表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Angel Break!【1年生編/最終世代の学園】  作者: 山野佐月
【1年生編/最終世代の学園】
35/66

第四話【天変地異は炸裂する】全編

 ノットフロッグ〜カエルじゃないよ〜最終章

 …完。

「うわー!感動したわ!」

「あたしこの監督好みかもしんない」

 突然だが、俺たちは映画を見ていた。ある少年が結婚式を迎える朝、目が覚めたらカエルになっていたというところから始まるストーリー。

「………いやまあ、うん?」

「どうしたの紅、不服そうだね」

 俺の嫁こと時破田は見事に心を読んでみせた。

「誰が嫁だ」

「いや、なんだか、映画同好会みたいだなって」

「映画嫌い?」

「いや、人助けしてねえなって…」

 俺は最近、それが引っかかっていたのだ。夏休みの間も(リリーはいなかったけど)一応活動していた人助け部だが、本来の活動内容であるカウンセリングを全くしていない。

 夏休みであることをいい事にクリムゾンの呪いでも離れた場所の事件に巻き込まれていたし、なんだか、言葉を選ぶなら、

「形骸化している?」

「それ」

 リリーがそう言った。まさにそれ、だ。

「まあ、あんまり活動してないと、あの意外と口うるさい理事長に怒られるからね……本来、私達の出番なんてない方がいいんだけど」

 それはそうだ。

 人助けなんて、本来は無くていいのだ。それは軍隊や自衛隊、さらには正義のヒーローにまで言える事である。

「だがまあ、それもそうか…出番が無いってことは、それはそれで平和ってことで…」

 と、その時。

 部屋の扉がガラッと開いて、1人の男が現れた。

「失礼する!紅くん、少しいいか?」

 映画を鑑賞していたので暗くしていた教室でもちゃんとこちらを見ることができている彼は、3年3組在籍で、覚醒者クラスのクラス委員長にして、夏休み前の体育祭にて俺と対立していた男、烏丸憂。

 一体何用だろう?

「わざわざ紹介を挟んでもらって悪いが、どうやらまた新キャラのようだぞ。新キャラが、懐かしのキャラと戦ってる」

 口にしたのが良くなかったのか?

 期せずして俺たちの出番のようだった。


 〈5-1〉

 そういえば今回はリリーが語り部のはずだったが、あの話はどこに行ったんだろう。

 俺はそんなことを思いながら、烏丸憂についていった。そのリリーも何故かついてきている。

「んで、戦ってるっていうのは誰なんだ?」

「近藤いつみ。炎使いだ」

「ああ」

 確かに懐かしのキャラと言われればそうだ。かつて思考異常・自己完結を持つ殺人者達の集団『アスクブランク』と対立し、今は殺人活動が止まっているので潜入しているという。

 それより以前に、彼女は政府から派遣されたスパイ(というか監視役)だったか。

「あれ?でも、近藤さんが戦ってるってことは、つまりどういうことだ?しかも新キャラと?」

「……聞いた話によると彼女は正義とか悪とか、二極化されたものが嫌いらしい。大方、彼女の前で正義のヒーローを語ったりしたんじゃないか?」

「正義のヒーロー、ねえ」

 不必要なもの。本来は。ならばその本来とはなんだという話になる。そもそも思い描く平和を作り出せていない人類には、そんなことを言う資格はないのかもしれない。

 そんなことを言っていると、いつのまにか玄関にまで来ていた。靴を履き替えていると、校庭で確かに誰かが戦っているのがわかる。

 見えるのは、動く炎と、動く謎の黒い…風のような何か。あの感じは、魔法、だろう。

「……あれ?」

 リリーがそう呟く。何かに気づいたらしい。

「ねえクレナイ、見える?憂くんは覚醒者だから当然見えるだろうけど、ほら、炎と、黒い魔法の集合体と、あの雷」

 雷。リリーはそう言った。

 俺には見えない。

「私、あれ知ってるんだけど」

「え?」

 すると、烏丸憂は妙なことを言い出した。

「……リリーさん、俺にも見えないぞ。雷とやらは。()()()()()()()()()()()()なら見えるが」

 なんだかわけがわからなくなってきた。

 どういうことだろう。

「じゃあそいつは多分白湯奈レミっていう能力者だよ……だとしたら、ちょっとまずいかも。近藤ちゃんの実力は私よく知らないんだけど、白湯奈はあれ結構強いんだよ」

 なるほど、リリーにそれを言わせるほどということか。

「それは、アメリカに行ってた時に?」

「うん。地下都市で会った。というか、戦った。あいつは、人造人間を作るために必要な要素である『逆算』…因果律を逆転する能力を持ってるから、かなり強いはずなんだけど…」

「ふん」

 すると、烏丸君が前に出た。

 何をするつもりだ?

「なるほど、因果律を逆転されては見えないわけだ。雷を発動したから当たる、というのを、当たるから雷が発動していた、という風に置き換えるのだな。なら、攻撃を避けられては雷は可視化されない…封印能力者どころか異能を持ってすらいない俺には見えないわけだ。」

 そして、まあならば何故攻撃は当たらないんだろうな、と彼はその後に付け加えて言った。そう、そこが問題だ。

「リリー、黒い魔法を操っている奴の実力は、ここからじゃわからないか?」

「わからない。けど、白湯奈より劣っていると思う」

「それは、なんでそう思ったんだ?」

「あいつはああ見えて、かなり強い。あのレベルの奴がゴロゴロいてもらっちゃ困る」

「……あ、ああ。お前が言うか」

 俺はああ見えないからよくわからない話ではあるけど、なんにしろ、戦いを止めるには近づかなくてはならなそうだった。

「だな。では、先に行っているぞ」

 すると、烏丸君は消えた。

 ……………………消えた?

「クレナイ、私たちも行こう」

 俺には何が起こったのか、わからなかった。しかし、リリーとその現場に駆けつけた時にやっと理解できた。烏丸君は、目に見えない速度で走って先に到着していたのだ。体育祭で種子島軽と競った時よりずっと速い走りで。

 俺たちが戦いの場所へと走って行くと、そこは既に戦いの場所ではなくなっていた。

 そこにいたのは、近藤いつみと、白湯奈レミ、烏丸憂。そして、その3人と向かい合うようにこれまた知らない少女(赤髪)と、その少女の後ろに隠れるようにいる知らない少年がいた。その2人は、同い年のように見えた。

「……これはさすがに分が悪いな」

 すると、赤髪の女は喋り出した。

「クリムゾンと、俊足ボーイか。あと100年あっても勝てなさそうだ。ここは素直に降伏しよう。

 ()()()()()

「う、うんっ、そうだね。」

 俊足ボーイとは烏丸君のことだろう。そしてクリムゾンとは、俺の中学時代の通り名だ。

 今は、2人で相談しているらしい。

 膠着状態が続く。その間、おのおの会話を済ませる。

 こちらではこんな会話が。

「済まないな、巻き込んでしまって。こういう場合、俺も含め3組生徒は動きづらいんだ。万が一ペナルティーを負うと、研究費が減って活動できなくなる」

「気にすんな、巻き込まれるのはもはや俺のお家芸だ…それより、今は集中だ。奴らの実力は未知数だ」

 あちらではこんな会話が。

「リリー姐さん、ここにいらっしゃいましたか」

「あんたはいつから私の子分になったのよ」

 今は集中しろよ。

 過去の出来事を懐かしみながらも漫才すんな。

 と、そんな風に空気がおかしくなってきた時だった。

「……まあ、と言うわけで皆さん、お騒がせしました」

 赤髪はそう言うと俺たちに背を向けて歩き出した。突然のことだったのでみんな対応できずにいたが、俺ははっと気づいて彼女らを引き止める。

「ちょ、ちょっと待てよ!何か用があるんじゃなかったのかよ!」

「…何?あんたは」

「クリムゾンだよ!お前は誰だ!」

「私の名は『夏枷遊華』。いや人を探してたんだけど、ここにはいなかったみたいだから。」

「人?なんていう奴だ」

「リリー・シエル。っていうんだけど」

「!」

 俺は、さすがにこういう場面には慣れているので、「こいつだよ!」とか言ってリリーを前には出さなかった。

 一応、後ろの少女がリリーであることは秘密だ。

 そしてそれは皆んなもちゃんと合わせてくれていて、うっかりリリーの方を見る愚かなやつもいなかった。

 でも、何故リリーを訪ねてきた?

「………あいにく、うちにそういう名前の奴はいない。が、ツテを辿れば見つけられるかもしれない。協力しようか?」

「本当?そうしてくれるとありがたい。いや、困ってたんだよ。日本の天角学園の1年5組に在籍してて、人助け部とかいうクラブ活動をしてるって話だったんだけど、やっと禁止地区から日本に戻ったっていうからちょっとお願い事をしにきたのにさ、わざわざ日本人っぽい偽名まで作ってしかもそれを用いたニックネームまで作って万全の状態で来たのにさ、オーラを全く感じないし、おびき出そうとしたのにそれも効果なかったしで八方ふさがりだったんだよ」

 どストレートに到着してるじゃないか。

 そしてリリーの行動があまりにも筒抜けすぎるだろ。

 が、しかし、リリーのことに気づかない理由はそういうことだったのか。禁止地区の地下都市では理事長の封印が解けていたから、絶対零度が進化した【絶対零下】がそれこそ万全の状態であると信じきっていたらしい。

 顔を知っているはずだが、まあほぼ無能力者みたいな今のリリーと封印無しのリリーを結びつけることは困難だろう。

 彼女らも、魔法使いのようだし。

 何はともあれ良かった。

 ちょっとしたお願い事というのが何かはわからないので、回避できるのならした方がいい。ちょっとしたお願い事というワードから、いい予感を感じることのできる人間はいないだろう?

「…わかった。探してみよう。」

「ありがとう。行こう、ふゆりん。ここにリリー・シエルはいなかった。しかし次はどこを当たってみようか…」

「うん。私はジャンヌ・ダルクだしね」

「…えっ」

 ………………あれ?今、リリー、なんて言った?

 うん。私はジャンヌ・ダルクだしね?

 それは、第零話で失敗してた誤魔化し方だよな?

 なんでそれをした?

 というか、なんで出しゃばったの?

 もしかしてこんなギャグで台無しにするつもりか?

 嘘だろ?え?

「…おいおい、これはこれは…」

 夏枷遊華は近づいてくる。ああ、もうだめだ。

 第零話と同じ会話が起こる。

「お前がリリー・ダルクで、間違いないな?」

 混ざっている。

 再現するならちゃんとしろ。

「お前がリリー・シエルで、間違いないな」

「私はジャンヌ・ダルクだよ」

「時破田より誤魔化せてねえ」

「時破田⁉︎」

「もうええわ!」

 というか、時破田は知らないはずだろ。

 そんな茶番で四千字にまで来てしまったがまだまだこの章は終わらない。というか、一万字で終わるかな?このエピソード。

 場所を変えて、俺たちは人助け部室へ。

 俺たちといっても、俺とリリーと来客2人だ。

 もちろん部室だから、時破田もシモンも、顧問副顧問である美樹先生、都賀先生もいる。ひょっとしたら部屋の外にはさっきのメンバーや、達成使いの監視係の担任キャンディ・ベル、騒ぎを聞きつけた理事長が聞き耳を立てているかもしれない。

「登場人物、増えたね」

「黙れ」

 大きな机に座ってもらって、話をすることにした。

「ということで、改めて自己紹介をさせてくれ。私は夏枷遊華。サマーの夏に、足枷の枷、遊ぶの遊に画数が多い方の華で、夏枷遊華。こっちのツレが『椎名冬空』。椎名はよくある椎名で、冬空も冬の空で冬空だ。これが日本名になる。」

「俺は薙紫紅。まあ、せっかく懐かしいからクリムゾンでいいよ。こっちはジャンヌ・ダルク」

「ねえ、まだネタを続けるつもり?」

「黙れ」

「私はリリー・シエル。で、頼みごとっていうのは?」

 いきなり本題に持っていくリリー。

 夏枷はそれに答える。

「…少し事情があってな。私達は魔女村から来た」

「魔女村」

 魔女村とは世界最大の魔法使いの住処で、リリーの今は亡き父親や叔父の出身地、である。

「ご存知の通り、魔女村は一つの大きな異能組織だ。だから、敵も多くいる。それゆえ、私達若い世代は戦いはせずとも戦力を持っている必要がある。そうすることで、起こさずに済む戦いがあるからな。だが─────」

 すると、夏枷は隣の椎名くんの頭の上に手を置いた。

「この椎名冬空は、少し特殊でな。とんでもない才能を持ちながら、それを全くと言っていいほど扱えない。」

 リリーは疑問の顔をして質問する。

「…とんでもない才能?」

「まあ、封印能力者だとかいうわけではない。だけど、そういう人たちと比べても特殊、なんだ」

「具体的には?」

「こいつは、全属性の適性を持っている。」

「ぜ、全属性⁉︎」

 リリーが椅子から転げ落ちた。転げ落ちた?

 いやいや、そんなにビックリすることなのだろうか?

「甘いよクレナイ。全属性の適性を持つなんて、普通じゃ絶対ありえないことなんだよ。大きく分類されていて全部で六つの属性があるんだけど、普通は一つしか持てない。ほら、私だって全能だけど、全部氷の技からの派生…水属性でしょ?」

「ああ」

 そう聞くと確かに、すごい。

「宝くじが連続で100回当たるより凄い確率だよ。それを、確率をいじらないで当ててみせたんだ、もはや末恐ろしい…」

 そんなに言うのか。

「へえ、すっごいんだな…」

「だけど、こいつ…ふゆりんは、その力をほとんど出せないし、そもそもコントロールできない」

「勿体無い!……というか、コントロール出来ない?それは勿体無いどころか危ないでしょ。爆発したりしたら」

 爆発するのか、能力者は。

 それ、初耳だ。

「そう、危ない。だから、ちょっとしたお願い事」

 夏枷遊華は立ち上がって、机をドンと叩いた。

 そしてこう言った。

「このふゆりんを、強くして下さい!」

「…お、お願いします…」

 その椎名冬空も続けて懇願してきた。

「おっけー!行きましょう!」

 リリーは一発でおっけーした。ウキウキだ。

 ということで、なんだか語り部が交代しそうだった。


 〈6-2〉訓練開始。1日目。

 校庭の真ん中。夏なので、日差しがきつい。

 私はそこに椎名君を引き連れ、さっそく訓練を始めることにした。しかし、魔女村由来の訓練がダメだったとなると、私独自のメニューを考えることとなる。

 しかも、全属性だ。大変だ。

 始まりを司る火属性。

 繁栄を司る水属性。

 終わりを司る土属性。

 自然を司る木属性。

 祝福を司る光属性。

 呪いを司る闇属性。

 その全てを伸ばさなければならない。

「えっと、んじゃあまずは全力でぶっ放してみて」

「わ、わかりました!」

(しかし私は同い年ショタとよく縁がある気がする…)

 彼は手持ちの杖を持ち、何やらつぶやいている。

 正統派で古風な魔法使いらしい。

「えいっ!」

 しかし、長かった詠唱の割に、出てきたのはちょびっとずつの火のこ、水滴、土くれ、木くず、そして豆電球のような光と太陽光に負けている闇だった。

 なるほど、これはキツイ、と思った。


 〈3-1〉2日目。

 語り部がまた交代するようだ。俺は驚きを禁じえないが、まあとにかく話を進めるとしよう。

 夏枷遊華が暇だから自分も鍛えてくれと言ってきたので、俺はそれに乗ることにした。椎名君がある程度のレベルになるまでは阻害地区の近くに居座るらしいから、それまで俺たちはのんびりと実力を伸ばそうということになった。

 彼女は、三属性を使えるようだった。

 リリーによるとそれはさほど珍しくはないらしいが、しかし使いこなすには結構な修行が必要で、そのぶん使いこなせれば大きな戦力になるとのことだった。

 水属性の水に、木属性の風、闇属性の闇を扱うらしい。会った時に使っていたのは、その複合技だったようだ。


 〈1-6〉3日目。

 おとといと昨日はひたすら威力を上げる為に試行錯誤し、その甲斐あってちょっとは威力が上がった。だから今日は彼に刺激を与える為に、思い切って林道栄徹君のところに行ってみた。アスクブランクの殺人者たちに、レクチャーを受けさせた。

 2組の生徒は割と殺人術だけでなく異能も使える人が多いので、色んな人が色んなコツを知っていた。来て正解だった。

 学校に帰ると、クレナイが校門で待っていた。そして、修行が終わったら2人を勝負させようと提案してきた。

 私はそれに乗った。


 〈6-2〉4日目。

 昨日まではゆるゆるとしていたが、勝負の申し込みが受理されたので、こちらも本格的に修行をすることにした。

 しかし俺は魔法には疎いので、威力を上げる方法など分からなかった。だから、逆のアプローチを取った。

 魔法を、とにかく細かくするように指示した。分割に分割を繰り返して、小さく小さくする訓練。

 何故そんなことをするかというと、小さい方が防御をかいくぐりやすいからだ。リリーなら指導によって椎名君を強力にしてみせるだろうから、勝とうと思えばそういう特殊な技術が必要になるだろう。


 〈6-4〉5日目。

 昨日は彼を休ませた。1日、だらだらするように指示した。何故そんなことをするかというと、単純に疲れているだろうから、だ。実は、魔法の発動には体力がいる。とは言っても、本当は慣れてしまえばどうということはないのだ。しかし、彼の場合は違う。今までより大きな魔法の威力を出すという作業をここ数日ずっとしていた。1日くらい休まなければまやっていけない。

 しかし、だからといって、今日は容赦しない。

 昨日はゆっくり休んだのだから、今日は大丈夫だろう。という(全国の学生に嫌われそうな)考えのもと、スパルタを開始させてもらうことにした。

「というわけで、今日は過酷な場所に行くわ」

「…それ、どこですか?過酷?痛いのは嫌ですね」

 ところで彼は、なんだか会った時とキャラが変化している。ある程度だが喋り声に活気が出てきたし、そもそも話すことが多くなった。シモンに似たタイプのうじうじとした人間かと思いきや、なんだか今は好青年だ。

「痛くはない。けど、苦しいよ」

「苦しんですか…?一体どこですか」

「月」


 〈1-6〉6日目。

 リリー達が月に行っている間、俺たちは図書館にいた。

 便利な永代市市。なんでもある。

 何が便利って設定として便利だ。

 何をしたかというと、小ささのスケールについてのお勉強をしていた。例えばミジンコはアリの何分の一のサイズなのか…とかいうことだ。

「ねえ、紅くん。あなたってリリーさんと付き合ってるの?」

「付き合ってたら片時も離さねえよ」

「ここでそんなセリフを言わないで…へえ、違うんだ。まあなんか違うだろうとは思ってたけど」

「ああ。俺の本命は時破田だからな」

「嘘ね」

 そんな感じの話もしていた。

「あなたはそうやってセクハラすることで、本当の本命を隠している…って感じ、だよね。」

「セクハラって言葉を安易に使うなよ、本当にセクハラで困ってる人に迷惑だろ」

「ほら、そうやって話をそらす…まあいいけど」

「……じゃあ逆に聞くけど、お前らって付き合ってないの?俺は実は、初めて見た時からこいつら出来てるな、って思ってたんだけど」

「嫌よ。あんな軟弱な奴」

 彼女がそう言ったところで、閉館時間が来てしまった。俺たちはそこで解散、この話は今日に持ち越しとなった。

 そして、今日。なんだか、向こうの訓練が早くも終わりを迎えそうだというので、こちらも締めにかかることにした。

 微生物レベルにした魔法の粒を、固めて形質を変える訓練。俺は実践を持って、つまり実戦を持ってレクチャーした。

 つまりボロボロのオンボロになった。

 しかし、彼女はうまくいったようだったので、そして嬉しそうだったので、まあいいかと思った。

「やったよ!私出来たよ!」

「あ、ああ!俺からお前に教えることはもう何もない!」

 新技の誕生だった。

 そして、明日は勝負に備えてよく休むように言って、俺はその場を後にした。


 〈4-1〉7日目。

「……………………恨みますよ」

「まあ、結構な荒療治だったね。悪かったよ。でも今はその荒療治の成果を見せて欲しいかな?」

 全属性の魔法を、手っ取り早く進化させるにはどうすればいいか?ということを考えた。そこで私が考えついたのは、「月に放置すればいい」だった。

 サバイバルによって、伸ばす…死なないギリギリのラインで生存させて、快適を求めさせる。

 人間は15秒宇宙にいると血が蒸発する。

 そうならない為に、魔法を進化させる。

 死ななくても、空腹が辛い。

 そうならない為に、栄養が必要だ。魔法を進化させる。

 極限状態。それが、まる2日、48時間続く。

 そうならないように、魔法を進化させる。

「本当、お見それしました。僕にはこう、厳しさが足りなかったんでしょうね……」

「かもね。でもそんなのももう気にしなくていいわ」

「………リリーさん、成果を見せる前に、一つだけ、僕とユーカにまつわる話をしてもいいですか?」

「どうぞ」

 彼は話しだした。少し悲しげに。

「幼少の頃からの友達なんです。ユーカとは。

 彼女はまだ幼い頃、闇属性の持ち主だからという理由で同年代の者たちから迫害を受けていました。僕はそれを庇って、そこから、交流が始まったんです。

 だけど、そういう…僕がそういう立場にいることが、だんだんと出来なくなりました。年齢が増えていくにつれ、魔女村では魔法の強さがそのまま人間の強さだと言う風に見られていって……闇属性は、コンプレックスでも、迫害の原因でもなくなって、強さや正しさに変わりました。

 逆に僕は、正義感を評価されなくなりました。どれだけ正しくても、強くないから、意味がない。どれだけ才能があっても、どれだけ希少価値があっても、強くないから、価値がない。

 そう言われて言われて…いるうちに、彼女の僕に対する目も変わってきました。彼女、今では僕を哀れんでるんです。

 せっかくあなたは善い人なのに、どうして、どうしてって……不思議ですよね、彼女はちゃんと僕の事を認めてくれてるのに、僕は僕を認められないし、彼女以外は認めてくれない」

「椎名くん」

 私は口を挟んだ。聞いてられなかったのだ。

「…すみません」

「そんなことも、もう考えなくて、良くなったんだよね?あなたは、全部乗り越えたんでしょう?」

「はい。あなたの期待通りに。」

「ならよし。胸を張りなさい。さあ、見せて」

「実はもう見せてますよ」

「?」

 彼は不思議なことを言った。どういうことだ?

「あれ、見えますか?」

 すると、彼はそう言って遠くを指差した。

 そこにあったのは、ゴツゴツで灰色の星。

「そう、月です」

「え、じゃあここは?」

「実は月ではありません。僕が作りました」

「ええっ⁉︎」

 と、そこで私は気づく。何故これほどまでに彼は伸びたのか。その原因が、私の思考異常にあることに。

 思考異常・鍵飲。何度も思考を繰り返す思考異常。

 つまり考えること全てが推敲されている。

 最適化されている。

 では、そんな文章で教えれば、どうなる?

「……わーお」

「ありがとうございます、リリーさん。これで僕は、彼女に認められる。」

 少しやりすぎたようだった。でも、これくらいで済んで良かったとも言える。これでもし封印能力者にでもなっていたら、大変なことだった。

 というわけで、修行は終わった。

 あとは、戦うだけだった。


 〈4-7〉

 彼女の全身が吹っ飛んだ。


 〈4-8〉最終日。

 さて、試合開始だ。リリー達が月から帰還したその次の日、俺たちは彼らを見守っていた。

 向かい合う2人。

 杖を持つ2人。

 認め合いたい2人。

 さて、彼らの勝負がどんな結末を迎えるのか、そして、彼らの『認め合い』がどんな結末を迎えるのか。

 じっくりとしっかりと、見届けよう。

 試合のルールは簡単。()()()()()()()()勝ち。

「夏枷!その技名だけど、『百花繚乱』なんてどう?」

「いいね」

「椎名くん、その技名、『天変地異』なんてどう?」

「それでいきましょう」

 そして、勝負は開始された。杖を構える2人。

 すると、椎名冬空がニヤリと笑い、ほんの少しの詠唱が終わると、いつのまにか夏枷…彼女の全身が吹っ飛んだ。

 バラバラになった。

 バラバラになって、遥か後方へと飛んでいった。

「……!」

 俺は動揺しない。だが、周りで悲鳴が起きる。

 見物していた者達は走って逃げていく。それだけ、彼女の()()()が異様だったからだ。

 そしてリリーは。

「【絶対零下】」

 すかさず能力を発動し、椎名冬空をぶっ飛ばした。

「ぐっ…はっ、ぐあぁあぁあ⁉︎」

「あんた、何してんのよ!」

 そして、怒っている。当たり前だ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「り、リリーさん!大丈夫です!彼女がその気になれば、僕なんか敵わないはずなんです!」

「敵わないはずって…僕なんかって、あなた、自分がこの数日で強力になったことぐらい、わかってるはずでしょ⁉︎」

「リリー」

 俺は口を挟んだ。

 あまり長くてもリリーに恥をかかせるだけだからだ。

「夏枷は死んでないよ。そして、負けてもいない。そもそも、彼女は彼の言う通り、そしてお前の言ったように、()()()()強さなんだよ」

「…?どういうこと?」

「あれ」

 そこには。ぴんぴんとした夏枷遊華がいた。

「あれ?」

「……リリーさん、あれがユーカです。分かりますか?僕がどれだけ努力しても、全部超えてくるんです。今度こそはいけると思ったんですけどね…でも、全然ダメでした。

 余裕で看破されました。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「そう。これが修行の成果、百花繚乱」

 さっそく使ってくれてうれしい。

「ミジンコレベルにまで小さくした魔法を、ビーズアートの容量で並べて画像を作る。それを動かして動画を作る」

 百花繚乱。

 そこまでは教えていないが、うまく応用したようだ。

「えっ…でも、そんなの準備してなくなかった…?」

「あれ?確かにそうだな。まさか事前に来てたのか?」

「いやいや」

 いやいや?いやいや、どういうことだ?

「リリーさん、それに渚さん」

「俺は薙紫だよ」

「お二人とも、ユーカのことを甘く見ていますね。ユーカ、実力を隠すのもいい加減にしなよ」

「んー?いつからそんな口を叩けるほど強くなったのかな」

 すると、椎名くんはため息をついて、こう言った。

「彼女は、無詠唱で魔法を使えるんです」

「む、無詠唱⁉︎」

 リリーが膝から崩れ落ちた。

「無詠唱って…全属性と並ぶくらい珍しいのよ⁉︎」

 いや、心の中だけで突っ込ませてもらうけど、お前がやると失礼にしかならないよ。一応、封印能力者だろ、お前は。

「いや、封印能力者じゃないのに、無詠唱というのが、やばいの!やってることが封印能力者ってことよ?」

「うーん…」

「そう、だから、こう」

 すると、彼女は杖を椎名くんの方へ向けた。そして、何も喋らないうちに椎名くんが吹っ飛ぶ。

 雷と風と水の集合体によって。

「ぐっ…!!!」

 勝負あり、だ。

「でも、ふゆりん、成長したんだね。すごいよ」

 彼女は彼の手を取ってそう言った。

「ああ、ユーカ、ユーカには本当に敵わない、ね」

 こうして、勝負は終わった。

 随分とあっけなく、しかも向こうの世界で終わられたので、少し消化不良感があるが、まあいいとしよう。

「では、お騒がせしました!」

 そう言って、彼女らは去っていった。


 〈5-29〉数日後。

「ねえ、この前嵐のように去っていった2人、いたじゃん?」

「ああ、いたな」

「あの2人、今追われてるんだって」

「えっ」

「なんでも、魔女村にパワーアップして戻ってきた椎名くんを見た魔法使いたちが、今までの仕返しをされることを恐れて追い出したんだってさ。んで、夏枷ちゃんはそれについていったと。そしたら、魔女村の管轄でなくなった2人は当然その希少価値のせいで色んな方面から狙われるわけじゃん?」

「うわぁ…で、今はどうしてるんだ?」

「ここに転校したんだって」

「ええっ⁉︎」

 俺は、椅子から転げ落ちた。

 なるほど、リリーの気持ちがわかった気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ