第四話【カウントダウンは進行する】前編
〈5-7〉リリー・シエルの場合。
今日の私の一日。まず、朝から。
私は今、1年4組の教室に来ていた。何故かというと、転校してきた夏枷ちゃんと椎名くんに会うためだ。
それにしても、教室間の移動が許容されるなんて、もはや世間の若干厳しめの教師より理事長は甘くなっている。
「近々、君達に頼みたいことがある。行動を制限しておいてなんだが、協力してほしい。頼む。
こういう時の為の、この学校なのでな。」
それは、彼が最近になって突然、封印クラスに来て言った言葉だった。その意味はよくわからなかったが、しかし私たちが頼りにされているというのはわかった。
その日から、対応が明らかに良くなった。もはや封印のことなど気にならないようなくらいの至れり尽くせりで、封印クラスは一つのレジャー施設のようになっていた。元からホテルみたいな教室(しかも空間がいじってあって、めちゃくちゃ広い)だったが、しかし本当、どういうつもりだ?
私は教室から出て、隣の教室に入る。
そこにあったのは当然、悲しい光景であった。
「……うん」
誰も、いない。人っ子一人いない。
まあこれが普通、だ。この学校では。
団結した1組や、楽しそうな2組、皆が日々努力する3組などは、普通ではないのだ。この学校では。
教室には、誰もいないのが普通。
それが普通。でも。
「それが普通で、いいのかなぁ…」
「リリーさん」
「おわー‼︎」
私がそう呟いた直後、後ろから椎名冬空に話しかけられた。びっくりした。
「どうしたんですか?こんなとこで」
「あ、ああ、挨拶に来ようと思ってね…」
「さいですか。でも、ごめんなさい、今ユーカはいないんです……なんだか、面倒ごとに巻き込まれてまして」
「面倒ごと?」
「はい。なんか、助けを求められたらしいですよ」
「んー?」
私は、疑問に思う。面倒ごとに巻き込まれた?
それは、うちの副部長、薙紫紅の役割ではないのかと。
いや、もちろん、クレナイだって休まず面倒ごとに巻き込まれているわけではない。彼のクリムゾンの呪いには、1日2回までという制限がある、しかし、今はまだ朝、その2回をもう消費したということはあるまい。なら、なんで呪いを持たない夏枷遊華に面倒ごとが降りかかる?
「…まあ、誰もいないし、教師すらいないし、今日は帰って住むところを探したら?戸籍も消えちゃったんだし」
「ああ、それなら大丈夫ですよ、僕ら阻害地区の外から通ってるんで」
それは毎日海路を使っているということか。
お金、大丈夫か?
「そう?じゃあね」
私はその場を後にして、1年1組へと向かった。
〈5-2〉
今は、授業中らしい。なんでも技術使いは夏休み前までは校内清掃をしていたが、ついに掃除する場所がなくなったので(彼らのおかげでなんと今の天角学園はそこかしこがピカピカだ、もうボロ校舎とは言えない。)いっそのこと担任であるキャンディ・ベルに、大学レベルの授業もお願いしようということになったらしい。彼女が物を教えることが極端に上手いからだ。
「失礼しまーす…」
「はい、あれ、リリーさんじゃないですか。どうしたんです?」
今更だけど、今は夏休み明け1週間、つまり夏なのだ。4組から1組へと行く間の廊下だけでも汗が出てくるくらい暑かったから、1組の冷房が涼しくて幸せだった。
「いえ、薙紫くんはいますか?」
「む、リリーさん、なんの用かは知りませんが、今は授業中ですよ?生徒を呼び出すというのは一体どういうことですか!」
「すみません…」
そしてクラスから笑いが起きた。
なんだこれは⁉︎
綺麗な教室に綺麗な生徒たち、モラルを求められ、なにより授業が行われている!
ここ、本当に天角学園か⁉︎
教師は達成使いで殺し屋、生徒は凶悪犯罪者、尋ね人は封印能力者だってのに、なんだこの、のほほんとした空気は!
「最高かよ…」
「今日は彼、無断欠席ですよ。」
「えっ」
「朝からなんの連絡も無しで、学校に来てません。彼のことですから事件に巻き込まれてるんでしょう。」
「そう…ですか。ありがとうございました」
そういうと私は、教室を出た。
なるほど、理解できた。
彼は、事件に巻き込まれてる途中だから、他の事件には巻き込まれなかった、ということだ。
あー、すっきりした。
納得納得。さて帰ろう!
「…というわけにはいかないよなぁ」
私は、事件が多発していることを知ってしまった。知ってしまったのに知らんぷりをするのは、心が痛む。
行こう。私も、事件へ。とりあえず、クレナイの住んでいる学寮にでも行ってみるか。
〈6-8〉
学寮のクレナイの部屋に、夏枷遊華がいた。
そして、畳の上で寝ていて、その横に彼女がいた。
えっ。
「ま、まさか…えっ、嘘⁉︎」
私が、わけのわからない光景に慌てふためいていると、夏枷遊華は静かな声でこう言った。
「変な誤解しないでよね…」
「いや、どういう状況…?私、見てはいけないものを見ちゃったの?」
「見てはいけないものを見ちゃってない。というか、誰か援軍が欲しいくらいだったよ。全く」
ん?どういうことだ?
私はてっきり、クレナイが略奪愛を働いたのだと。
「略奪愛を働いてない。というか、そんなこと話してる場合じゃないよ…ああ、そこのタオル取って」
私はタオルを渡した。すると、彼女は氷水の入ったバケツにそれを入れて取り出して、絞ってクレナイの額にのせた。
「あ、もしかして熱中症?」
「それっぽい。…私が来た時には、この部屋はやばかった。サウナだった。多分あの中で寝たんだと思う…」
「マジか…。まあ、ここは犯罪オーケーな場所だからね、窓も全部閉めてただろうし…夜間熱中症って、まずいよね」
迂闊すぎる。
何がまずいって、クレナイの達成は人為的でない危機から命を守れないことがまずい。鍛えてある青年とはいえ、熱中症は恐ろしいのだ、死ぬ危険が十分にある。
「そうか、それで、献身的な治療を…」
「うん。頼りにしてきたのに……いや、来てよかったけどね。まさかこんなことになってたなんて」
あれ?そういえば一つ謎がある。頼りにしてきた?
「なんで夏枷ちゃんは、クレナイを訪ねてきたの?」
「あ、ああ…実は、ちょっとSOSが来ててね…私にすぐに来て欲しいってことなんだけど、1人じゃ不安でさ。魔女村を出たばっかりで、世間的な常識がわからないんだよ。そうでなくても、ふゆりんは自らの手でこの間ボコボコにしちゃったからさ、知ってるのがあなたと薙紫しかいなかった」
「なるほど。で、やってきた、と。」
椎名くんが聞けば怒りそうな話だ。だけど、怒りたいならさっさと付き合っちまえってことだな。
「わかった、困ってるんだね?夏枷ちゃん」
「え?うん…これ、代わってもらえるならありがたい」
「うん!代わってあげる!人助け部だし!」
「ありがとう」
「で、どこからのSOSなの?」
「⁉︎」
彼女は驚いた顔をした。何故だろう…?(これが、彼女は看病を代わってほしいという意味で言っていたからだということに気づくのは、のちのことである。)
「…う、うん。わかった。えっとね、魔法界隈では、魔法少女の里って呼ばれてるとこなんだけど」
それを聞くと私はすぐさま出かけていった。
帰ったら、外出許可証を偽造しなければ。
〈4-7〉やけに展開が早いと思ったら、今回は普段の半分、5000字で終わるショートストーリーだったのか。
がっくし。
ところで私は、魔法少女の里についた。
え?さすがに展開が早すぎるって?いやいや、行動が早いんだよ。以前地下都市に乗り込むまでが長かったことの反省をいかしてるんだよ。全くもう。
章替え、最高。
「こんにちは、あなたがリリー?私は魔法少女きらら。おっと!そんな顔をしないで、ここじゃこれが普通なの」
里のことを調べ上げるのは、さほど難しくなかった。どうやら異能機関の中ではおおっぴらにされている部類の場所らしく、魔女村のように、別に隠されているわけではなかったようだ。
でも残念ながら行き方が複雑で、周りがよく見えない場所で恐らく国境をいくつか超えたから、今自分がどこにいるのかはよくわからない。
しかし、まっすぐたどり着けた。
里の門で待っていたのは、1人の少女だった。
………………少女が多すぎる、地下都市編の3話ぐらいむさ苦しくてもいいってのに。と思ったものの、魔法少女の里なのだ、むしろ少女がいることは当然だった。
その少女は、デコレーションされたケーキのような服を着ており、マジで世間でいう魔法少女、だった。
…しかし、魔法少女きらら?
それ、名乗るか?普通……あ、普通なのか。
「とりあえず紅茶でも出そうかしら」
私はある家へ招待された。
彼女は私をソファに座らそうとしたが、遠慮した。
「いえ、いいわ。それより、さっさと要件を済ませましょう。今回はどういうお悩みかしら」
「そういうことなら…さっそく、あなたに壊してほしい物があるの。来て」
彼女は私を案内する。向かう先は、どうやら地下らしい。私たちは歩いて行って、街中を抜けた場所に突然あった階段を降りると、そこは鍾乳洞だった。
見ていると、地下都市の宝石崇拝を思い出す。
「ここよ」
鍾乳洞内に作られた階段を下がって行き、狭く、そして寒くなってきたと思っていたら、突如、景色が青くなった。
先ほどより断然広いスペースに出た。湖のように水がたまっていて、幻想的な風景だ。
その湖の中心に、何やら四角い箱がある。
なんだあれは。
「ちょっと待っててね」
すると魔法少女きららは靴と靴下を脱ぎ、ドレスのスカートの端を持って水に入っていった。そして、中心まで行くとその四角い箱を水の上に浮かべて(浮かぶということは軽いということだ)私の元まで船が着港するように持ってきた。
「私の推測通りなら、この中に死体がある…!」
〈6-27〉えっもう終わり?マジで?短いよ!
もう二度としないからなぁ…?
結局、結果から言うのなら、箱の中に死体は無かった。そして、その後魔法少女きららから、私の勘違いだった、と延々と謝罪された。
ことの真相はこうだ。
彼女は聞いたらしい…神聖なる鍾乳洞に保管されている魔法によってこの街のエネルギーは生み出されているが、実は魔法ではなく魔法少女なのだという恐ろしい話を。
エネルギーとはすなわち電気やガス、水などを意味するらしい……だが、真実は違った。
ともあれ、彼女は念のため外部から応援を呼んで、真相の究明に当たることに決めたらしい。それで、魔女村を出てフリーになった夏枷ちゃんを頼ることにした、と。
しかし、何事もなくてよかった。
「本当にそうかな?」
後日。私は一連のことをクレナイに報告していた。彼はあの時いろいろあったらしいが、無事に生還していた。
「本当に?どういうこと?」
「いやだから、要するに、実は魔法でも、魔法少女でもなく、科学によってエネルギーは生み出されていたってことだろ?」
「……まあ。四角い箱、棺には何も無かったし、誰もいなかった。その上、もう一度よく見て見ても、街のエネルギーから異能らしき反応は感じ取れなかったし。そういうことになるね」
「そりゃ怖い」
「怖い?」
「ああ。怖い。つまりそれって、ほとんどの人間は文明の科学を知らないってことだろ?それは、魔法少女の里が施した、拘束なんじゃないのかな」
「……ああ」
言われてみれば確かに。科学を知らないまま社会に出るということは、いきなり異世界に転移させられるようなものだ。
科学を魔法と偽る。嘘を教える。
文化の違いを作ることによって柵を作る。
やはり魔法少女というのは、どこでも闇が深いらしい。あの場所もまた、例外では無かったということだ。
「しかし、なんで何も中身の無い棺があったんだろうな」
「うん、それは不思議だよね」
因みにその後私は、魔法少女きららの正体が実はあの棺に閉じ込められて魔力を吸われ続けついには死んでしまった魔法少女の亡霊であったことに気づき、急いで里へ向かったが、辺境の土地で生活できなくなった里の住人たちは皆飢え死にしていて、手遅れだった。
SOSは、魔法少女きららが出したのではなく、今を生きる人々が出したものだったということだ。
亡霊になって復讐の機会をうかがっていた彼女は、次の犠牲者が出る前に棺を壊そうと、壊してもらおうとした。棺を見て魔力を感じなかったからもう死んでしまったと勘違いしたが、蓋を開けて誰もいなかったので私の仕事はなくなった。
つまりだ。
魔法少女の里の住人たちは、棺にかかっている錠前の開け方さえ、わからなくなっていたということだ。
彼女の復讐はするまでもなく達成された。
悍ましいぜ、魔法少女。
〈5-7〉時破田心裏の場合。
ストーリーが空っぽのバトル漫画と、ストーリーが中心のバトル漫画がある。前者は戦闘力で話が進む。後者はそうではない。この二つを比べると一見後者の方が良いように見えるが、現実はそうとは限らない。ワクワクするとか、画力が凄いとか、描写が見やすいとか、芸術性があるとか、要するにたとえストーリーが無いも同然のバトル漫画であっても、売れている漫画には『バトルが楽しいから』以外の理由があるということだ。とすると、そもそも二つに分けることなどできない。
バトルが良いのは当然で、というか、前提で、他にもつ一つや二つ、人に好まれる特徴を持つ。ストーリーが良いとか、ストーリーじゃないところがいいとか。それが、売れているバトル漫画全てに共通することである。
こんな感じの考察をしてしまうのが普段のことなのだよ、と、人前で誇らしく言えるくらい、あたし、時破田心裏は漫画が好きだ。しかし、こと今回において、これは、漫画だけの話ではない。
今回あたしは、ある異能組織を訪れた。
〈6-6〉私は理事長室に呼び出されていた。
「時破田さんは確か、漫画が好きなんだったね」
理事長はそう言った。
さて、一体どういう状況なのかというと、あたしにもわからない。あたしはいつも通り部室でゴロゴロしていたのだけど、いきなり理事長室に来てくれと放送で呼び出されただけなのだ。ただ、なんとなく想像はつく。
理事長がこの間1-5教室に来て言った言葉────近々君達に頼みたいことがある────から考えれば、おおかた天角学園には封印能力の力を借りたくなるような危機が迫っていて、その準備の為にあたしを学園から追い出したいのだろう。
…あれ?この想定は自意識過剰かな?
「君におあつらえ向きの異能組織がある…少々問題がある場所で定期的に監視に行かなければならないのだが、実は今私は忙しくてな。ぜひとも、人助け部に助けてほしい」
そういうと、理事長は資料をあたしに差し出した。
そこに書かれている名前は。
「レイバード…?」
「そうだ。レイバード。以前はレインバード…雨告げ鳥を名乗っていた組織だ。その名の通り、雨を告げるような役割を果たしてくれている」
「告げる?」
「そう。詳しくはその資料の通りだ。行ってくれるね?」
…あたしは資料に目をやる。
そして吟味した結果、行くことにした。
資料の中の一文に、面白いものがあったからだ。
〈1-1〉
レイバードは割と最近できた異能組織らしい。
本部はある県の海岸沿いにある体育館ほどのこじんまりとした施設で、少人数で運営されている。阻害地区とは違い一般人の目につく場所にあるので、外見は自動車の部品を製造する工場を装っている。
なんでも3年前、『N』という人物が立ち上げたらしく、その役割は雨告げ鳥のように、外国からの襲撃をいち早く政府に知らせること、らしい。ようするに国防組織だ。
しかし最近、組織は壊滅の危機に瀕しているとか。
何故かというと、Nが突然、姿を消したからだ。
そもそもレイバードは政府直轄の組織ではあるが公式ではないようで、資金援助が出ないのだ。その上で、古株のリーダーを失った今、統率は取れず、隊員は減り、金は足りず、政府からも愛想をつかされ、大ピンチ…というわけだ。
どこが気に入った一文かというと、次だ。
『Nが蒸発したことによりレインバードからレイバードに名称を変更した』。どう思う?
レインバード→rain birdで、Nを取ると、rai bird。しかしそれだとレイバードというよりライバードだ。
つまり、ローマ字で考えているのだ。
ローマ字なら、re_i_n_ba_-_doで、Nを消すとreiba-doとなる。あたしはそこに惹かれた。アホさ加減に惹かれた。どうしようもなく、この組織に行ってみたいと思ったのである。
〈5-8〉
『レイバードの殲滅士』とは、異能犯罪者から世界を守る超能力者軍団で、戦闘用公務員とも呼ばれる。
機関では超能力を伸ばす訓練を受けられる。
略して『殲士』と呼ばれる。
D級殲士
育成途中の殲士。初めての方はここから。
一般人レベルの力を持つ。
C級殲士
ある程度強くなったらここへ。
一般人の2倍ほどの力を持つ。
B級殲士
ここまで来ると立派な殲士。
一般人の10倍ほどの力を持つ。
A級殲士
殲士の中でも特に強いエリート。
一般人の12-20倍ほどの力を持つ。
S級殲士
ここまで強くなると唯の災害。
一般人の64788435643337778946447375744869953222454336357645796535786443357788788888888363322464686763223678475347457322568983361111倍の力を持って初めて認定される。ただいま2人。
戦い方は『弾式斬システム』を利用している。
資料の裏面にはそんなことが書いてあった。なんともまあ、ツッコミどころに溢れていた。
さて、私はそのレイバードに着いた。
え?展開が急すぎる?そんなこと言われても。
「さて、行きますか…」
建物の扉を開けると、玄関があった。見た目は完全に体育館だ。そして、あたしはさらに次の扉を開ける。
すると、あたしの視界が暗くなった。
「え?」
目の前を埋め尽くす『銃弾』。決して比喩ではなく実際に埋め尽くす銃弾たちが、あたしへ向かってくる───
「────て」
あたしは咄嗟に能力を使い、身体を強化した…銃弾は全て受けてしまったが、能力の発動は間に合ったようで良かった。
おかげで、『テレポーテーション』のおかげで、さほどの傷はできなかった。
「……何?何が起きて…」
あたしが前を向くと、そこには100人を優に超える、銃を構える戦士達がいた。あたしは推測する。
おそらく、B級殲士だ。
「な……あれだけ食らったのに倒れねえだと⁉︎」
中にはそんなことを言ってたり、逃げ出す奴もいる。なんとなく締まらない感じだ。だが、それでもこの状況は脅威だ。
いつのまにか後ろの扉も閉められているし、もうこれは、頑張って全員無力化させるしかない!
再び降り注ぐ銃弾の雨。あたしは弾切れを狙うことにした。
『テレポーテーション』を封印され、外部に、もしくは外部から効果を使えない今、できるのは肉体の強化ぐらいだ…銃弾が当たっても大丈夫なくらいには出来るが、銃弾を避けることはできない。
向こうが諦めてくれるまで、待つしかない。
しかしこの状況─────ぞわぞわしてきた。
ぞわぞわしてきた?いや、ぞくぞくしてきた?
「わくわくしてきたんじゃない?」
気がつけば、弾丸の雨は止んでいて、その代わりに1人の少女がいた。銃を構えていた殲士達は地に伏せて眠っていた。
「わくわく…ね。漫画みたい」
「そうだね。次はわたしがあいてだよ」
そう言った彼女は、随分と小さな女の子だった。
「あなたは?」
「A級殲滅士、新田アリン!わるいけど、あなたにはここで眠ってもらうよ…あいつらを動かすわけにはいかないからね!」
あいつら?
S級のことか?
「これ以上めんどくさいことはしたくない…須川朝登じゃないのがざんねんだけど、あなたでもいい、これは、二度とここに近づくなっていう意思表示だとおもえ!」
「……それは、政府から離脱するってこと?」
「そうだ!」
「やめときなさいよ。確かにそうすれば自由度が増して、組織の復興に繋がるかもしれないけど…でもその後、どうするつもり?非正規の戦闘組織が単独でいるのは危ないよ。すぐに襲われて、全部パーになるよ」
「うるさい、しね!」
彼女は、拳に力を入れながら走ってくる。資料にあった弾式斬システムとやらを使っているようだ。
走る彼女は叫ぶ。
「爆弾模式───拳斬!」
すると、彼女は飛んだ!
「!」
低空飛行で、突っ込んでくる!
拳を前に出して、槍のように!
あたしはそれを受け止めるが、いや、受け止めきれず、姿勢を崩してしまう。そして、彼女は即座に次の攻撃を準備する!
宙に舞いながら、何かを召喚する。
「爆弾模式は半径30m以内の攻撃力をあつめるシステムだ!───そんでこいつが!」
彼女は構えた。
未だ宙に舞いながら───銃を。
召喚した巨大なライフルを、引き金に手をかけながら!
まずい!
「ライフルを召喚するシステム、銃弾一式投斬!」
〈4-7〉
弾丸はあたしには当たらず、顔のすぐ横を通って後ろの扉を貫いた。あたしは唖然として動けなかった。
「勝負ありだね、ときはださん」
「……うん、あたしの負け」
「こっちきて。S級も交えて、みんなで話し合いましょ。レインバードを復興する方法について」
そう言うと、彼女はあたしに手を差し出した。
あたしは起き上がった。
そして彼女はこの空間よりさらに向こうにあるという部屋へと、あたしを案内した。
「ここには来るなって意思表示じゃなかったの?」
「あいにく、それは相手が強者だったばあいだ…今のあなたは、ひどく弱体化している」
「確かにそれはそうだ」
「そしてそうすればあなたに危険がおよぶことをあの須川朝登理事長はわかっていた…だから、まさか封印を解かないまま来るとは思ってなかったし、ここへ来たということは、イコール潰しにきたんだと思っていた─────しかし、ここは、あの男がアイデアを派遣したとかんがえてやる」
「…あたしで役に立てるか、わかんないけど」
着いた。
そこは、狭い部屋だった。
和式部屋。中には、青年が2人いた。
「おー!遅かったな!ちゃんと生け捕りできたか?」
「。。。誰?」
見るからに熱血系とクール系らしい。なるほど、理事長の言うこともわかる気がする。この3人に関しては、どことなく漫画チックだ。君におあつらえ向き、とは、確かにその通りだ。
なんだか、この人たちは、それぞれ人気を取ろうとしているように見える。
「よっす!俺は十禅寺 環!」
「僕は麦倉 陸。。よろしく」
唐突に自己紹介が始まった…あたしもすかさず、
「時破田心裏です。よろしく」
と続けた。
しかし、よく考えれば今は大変な状況だ。理事長に能力を封印されている今、A級にも敵わなかったわけで…S級が一般人の64788435643337778946447375744869953222454336357645796535786443357788788888888363322464686763223678475347457322568983361111倍の力を持つというのがハッタリでないのなら、あたしは息を吹きかけられただけでも死んでしまうだろう。
「あー、それは本当だぜ。俺ら2人はマジでそんな感じだ。システムを使ったらの話だけどな」
「。。。一般人の力っていうのは体力測定をバイオレンスにした感じの試験で測った数値だよ。。狂いはない」
「その、システムっていうのは結局なんなの?」
「かんたんに言うと異能だ。」
「魔法?超能力?」
「どちらでもない…というか、その2つだって大した違いはないと思うけど。強いていうなら新型の異能だ」
新型?
異能に新型とか、あるのか?
「システムは要はリサイクル品なんだよ。異能物質って知ってるか?古来からの異能に無理やり科学を混ぜたことによって生まれた、異能が混ざった物質…システムは、それを粉々にして、違う形に作り変えたものだ。わかりやすく言うなら、白い粘土で作品を作って、そこに着色して、潰して、こねて、別の形にする。そうすると、色は混ざっちゃってるわ原型はとどめてないわで、全く違う別の物体になる…みたいな」
「……」
「Nは、30年前から活発になった異能物質の研究に関わっていた。…かかずらわっていたと言った方がいいかもしれない。とにかく彼は実験台を探していた。そこで作ったのがレインバードってわけ」
「。。裏世界から目をつけられていたり貧しかったりする子供達に、自衛の手段を与える代わりに実験台になってくれという条件で隊員を募集したんだ。。」
「………で、最近になって何故かそのNがどっか行っちゃった、と。まあ確かにそれじゃあ、この組織の存在目的が無くなっちゃったみたいなもんだし…うわっ」
ふと目を見やると、新田アリンがうつむいていた。
ずーん、としている。悪いことを言ってしまったか。
「いやまあ…警報を出す仕事だって、金稼ぎの為にやってただけだし…存在意義は弾式斬システムにあるというのがレイバードだ。Nがどっか行っちゃって新しいシステムも届かなくなったし、ああ…」
「あんたの言う通りだよ、時破田さん。先代には何があっても守れと言われたここだけど、そろそろ廃業かもしれねえ」
「。。。。まあ、覚悟はしてたよ」
なんだかあたしの一言によって諦めモードに入ってしまったようだった。
しかし……あたしにも、ここから盛り返す策なんて、全く思いつかない。だいたい、彼らは今後の人生がかかってるんだから、あたしよりずっと長い時間、ずっと真剣に考えていたはずなんだ。しかし、それで八方ふさがりというのは…。
もうどうしようも、ないんじゃないのか。
「せめてお金があればね…まだもうちょっとやりようがあるんだけど…」
「……」
彼女らの人生を考えるなら、まず働くことを考えなくてはならない。しかし、彼らにそれは酷ではないのか…?
いやでもよく考えたら、隊員の中には外にやすやすと出られない人もいるかもしれない。結局のところ、レイバードを存続できるというのが一番いいのだ。
「………」
ならば、アプローチを変える必要がある。
「あー、もう終わりだ」
Nを探し出す方法。
「…はぁ」
働く方法。
「。。。。」
常識を覆す方法。それら全ての条件を満たしていて、ここから組織を復活させる為の方法。
「あっ」
「ど、どうしたんだ時破田さん」
「あんたら、アイドルになったら?」
〈7-8〉泣藤創士という男は元々レインバードという異能組織のリーダーで、Nという名で慕われていた。システムという新型の異能を作り出し、その研究をすると同時に、それを用いて戦闘員としての活動もしている。
「…この部屋か…よし!」
この日の為に、僕たちは頑張ってきたんだ。奴らなどにこの星を脅かされて、たまるか。
「…!!」
僕が組織から去って数年が経った。急にほっぽり出して出てきてしまったから、さぞ、困惑させてしまっただろう。
「ひ、ひどい…!」
昔の仲間からの救援要請で、仕方がなかったんだ。システムの力が、何か役に立つかもしれないんだ。
「ん、あれ?まだいたんだ。こいつらの仲間?」
あいつらは元気にしてくれているだろうか。こちらは今、研究の集大成といったところだ。
「き、貴様…!」
「やっほー」
その、倒れている昔からの仲間。一体、何があった。…いや、何があったかはわかっている。負けたのだ。
皆、僕なんかよりずっと強い、異能力者────
────だけど、負けた。この女の前に。
「まあ、せっかく来てくれて悪いんだけどさ、そろそろ見たい番組が始まる頃なんだよね。今人気の奴らがトップに出てくるらしいし、見逃すわけにはいかないし」
「黙れ…よくも!」
僕は持ち前のシステムの中で最高威力の物を使う。
が、しかし、結果はわかりきっていた通りだった。
吹き飛ばされて、俯きに倒れる僕に、彼女は言うのだった。
「ウチの血筋を舐めちゃいけないよ。刃渡家に……あんたごとき勝てるわけないじゃん?」
「……!」
彼女はテレビをつけた。
「おお、始まっちゃってたか。そうそうこの子達、最近注目の若手ってさ。あんた知ってる?」
僕は他にできることもなかったので、テレビに目をやる。すると、そこに映っていたのはとんでもない光景だった。
かつての弟子達が、子供達が、すっかり立派になって、歌って踊っているではないか。
「……はは…」
「あれ?知ってたの?」
「ああ。よく知る奴らだ。しかし考えたな…アイドルか。随分と思い切ったらしい」
僕は立ち上がった。
…そんな元気は無いはずだろうって?
彼らが与えてくれたんだ。
「…あれ?あんた、まだ立てるんだ。不思議」
「弾圧式典───斬獲!目で見た者のシステムを使うことのできるシステムだ…まさか彼らが助けてくれるとは」
僕は逃げた。レインバードのS級殲士の力をフルに使って。ここで全滅するとしないとでは、今後の計画の進み具合が違ってくるからだ。
でもダメだった。
すぐに方向転換して…つまり、彼女に背中を向けて逃げようとしたが、しかし彼女はいつのまにか僕の目の前にいて、手でピストルの形を作って銃口を額に当てていた。
「んじゃ」
その瞬間。血も出さずに、体のどこも傷つけられずに、僕は死んだようだった。
これが、この家系の力か、と思った。
ああ、刃渡唯の保護が完了するまでは上手く事が運んでいたのに───そんな、現時点では誰もわからないようなことを思いながら、僕は、今度は仰向けに倒れた。
死ぬ直前、テレビから声が聞こえてきた。
「。。僕たちには探している人がいます。。」
「お兄さんみたいな存在で、数年前からずっと探しています。アイドル活動も、気づいてもらう為に始めました。」
「私たちの本当に大切な人なんです。ずっと待ってますから、気づいたら、連絡くださいね。」
彼らの声だった。ちゃんと、伝わっているよ…でも、僕はこの辺で終わりのようだった。
最後に聞けたのが彼らの声で、良かった。
ということで、僕は望みを天角学園理事長・須川朝登に託して、死んでいくことになった。
なんだこのオチ。
笑えねえよ。




