第四話【絶対零度はあなたを止める】中編
落ち着いた。そして落ち、着かなかった。
一体何が起きたのか……私とシモンは、突如目の前に現れた『網』に捕らえられてしまったのだ。
うん?いや、それでよかったんだっけ…?
「なあ、何があったんだ?あんたら」
眼前の少女にそう言われ、若干記憶を喪失気味だった私は、隣に座っているシモンに目をやる。
「お、覚えてないんですか…?ほら、雷が───」
───雷?……ああ、そうだった。
雷に追われていたんだっけ…?そう、あれは確か。
〈81-8〉
「合同逆算・必殺雷電!」
そう、執事の必殺技を絶対零度で凍結して、ガムテープで拘束して、バトルが終了し……たかのように思えたが、しかしまだ終わっていなかったのだ。
落下する私たちを、その必殺技が追ってきたのだ。凍結から抜け出すことは不可能なので、恐らく二つ作っていたのだろう。
私はシモンが怖いと言うから、最近いつのまにか会得していた飛行の魔法【足手纏い】で少し落下のスピードを落としていた。そしたら上から雷が落ちてきて……そして直撃して、コントロールが効かなくなった。
もちろんすぐに立て直したが、シモンは遥か先まで落ちてしまっていて、急いで追いついたのはいいものの、
突如ネット──張り巡らされた網──が現れて、私達は捕らえられた…いや、助け出された。ここで一つ疑問が残る。あの巨大な穴に、どうやってネットを張り巡らしたのか。もしかして、目前にいるこの女の仕業なのか。
というわけで今私たちがいるのは中華街の一角である。大食堂を営んでいる一家に保護されて、この家の一人娘(名前を『王・舞姫』というらしい)に、事情聴取をされているところだった。
「あんたらさぁ……まず聞きたいんだけど、どうやってここを知ったの?一応ここは禁止地区って言って、本来人がいちゃいけない場所なんだけど」
「……」
禁止地区。阻害地区のようなものだろうか。(阻害地区が疎外地区なら、禁止地区は謹慎地区、とかなのかもしれない)。
「ええっと、あの……」
「こちらの製品に不具合があったようなので、取り替えてもらおうと思ってきたんだ…そしたら、来た時にはいた執事さんがいなかったようだから、自分で落ちようと思って」
「ふうん。じゃあ、闇の方ってわけだ」
「まあね」
白々しい、清々しいまでの嘘である。
まあこの状況で、とりあえず頭と話がしたくて突っ込んで来た…とか、赤裸々に語るわけにもいかない。
「嘘だね」
見破られた───早すぎる。
「目を見ればわかるさ……あんた、人生に疲れちゃって、死ぬ気でいたろ。そんなに死んだような目をして嘘ついたって、騙しおおせると思うなよ!」
違う───的外れすぎる。そして、外れた矢は私に刺さった!ええ?私そんなに目ぇ死んでるの?ショックだ。
誤解を解いたら、今度はこう言われた。
「まあ、最下層に行きたいのはわかった……でも、もう夜だ。さすがにこの時間帯となると自力で行くのは許すわけにはいかないな。万が一何かあったら、目覚めが悪い」
ねえっての…とは思いつつ、しかし真っ暗が好きというわけでもない私は彼女の対案に乗るのであった。
「今日は泊まっていきなよ。」
晩御飯も出すからさ。
〈5-2〉
「ねえ、リリーはさ」
食堂にて。大食堂にて。彼女の家族は、営んでいる食堂が閉店してから揃って食事をとるらしい。私達も混ぜてもらった。
意外だったのが、外見は中華のくせして料理(というか料理の味)はアメリカちっくであったことだ。
「どうしてもっとオシャレしないの?」
これまた酷いことを言われてしまった───天然失礼を通り越して、天才失礼という感じだ。私の中での彼女の好感度は、もはや25ぐらいにまで下がりつつある。
因みに心裏ちゃんは5000、ぐらいの計算だ。
「あんま興味ないからね……うん」
そういえば0話でクレナイにほぼ水着みたいな姿をを見せていた私であった…興味がないというのは本当である。
衣服にも、貞操観念?にも興味がない。だからはっきり言って、「女の子らしくしなよ」というのはうっとおしい。
だがまあ、仕方のないことなのだろう。アメリカの独特の雰囲気と中国の歴史ある文化を混ぜて出来たようなこの地下都市では、オシャレは礼儀のようなものなのかもしれない。
そして通過儀礼なのかもしれない。
「じゃあ、明日買いに行かない?この辺なんでもあるからさ。街燈市市っていうんだけどね?」
永代市市の永代市街という商業特化地区ならうちにもある(嫌な思い出がある)……なるほど、この阻害地区もとい禁止地区のシステムはだいたいどこにでもあるようだ。
「うん。いいねそれ。行こう。お金持ってきてよかった」
「シモンくんも!」
「あ、僕はいいです…」
「そう…残念」
というわけで、明日は買い物に行くこととなった───シモンは乗り気でなかったようだけど、まあ置いていくわけにもいかない。
でも、それなら一つ任務を頼もうか…と、思いつく私であった………場面は寝室へ移る。
寝室。さすがに、「シモンの安全を守る為に一緒に寝る」とはいかなかったので、男女で別れることになった。
布団を敷く。入る。隣には舞姫がいる。
「ねえ、あなた、本当に自殺志願じゃなかったの?」
「違うって言ってるでしょ……」
勘違いも甚だしいな、と思わず口にしてしまった。そしたら、
「……本当に?これでも人を見る目はあるんだけどな。少なくともリリー、あなたは普通の人間じゃあない」
「……」
これまた、悪意のない顔で酷いことをいう舞姫。
「きっとそのうち、世界を巻き込むほどの大きな……何かを起こすはずよ、あなた。いや、これまでにも起こしているのかな?どちらにしろ、普通の人生とは無縁でしょうね」
まあ、ここまで当てられてしまっては仕方ない。
私は正直に話す。
「……私は、生まれてから十数年間、胎児のまんま過ごしてた頃があってね……それは、私がお母さんの足を引っ張ったからなんだ……何を言っているのかはわからないけど」
「だからね」
私が話していると、舞姫は遮った。
「人を見る目があるって言ったじゃん……リリー、私が言っているのはそれじゃなくて……いや、なんでもない」
「え?」
人の話を遮った挙句終わらせてしまうとは。
一言何か言ってやろうと思ったが、しかし舞姫はこれまた遮ってこんなことを言った。
「晩御飯は美味しかった?」
「え…うん」
「ならば、私達はきっと分かり合えると思う……明日のお買い物、楽しみだね。おやすみなさい」
「…?」
一体何が言いたいのか、言いたかったのかわからなかった…翻弄された。私は一言「うん、おやすみなさい」と返すと、もうどうでもいいやと思って、寝た。
〈3-1〉翌日。
「ほらこっちー!」
舞姫に連れられて、私とシモンは街灯市市を駆け回る。まず最初に着いたのは言っていた洋服屋であった。
なお、シモンに課したミッションというのは、
「この辺りを牛耳ってる企業あるいはそれ以外のものを特定したいから、手伝いなさい」
というものだった。
確か、『妨害逆算』と言っていたか。この地下都市の最下層に私と同格の能力者がいることは確実だ。だから、少なくとも封印能力者を雇えるだけの財力を持つ団体がいるということは想定できるし、財力という話で行くならもしその団体が公の場で有名なそれこそ世界を牛耳ってるような企業だった場合、下手に潰すと回り回って地上で恐慌が起こりかねない。
一夜明けてまだ私達がここにいると特定されない、というのは警備がザルだということを表している。時間を取れるのなら、できればその団体名くらいは特定しておきたい。
「……これとかいいかも、ほら」
「おお」
私が選んだのは比較的地味な洋服だった。何と比較したかと言うと、他のすべての商品である。あたり一面煌びやかで、いわゆる『カジュアルな格好』が、ない。
というかチャイナドレス専門店だった。
馬鹿じゃねえのか。
「うーん、地味!」
殺すぞ!
「リリーはさ、なんていうか残念だね!髪の毛はねはねだからお転婆なキャラかと思ったら、期待はずれだよ」
酷い。が、しかし否定できない。
心裏ちゃんには知的だと言われる私だけど、しかし自分でも自覚している……私は大雑把な人間なのだ。少なくともコーデという言葉には興味がないし、試着室には一生入ることはないだろう。
「じゃあ、一旦それ着てみてね!」
だのに。だったのに。
私にもついに、自分と向き合う時が来たようだ(私は舞姫に言われるがまま、試着室にて渡された派手っ派手のチャイナドレスを着ることになってしまった)。
これ、似合うのか?
────着替え終了。私はスタイルはいい方なので、さすがに似合わないということはなかった…ぐふふ。
「リリーさん」
「うわっ」
真上を見るとシモンがいた。
「何何。試着室だよここ。着替え中だったらどうしてたの」
「いや、そんなことよりですね」
「流すな」
着替え見てたんじゃないか説をあっさり回避したシモンは報告を始めた。というか、外から怪しまれないかな?
鉄棒のもっとも簡単な技・布団の状態でぶら下がっているであろう彼は、しかし普段と声色を変えずに言う。
「あの、牛耳ってる企業、わかりました」
「マジで?…因みに、どれくらい牛耳ってる?」
「どれくらいというか…この商業地区にある店は全て、ある財閥の傘下にあったんです」
「…え?」
私は考える。もし、その財閥が人身売買まで行っていたなら、私がそれを潰してしまったなら。
「広空ホールディングス。それが財閥の名前です」
この地下都市もろとも、潰すこととなって、つまりは舞姫達のような市民の生活を破壊することになる。
大失態だった。私達は泳がされていたんだ。
地下都市に知り合いを作らせた。
王舞姫やその家族、その周辺の環境のことを知ってしまった。ならば、これはもう人質を取られたようなものだ。
〈11-12〉
その言葉だけは聞きたくなかった。
「おーい、リリー?」
チャイナドレスを買いに買い物へ出かけたあの日からちょうど1週間が経った。未だ見つからず…しかし、この日を境に、私はこの街燈市市を離れることになる。
この日はまた、買い物に出かけていた。
しかし───さて。そろそろ告げなくてはならない。
「あのね舞姫」
私達はこのあたりでの調査を終え、もう最下層へ行く準備は万端だった。……明日警備に見つからない保証はない、もうそろそろ、向かわなければならない頃だ。
「私はそろそろ出ようと思う」
「!」
舞姫は驚いた表情をしていたが、次第に顔を緩めていった。そして笑って、
「そっか。じゃあ、今日は宴を開かないとね」
「うん。よろしく」
すると、彼女は携帯を取り出して家へ連絡した。
「お母さん?…うん、そう、リリーがね、うん…そうそう、それそれやっといて!丸焼き!」
通話が終わると携帯をパタンと閉じて、今度は私の手を取った。そして引っ張った。
どこかへ案内してくれるらしい。
「じゃあ最後だし、私のとっておきの場所を教えたげる」
「う、うん…ありがとう…」
───街を駆け抜ける。綺麗な街だ。やはり中華とアメリカンの融合、らしい。これも、広空とやらによって作られている。
………………………………。
なんとか潰さずに済まないだろうか。
「着いたよ!」
「…!」
街を抜けたら、秘密の場所がある。
そこは、宝石でいっぱいになった横穴だった。
「綺麗…だね」
「これは宝石崇拝って言ってね。ここには色んな宗教の色んな宗派の人がいるから、争いが起きないように、地下都市内でだけ、信仰の対象を宝石に変えるの」
この横穴はさらに続いていて、出た先が宝石崇拝の本拠地になっている。ここにある宝石は、そこから溢れ出たものだ。
彼女はそう教えてくれた。なるほど宝石崇拝…ならば、この場所に神様がこっそり顔を出しているようなものなんだろう。そう考えると、確かに素敵な場所だ。
「秘密だよ」
「え?」
「この場所は、本当の友達にしか教えてない」
舞姫は寂しそうに笑っていた。私は、
「うん。秘密にする」と返した。
私はその後もちゃんと、この場所を秘密にしている。
「さあ、帰ろか!」
「そうだね」
街を歩く。家が見えてきた。この家ともお別れだと思うと、私も寂しい気持ちになる。
ああ、いい匂いがしてきた。
「今日は豪勢だよ。お母さんに頼んだいたからね……まあ、味は残念ながら変わらないんだけど。でも、今日は丸焼きだから……うちの定番メニューなんだ〜」
「へえ…」
私は。
私は私は私は私は私は私は私は私は私は!踵を返して、今すぐにシモンを連れて、さらに下へと飛び立つべきだった!
それができていたなら、それができていたなら。
それができていなかったから。…いや。
それも、違うか。
私はこのあたりで一度、挫折しておくべきだった。
だから私は、卒業式の日、死なずに済むことになる。、
「お母さーん!…おお!もうできてる!」
舞姫はいち早く食卓へ向かった。私も手を洗い終わると後に続く。そしたら、舞姫は手を振っていた。
「はやくはやく!もうできてるよ!」
向かう。私は食卓に到着する──────
───────。
そこにあったものは。
「ほら!丸焼きだよ!すごいでしょ!」
「ひっ…」
「リリー?」
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
鉄板の上に乗る、幼児たち。
そういえば、『今日』は丸焼きといっていた。
…じゃあ、私は1週間、これを食べていたのか。
人肉を食べていたのか!!
〈64-666〉
「あひゃっ、あ、ははははは!
ひひ、ふふああははははははははははははははは!」
トラウマを、思い出した。
舞姫はこの間言っていた。
あなたは普通の人間じゃない。
確かに私は普通じゃなかった。
人造人間シモン・サクリファイス。
ともなりガラス。
奴隷商売の本場なのにどうして見かけないのか。
違った。ここは商業地区だった。
食用としての幼児達がいた。
あれも、シモン。シモン様。
食用のシモン・サクリファイス様。
そして私はあの味を知っていた。
豚とも鳥とも牛とも違うのに。
知ってる味、知ってる匂いだった。
何故?理由を考えろ。
そんなものは一つしかない。食べたことがあるから。
いつ?魔女村で?天角学園で?
どちらもありえない。
なら、生まれてくる前に母親を食べた?
封印能力者だったとはいえ、それはありえない。
私が能力を使えば、キャサリンが気づいたはずだ。
そしてガティアの仇だと言って殺したはずだ。
なら、いつ?
いつもなにもそれもひとつしかない。
私が胎児のまま過ごし、生き延びた16年間。
その場面で人間を捕食していたとしか考えられない。
そしてそれは、触れてはいけないものだった。
その記憶は、無意識のうちに凍結されていた。
しかし、溶けていく。
人肉を食ったという経験をなかったことにした。
つまり絶対零度による自衛。
その後の人生をより良く過ごす為に記憶を凍らせた。
しかし、もうその経験を飲み込める日が来た。
もう隠す必要はなくなった。人食を。
人肉を食ったという事実を、ちゃんと認識できたから。
だから、向き合えということなのだろう。
ちゃんと自分と向き合え。
お前はどうしたい?どうする?
シエルの血統ならば、どうする?
「私は人間を食べた私は人間を食べた私は人間を食べた私は人間を食べた私は人間を食べた私は人間を食べた!あははははははははははははははははははははははは!」
美味しかったし、懐かしい味だったな。
もうほんと私なんて死ねばいいのに。
「王、舞姫。私たちは一旦死ぬべきだよ」
私は食卓から逃げ出して、寝室に篭っていた。そしたら、舞姫がやってきた────知らない人たちを連れて。
警備がようやく到着したらしい。
なるほど、絶対零度のプロテクトが甘くなっていたのか。ならば少々取り乱しすぎた。
「うん。そうだね。リリー。なら、殺し合う?」
「そうしようか」
…よく考えれば、私と会話できる時点で気づけたことだっけど、舞姫は思考異常者なんだよな。なら、能力者である可能性も否定できない…いや。私達が落ちてきたときに貼ってあったあのネット(正味ぶつかったのに、ところてんのように私達はバラバラにならなかった)が舞姫作なのだと考えれば。
錬金術のような能力を持っている、と考えられる。
殺し合いというのは本気らしい。
「シモン君は連れ去られていったよ」
「うん…まあ、あいつには5個、能力を与えておいたから、大丈夫……」
「ふうん」
そう。心配はご無用だ。
一日目寝るとき、目を離さざるを得なかったとき。すでに五つの能力────【足手纏い】【温室育ち】【八方美人】【博打打ち】【彼方任せ】を預けておいた。
ちょうどその為に生まれたかのように、これまたいつのまにか会得していたのだった。
「ねえリリー。一応この人たちには、明日のこの時間まで待ってもらえるのよ。……つまり、あなたは地上へ逃げることが許されている」
「……それがどうしたの…?」
「シモン君を見捨てて、家に帰りなさい」
「それは一番できないことだ」
「……」
私は。自分に決着をつけなければならない。人肉を食べていたことは、もはや過去ではないのだ。
私は文化を否定する。
つまり。舞姫を否定してやる。自分を否定してやる。
「戦おう───舞姫。否定しあおう。お互いを。そして、覚悟しろ…………」
私はこう言った。
「私はこの街を破壊する」
〈5-2〉翌日夕方、街燈市街、小闘技場。
私たちは向かい合っていた。
四角のフィールドで、観客たちに囲まれて。
やはり中華の美しい風景の中で。
「決闘のルールは簡単だ。挑戦者が10分の間、肌に傷を15個以上つけられたら負け、傷が14個以内に収まった場合は勝ち」
「へえ、随分と優しいルールだね。そんなの、フルガードしてれば勝てちゃうじゃん」
「そうだよ。まあそれをリリーが納得すればの話だけどね」
「しないよ。…そうだ、私は能力を使わないことにしよう。一撃必殺みたいなものは能力が勝手に防御しちゃうかもしれないけどね」
「ルールはまだある。この決闘で勝った方は負けた方になんでもひとつ命令でき、そして負けた方は従わなければならない」
「なるほど、それで、あなたが代表というわけ」
「そう。なんでか知りたい?」
「知りたい」
そう言った瞬間。試合開始のゴングが鳴り、観客たちはわあぁぁあっと歓声を上げた。応援が聞こえる。拍手が聞こえる。本当に、舞姫が勝つと思っているらしい。
「【可動式浸水剣極】」
一気に距離を詰められる。そして読み通り、錬金…ではないが、物質生成能力を発動している。
「おっと」
手のひらから長くもなく短くもないほどの長さの剣を作り、一振りし終わったら捨てて、また作り剣戟を重ねる。
「私の持つ三種類の人間調理法が!リリー、あなたを倒すのにもっとも適しているからだよ!」
そのまま私は避け続けて、2分が経過した。
舞姫は距離をとる。
「んじゃまあ、序の口はほどほどにしておいて…リリー、次行ってみようか?」
「来い!」
「調理法その二───【可動式浸水銃極】」
言うと、彼女は左手を掬い上げるような仕草をした。
その瞬間。着ていたチャイナドレスを突き破って、2つの小さな斬撃が私の腹わたを襲った。
「⁉︎」
「見切れなかったね、ブレードラストワンを………じゃあ、もう少し稼がせて貰おう、か!」
彼女は右手を上げて下ろした。私は今度は見るに徹する───そして発見する。空中を動く謎の光を。
糸か?それとも針金か?とにかく、鞭のようにしなっている細長いものが私へ向かってくる。だがまだ目は閉じない。
よく目を凝らす。その糸の先端にあるものは。
「え、円盤…?」
そう、超小型のダイヤモンドカッターであった。
慌てて避けるも、五発──恐らくそれぞれの指に装着している──が体のところどころに直撃する。
それで7個目の傷。そして、その後私は距離を置いたり詰めたりして避け続けた。だが、残り2分になったところで、私の体力が尽きようとしていた。そして。
「んじゃあ、ラストスパートだね。出し惜しみはしないよ」
「……来やがれ!舞姫!」
彼女は剣を両手に召喚し、距離を詰め、私へ突き出す!
「こんなもの…」
私は同じように、彼女が捨てた剣を両手に掴み、そして勢いをつけ、舞姫の攻撃を『剣を破壊する』という形で中断させる!
元々が包丁のように薄い剣だからこそ、調理用だったからこそできた芸当だった。だがしかし、
「かかったね」
舞姫は残った柄だけを持っていたはずなのに。彼女はいつのまにか、その柄を『短剣』に変えていた。わけがわからない。可動式浸水剣極の効果なのか、それとも手品かのか、とにかく彼女は武器を変えていた。
さらに二撃。両肩のあたりに、本格的な斬撃が入る!
「ぐっ……⁉︎」
私はよろめきながらも距離を取る。だが、攻撃は止まらない。舞姫は糸を伸ばし…捨ててあった剣に巻きつけ、固定した。
「!」
そして、遠距離攻撃であるはずの『銃極』なのに、舞姫はある程度まで寄ってきた。また、上げて、下げる。
「これが!距離に関係なく斬撃を与える私の必殺技!
【現実大の重すぎる両断識別】!」
糸はしなり、10の剣は私に容赦なく襲いかかる!
さらに二撃。合計、9撃。それで収まればよかったが、しかし向こうも余裕はない。その後40秒ほど続いた連撃で、
私は4撃食らってしまった。つまり合計は13撃。あと、傷が二つ付けば、私は地上へ帰らざるを得ない。
残り、1分。
「リリー。私はね、食材に敬意を持って、調理の最後はいつもこの刀で締めてるんだ」
彼女は三つ目の調理法を召喚した───紛れもなく、長剣。重そうにしている。
「……やってみろ…私には効かない!」
「ああ、そうそう」
こちらへ歩いて来る彼女は、突然語り出した。
「もし、もし…ここより地下に降りることがあったら。その時の為に、一ついいことを教えてあげる」
「……」
「逆算は、因果律を逆転させる技のことだよ。」
「……えっ?」
その直後。私の腹わたに、またしても異常があった。
いや、今度は私自体に異常があった。
私は、くの字に曲がって吹っ飛んでいた。
宙を、舞っている。私は今、何をされたんだ?
「【両断逆算・必殺雷電】」
どさっ…と音がした。私はようやく着地したのだ。
彼女はそう言った。
「雷速でこいつを叩き込む奥義───なんだけどね。なんで体が真っ二つに割れていないのかな?」
「‼︎…」
私は気づいた。恐らく、能力が私を守ったのだ。
横薙ぎを喰らえば致命傷になると判断して。
だけどそれは、絶対零度だけじゃない。
なんだ?何かがおかしい。
確かに異変があった。違和感があった。
なんだこれは。こんなものを、私は知らない。
「……あと一発、とどめを刺させてもらうよ、リリー。もうそんなに時間もないようだから………!」
立ち上がった私へ、舞姫は突っ込んで来る。
今度は横薙ぎではなく、縦薙ぎ。
「【神式一刀・殲滅雷電】────リリー、この技は、この剣は!この場にいるみんなの想いだ!」
「……」
雷速どころか神速とまで言いそうだ。今頃解析してみるが、なるほど仕組みは単純で、剣に浮力を与えているらしい。
だが今回は先ほどほど甘い破壊力ではなさそうだ。
「あなたにこの街は潰させない。この街は、私の命なんだ!」
「……命は意外と儚いもんだよ」
そして履き違えるもんだよ、と私は言った。
彼女は叫ぶ。そして今、雷速ならぬ神速で、剣が振り下ろされる─────────────!
「前習え!」
「⁉︎」
その時、だった。私の推理が終了したのは。
だからようするに、共鳴烏をたくさん見たお陰で、ということなのだろう。
「な、なんだ…体が、動、か、ない…⁉︎」
私は会得していた。いつのまにか。
昔からそうだ。私は飲み込みが速すぎる───
───思考異常・鍵飲が、今回も無事発動したということだ。
思考をしすぎる思考異常。それが私の脳内疾患だ。
「因果律を逆転させる魔法、ともなりガラス、か。なるほど、先に知っておけてよかったよかった…だけど、例え相手より強くても勝てないことがあるのが封印能力者だからな、気をつけなくては…ね。そう思うでしょ、舞姫」
「り、リリー、一体何を…⁉︎」
「しかし『共鳴烏』って、なんか可愛いよな……封印能力だろうし、もっとえげつい名前がいい」
これは、少しの意地悪である。というか、意地悪の物語であると言った方がいい。焦らして焦らしてさあ終わり。
残り時間は……いや、もう終わったようだった。
「【自由戦士】。それでいこう」
凍らせたから氷になるのではなく、氷になってから凍らせたことにすることができる能力。自由戦士。
能力発動の後は、あたり一面は凍りついて、ただ1人、勝者である私だけが勝ち誇っていた。
〈7-2〉目の前に広がる穴。
シモンは本当に連れ去られたらしい。全く、ちょっと目を離した隙に持っていかれるとは。なんたる失態だ。
さて、取り返しに行きますか。と、私は暗黒の中へ落ちていくのであった。その暗闇の先、つまり下で1人笑う女がいた。
「ふっふっふ…侵入者など、私1人で十分です!」
よし、ならば、そいつには新必殺技を受けてもらおう。
次回、私はシモンを部員にできるのか⁉︎
必ずしてみせる。続く。




