、なんで立ち上がる!!」
「さぁぁな……俺にも分からねえ。だがどうやら俺には死に場所を探す癖がついてるらしい……なあ倉谷」
「……なんだよ」
「お前が俺に勝つ方法を教えようか」
「……!!!!」
〈5-9〉
『君が私に……勝つ方法を教えようか。』
彼女は、一瞬の隙が命に関わるような勝負の合間に、そんなことを言ってきた。
その時の彼女はまるで教師のようで、それでいて自殺志願者のようであった……だがしかし、発せられた言葉はひどくポジティブなものであった。
「もう駄目だって思った時は、自分よりも奇跡を信じるんだ。そして前進するんだ……
そうすれば、たとえば1センチ先の世界で、誰かが助けてくれるかもしれない。」
「馬鹿にすんのも大概にしやがれ!!」
倉谷は拳を準備して襲いかかってくる。あの構えは恐らく、普通に殴った後に激動で追加攻撃するつもりだろう。
「奥義使いの弱点」
「!」
「異能と違って、完成度の高い奥義を使うには『慣れ』が必要なんだろ?だから、本当はもっと沢山会得しているのに、選りすぐりの物しか使えない」
「それがどうしたァ!」
彼の連撃を避ける暇はない。攻撃で相殺する!
「お前の攻撃はもう見切れるってことだよ!」
「……!」
俺は、彼の拳も胴体も、連続で殴り続ける。
手出しはさせない。この奥義は、『篠方』とはまた別の意味で相手に拳の邪魔をさせない奥義!
「がっ……!?!?!?」
「『天戦増幅』」
連打。連打。連打。邪魔はできない。
さて、何コンボ行けるか……今の体力で……!!!!
「アぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああドぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
「うおぁあああ!!!」
「9(ナイリー)……」
「そ、それは……お前どこで……⁉︎」
「9(ナイン) !!!!!!」
「がああああああああああああああ!!!」
この技のデメリット。
無理やり相手に、次の攻撃に対する防御や反撃をさせないのだ。だからとんでもなく燃費が悪い。
99回の連打で倉谷を思いっきりぶっ飛ばした。
だが本当にもう、体力は限界だ。
“でも”
「……」
「お前……さっき気絶してた時に何かあったな……何をした……この技をどこで知った!」
“君は限界のまま頑張るのが得意だもんね”
「……助言と、命名をされただけだ……倉谷、いまからそっちに行くが……準備をしておけよ」
「……!!」
激流は刀にある『切断率』という概念を風に乗せて周囲をみじん切りにする。
激動は地球の『大自然鼓動』というエネルギーを手のひらで爆発させる。
激震は『生体波流』という生物の駆動する流れを乱して相手を止める。
逆鱗は音を出すことで相手から見えなくなり、相手の位置がよくわかるようになる。その原理は実は自分と相手を催眠にかけているのだ。
劇薬は太陽光のエネルギーを変換して人体の回復力を急速に上げる。
激白は世界のxyz軸の中心を勝手にずらして認識して座標を確認した相手の場所を修正、もといぶっ飛ばす。
そしてさらに全体の性能強化がまだある。
「お前は俺の力を、俺はお前の力を分かっている……そして俺たちはもうどちらも限界だ。だから次で終わりにしよう」
「……ああ、そうだな。だが……」
彼は立ち上がり、姿勢を低くして構える。
「こちらにもまだ裏技がある……お前にはやはり勝ち目は一つもない……!」
「…それでも前進することだ」
「はっ……なんだよ……勝率が0パーセントでも諦めねえ!とか言うつもりか?夢見てんじゃねえよ!」
「俺は前しか見えねえよ!!」
俺は走り出した。
〈5-8〉
「激流!!」
「迫撃!!」
迫撃の篠方。これのことを忘れていた。
「……くっ……!」
篠方の中でも異質なこの技…迫力を押し通すという性能だが、こういう時に使うのだ。
俺は睨みつける。
倉谷はそれを無視できない……高度な理論を持ってする奥義はこれで乱れる!
「激動!!」
今度は衝撃波が来る。俺はポケットから小石を取り出して、空中で殴る──────!!
「篠方ぁぁ!!」
使ってはいけなかった。
だがここまで来たのだ、無茶はする!
空気にヒビが入り、粉砕する……そして威力同士は相殺され、俺はまっすぐ倉谷の前まで現れる!!
「……!」
「さあ行くぜ!『天戦……」
「させるか!」
すると、倉谷は俺を足で蹴り飛ばす。そして手をパンっと叩いて、俺の視界を奪う……
「逆鱗『ハイドロ』……!」
「……クソっ!!」
迫撃の篠方でも破れない。不味い……
ならば、仕方ない、温存しておきたかったが、あれを今使うことにしよう…!
「『天開蒼炎』!」
俺は扉のように空間をこじ開ける。
そして脱出させる……視覚を、催眠状態から!
「……なっ!!?」
「攻撃を中断させる技……そうだ、お前も持ってたよな?気をつけなくちゃな……」
「紅ぃいいいい!」
「行くぞ!!」
「劇薬『ハイドロ』!!」
ハイドロ化…その原理はわかった。ようは『装填篠方』と同じ、その奥義の進化系なのだ。強力になるが、その分対価があり、発動条件かクールタイムがある!
倉谷の体は急速回復してゆく……
が、あれは便利だが、多用は出来ないはずだ。
「そして……激白『ハイドロ』!」
「うおおおおおお!」
次にやってくるのは……ぶっ飛ばす技!だが原理が分かればなんてことはない、あの技は自分と相手の距離が正確に見えないと使えないのだ。
「『精霊の弓』!!」
「!……投擲か!」
俺は倉谷に真っ直ぐ小石を投げる!
そして持ってきた小石はこれで残り一つ…!
「激流『ハイドロ』!!!」
「……!」
ここで使うか……アズル!
俺はやはり思い出す…ティラバスでのことを。
倉谷瑞には得体の知れない強さを感じていたものだ……だが何故か、こうなることを分かっていたのか、いつかは乗り越えなくてはならない壁だとも思っていた。
それももうすぐ終わる。
「うおおおおおお!!!!」
小石は二等分に。四等分に。八等分に。十六等分に。三十二等分に。六十四等分に。どんどん切れて、最後には粉になって、何も見えなくなった。
「勝負だ!!紅!!」
「……!」
まだ……俺の前方にはアズルがある。
なら俺はこれで答えるのみだ!!
「最終奥義!!『装填』篠方ぁああああ!!!」
空気が切れ。割れ。そして全てが元に戻る頃、
俺たちの心は灼熱だった。
〈6-8〉肯定してくれる友達。
否定してくれる友達。匿う友達。自首させる友達。色んな友達がいるけど、君は誰が欲しい?
─────────────────
「激動『ハイドロ』!!!!」
直に攻撃を受けた。衝撃波……それも強烈!!
「がっ…はっ……!!」
「そして…激震『ハイドロ』……!」
俺は膝をついた。
全く動けなくなったのだ。
しまった……!……油断など全くしていなかったが、本当の本当に体力が足りなくなった……!!!
避けられなかった……!!!そして食らってしまった……相手を動けなくする奥義…アシドを……!!!!
「……もう……懲りた……よな?……紅……」
「!!!!」
倉谷は俺に話しかける。
「さすが……に…俺も限界だ……あと……20分!……立ち上がらないでくれよ……!」
「…………」
俺は。
まだ秘策がある……達成『マゼンタ・エモーション』だ。これで俺の感情を一旦冷静にすれば、生体波流も変わる……だから動けるようになる……!
「はぁ……はぁ……」
「奇跡は裏切ったんだよ、紅……」
「!」
「何歩進んでも……無理なもんは無理なんだよ!!お前は俺に勝てない!!どれだけ無理をしてもな!!」
「……そんな……ことはない……!」
「……!?!?」
俺は立ち上がる。
倉谷は本当に恐ろしそうな顔をして、少し後退している。俺は、前進する。
「嘘だろ……!?!?ゾンビか、お前は!!!!」
「体は丈夫な方なんだよ……いいかもう一度言うぞ!!」
俺は叫ぶ。
「お前は…ただ…綺麗に技を覚えただけ!俺とは戦いの年季が違うんだよ!!」
「……だったら…はぁ…!……勝ってみろ!」
「そうだ…!負けてらんねぇんだよ!俺は!こんなところで…!」
また彼に向かって駆け出す。
向こうもこちらに駆け出す。
向こうは『ハイドロ化』を全て使って、もう大技は使えないはず……と思っていたが、まだ秘技があるのだろう。でなければ、あんな、獣を見るような凄惨な目で俺を見ることはできないはすだ。
「お前に負けてちゃ駄目なんだよ!!」
対して俺は、
激しいぶつかり合いはもうほとんど不可能だ……溶撃も迫撃も、精霊の弓も天開蒼炎も、全部このあとは役に立たない。かと言って、残る天戦増幅も、一撃毎の威力はそこまでない……!
「これで最後だ!紅!!」
「来ぉい!!!」
ならば───────耐える!!!
「激動…『ハイドロブレイブ』!!!!!!」
〈6-8〉
まるで自転に置いていかれたような気分だった。
衝撃は俺を突き抜け、同時に全てを奪っていくようだった。……何を奪われた?
分からない。だがしかし、人間の尊厳は暴力では奪えない。そういうものだ。いくら汚されても、無くなることは決してない。
後は、守るための武力、教養、あと覚悟、それから気力があれば、人間は皆、最強になれる。
「なっ……んっ……で……!?!?!?」
倉谷瑞は、俺が恐ろしかっただろう。
俺も俺が恐ろしかった。生まれて初めて、自分が『底の知れない闇』を抱えていることを知った。
自分が、というよりこれは人間全員の話なのかも知れない……だがとにかく俺はこの時、限界を超えるなどということは、この世には無いということを知った。
限界はなくて、あるのは無限に続く闇なのだ。
「なんで倒れねえんだ!!!!お前は!!!」
「……て」
「……はぁ……?」
「『天戦……増幅』!!!!!!」
「……!!!」
俺は。一撃を入れる。入れたら次に、そしてまた次に。次に。次に。繋げる────これは道だ。
壁を乗り越えて、壁を砕いて、前に進むための、道作り……!
「がっ……なん……で……」
「アドおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
あと、どれだけ殴ればいい?
どれだけ乗り越えればいい?
どれだけ闇に潜ればいい?誰でもいいから教えてくれれば……俺はいくらでも前進出来たのだ。
そして庵内さんが引き金になった。
「3(スリーハンドレッド)!!!!!……」
今の俺は誰にも負ける気がしない。
無論、倉谷にも、誰にも!
「……お前の……か……ち……だ……紅ぃいいい!!!」
「58(フィフリーエイト)ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
そして。
最後の一撃まで全弾が、倉谷に命中した。
そこからは、静寂だった。
………………
…………
……
篠方は「物理学を超越する」というのが謳い文句だったが、別にこれに限らず、奥義使い(マスター)の使う技は大抵、科学法則の域を超えている。なら……
俺たちの戦いで、周りはどうなっただろうか。
超越したなら、後でついてくるかもしれない。
「……!」
能力の切れた林道君が行動を解放され、倉谷は気絶、俺も動けなくなったその時。
校舎が無限に距離のある状態から元に戻り、それまでと同じように存在している廊下の床だけが崩れ始めた……落ちていく感覚が分かったが、もう動かせる筋肉は残っていなかった。
「…………ない!……まれ……紅!」
意識が薄れていく。
林道君の声も聞こえなくなっていき……そして俺は目を閉じて、真っ暗な世界に身を投じた。
理事長のことが気がかりだ……
だが……
倉谷……マリー……シルフ……お前たちの、封印計画は……上手くいってしまった……よう……だ……な……
お…………れ………………は……………………
【続く】




