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Angel Break!【1年生編/最終世代の学園】  作者: 山野佐月
【1年生編/最終世代の学園】
49/66

第五話【シールドはかく語りき】王国

 ───シルフィード・N・ブレイヴァーは元気な男であると、まだまだ会ったばかりな俺もそう理解できていた。

 カッケェだろ?が口癖で、勇ましい顔をしていて、そして、体格の大きい筋肉質の男。

 能力【相対回帰】は全てを破壊する能力。

 俺は彼こそが、正統派な能力者だと思う。

 ───マリー・アルカードはお金持ちで、どこか近寄りがたい雰囲気を醸し出しているが、実際はそんなことはなく、フレンドリーに人と接する普通の女子である。

 能力【吸血】は全てを栄養にする能力らしい。

 ───倉谷瑞の本名は刃渡瑞であり、その苗字には中々重い歴史があるらしい。本人が言うには「その名は捨てた」とのことで、俺は彼に、『刃渡』と呼ぶことを禁止されている。

 今は彼から、奥義『篠方』の会得に必要である『切れ味のない刀』を預かっている。これから少しの間、俺はそれが入った鞘を肌身離さず持つことになる。

 能力【戦士の手紙】は全てを遠ざける能力らしい。異能は基本的に、魔法では『絶対(もしくは相対)』、超能力では『具現』がついたり、そうでない場合は性質をそのまま表す名前が付いているものだが、戦士の手紙とはどういうことだろう────

 3人とも、俺からすればまだまだ謎の多い人物だが…しかしなんとなく、3人と仲良くなれそうだと俺は思った。


 〈1-3〉作業開始から半日経過。

「はぁ……ぜえ……げほ」

「すま…ねえな。死体に耐性があるのは……俺とお前だけだから……ふぅ、ちょっと休憩……するか……はぁ」

 前に会った殺人術の達人が言っていた言葉をふと思い出す。人間は死んだ方が強い。

 速度も重量も、筋肉も頭脳も、全て無くなるから、人間は死んでからの方が強い。

 何が言いたいかというと、死んだ人間は物体だ、運ぶのに苦労して苦労して、時間は既に夕方に差しかかっていた。

「今頃日本は何時だろう………ってあれ?そういえば、こっちに来た時なんで時差がなかったんだ?」

「理事長が時間移動も一緒にしたんだよ」

「……じゃあ、日本とアイルランドの時差の…6か7時間?ぐらいは、俺たちはどこにも存在してなかったことになるのか?」

「そう…なるかもな。まあ時間移動に関しては結構タブーみたいなところあるから、俺にはよくわかんないわ」

「そうなのか?」

「無能…じゃなかった異能協会が唯一頑張ってるところだからな」

「あはは、そうだったのか」

 無能協会という蔑称、俺以外にも使ってる奴がいたとは。

「……まあ、理事長のことだ、なんか企んでるかもしれないが…あんま気にすんな、お前はきっと大丈夫だよ」

「なんだそりゃ」

 笑いが起きた。周りの死体を避けて作ったスペースに座っているから、こんなに不謹慎な現場は他になかなかあるまい。

「……なあ聞いてもらえるか紅」

 シルフィードが改まって言った。

「俺はさ、死体慣れしてるって言ったじゃん。あれ理由があってさ」

「うん」

「小さい時に俺、能力が制御出来ずにたくさん人を『破壊』しちまったことがあるんだよ。まあ、それだけなんだけど…だけど、瑞やマリーにはそんな過去はない。紅、お前は今までに凄惨な過去を持つ人物たちに会ってきたらしいが、あの2人はそんなことはないんだ」

「……」

「瑞は家出をして、マリーは故郷を追い出されたらしい。2人とも悲しい過去は持ってる。でも俺や、お前の知ってる奴ら程ではない。だから…」

「わかってるよ。あの2人にこんな光景は絶対に見せない。」

 そういうと、彼はニコリと笑った。

「さぁて、作業に戻るか…」

「ああ。明日にゃ筋肉が凄いことになってそうだ」

「………そういえば、能力を使わないのは何かこだわりがあるのか?」

「……………………えっ?」

「うん?」

 どうやら彼は忘れていたらしい。

 まあ、ふざけんなと言いたいところだが、真面目に考察すれば、もしかしたらそれだけ頼りたくなかったのかもしれない。

 能力にあまり良い思い出がないから。

「ああ。完全に忘れてたわ。てへ」

「ふざけんなぁー!」


 〈4-4〉

 え?これから一日もかかるのは何故かって?

 遺品を遺族に渡さなくてはならないからだ。

 俺たちは戦場を出て、都市最大といわれている市場に来た。

 室内で、漁業の朝市のように展開されている。

 外国人の姿にどよめきが起こっていた。

「…俺は経済のことはわからねえんだがよ、紅、こりゃどうなんだ?市場としては……」

「俺の体験から言わせてもらうと、ちょっとまずいことになってる」

「マジか」

 一見賑わっている市場。

 だがよく見てみると、売り物が少ない。

「昨日にあったらしい戦いで男手を失った家庭も多いだろう…客側は今後、店側が値上げすることを見越して出来るだけ多く買いたい…しかし店側は自分の家の備蓄を確保したいから売らない…この国の貧富の格差をさっさと解消しないと、この市場は崩壊する」

「……そうか…あ、そうだ、忘れてたぜ、ここの言語わからないんだったな紅は」

「ああ、うん。全くわかんねえ」

「残念ながらさっきも言ったように、俺らは封印されたら自身の強化しかできなくなる……俺は『言語の壁を破壊』したから、翻訳するよ」

「ありがとう」

「だがお前の言う通りだ」

「?」

「言葉の治安が最悪だぜ…これじゃあ近いうちに暴動が起きる。さっさとここを離れよう」

「なんでだよ。言葉が通じるなら暴動を止めようぜ」

「!…そうだな、じゃあそうしようか」

 まあその後俺は結局暴動を止められず、しかも頭を強く打ったようで、気絶した。

 ……………………………………………………………

 飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎの中、俺は目覚めた。オレンジ色の空間に俺はいた。

「ここは……」

「お、起きたか紅…ったくよ、1人で突っ込んでいくからびっくりしたぜ」

 俺は起き上がる。

 妙に視線が高いと思ったら、何か机の上に寝かせられていたらしい。

 それよりなんだ、この騒ぎは……

「ここは酒場だと。そんで今日は宴だと…どうやら俺たちのことを知ってるらしい」

「……?」

 どういうことだ…本当にどういうことだ?

 俺たちが来たからなんだというのだ…なんで知ってるだ…?

「hxjk.,ghiiiv!」

 すると、急に話しかけられた。

「ほ、翻訳頼む!」

「なあ、あんた!」

「gbjixxz’m)8yhbeeffefuu!」

「来てくれてありがとう、この国を、ついに終わらせてくれるんだろ!」

「……?」

 とにかく。俺は態勢を整える。

 目を覚ます……たしかにここは酒場で、今は宴をしている。だが、酒ばかりで食べ物はあまりないようだ。

 中には子供もいる…酒を飲んでる⁉︎

 いや…彼らも大人か。発育が悪いからわからなかっただけで。

「どうやら俺たちは救世主だと思われてるらしいぞ…さっきまで俺は彼らと話してたんだが、この国を滅ぼしに来たと思ってるらしい」

「……そうとは限らないんだが…」

「だが実際、そんな審議にかけられるような状況なんだ……彼らが間違いなく国が滅ぶと考えていても不思議じゃない。何よりそう信じたいだろ……」

「……それで、宴か」

「ああ。……っておい紅?どこに…」

 俺は酒場の中心にまで来て、今度は机の上に片足をドンッと音を立てて置き、周囲の注目を集めてこう言った。

「人が死んだんだぞ!お前ら!

 どうして笑顔で酒が呑めるんだよ!

 命に対してそんな態度を取るのなら、この国滅ぼしてやんねーぞ!!」

「…………」

 静寂が訪れた、その時だった。

 シルフィードが俺の手を掴んで、酒場の外に連れ出した。急いで逃げるように。

「…………」

「な、なんだよ、いきなり!」

「ごめんな…流石にあれは訳すことは出来ない。彼らの宴を、正論で邪魔することなんて俺にはとても出来ない」

「……」

「彼らは、長い戦いにようやく、初めて、終着点が見えたんだ。ちょっとは許してやれ……まあ、終わるか終わらないかはお前にかかってるんだけどな」

「………………ごめん」

「気にすんなし」

 その後俺たちは遺族に遺体・遺品を返して、気づけば一日が経っていた。

 このまま2日目も終了しそうだった。

 ああ、シルフィードに体の疲れと汚れを破壊してもらったとはいえど、精神的にも疲れが結構限界だ…どこかでゆっくりしたい。

「酒場に行くか」

「紅…お前…どんなメンタルしてんだよ」


 〈3-3〉

 今日は普通の酒場っぽかった。

 でもやはり救世主扱いだった…だから、色んな人と会話することになった。

 シルフィードの翻訳を介して。

「妻も子供も餓死したが、俺は死なずに済みそうだ」とか、「やっと死んだ者達の思いを遂げられる」とか、「木の根っこを食べるのはもう終わりだ」とか。

 皆大変な境遇にあった。

 俺は巻き込まれることはあっても、自分の国が革命なんて経験したことはないから、彼らの話はとても勉強になる。

 …………。

 そこで考えること…国家としての機能を停止するとは、何を指すのだろうか。

 ティラバスなら、神王やその側近が総辞職すること?それとも、富裕層から財産を取り上げて貧富の格差をなくす事?

 今はどうだろうか、国民はこれだけ苦しんでいるのに…国家活動をしていると言えるのか?

 …日本ならば、戦争に負けて、国は一度終わったと言う人も多いだろう。俺もそう思う。そしてそこからは、実質『戦力』を持ちながらも一応戦争はしていない。

 酷い目にあって学んだのだ…まあ段々とまた戦争に向かって行ってるようだが……

 俺はわかっている。

 人間が本当の意味で学習するのは、痛い目に遭った時だけだ。国家規模の話にも同じことが言えるし、ならばそこから得られる結論は、富裕層と政府には少々喝が必要だということだ。

 だがその後はどうする…それまでいがみ合っていた者たちがその後仲良くなど出来ないだろう。リリーの行った禁止地区のように、差別があるとは言っても場所の棲み分けは出来ている状態なら良かったが、今回は本当に争っている。関係の修復はもう不可能…か?

「紅」

 その時、シルフィードが話しかけてきた。

「作業もひと段落ついたから、そろそろ帰ろう……富裕層や政府中枢にも行かなければならないからな」

「そうだな…じゃあお前との行動はここらで終わりか。ずっと肉体労働してたような気がするが、まあ楽しかったぜ」

「俺もだ…俺はそろそろ帰るよ。汚れは落としたとはいえ風呂に入りてえ…お前どうする?」

「俺はもうちょいここにいるよ」

「そうか。じゃあまた」

「おう」

 そしてシルフィード君は帰り、その後徐々に客も減っていった。

 店主も店を閉める用意を始めたようだ。

 これはよく見る現象だ。照明の少ない国では、夜に酒場が繁盛しない………

「ん?」

 その時だった。

 俺が、話を聞く相手ももういなさそうだから帰ろうとしたその時、俺は変な光景を見つけてしまった。

 酒場にポツンと…いや、今いる客はみんなポツンといるが…特にそういう表現が似合う人物がいた。子供だ。

 現地の果物(名前はわからなかった)のジュースを持って1人で座っている子供…男子。

 あの子はどうして1人でここにいるのだろう。

 気になって、話しかけようとしたその時、店主から閉店時間だと告げられた。

 帰らざるを得なくなった…その後、俺はホテルに戻り、個室の風呂に入って出てその後は何も出来ずに眠りに落ちた。

 そうして俺のティラバス2日目は終了した。

 次の日の朝、翻訳機を渡された。

 次にあの子に会ったら話しかけてみよう。


 〈5-4〉

 ホテルの朝食を初めて食べることになった。

 この国でも形式は変わらないようで、バイキングらしい。俺は皿に色々盛り付けて、さあ、いただきます……

「うめええええええ!!!!」

「紅…静かに」

 倉谷君に諭されてしまった。

「いや、つい、美味かったもんで…」

「気持ちはわかるが…」

 会場を見渡してみる。騒いでごめんなさい。

 こうして見ると、俺たち以外にも大勢の客がここに泊まっているようだった。勿論、酒場にいた人達とは全然違う身なりをしている───富裕層だろう。

「俺たちが来た日の前日に起きた戦いで、家を燃やされたらしい。一時的に泊まりに来てるんだと」

「へえ…こっちはこっちで大変だな…」

 そうだ、自由を手に入れる為の抗争とはいえ、被害を被る人がいるのもまた事実。

 片方だけでなく、どちらの意見も聞いた上で、この国の行く末を決めなければならない。

「ところで紅。今日俺は農業の方に見学に行くつもりなんだが、一緒にどうだ?」

「おお…いいな。そうだな…午前中なら」

「良し。いや、最近ティラバスの端の方で農家達が集まって何かしているとのことだから、ひょっとしたらついでに、奥義『篠方』について少し教えてやれるかと思ってな」


 〈4-7〉昨日までの疲れが全然取れないから午後はホテルで話を聞こうと思っていた。

 その計画は変わらない…だがしかし、疲れもぶっ飛ぶようなことを聞いた。

「この国から逃げるつもりです」

「……」

 農家達は集まって、なんと独立しようとしていた。森を切り倒して、橋を作っていた。

 ティラバスは地図に乗らない国…そしてその影響で同じように地図に乗っていない無人島があるらしい。

 だから、移住───革命ではなく、開拓。独立するという選択肢を、彼らは選んだ。

「俺はすごくアリだと思うが、紅、どうだ?」

「………わからない。だが今はとりあえず協力しようと思う」

「わかった。なら、木を切り倒そう…もうみんな何もしなくても疲弊してるんだ、ここはいっちょ、お前の奥義で助けてやれ」

「ああ…今後争いも起きるだろうし、じゃあ、やってみるからアドバイス頼むよ」

 ─────────

 この国からの脱出。それは、民間人に比べて少しだけ生活に余裕がある農民だからこそ出来た発想だろう。

 実は、貧富の格差は富裕層と貧困層の間だけの問題ではない。

 あの酒場の付近の住宅はまさにスラム街で都市とは思えない酷い有様だったが、国の端に来てみればなんとログハウスだらけだった。もちろん先進国のそれのように「住みたい!」とはならないが、住宅のレベルが全然違う。

 備蓄さえキチンと出来れば、都市部に比べれば独立も出来そうだなと思った。俺もそろそろ感覚が麻痺してきたようだ。

「奥義『篠方』には注意事項が一つある……それは、普通の生物に使ってはならないということだ。前にも言ったように、後からフラッシュバックすることになる。そして何より強力だ。凶器は人に向けてはならない。当然だな」

「ああ」

「ではそれを踏まえた上で、説明していこう。奥義『篠方』について……」

 ───────篠方には種類がある。

『斬撃』『打撃』『圧撃』の3種類。

『斬撃』は切れ味を付加する。

『打撃』は衝撃を付加する。

『圧撃』は威圧感を付加する。

 斬撃の篠方を使えばあらゆる物質が切れるようになり、打撃の篠方を使えば砕けるようになる。圧撃の篠方は全ての生物に自身を畏怖させることができる。

 とは言うものの、殆どの会得者はその域に達することが出来ない。ましてや3つともマスターするなどまず不可能である。

 しかしマスターせずとも強力なことに変わりはない。

 コツは、心を落ち着かせること。

 ではなくどちらかというと激昂していた方がいい。何故なら奥義篠方は凶器であり、攻撃意思をそのまま具現化するような力であるから。

 逆に、攻撃したくない相手に篠方は全く使えない。要するに相手を嫌いになるほど強くなる、憎しみの権化のような奥義である。

「ちょっと待って」

「何」

「俺そんなの聞いてないんだけど」

「じゃあやめとくか?」

「……やめないけど……」

 篠方のコツは言葉では言い表せない。

 イメージトレーニングが一番の近道である。

 最後に、篠方には一つシステムがある。

『装填』。

 これは相手の攻撃に対しカウンター反撃を行う、篠方の【最終奥義】である。

 装填ではこれまでとは逆に感情を捨て無心になり、細胞に全てを委ねる。そうすることで体に染み付いた動き、もしくは眠っていた野生を引き起こし、篠方の力を最大限に発揮できるのだ。しかし、これもやはりマスターすることは殆ど不可能で、理論上での技である。

 最終奥義に至るまでにはステップがあり、マスターこそできないものの、ステップが一つでもあればとてつもない力を手に入れられる。

「……なるほど」

「それでその刀だ。さあ、彼らの為に木を斬り倒そう。その木に、憎々しい奴の顔を思い浮かべて、ぶっ殺せ」

「うーん……?わかったやってみるよ。持ち方とかは…」

「好きにしろ」

 憎々しい奴…か。意外に誰も思い浮かばない。まあ俺はちょっと犯罪者擁護気質を持ってるからそりゃそうか…でも困ったな。

 とりあえず色々試してみるか。

「ああ、あんまり時間を取るのもあれだし、3回やってダメならその後は普通に斧で作業するからな、集中しろよ」

「……」

 誰にしようか……誰に……そうだ。

「薙紫紅!」

 ザスッと木に、5分の1ほど刀が刺さった。

 ……………………⁉︎⁉︎

「そう、初めてにしては上手くいったな…それが斬撃の篠方だ。だがまだまだ甘い。何が甘いって自分に甘いな。自分のことを5分の4は納得してるんだ」

「あんまり言わないでくれ…自分でもびっくりだよ。意識改革が必要だ……」

 さて。

 気を取り直して次に行こう。

 憎い奴憎々しい奴…そうだ、1年2組の大量殺人犯ジュエリーはどうだ?あいつは悪いことしてるだけなのに妙に感謝されてたりして憎々しい……うん。これだ。

 よーしジュエリー覚悟しやがれ!

「庵内湖奈々!」

 何でだよ。潜在意識に負けた。

 ああそうだ、俺の初恋は庵内さんだが、しかし初憎?(初めて憎々しく思った相手)も庵内さんなのだ。ワンオブゼムのジュエリーを差し置いてついつい意識してしまうのは当然……木も当然、切り倒せるだろう……

 と思ったがしかし、3分の2のあたりで刀は止まっていた。あれ?

「うーん。心のどこかでその人を許しちゃってんだろうな。まあでもさっきよりずっと上達してるぞ。その調子だ。一回出来たら後はもっと使いやすくなるから、さあ、ラスト一回!切り倒して、斬撃の篠方ゲットだ!」

 倉谷君、えらくテンションが高い。

 これは期待に応えないとな…さあ。

 本当に憎い相手……そんなのがいるならさっさと出てきそうなもんだが、俺にも忘れたい歴史はあったろう…今度は本気で考えてみよう。

 ………………まあ、本気で考えればあの人しかいないよな。そりゃあ…

「薙紫……彩」

 父親。かつて俺の家族がみんな死んでしまった時…最後に残した言葉を俺はまだ覚えている。

「紅。お前が悪いんだ。全部お前のせいだ…覚えておけ。今、お前の母親の首と首から下が繋がってないのはお前のせいだし、お前の妹の上半身と下半身が繋がってないのもお前のせいだ。なにより俺がこんな情けない姿をしているのもお前のせいだ。お前のせいだよ。

 お前のようなガキに責任があるのもお前のせいだ。お前が可哀想なのも全部お前のせいだ。お前が悪くなくてもお前のせいだ。

 だが生きろ。絶対に死ぬな。盗んでも生きろ。殺しても生きろ。他人に迷惑をかけて生きろ。人の嫌がることをして生きろ。面倒臭がられて生きろ。厄介者として生きろ。卑怯者として生きろ。生きたくなくても生きろ。死にたくなっても生きろ。殺されそうでも生きろ。

 癪なことにお前は希望だ…クソガキ」

 その言葉の意味…真意はまだわからない。

 だが俺はお父さんを恨んでいる。

 その言葉を言われた後俺は殴られた。そして薙紫彩はその場で死んだ。

 それが、死に行く父親が息子に取る態度か?

 俺なら優しい言葉をかけて、強く生きろだとか、面倒見てやれなくてごめんなとか、犯人は近くにいるから逃げろだとか、息子を想った言葉をかけるだろう。

 だが、あの時の父親からは、俺に対する意思が見当たらなかった。生きろとは言ったが、生きて欲しいと思われているようには全く思えなかった。

 どこまで冷たい人なのだと、今でも思う。

 年月が感情を薄めていっても、俺の父親との記憶は他にあまりない。だから、100パーセント憎い相手と言うなら…父親が一番近いだろう。

 俺は抜刀し、憎しみをぶつける。


 〈6-7〉結果は5分の4まで。

「あと少しだったな…いい感じだ。俺は一回も出来ないと思っていたよ。紅。ナイスだ」

 ナイスか。

 まあ確かに…俺も完全に嫌いって訳じゃなかったんだな…それが知れて良かった。

 この木が切れなかったってことは。

 俺とあの人はまだ親子で居られるということだから…もうあの人は死んでるんだけど。

 それでもだ。

「あはは…まあじゃあ、普通に作業始めるか」

「おう…おい、大丈夫か?」

「え?いや…平気だぜ。昨日はちゃんとしたところで寝れたからな」

「……すまない、嫌な事を思い出しただろ」

「ん……まあな。まあでもいいんだよ。この旅はどうやら色々考える機会を与えてくれるようだから、ちょうど良かった。3回までっていうのも気遣いだろ?わかってるよ…ほら早く」

 そう言って俺は斧を投げた。

「いや斧は投げるなよ」

 その後はひたすら作業だった。

 話を聴くと、橋作りをしている時は、農業をしている時より楽しいのだそう。

 いつかまた、農業を楽しくできる日が来る事を信じて、彼らは橋を作り続ける────

 ───今日の作業で、無人島への橋の、実に半分が完成した。

 かなりの数の木を先に切り倒しておいたから、これからの作業はより早くなるだろう。

 彼らは独立するのかしないのか。

 出来るのか出来ないのか。

 日曜日の裁判も大いに参考にするという。

 ということで、ティラバスの3日目は終了……まだしない。

 まさかこの後、あんな事が待っているとは思わなかった。

 まあそれはもう少し後の話で、俺は作業が終わって、酒場に向かったのだ。


 〈6-7〉

 すごく重要な事柄を説明し忘れていたことに今更気づいた。もう遅いかもしれないが今からでも説明しておこう。

 俺は、思考異常・達成などによって一般人からは畏怖され、まともにコミュニケーションを取ることが出来ない。だから中学時代までは比較的とても孤独な人生を送っていたわけだが、じゃあティラバスの住民とは話していいのか?という話になる。

 実は色んな条件が揃って奇跡的にオーケーな状態になっている。

 どういうことかというと、まずこの国は今荒れているということ。富裕層も貧困層も何かしらの軽度な思考異常を持っていると考えていい。

 でも、それだけでは足りない。

 そこにさらに出てくる条件…言語の違いである。俺にティラバスの言葉は話せず理解も出来ない。逆にティラバスの人間も日本語は話せないし、理解も出来ない。

 翻訳者か翻訳機を介してしか、会話は出来ないのだ。その時点でもう俺の言葉ではなくなる。そのおかげで、奇跡的に俺は畏怖されていない…思考異常の感染も防げるから、心置きなく会話出来る。

 ということで俺はまた酒場に来た。

 今日もやはり……いた。

 ジュースを持って座っている少年。まあ流石に急に話しかけるのもどうかと思うから、まずは店主に話を聞いてみよう。

「へいらっしゃい、おや、裁判官の兄ちゃんじゃねえか。おうしせっかく来てくれたんだ、今日はタダで構わねえぜ」

「いや、大丈夫です…今経済的に苦しいんでしょう。お気持ちだけで…ちゃんと払います。コヤルのジュース下さい」

「そうか!じゃあ、ちょいと待ってな!」

 そうして俺の元にジュースは運ばれてきた。コヤルというのはこの土地の果物である。

「今は砂糖が高いから、果汁100%だ」

「あはは…」

 なるほど凄い工夫だ。これも知恵か。

 しかし果物はまだ普通に採れるというのは意外だ…うん?いや待てよ。

 このコヤル…現地の名物ということは、富裕層も口にするということ…なるほどだからか。

「で、兄ちゃん、今日も取材か?悪いがあと30分で閉店だぜ」

「あ、いや、今日はそういうのではなくて…一つ聞きたいことがあるんです」

「ん?何だ?」

「あの…店の端にいるあの子。昨日も見かけたんですが…ずっとあそこにいるんですか?」

「ん?ああ…あの子は孤児だよ」

「え……」

 話を聞くと、店にずっといるあの子供は、革命運動が起きて死者が出る以前からの孤児らしい。家を持たないそうだが、閉店時間になると店から出て行き姿を消し、次の日の開店時間になるとまたひょこっと現れるとのこと。

 店主はあの子に三食与えてあげている。

 ただそれ以外は、店と客の関係らしい。

「……」

「兄ちゃん、あの子に興味あんのか?」

「…はい…昔の自分に似ていたので」

「兄ちゃんも大変だなー」

「ははっ…今は普通に幸せに暮らせてます。この国の人たちにも、そうなってもらう」

「ありがてえ。日曜日が楽しみだ」

 そんな会話をしていた時だった。

 あたりも暗くなってきた時、その子は静かに店から出て行った。

「…俺もそろそろ帰ろうかな」

 俺はそう言ってお金を払い(行きしなに理事長から支給されていた)店を出た。

 少々いけないことだが…あの子を尾けよう。

 審判を下すのに、あの子は避けて通れない……

「ああ兄ちゃん」

「?」

 店の玄関で、店主に呼び止められた。

「なんですか?」

「さっき家はないと言ったが…あの子は実は家はあると思ってる。後を尾けようと思ってるならやめておいたほうがいい。あれを見たら辛くなるぜ」

「………ありがとうございます」

 俺は忠告を受けて、それを心に閉まって、やっぱり尾けることにした。

 ティラバスは島を外から隠すように森に包まれている。元が小さい国なので都市部からでもすぐに森に着く。そして、彼は森の中へ入っていく…動物の気配はない。

 足音は大丈夫だ…枯れ葉や枯れ枝が退けられた道がある。彼はこの先にいる────

 ─────今。

 音がした。バシャバシャという…水の音。

 入浴中なのだろうか。

 俺は少し待って、水の音が止んでから少し経ってから、先の道を進んだ。

「…………!」

 いた。

 彼が…寝ていた。

 落ち葉に塗れて…眠っていた。

 もう目が暗さに慣れてきたのでよく見える…秘密基地のような場所のようだ。

 木の枝を引っ掛けて作った屋根の下で暮らしているようだ──────これは────

 ──────人間の暮らしていい場所か?

 しかも子供が…水源が近くにあるのは良いが、落ち葉なんかじゃ布団の代わりにはならないし、何よりこれじゃあ雨を防げない。

 ダーク・バランスのようなサバイバルに長けている者達ならともかく…こんな小さな子が、こんな劣悪な環境で暮らしていれば、どれだけ寿命が縮むことだろうか。

「……‼︎」

 その時、彼は気配を察知したのか起き上がった。ズザザザッと落ち葉を蹴散らして距離をとって、俺を睨む。

「…よく考えたら、濡れた体を拭くタオルも無いんだよな…」

「hckiiicdblcckukyigu;;/!!」

 翻訳機の出番だ。

「何の用だ外国人!」

「……なあ君」

 俺はこの子を放っておけなかった。

 そしてこの子はこの後、裁判におけるキーパーソンになる。この子は俺の、この国に対する認識を大きく変える。

「もっと甘いジュースを飲んでみないか?」

 つまりはこういうことだ。

 もっと甘い汁を吸ってみないか?

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