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Angel Break!【1年生編/最終世代の学園】  作者: 山野佐月
【1年生編/最終世代の学園】
51/66

第五話【シールドはかく語りき】神国

 ティラバスの審判。

 後に語り継がれる一つのお話。この国は滅ぶべきか、それとも否か…それを決める裁判。

 3人の封印能力者シールドに一票ずつ投票してもらい、その多数決の結果を尊重しつつ俺が最後に判決を下す。

 少々訳ありとはいえ、怒っている12人の男ではなくただの学生に凄い任務を理事長は与えてしまい、そして俺はそれを頂いてしまったわけだが、国を揺るがす大事件の裏側で、もう一つの事件が起きていたなんて、この時の俺は知る由もなかったのであった。


 ティラバス4日目。朝ごはんはみんな済ませていたので、皆それぞれ別行動を取り始めた。

「俺は農業の方を見てみたい」

「私もですわ」

「hvkffjyf))gjbjugf(私も)!」

「別行動…まあいいや。俺は今日は特に考えてなかったな…都市から離れた街の方へ行こうかな。倉谷君は?」

「……その前に、二つ言うことがある」

「?」

「何だよ瑞〜、真剣な顔しちゃってよ。かっけえじゃねえかよ」

「どうしました?」

「まず一つ…明日、神王と対談する時間を取れた。全員王宮に行くぞ」

「⁉︎」

 さらっと凄いことを言った。

 神王って、この国では様付けで敬われてる一番の権力者じゃないか。まあ言われてみれば何も話さない方がおかしいけど…

「いきなりですわね」

「ああ…俺もびっくりしたよ…昨日ダメ元で申請してみたら、あっさりOKだったんだ」

 ならば逆に、向こうもこちらに用があるということだろう。都合がいい。王宮なら…この国の歴史がよく知れるだろう。

「そして二つ目…昨日実は、理事長から連絡が届いた。超重要事項だ。だが昨日俺は少し遅くまで外出していてな。連絡が遅れた」

「………」

 よかった。なら俺とキャロルとマリーが大の字になって寝ていたことはバレてないな。

「それにシルフィードはともかく3人を起こすのは悪いと思ってたな」

「ちくしょー!!」

「で?その重要事項ってのは一体何なんだよ」

 シルフィードは言った。

「……理事長の方の件で少しイレギュラーな事態が発生したらしい。念のため戦力が欲しいとのことだ」

「……つまり……それって」

 な、なんの話をしているんだ?

 理事長の方の件?

「おいお前ら、理事長がどうしたってんだよ」

「『審判』を1日早くしてほしいとのことだ」

「‼︎」

 ………………。

 ……それじゃあつまり……

「判決まではあと、今日と明日だけってことか……?」

「ああ。そして明日は潰れる」

「……なぁ、何があったんだよ…いやそもそも理事長は何をしてるんだよ!お前らが必要だなんて相当じゃないか!」

「それについては我々もあまり知らないし、知っていることも言えない…ただ一つ言えることは、理事長は悪事を働いていない」

「‼︎…」

「紅。心配することはない。日本のことは気にするな…とにかく今はこの国に集中しろ」

「…信じていいんだな」

「少なくとも嘘はついていない」

「……わかった」

 そしてシルフィード、マリー、キャロルは出発

 していった。俺もそろそろ行くとしよう。

 と思ったところで、倉谷君が木の幹に腰を下ろし、パソコンを広げた。

「…倉谷君は今日、どこ行く予定?」

「俺か?俺は少なくとも午前の間はここにいるつもりだ…政治面についての調査をする」

「へえ…でもネットとかでわかるものか?」

「いやネットじゃない」

「?」

「これ盗撮してるんだよ。今日新しい法律を作るっていうから、議会が気になってな」

 普通に犯罪だ…しかし俺は悪の味方なのでセーフ(この理論は便利すぎるから今後は使用を控えなければ)ということで、俺も政治面に興味が湧いたので共犯になることにした。

 午後だけで国をぐるっと回ることになるが、まあ狭いからなんとかなるだろう。今日はハードになるだろうが、実質今日が最後だから仕方ない、頑張って行こう。

 大丈夫、初日に比べたらマシだ。

 倉谷君が昨日遅くまで出かけていたのは盗聴器とカメラを仕掛けに行っていたかららしい。

「!」

「始まったな…」

 だんだんと議院の中に人が増えてゆき、最終的に画面には7人の議員が映されていた。

 円卓に座っている。

「紅、わかるか?机は丸くても椅子が違うのが。あいつだけ明らかに高価なものに座ってるだろ」

「本当だ…一番最後に来た奴だな」

「あれが実質的に政治を支配している男…長官『リグナール・スグラ』だ。特にあいつの言動に注意しとけ」

「わかった」

 そうして会議は始まった。

 その全貌がこちら!


 〈6-8〉

「『小麦狩り』を行うに当たって必要な法案についてだが…取り立て量の倍増と農家からさらに徴収する分については前回決まっていたな」

「はい…今は国政の不安定な時期、汚い民族からしっかり納めてもらわなくては」

「そもそも汚い民族など必要ないのだ…」

「いやいや貴重な財源だろう」

「しかし…彼らもそろそろ出すものもなくなってきているのでは?」

「何?……貴様私の政策に文句でもあるのか」

「ないです」

「しかし長官、それは事実ですぞ。彼らはもう何も持っていない。いわば味のなくなったガムとでもいうべきでしょう」

「ふむ…なら古代この場所で行われていたという奴隷制を復活させてみてはどうだろう?」

「奴隷制…なるほど!汚い民族を外で働かせて報酬は我々の元に、さらに一時的にとはいえ奴らを外に追い出せる…一石二鳥だ!」

「ではその方向で行こう」

「そういえば今朝、ホテルに避難している権力者達から苦情が来ました。料理が不味いと…」

「フン、それも何もかも汚い民族がいるからいけないのだ…じきに解決する」

「それと、外部からの調査員が4名ほど来国しえいるとか…賄賂を用意しますか?」

「何を言っている。プレゼントだ副長官」

「失礼しました」

「ちょーかん!でもよぉ、国の存続を決める裁判をするらしいぜ!」

「……フン、何を言うかと思えば…そんなことは今までにもいくらでもあっただろうが。金で止まらないのなら、武力で黙らせればいい。我々に都合の悪い判決などさせん」

「流石っす!」

「では総員、小麦狩りの準備は抜かりなく進めるように。我々と国民の生活を守るために、この国をより良く経営するのだ」

「なあ倉谷君、俺はこれからこの長官って奴ををぶん殴りに行きたいんだがいいか?」

「俺も手伝おう」


 〈6-8〉

「おい貴様!ここから先は立ち入り禁止だ!」

「衛兵さんか…あんたどこ出身?」

「……‼︎」

 俺たちは議院の前まで来ていた。

 ここもまた高そうな建物ではあるが、ホテルの時とはまた感想が違う…こんなものいらない。

 金銀の派手な装飾、もしくはあの銅像、あれの一欠片でもあればキャロル達はもっといい暮らしが出来るだろう……壊すか。

「黙れ!!私は汚い民族だったが…今は神王のご加護によって清められているのだ!!貴様にとやかく言われる筋合いはない!!!」

「よし…」

 俺はまず、銅像を殴る。

「『打撃の』ぉ……篠!!!方ァァ‼︎!」

「⁉︎」

 拳は銅像へ────当たったのだが、普通金属を殴った時にする音がしない。代わりに岩が砕けたような音がした。そして殴った箇所にヒビが入り、これは表現しにくいのだが、銅像はガラスのように砕け散った。

「ふぅ。凄いなこりゃ」

「おお、上手くいったな…一番慣れてたからか、打撃はすぐに身についたか、紅」

「ああ。だがまだコツは掴めてない…」

「お、お前ら!」

「なんです」

 衛兵さんはこちらを凄い表情で見ていた。

 大の男が泣きかけている。

「この政治を…どうするつもりだ…⁉︎」

「ぶっ潰す」

「本当に…⁉︎」

「ああ。そもそもこの国は大きく変えてみせるつもりだ。政治も、格差も、衛生も、差別も、全てを改善して生まれ変わらせる」

「…………手伝わせてくれないだろうか!」

 なんと志の高い男だろう。そしてこんな少年達にすがるなんて、なんて現状だろう。

「じゃあ俺たちが次に出てくるまでこの中には誰も入れないでくれ…頼んでいいか?」

「ああ!任せてくれ!」

「紅、敬語忘れてるぞ……」

「頼んでいいですか?」

「任せろ!」

「良し……じゃあもう一つ、中にいる奴らが恐怖するような宣戦布告をしてやろうか」

「?」

 俺は議院の壁に向かい、拳を構える。

 そして篠方の準備をする。

「なあ倉谷君、あんまり俺は怒ることってないんだが…今内心すごくムカついてるんだ」

「そうだろうな」

「つまり篠方のコツを掴むチャンスだよな」

「そうだな」

「なら三つとも…ついでに最終奥義も身につけてみせる。マスターは出来ないだろうが…」

 俺は壁を殴る。一回、二回、三回。

 ヒビは拳を打つほど広がって行き、3回目にはついに砕けた。石はガラガラと音を立てて崩れてゆく。

「慣れてきてるんだ。さあ行こう」

「ああ…俺も手伝わせてもらうよ」


 〈6-6〉

「な、何だ今の音は!」

「ちょーかん、言い忘れてたけど侵入者っす」

「馬鹿野郎早く言え!そして早く行け!お前はこういう時の為にいるんだよ!」

「はいはいっす〜」

「今日はとりあえず解散!皆、別の部屋に隠れるのだ!どうせ汚い民族の強盗だろう…おいシェバエリ、ちゃんと迎撃しろよ!」

「わかってるっすよ…ちょーかんも早く隠れた方がいいんじゃないっすか?」

「フン!私は逃げたりなどせぬわ!汚い民族が来るというのなら好都合、私自らが前に出来たばかりの新兵器の実験台になってやろう!」

「ああ…あれっすか」

「何か文句があるのか!」

「あるぜ」

「うぉわぁあああああ!!!」

 俺達は静かに背後にまで接近した。

 この長官は気づいていなかったようだが、あのシェバエリという女は気づいていたようだ。

「て、てめえら!一体どこから!」

「どこから……ともなくさ。運命にTPOは関係ねえ…ティラバス国政長官リグナール・スグラ、お前は気に入らないからぶっ飛ばす」

「何〜〜⁉︎」

 そうしているうちに、後ろの倉谷君と向こうのシェバエリは睨み合っていた。おそらくもうすぐ戦闘が開始するだろう。

 そしてこちらも…というか気になったんだがこいつは何か武力を持っているのか?

「シェバエリ!やっちまえ!俺にあれを使わせないつもりでな!」

「…ちょーかん、あいつら強いや。特に後ろの黙ってるやつ、相当ヤバいよ。凄い力を封じ込められているけど、そんなの関係ない…なんかの格闘技を相当極めてるらしい」

「知るかーーー‼︎さっさと倒せ‼︎」

「だからさっさと倒すか倒されるかの二択なんだよね…ちょーかん、それでもいい?」

「さっさと倒せーーー‼︎」

「了解っす…」

 するとシェバエリは倉谷君に向かって走ってきた。俺が空気を読んで横に退いたら、倉谷君も前に走った。

「うおおおお『シェバエリの奥義その3』!」

「奥義『導臨』」

 次の瞬間。

 倉谷君が急に座った。

 シェバエリは足を取られ転ぶ。

「なんじゃそりゃーー‼︎」

 正直俺も同じ気分だ。なんかもっと炎が出たりする凄い格闘技が来るかと思っていた。

「無茶言うなよ…異能も使わずに炎は出ない。まあ幻覚を見せることが出来る人もいるが…それに意味はない。何より結果さえあればいいんだよ、戦いというのは。だから…」

 倉谷君は転んだシェバエリの方を見た。

 シェバエリはまた睨みつけている。

「もし俺が刀を持っていたら、君は転んだ時点で死んでいた」

「はっ、どんな想定っすかそれは…実際にはあなたは武器を持っていなかったし、私は死んでないっすよ…!」

「…………そうか、それじゃあ余計に俺の勝ちだな。そんな次元の話をしてるようじゃ…」

「えっ」

 そして勝負は決した。

 シェバエリは後ろを見た…そこにあったのは、俺たちが入ってきた扉が破壊されていたという光景であった。

「君が俺に触れた時に一撃入れた…君の回転に合わせてな。そして回転が止まった時、さらにその先に伝導する…それが奥義『導臨』だ」

「……‼︎」

 正直俺も全然わからなかった。

 まず彼はしゃがんだだけで、力を込めているようには見えなかったのだ。なのに木製の扉を無残に破壊できる…さっきは拍子抜けだったが、時間差でこんなパフォーマンスを!

「…くっ…負けたっす」

「負けてんじゃねえ!死ぬまで戦え馬鹿野郎!おいシェバエリ、聞いてんのか!」

「入れられた一撃に全く気づけなかった…もし彼が刀を…いやナイフでもいい、凶器を持っていれば、私が確実に死んでたっす」

「うるせえ死ね!」

「次はお前の番だぞ」

「お前もうるせえ!ぶっ殺してやる!」

 さあ、今度は俺がゆっくりと長官の元へ向かって行く。奴はまだ闘志に火が付いているようだ。そこは本当に大したタマだ。

「うおおお『異形部隊』!」

「!」

 すると、議席の下からロボットが登場した。少々変な文章になってしまったがその通りなのだ…異形部隊。鵺、もしくはキマイラのような、たくさん生物が集まったような怪物の形をしている。種類は様々だ。

「そして…『金剛武装』!だはははは!」

 さらに長官の元にどこからか飛んできた鎧、あれも機甲のようだが、その鎧が長官に武装されてゆく。キンキラキンだ。

「これは合金だァ!人間には絶対に!物理的に絶対破壊出来ない鎧だ!そして選りすぐりの32の武器も搭載されている優れものだァ!」

「選りすぐって32個もあるのかよ?」

「さらには凶暴な異形部隊…お前ら死んだな。いや死ね…死ね!行けえ異形部隊!奴らを捕食していいぞ!」

「紅、一人でできるか?」

「勿論。じゃあまずはこれだ…迫撃の篠方」

 俺は異形供を睨みつける。

 そして途端に、彼らは攻撃を中断する。

「おお」

「な、何を止まってやがる!」

 そして長官はそう言って、俺に向かって銛を投げてきた。大きい。当たれば死ぬだろう。

 だから避けずに突進もありだが、一つここは次の技を試してみよう。

「斬撃の篠方!」

「⁉︎」

 手刀で飛んでくる銛を真っ二つにする。まるで紙でも引き裂くかの如き感触だった。

「ぬううう……!」

「さて…どうする?長官殿」

 そして俺は長官の目の前まで来た。

 彼は随分お怒りのようだ。

「くっ……『金剛乱射』ァ!!」

 ガトリングガン。

 これは流石に篠方では対応できないので受ける。銃弾は当たる寸前で消えてゆく。

「な、え……何ぃ⁉︎」

「じゃあな…そろそろ止めさせてもらうぞ。大丈夫、痛いことはしない…だがその装甲は俺の新技の餌食になってもらう」

「な……なんだと‼︎ふざけやがって‼︎」

「篠方…【装填完了】……!!!」

 俺は構えて尚且つ体を楽にする。

 最大限力を抜いた時点からの打撃は篠方の最大威力…その真似事ぐらいは出来そうだ。

 そして忘れてはならないこと。

 この最終奥義は─────────

「先にぶっ殺してやる‼︎」

 ─────────カウンター攻撃!

 もし、相手が、攻撃の向きと真逆に流れるエネルギーにぶつかった場合、ダメージは大幅に増加する。そしてそれは必殺になり得る。

 篠方は生物に使うわけにはいかない。

 後でトラウマになるから。だから俺は彼の装甲『金剛武装』を狙う。

 彼は俺に対し大きく『斧』を振りかざす。

「【偽・装填篠方───打撃】!」

 だが。

 失敗だった。今の俺のレベルでは、この装填篠方は必殺技にはなり得なかった。

 率直に言うと効果は薄かった。金剛武装に拳は当たったが、完全なる軌道というものから逸れた。脱力してから攻撃するコツが足りないということか。

 長官の頭の上に疑問符がつくのがわかった。

「…だははははは!失敗か⁉︎どうした!」

「…………」

「やはり私の勝ちだ!喰らえ『金剛…」

「仕方ねえ、普通に終わらせるか。かっこよく決めたかったんだけどなぁ!」

「……え?」

 俺は『打撃の篠方』を金剛武装に加えた。

 また、岩の砕ける音がして…そして、見るも無残に合金の鎧は、ガラスのように砕け散った。

「がっ…は……⁉︎」

「悔い改めろよリグナール。人間には上も下もないんだよ…お前がどれだけ上に住んでいようと、明日には違うかもしれない。それが世界だろ。だから差別はダメなんだよ」


 〈6-3〉

「見事。少し時間はかかったが、これで完成だ…お前は今後、今までの10倍強くなる」

「らしいな。それに、物理学を超越するってキャッチフレーズも本当のようだ…ありがとう倉谷君、確かに俺は強くなれた!」

 ダメージを食らったわけではないが気絶して倒れている長官と、その横に立つ女。

 さてこの後、どうすれば勝利になる…?

「…『小麦狩り』に用があるんすか」

「そうだ。悪いが議会を盗聴させてもらったよ…あんなめちゃくちゃな政策を通させるわけにはいかない」

「…………私らは…そんなに間違ってるすか。汚い民族から搾り取ることはそんなに、いけないことっすか」

 凄いことを言ってきた。モラルの低下?にしても開き直りすぎな気がする。

「人間だって生物でしょう。生物は弱肉強食が普通じゃないすか。人間が人間を虐げてはいけないなんてそんなのわかってるっすよ。でもそうしなくちゃこんな場所じゃ裕福に暮らせないからこんなことしてるんじゃないっすか」

「……」

「あなたには日本っていう、帰れば幸せになれる場所があるからそんな甘い主義を持てるんすよ。野生を捨てられる環境が普通だから弱肉強食を忘れられるんです。

 でも私らは違うっすよ。私らだってほんの5年も前までは、今で言う汚い民族と一緒に泥水すすって生きてたんです。

 でもあんたら先進国がこんな暮らしがあるって言ってきたから、みんな敵対してめちゃくちゃになったんじゃないっすか。あんたらは自分たちのことを、それこそ上だと思ってるんじゃないっすか……?

 俺たちは冷静で彼らは野蛮だとか思ってるんじゃないっすか……?ふざけてんじゃねえっすよ!私らは幸せになりたいだけなのに、それをするには先進国の実験台になって、人を苦しめて悪者になる必要がある。なんすかそれ!

 私ら本当に悪いんすか⁉︎

 今より不幸せになれってんですか⁉︎

 嫌っすよ!!私らは裕福に暮らしたい!!たとえその犠牲にかつての仲間がいたとしても!!

 …私らは悪者にならなきゃ幸せになれない。なら人を殺したって、もういいやって思っちゃうっすよ……」

「…………少なくとも、先進国というのがどこかは知らないが、俺たちのことではないな」

「はぁ?」

「だがたらい回しにされてきた仕事…俺たちはどこぞの誰かがした馬鹿みたいな実験の責任を取りに来た。俺たちがお前にそんなことを言われる筋合いはないが、しかし利害は一致してんじゃねえかよ…あのなぁ俺たちは」

 悪の味方だ。

 何を隠そう、俺が救いたい人の中に、お前たちもいる。だから待っていろ、土曜日まで。

 こんな国は終わらせてやる。

 ─────そう言ってなんだか満足し、俺たちは議院を後にした。


 〈3-7〉その後俺は倉谷君とは別れて、都市から離れたスラム街を訪問していた。

 ティラバスのスラム街は皆さん想像する通りの出来であり、酷い。都市部よりさらに生活の質が落ちていて、俺は絶対住みたくない。

 公衆衛生は破綻しかけている。最初は先進国と同じ設備が用意されていたのだろうが、これはどうやら、メンテナンスの仕方を教えられていなかったようだ。

 にしても。

「…………」

 静かすぎる。物音一つしない。

 なんだこれは…こんな現象は聞いていない。

 俺は家を覗いてみた(鍵は壊れていた)。中には誰もいない…そしてその隣も、さらに隣も。

 誰もいないのだから静寂も当然だ。

 想像してみる…今この場所で何が起こっている?……それか、事件性は特になくて、どこかに人が集まっているとか?

 どうやらこれっぽい。

 そして俺は察する…そうだ、この国には神王様という独裁者(しかし政治の機関があったから独裁と言っていいかわからなくなった)がいて、名前の通り神のように信仰されているのだった。どこか聖地のような場所があり、皆そこに集まっているんだ───────

 ────我ながら感心する実は的外れな名推理をして、俺はその後他にも色々調査してから、スラム街からキャロルの住処に戻ってきた。

 食べ物には困らなかった。

 衛生も衣服も。俺は当初サバイバルをするつもりでいたが、封印能力者が3人いたのを忘れていた。3人の手にかかれば、こんな森の中も快適に過ごせる空間に変えられる。

 封印されてはいるが…それでもほんの少しは能力を行使できるらしい。

 その点、普通に戦闘できるリリーと時破田は凄かったのだとわかった。

 ……でも…よく考えたら具体的に何が凄いのだろうか。異能の熟練度とかだろうか。

 そしてもう一つ考えたことがある。倉谷君もシルフィードもマリーも、時破田もリリーも、絶級能力者である理事長の封印にどうして抗えるか、ということだ。

 思考異常でいつでも成長しているリリーはともかく、他のみんなまで、どうして能力『封印』に抵抗できるんだ?

 まさか…理事長は弱ってるとか…?

 そんなこんなで、ティラバス4日目は終了した。この国についてもそろそろ結論が出る…と思ったら、俺は日本の方も心配に思えてきた。

 帰国した時、何かが変わっていたらどうしよう…学園に何かあったら、俺の精神では耐えられないかもしれない。


 〈6-8〉5日目。スカッと晴れた。

 朝、こんな会話があった。

「ということで今日は神王様との会談の日……の予定だったが、少し変更点が出来た」

「えっ、まさか無くなるのか?」

「いやそうじゃない…実は俺たちが天角学園の生徒だということがイマイチ伝わってなかったらしくてな。来るのは一人にしてほしいとのことだ。紅、行ってこい」

「俺?いいのか?」

「当たり前だろ、お前が判決をするんじゃねえかよ、最優先だ」

「それに能力者より達成使いの方があちら側も安心でしょうし」

「まあそうだな…じゃあ悪いけど行ってくる」

 ということで俺は今、神王の住む宮殿に赴いている…凄い建物である。ホテルや議院など忘れてしまうほど素晴らしい出来だ。

 だが、これはこの国の建物の全てに言えることだが、他の文化で例えることが出来ない。ヨーロッパ風でも中華風でも日本風でもないティラバス風…口では上手く説明できない。

 が、少しは描写しておこう。

 まず色使いは優しめで、暖色が多い。

 だから太陽が直に当たればかなり眩しい。

 高さは低め、横が長い。屋根には装飾が多々ある。全て生物の形をしている。

 壁には模様がないが、ろうそくを立てるための小さな台のようなものが沢山ある。様々な動物の形の装飾でうちにも一つ欲しい…が、使われていないようだ。

 ティラバスでは富裕層の建物でも電気より火をよく使うと聞いていた…ホテルだって地下のモールを除けばその傾向があった。

 …しかしロウの跡が見当たらない。これはどういうことだろう?

「紅さんですか?」

 と、そこで警備の人に見つかって、俺は連れられて建物の中に入ることになった。

 建物の中は………ここで不思議なことが起きた。建物の中に入った途端、風景が真反対に変わったのだ。

 高級感が消え失せた。

「⁇」

 質素…というか褒めどころのない、なんの特徴もなくつまらない場所がそこには広がっていた。正直なんの擁護もする気にならない…さっきまで感動を覚えるほど立派な光景を見ていたのに、なんだか少しがっかりだ。

 ある意味でここにも住みたくない。

 そして連れてこられたのは食堂だった。

「……‼︎…あなたが…?」

 長いテーブルの王様席に座っている男がいた。とても派手で、いかにも王様という感じの服を着ているが、背景の空間が何もないので浮いている…さらに、彼とその右斜め前の席には何やら食べ物が用意されていたが、それもご馳走というわけではなくむしろ物足りないメニューであり、もうここがどこだかわからなくなる。

「いかにも。私がこの国の現独裁者、神王ベルディーリオである。そこに掛けたまえ」

「は、はい…」

 何故だろう。彼のセリフからは威厳というものが全く感じられなかった。

 それはそうと、時刻はお昼前で確かにお腹は空いているけど、これは俺の為に用意してくれたということで良いのだろうか。

「突然だがミスター紅」

「はい」

 突然話しかけてきてびっくりした。

 どうやらまだ食べさせてくれないらしい。

「君たちが阻害地区の学校の生徒だから人数を減らして欲しいと須川さん(理事長)に言ったが…本当は違う理由なのだ」

「え……じゃあどうして……?」

「この食事…」

 そう言って神王は俺と自身の料理を指差した。そして物悲しい顔をしていた。

「今日は2人分しか用意出来ないというのが分かってな…急に変更してもらってすまない」

「……えっ……?」

 突然のことで何がなんだかわからない。

 用意…出来なかった?言っちゃ悪いがこの程度の料理が…?もし前のホテルなら100倍は用意出来ただろうに……宮廷だよな、ここは。

「それはどういう…」

「私は貧民と出来る限り同じ食事をとるようにしている」

「!」

 え…今なんて言った?

 王様が貧民に合わせる……?

「信仰される者として健康を崩すわけにはいかないが、少しでも寄り添いたい…私のエゴでそうさせてもらっている。だから客人は上手くもてなすことが出来ないことが多い…すまない」

「……」

 あれ?もしかしてこの人はいい人なのか?

「お話ししよう、この国の過去と現在と未来について。だがまずはそれを食べてみてほしい。それで現在はわかるはずだ…その後は宝物庫を見てもらう。それが過去、そしてその後は未来について話し合おう」

「…はい……」

 本当にいい人なのか……?まさか……

 独裁者……なのに?

「しかし共通認識しておきたいこともあるな」

「……?」

「なあ紅君、この国は間違っていると思わないかな?」

「⁉︎」

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