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Angel Break!【1年生編/最終世代の学園】  作者: 山野佐月
【1年生編/最終世代の学園】
50/66

第五話【シールドはかく語りき】傾国

 森に暮らす少年キャロル・バーストは孤児であり、家を持たない。それは、家族という意味の家も、食う寝る所住む所という意味の家も、どちらもだ。彼はどちらも持っていない。

 だから招待することにした。

 俺たち(俺、薙紫紅と、同行者である3名の封印能力者…倉谷瑞、シルフィード・N・ブレイヴァー、マリー・アルカード)がティラバスに訪れている間に泊まっている高級ホテルに。

 この辺りから、運命の歯車は回り始める──と同時に、止まり始める。

 まだまだ3日目は終わらない。

「幼女を連れて帰ってくるなんて、一体どういうつもりですの?紅くん」

「え?」

 ホテルのロビーに着き、それまでからは考えられない程大はしゃぎするキャロル。

 俺はそれを暖かく見守っていたが、また待ち伏せされていた。今度はマリー・アルカードに。

「アルカードさん」

「マリーでいいですわ」

「マリー」

「あなた凄いですわね」

 感心されてしまった……まあそれはしかし許してほしい所だ。俺は友情に飢えてる。

「って…幼女って何だよ。こいつはキャロル」

「その子は女の子ですわ」

「え?いや…そんなわけ…あれ?」

 大はしゃぎするキャロルを見る。

 すごく楽しそうだ。

「あれぇ……?」

 女の子だったん……?

 まあこの国の人間は今、貧困によって総じて発育悪いから…特にこの子はあんな場所で暮らしていたし。逆になんでわかったんだ…?

「幼女と2人にさせるわけにはいけませんわ。私も紅君の部屋に行きます」

「ええ⁉︎」

「何か問題が?」

「いや…ないけども…」

 なんか…そういうの抵抗ないのか?マリーは。

 既にキャロルと手を繋いで俺の部屋へ向かって行く。…仕方ない、歓迎するとしよう。


 〈5-7〉

 俺はソファに座り、マリーとキャロルはベッドに座っている。

 キャロルにはオレンジジュースを振る舞ったが、一口飲んでから目をキラキラさせてずっとこちらを無言で見つめてくる。

 言葉にならないということだろう。

 そしてマリーには事情を全て説明したが、彼女もまたこちらを見つめてくる。

 なんだこの状況。

「紅」

 呼び捨てになった…⁉︎

 まさかマリーは人助け部員候補?馬鹿な!

 男子2、女子3(1人ご高齢の方がいるが)で程よい男女比なのに、女子が増えたらまたバランスが崩れる!

 いやまあだからなんだという話だけど。

「あなたは悪の味方とか言っといて…全然守る気がないのね。キャラがぶれてますわよ」

「……いやまあ、確かに俺は重度の思考異常者ではあるけどさ…でも思考異常って何らかのトリガーで発動するもんだから、例えば大量殺戮犯でも普段は温厚な性格だったりするんだぜ」

「でもあなたは本当の姿を私たちに見せないわよね」

「……!」

 いやいや、何を驚いているのか…

 俺は俺でいるだけで常に本来の姿だ。

「…失恋ですわ」

「何がだよ」

「なんでもありません。なるほど、きっかけが必要だと言うのなら、じゃあ一つ聞いてもよろしくて?」

「?」

「わたくしがもし貴方の敵になったら…許してくれますか?」

「……なんだそりゃ、よく分からない状況だな…でも俺はその場その場にあった行動をするつもりだ。許すことがお前にとって最善とは限らないからな」

「……失恋ですわ」

「だから何がだよそれは」

「なんでもありません。それよりこの子…」

「ん?」

 話していて気づかなかった。

 コップに注いだオレンジジュースが空に…そしていつのまにか元々入っていたビンの方まで空になっていた。

vhもっと!」

「ああ、もっと欲しいんだよな…そりゃそうだ。でもこの辺りには商業施設無いからなぁ。ごめんな」

 歯がゆい…というか情けない気分になる。

 オレンジジュースで幸せになれるのにそれすらも用意してやれないなんて、俺は一体何のために生きてるんだよ…

yvjiそっか…」

「ありますわよ」

thj!」

「え⁉︎どこに⁉︎」

「この下ですわ…ちょうどいいですわ、2人とも案内します。このホテルの真髄は地下空間にあるのです」


 〈5-8〉なんかムカついてきた。

 ホテルの地下にはショッピングモールがあった。何を言っているのか分からないと思うがもう本当にその通りで、それ以上説明しようがない。なんだこれは。

 しかも普通のショッピングモールではない…ここも超高級だ。

「なんか…本当に、富が偏りすぎだ」

「ここだけの問題ではないですけどね」

「hyikk(凄ーい)!」

 これは…この国は世界の縮図のようだ。

 ある上にいる者は下に興味がなく…別に何かを納めさせているわけではないが、ある者は裕福に暮らしてある者は貧しく暮らす。

 俺は、幸運にも裕福な場所に生まれた者には、貧しい場所で生まれた者に手を差し伸べるべきだと思っている。

 …まあそれを言うなら、何故ダーク・バランスに追いて行かなかったのかという話になるけど…それに関して言うことは二つだ。

 怖い、そして重いから。

 俺にはまだ、貧しい外国で不安定な状況に居られるようなスキルがない。そして、人の命にかかわるような仕事をこんな歳からしたくない。

 ただのわがままだ。

 だがリリー達はそれを分かっていてくれていたから、巫と俺を接触させまいと戦ってくれたのだろう。

 俺は多分、頼まれたら断れなかった。

 ……しかし今はどうだ。

 人の命に関わり…重い仕事を引き受けた。

 ここは挽回のチャンスだ。

 富裕層にムカついている暇があるならまず、目の前のこの子を幸せにしてやろう。

「gvihooo(早く早く)!」

「おう!」

「行きましょうか」

 その後、夕方が夜になるまで、ショッピングは続いた。途中晩御飯も食べた。キャロルはずっとはしゃいでいた。

 買ったのは主に洋服と装飾品だ。

 キャロルはとても喜んでいた。

 良かった良かった。ということで(流石に幼女と同じ部屋には寝れないからキャロルは夜の間マリーに預かってもらうとして)俺のティラバス3日目は幕を下ろし─────

 ─────「お待ちなさい、紅」

「……な、何だ?俺なにかした…?」

「何かした…ではなく、何かが足りないでしょう。この子に必要な物がまだ足りてないでしょう。生活に必要なものが一つ」

「…………………………………まさか………いや、それは俺、一緒にするわけには」

「お風呂ですわ」

「やっぱりそうか!いや、それは…悪いけど頼まれてくれないか?お前の個室の風呂でさ…」

「はぁ。分かっていませんわね」

「え…?」

「お風呂…というのは、狭い場所でお湯に浸かること…という認識を彼女に与えて、果たして満足できますの?それに私は、やはりあなたがいないと彼女は不安だと思いますわ」

「ええ…そんなこと言われても」

 ショッピングモール…こんなところだ、温泉は無いわけがない。しかしティラバスだって人間が住んでいるのだから、性差はあるだろう…俺がキャロルについて風呂に入ることなんて、普通に出来ない。

「混浴スペースがありますわ」

「ああなるほどね………………何だと…⁉︎」

「実は私、さっきこっそり水着を購入していました…ここまで来たんですから、みんなでお風呂入りましょうよ」

「‼︎…」

 こいつめ…この親しみやすさ!

 まさか本当に人助け部の部員候補…?

 俺は個人的に倉谷君だと思ってたんだけど……


 〈1-7〉3日目はいつになったら終わるのだろう、などということは俺の思考からは消えていた。さっき渡された、さっき買ったというこの水着…見たことのある藍色だった。

 嘘だろ?これ男子のスクール水着だよな?

「……ええ……」

 俺こんな目に遭う感じのキャラだったっけ?

 …とにかく俺は体を洗い終えて、混浴スペースで2人を待っていた。この後、ドッキリ大成功だとか言って2人が普段着で出てきて「期待しちゃった?」とか言ってくれたらそれはそれでもうそれでいいんだが。

 ちょうど他に客もいないし。

 もう時間も遅いからな…………

 …しかし…月は雲に隠れていて見当たらないが、この混浴スペースの露天風呂は……とてもいい眺めだと思う…。

「お待たせしましたわ」

gbjiくれない!」

 来やがったか。待ってたぜ…景色を見て。

 やっぱり2人ともスクール水着で現れた。

 ああそれと、翻訳機は水場にも対応してくれるらしい。何せ超高級だ。

「期待しちゃった?」

「黙れ」

「え?ゼッケンは見当たらないけど、混浴スペースで見るスクール水着はとてもいい眺めだと思う?」

「いや待て…真剣に話をすれば、スクール水着の性癖についてはそれなりにまだ人道的だと思うけど、混浴スペースという状況で加点されたり、スクール水着のうちのゼッケンの部分に重きを置いてるのはもうそれヤバい人だろ!」

「fvjiuvjspk(何話してるの)?」

「待ってましたわ……私を見て。」

「えっ……」

 マリーが近づいてきて上目遣いしてきた。

 俺は焦る…そしてあえて思考を中断する。

 脳内に備えられたツッコミ回路を重点的に起動させ、この状況は乗り切ってみせる!

「さっきから俺の独白をギャグに持っていく高度な技術を使うのやめろ!」

「え?白?黒より白のタイプの方が良かったですの?先に言ってくれれば…」

「あああああああ!」

「biufgj(ねえなんの話してるの)?」

「…………また失恋ですわ」


 〈5-9〉

 キャロル・バーストの両親は死んだらしい。

 情報は確かかどうかはわからないが、キャロルは物心ついた時にはあの森にいたらしく、あの酒場に訪れた時に両親が捜索されたが見つからなかったそうだ。

 そして独裁が始まった…国は大いに荒れ、キャロルの貰い手など見つかるはずもなく、ただ1人、孤独に川の側でこれまで生きてきた。

 まるで動物ではないか。

 こんなことが許されていいのか?

 俺だって両親と妹を殺された…でも、沢山の人が俺を助けてくれて、かろうじて今現在までちゃんと生きられているじゃないか。

 キャロルはどうだ。

 さっきの夕食でだって…胃が弱っていて、せっかく美味しい料理も途中で食べられなくなってしまった。

 この子のことは絶対になんとかしなくては。

 キャロルはお湯に浸かってからずっと無言だ。

「……Fhjhdggz」

 そして、五分の沈黙を破って何か話し始めた。

 翻訳機を起動する。

「thisjhujcddjhvffh)))874)68fkhpki…………」

 ありがとう。

 こんなに温かい場所もあったんだね。

 私もう帰りたくないや…

「m’koc’hfx,:(パパ).,.,,,gj,jjkg’m(ママ)……」

 そう言って涙を浮かべた。

 目を閉じて動かない。

「あれ……のぼせてますわ」

「…しまったな。慣れてないから余計にのぼせやすかったか…」

 その後、キャロルは眠った。

 マリーは、自分の部屋で寝かせてあげると言って、銭湯から出て行った。

 ……俺は、出ようと思ったが、マリーに何故かまだ混浴スペースにいるように言われた。

 ということで、また月を見ている……

「ぐっすり眠ってましたわ」

「来やがったな」

「一度起きたので、歯を磨かせて水を飲ませてたら熟睡しましたわ」

「そうか…良かった」

「母親になった気分でしたわ。可愛いものですわね…子供というのは」

「そうだな…」

「ところで私のスクール水着についてはどう思われて?」

「お前どんな神経してんだよ」

「……失恋ですわ」

 なんだかよくわからない状況になってしまったが、俺とマリーは2人、露天風呂に浸かっていた。俺もそろそろのぼせてきそうだ…

「どうして私から逃げませんの」

「……え?……」

 逃げる…?何を言ってるんだか……

「貴方ほどの経歴を持つ人物が私の正体を見破れないはずもありませんわ。気付いているのでしょう?なのに、何故逃げませんの」

「え?……お前が…何だってんだ?封印能力者だろ…それは知ってるよ…でも俺もう慣れたからさ…」

「私は吸血鬼よ」

「え?……何?赤血球?」

「貴方が悪いんですわ…ちゃんと逃げてくれないんだから!」

「…?」

 その瞬間。俺の目が覚めるような出来事が起きた。マリーが、マリー・アルカードが俺に抱きついてきたのだ。

「⁉︎」

「さようなら…紅」

 そして首元に牙を立て…牙…牙⁉︎

 ────俺がそれに気付いた時にはもう遅かった。彼女は今、吸血鬼と言っていた。

 ならばこれは吸血……まさか、彼女の能力は本物の吸血だったっていうのか⁉︎

 どんな逸話にも残っている…吸血鬼に血を吸われれば、同じ吸血鬼になるか、もしくは、

 死───────!

 と、一瞬でここまで思考したが、幸い俺や彼女が想像した最悪の結末にはならなかった。

「……⁇」

「……えっ、何?俺、吸血鬼になっちゃったの?え!マジで!?」

「いえ……あれ?」

 彼女の牙は俺に届かなかった。

 達成『マゼンタ・エモーション』の防御機能が発動したのだ……しかし、吸血鬼にならないのはどういうことだ…………?

「……⁇」

「⁇⁇」


 〈9-0〉温泉に浸かって状況を整理しよう。

「太陽光に弱い吸血鬼…ならば、あなたは負荷能力でいつかは太陽の元に出なければならなくなるから、達成はそれを防がなければならない……なるほど、呪いはそんな風に役に立つこともあるのですね……」

「…まあ、恥ずかしながら、俺はクリムゾンの呪いに生活習慣を全部任せてるし、少しアイデンティティだとも思ってるんだ…その気になりゃあ理事長あたりに消してもらえるんだが、今更消えてもらっても色々と不都合……じゃなくて好都合が出てくるから頼んでない…しかし今回みたいに役に立つこともあるなら、まあ怪我の功名ってところかな」

「……すみませんわ。私もしたくてそうしたわけではないのです。でも…」

「話したくないなら話さなくていいぞ」

「いえ……ちゃんと説明させてください。」

 それから長い間話をして、情報量が多くなったので、重要な箇所をまとめてみる。

 マリー・アルカードは吸血鬼である。

 しかし同時に退魔師でもある。

 能力【吸血】は、正しくはヴァンパイアになる代わりに何もかもを吸収出来るようになる能力で、マリーは有名な退魔師の家系にそんな能力を持って生まれてきてしまった。

 退魔師は人に迷惑をかける魔物を退治する人達であるからマリーが吸血鬼だということで彼女を迫害はしなかったが、彼女の祖母が亡くなり財産争いが起きた時にある親族に吸血鬼として人間に害を与えたという冤罪を作られ、1人の執事をつけて家を追放された。

 あくまで人間ベースの吸血鬼なので血を吸わなければならないというわけではないが、定期的に吸血鬼のスキル『魅了』が発動してしまって、周りの人間に血を吸ってもらいたいと思わせてしまう。魅了が効かない場合は自分が相手に魅了され、血を吸いたいと思ってしまう。

 だからその期間は部屋に籠っているらしい。

 太陽光は栄養に変えるから、日の下に出ても死ぬことはない…しかし、だから彼女は日中、日が出ている間、目が見えていない。

 月の光は大丈夫だそうだ。

「なるほどな………」

「すみません…理事長が大丈夫だと言ってらっしゃったので、距離の取り方を間違えました」

「いいよ…今のままで。そして朗報だ。魅了なら…それ、俺なら何とか出来るかもしれない」

「え……」

 彼女を救わなければ。俺はそう思った。

 また悪の味方らしからぬことをしている。

 まあもういつものことだ。結局のところ俺は、全てを味方すると言う勇気がないだけなのだ。

「やっぱりおかしいんだ…そりゃ達成は『どんな手段を使ってでも主人を殺害させない』って性能だけど、どんな手段とは言っても…結局俺の達成は感情を操る達成だから、感情がないとどうしようもないんだよ。勿論、殺意が無ければ『人為的な殺害』は起こりようがないから、あんまり気にしてなかったけど…多分さっきの現象を詳しく考えれば、まずお前の能力の付属スキル『魅了』が無効化されて、スキルによるお前の行動への強制力が解除されて、そして達成によってお前自身の感情…精神を操作して牙を突き立てられなくなったんだと思う…これがどういうことかわかるか?」

「……⁇」

「物事には必ず原因があって…俺は感情が原因で殺されない。つまり俺が防げる攻撃は全て、感情があるってことなんだ。その魅了ってスキルは本当にただの能力なんだろうか…俺にはどうも呪いのように見えて仕方ない」

「…まさか…それって…」

「あまり言いたくないが、吸血鬼のスキルを、財産争いとやらの時に強化されてしまったんじゃないか?退魔師みたいな専門家ならそれぐらい可能だろう…なら、魅了はただの能力ではなく、お前に呪いをかけた退魔師の残留思念を含む能力ってことになる。それなら俺は……」


 〈6-5〉人にかけられた呪いには残留思念があり、俺の達成でそれを攻撃すれば呪いは解除できる。なまじ封印能力なだけに彼女は周りの強者を当たっても呪いを解けなかっただろうが(理事長なら出来ただろうが、あの人の過去から考えると封印能力者を強化するような真似は絶対にしないだろう)、俺なら出来る。これがうちの担任キャンディ・ベル先生の言葉を操る達成だったらできなかっただろう。

「運が良かったな」

「運が良いのはあなたもですわ紅。長時間、今度こそは真っ当な理由でスクール水着を着た女子の前にいられるのですから」

「素直に礼が言えないのかお前は」

「ありがとう」

「そんな直線的に言わなくても…そうですわね感謝いたしますわーぐらいでいいのに」

「私、気に入りましたわ、紅。あなたのこと」

「へえそりゃありがてえ。俺はどうも人からある程度距離を置かれるきらいがあるからな。友達になってくれるか、マリー」

「友達でいいですの?」

「おうよ俺は友達100人作るのが目標だ」

「……また失恋ですわ……ところで、こうして話しているのは良いのですが、これはいつまで続くのです?」

 流石に風呂に飽きてきたか。

 うん、俺も飽きてきたところだ。

「そうだな…本当なら大声を出せればさっさと終わるんだが…公共の場でうるさくするわけにはいかないしな。何か、10倍ほど俺を認識できればそれでいいんだが」

「……!」

「今なんか思いついたやつは却下な」

「ではその次の案をしてみましょう」

「二つ目⁉︎」

 彼女は風呂から上がって移動した…露天風呂の横にある、体を洗う場所に……って、なんで混浴スペースにこんなのがあるんだ?

「…そこで何をするんだ?」

「背中流しっこしましょう」

「言うと思ったよ。誰がするか。だいたいスクール水着だから背中は流せないだろ」

 座ってるし。

 あれ?嫌な予感が…悪寒がしてきた?

 というか3日目はいつになったら終わるんだ?

「なら…脱げばいいですわ」

「何してんの⁉︎」

 彼女はスケール水着を上半身だけ脱いで前かがみになっていた。

「こうすれば10倍なんてすぐでしょう。まあ見せませんしガードしますけど…」

「当たり前だ────ってその割には手でもタオルでも隠そうとしてないじゃん!」

「ええ。だって貴方が私の後ろに来るまでに、その位置からならそんなに厳重にガードしなくても大丈夫ですもの」

「いや、鏡があるだろ…!」

「心配ないですわ。私、鏡に映りませんもの」

「…………」

 そうか、吸血鬼…だから。

 じゃあ…もしかして。

「自分の姿を見たことがないのか…?」

「ええ。まあ生まれてからずっとですからね、何とも思いませんわ」

「……安心しろ、お前はスタイルもいいし、顔も十分可愛いよ。金髪も似合ってる」

「え⁉︎ちょ、何を言って………そんなの急に言われたら…恥ずかしいですわ!」

「…………」

 彼女の背中に紋章があった。

 なんだ…これは。

 まるで赤い刺青のようだが…焼き跡?いや違うか…皮膚の上に何らかの異能がある。

 だが、正体は分からなくてもたったひとつ確実にわかることがある。

 これだ。俺が消すべきものは。

 この紋章こそが。

 彼女から人間の人生を奪った呪いだ。

「…仕方ない、洗い流してやるよ、全部」

「やっと素直になりましたわね。では、よろしくお願いしますわ」


 〈6-9〉その後、呪いの解除を終わらせて、部屋に戻るとキャロルが寝ていた。

「何でだよ!」

「せっかくのダブルベッドですわ。3人で川の字になって寝ましょう」

「アホか!」

「大丈夫、いざとなっても、間にいるキャロルが貴方の倫理を呼び覚ましてくれます」

「あのな、そういう問題じゃあ」

「gcjjib…hoobnn……」

「!」

 その時、キャロル寝言を言った。

 声がうるさくて起こしてしまったかと思った。

 すると、翻訳機が勝手に今の文章を読み込んだらしく、日本語に訳された。

 紅、マリー。

「………………起きてないよな…?」

「寝言でしょう」

「m’koc’hfx,:.,.,,,gj,jjkg’m……」

 するとまた寝言を言った。

 ……今のって……

「紅。空気を読みましょう」

「…………わかったよもう………はぁ」

 パパ。ママ。

 俺たちはそう呼ばれた。

 だがそんな大層な仕事はしていない…清潔を与え、新しい服を与え、食事を与え、安眠を与え、オレンジジュースを与えただけだ。

 親だなんてとんでもない。

 ただ人間が持っていい幸せを彼女が当たり前に享受出来るように、金を出しただけ。

 ……。

 俺は、そしてマリーも、倉谷君も、シルフィードも。たとえこの国の住人にどんな評価をされようと、たとえ親のように懐かれたとしても、日曜日の審判の時が訪れれば、それで終わり…帰国しなければならない。

 果たしてキャロルを幸せに出来るだろうか。

 この国の全員が幸せになるには、俺はまず、どんな決断をしなくてはならない……?

 俺はそんなことを考えて、眠りに落ちた。

 時刻はもう12時を回っていた。

 ここでようやく、俺のティラバス3日目は終了した。色んな意味で記憶に残る1日だった。


 〈8-4〉達成マゼンタ・エモーション発動!

「痛い!痛い!おいマリー!抱きつくな!てか起きろ!おい!痛い!今俺さ、起きなきゃ死んでたから起きたんじゃね!?おい早く離せ!……え、嘘だろ、まだ起きないの!?なんで!?痛い痛い痛いって、マジで痛い!というかなんで…キャロルは!?

 いた!お前はマリーの足に抱きついてたのかよ!じゃあお前そんな下に行ってたら壁になってないじゃん!倫理観!倫理観おい!」

 朝から騒がしかった。

 さてようやく始まった4日目。

 気を引き締めていこう。もう木曜日だ。

 俺たち…プラス、キャロルを含めて5人はまた、貴族たちの集まる朝食バイキングに訪れていた。

「うめえええ!!!」

「公共の場所では…もういいですわ」

「紅、気持ちは分かるが…」

「だよなぁ!うめえよな!」

 うるさかったです。反省しています。

 しかしどうやらこのバイキングの料理の調理法は俺の舌にジャストミートしている。富裕層が海外から輸入しているから食材はだいたい知っている物だが、明らかにここは料理の作り方が上手い。というか俺にぴったりだ。

 ……シルフィードも倉谷君も絶賛しているし、これはひょっとして何か使えるんじゃないか……?

 特殊な点があれば、外交をしやすくなる。

 ここの独特の調理法があるのなら…これからこの国を発展させる為に役立つだろう。

 後でシェフに会ってみよう…とそう思って、俺は周りの意見も聞いてみたくなったので、翻訳機を起動させた。

「gvkovjkjjjjkocfycdfjqdtkvx」

「Xhjjhbb」

「gkobjkobncdfhfyj)),.)!’」

 シェフは一体何をやってるんだ。

 味が落ちたな。

 これを作った奴を呼べ!どういうことだ!

 ……あれ……?

 この国の人間には合わないのか…?

「紅、翻訳機の電源を切れ。どうやら荒れそうだ…あの子を連れてここを離れるぞ」

「え…?」

 その時だった。

 急に、怒りに震える人物が現れた。格好からして富裕層の人間だろう。

 翻訳機を……

「紅!消せ!聞くな!」

「……ええ?シルフィード、俺たちが今、聞いちゃいけない台詞ってなんだよ…!」

「紅!」

「俺はさぁ、なあなあじゃ済まさないぞ…全部見届けて、聞き届ける!」

 俺は翻訳機をオンにする。そして聞く……

「どういうことだ!なんだこの不味い料理は!ちゃんと『汚い民族』に作らせろ!」

 シェフが怒鳴りつけられていた。

 そして、その男の暴言に続いて、朝食の会場は狂気に包まれる。

「そうだ!どういうことだ!」

「お前!『汚い民族』の出身じゃないのか!」

「やはり貧民には任せられんな…!」

「我々に汚い料理など食わせるな!!」

「…………⁉︎……」

 俺は唖然としていた。何にか…というと、その場にいた富裕層の大人達にだ。

 大人の体、大人の格好…をしていて、まるで子供ではないか。

 そしてその後、俺はブチ切れることになる。

 冷静な間にカウントしておこう、あんなに怒るのは108回目だ。丁度煩悩の数だ。

「gcjjib),,,)(jkbbn(hbjc…………」

 キャロルが怖がっていた。

 もう察しはついている。汚い民族というのは貧民層のことだ。そして。

 キャロルはそれを理解している─────!

 紅…私、どうすればいい……?

「────!!!!てめえらぁあああああああああああああああああああああ!!!」

「紅!」

 俺は大声を出して周囲の注目を集めた。

 そしてキャロルの持つ翻訳機が、俺の日本語をティラバスの言葉に翻訳する。

 会場がざわつき始める。

 それを黙らせるように俺は叫ぶ。

「てめえらは自分の事しか見えねえのか!!この国の現状をなんとも思わねえのかこの馬鹿が!!!そんなに自分が上がいいならさっさと死んで天上に行っちまえ!!!!」

「…………」

「街に出ろ!!お前達が目を逸らしたくなるような景色が沢山あるぞ!!!だがそこから逃げられねえ奴らがいるんだよ、お前らのせいでな!!!!!お前らが変わらねえ限りこの国はちっとも良くならねえし料理も美味くならねえ!!!!自分たちがしている差別を分かってんのか!!!!!!」

 ここまで叫んで、会場には静寂が訪れた。

 そして。

 そこからが本当の地獄だった。

「何を言ってるんだ彼は…」

「神王様に報告せねば」

「差別ではなく優劣だよ、君」

「誰だお前は!」

「噂ではこの国を滅ぼしに来た悪魔らしいぞ!」

「そ、そこの娘は貧民ではないのか!」

「汚い民族などに私達の料理を食わせるな!」

「キャロル気にするな」

「貧民のことなどしるか!」

「私達の生活を脅かす悪魔め!」

「この国から出て行け!」

「ここが国だと思ってるならとんだ勘違いだお前ら!!!もうここは国だなんて呼んでいい場所じゃねえ!!!」

「出て行け!出て行け!出て行け!」

「紅、ここにはもういられない、荷物まとめて出て行くぞ!」

「……っ……お前ら!覚えとけよ!お前達がこの場所をまだ国だと言うのなら!!!この国は必ず……」

 そして、俺と倉谷君、マリーにシルフィードとさらにキャロルは、実質的にホテルから追放されることになった。

 だが。4人の反応は意外なものだった。

 何故か笑っていた。

 逃げ走っている間、それまで真面目な顔をしていた倉谷君が急に吹き出したのをきっかけにして、4人が笑い始めたのだ…後で話を聞くと、内心スカッとしていたという。

 そしてその後、俺たちはキャロルの住んでいた場所にお邪魔することになる。拠点は高級ホテルから森の中の秘密基地へ。

「滅ぼしてやるからな!!!!!!」

 富裕層への宣戦布告。

 それは国が傾いた瞬間であった。

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