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Angel Break!【1年生編/最終世代の学園】  作者: 山野佐月
【1年生編/最終世代の学園】
29/66

第四話【絶対零度はあなたを止める】前編

 シエルの血統。

 魔女狩りを終わらせた魔女の末裔。…否、本当の意味で、魔女狩りを終わらせた魔女の末裔。

 魔女狩りは科学の普及により終わったとされているが、しかしそれでも、魔女を忌み嫌う文化が一度生まれたのだ、それは消えることはなかった。胸糞悪いのであまり例を出したくはないが……奴隷制度が終わっても差別が終わらないように、黒人差別が終わっても終わりきれない人がいるように。魔女狩りもまた、すぐには終わらなかったのだ。

 彼女が現れるまでは。

 その名を、セレナーデ・シエル。

 史上最悪の魔女、と呼ばれる人物にして、いわゆるシエルの血統を作り出した人物。この女は只者ではなかった。

 科学知識を得てなお、魔女狩りが止まらなかったから……だから彼女は、その時代の魔女と魔女狩りをしていた者共を皆殺しにした。魔女狩りという概念を、後世に残すまいと……。

 しかし、こうして後世に残ってしまっているところを見ると、殺し損ねた人々がいたのだろうが。

 でもとにかく、シエルの血統の創始者はそのような人物で、要するに大罪人の家系なのだということはお分かりいただけただろうか?どうも、リリー・シエルです。

 今回の語り部は私だ…第零話から登場していたにも関わらず、今日まであまり出番のなかった私だ。ふっ。

 しかし、狂言回し役が回って来たので、しかも2ストーリーほどあるということで、ついに私の時代が来たという感じかな。

 では、まず最初のストーリーから。

 これは、クレナイとキャサリンちゃんの無事を電話越しに確認した私が、すっきりと夏休みを向かえたその日に起こった事件。いや、事件自体はずっと起きていたようだから、

 巻き込まれた。ということになる。

 よし、じゃあ、さっそく始めよう。舞台は、私が理事長に外出許可願を提出したところから───


 〈2-2〉

 “……つまり、薙紫君と同行ではなく、個人で行動したい、と。観光かな?”

 “はい。てか、夏休みですし”

 “…わかった、少し待ってくれるかな?五分ほど”

 “わかりました”

 こんな会話があって…今はその五分後。私はまた、理事長室に入っていった。そして、理事長がこう言った。

「おつかいを頼まれてくれるなら、検討しよう」

「え…」

 どこまで私の青春を謳歌させないつもりだこいつは…とは思ったが、しかし私は引き下がらない。

「まあ、嫌ならいいのだが」

「いえ、やりますやります…でもおつかいって、ただスーパーでミリン買ってくればいいって話ではないですよね」

「まあ、そうだな」

 理事長はおもむろに語り始めた。

「君には異能を集めてきてほしい…『幽霊猫(ゆうれいねこ)』『恋草(こいぐさ)』『清流鰻(せいりゅううなぎ)』『鬱鬼(うつおに)』『釜揚蝶(かまあげちょう)』、そして『共鳴烏(ともなりガラス)』という───六つの異能を集めてきてくれれば、残った夏休みの時間は全て、封印を解除すると約束しよう」

「六つの異能…ですか。でもそれ、なんか名前が異能っぽくないですね」

「ああ。ご明察だ。その通り、まだハッキリと異能の形をしていない謎の……超常現象とでも言っておこうかな」

「はぁ…」

「いわゆるケガレのようなものだ…実は今、私は仕事を押し付けられてしまっていてな、ここを離れられないのだ」

 知らねえよそんなこと…と思った。いいから、やるからさっさと許可願いにサインをくれ、というようなことも思った。

 だがその次のセリフで思考は吹き飛ぶ。

「……君を天涯孤独の身にしてしまった責任は私にも十分にあると考えている。だから強く出ないというわけではないが、しかしいずれ何処かで償いをさせてほしい。これはほんの少しの前払いとでも思ってくれ」

「……‼︎」

 私は驚いた。理事長の態度に、ではない。

【絶対零度】が解放された感覚に、だ。久しぶりに、自分の強さを実感した。なんだか少し怖かった。

「厄介なのは『共鳴烏』だが……まあ、君なら問題はあるまい。君のその絶対零度があれば…」

 私は差し出された、ハンコの押された許可願いを受け取って、理事長室を後にした。


 〈3-8〉

 私の能力【絶対零度】は、絶対零度と書いて【アブソリュート・ゼロ】と読む。【絶対零度(アブソリュート・ゼロ)】。

【絶対】シリーズの魔法はさほど珍しい訳ではないが、しかし、絶対の後につく数字によっては希少価値があったりする。一桁台や、私のような零となると、それなりに珍しい。2組連続殺人犯クラスのダブル封印能力者の片割れである桜原棘君は確か【絶対行使(アブソリュート・ワン)】という能力を持っていたけど、あれもかなり珍しい部類に入る。……これは関係ない話だが、組織の暴れ犬であり負け犬である彼には、ワンの二文字はとてもよく似合っていると思う。

 能力の内容については、まあ勿体ぶる程のものでもないのでここで言ってしまおう。私の能力は『あらゆる概念を活動停止させる』こと。支配属性ならびに氷属性の魔法だ。

 私はこの絶対零度を、好いて嫌っている───この能力には因縁が多すぎる。手一杯、お腹いっぱいだ。

 私が胎児のまま十数年間生存できたのは絶対零度のおかげ……魔女村にその胎児の存在を知らせてくれたのも絶対零度だ。それに、大罪人の娘である私が魔女村で迫害の憂き目を見なかったのはこれを魔法使い達が恐れたからだし、それどころか大魔導士の魔法と形質が似ているということで意味もなく褒められたりもした。

 だけど、今こうして拘束(甘いけども)されているのは絶対零度のせいだし、夏休みを普通に過ごせないのも絶対零度のせいだ。というか、波乱万丈な人生を送る羽目になったのはシエル家の血のせいで、その権化みたいなこの能力は、どうしても好きになれない。

 ……まあでも、そんなもんだろうとも思う。

 逆に考えて、100%好きだと言える物なんてこの世にあるだろうか?いいや、きっと、無い。これだって、その理屈でいけば、まあ、大した問題ではないということだ。

 さて。

 かくして、私の夏休みは始まった。

 まずは超常現象の蒐集をしなくちゃならないのが玉に瑕だけどそんなことは気にしない……前向きに行こう。だいたい、封印能力者であり、今はその力を存分に振るえる私に、怖いものなんてあるはずがない。それに、ええと、『幽霊猫』とか…可愛らしい名前じゃないか。きっと妖怪変化の類なのだろうが……しかし、他の物も、きっとかわいいに違いない。

 そう思うと、なんだか楽しくなってきちゃった私、リリーなのであった。


 〈1-4〉

 てっきり巨大な禍々しい化け猫が出てくるのかと思いきや(丁寧に言うと、可愛いのだろうという前振りがあったから実際は可愛くないのだろうと思っていたが)、幽霊猫、可愛かった。

 それだけではない…他の超常現象も、何のことはない、ジャンルは様々だがただの化け物だった───ただ一つ、『共鳴烏』を除いては。

「ふむ……なるほど、君ほどの使い手でも『ともなりガラス』は見つけられなかったか」

 また現在、理事長室。

「はい、っていうか、フェイクだったんじゃないんですか?てっきり私は、理事長に試されているのだと思いました」

「違うよ。共鳴烏は存在する。それもしっかりとした形でね……まあ何はともあれご苦労だった」

「異能ってことですか?」

「興味が出たかい」

「いえ」

 そんな会話があった……そして理事長は約束通り私の封印を全て剥がして自由にした(約束を破ったのはむしろ私の方だ)。

 私は外に出る…だが、当然モヤモヤが溜まる。久しぶりに真っ白な肌になったのに、何もやる気がしない───。

「…行ってみるか」

 探知能力が阻害されているのはわかった。なら、()()()()()()()()()()()()()()()()()何度か試してみて、15回目でうまくいったようだった。

「!」

 アメリカの……どこかのようだった。

 広い平原の中にポツンと、反応がある。……未だ完全には阻害を振り払えないが、しかし、それで十分だ。

 私はとりあえず行ってみることにした。時刻は既に夜9時にまでなっていたが、まあ、眠気も疲れも凍結すればいい───


 〈1-3〉

 あまりに広い平原だった……建物はもちろんのこと、生き物の気配すら感じられない。こんなところに本当に、絶対零度を14回欺いた能力者なんているのだろうか。

 私は辺りを見回す。

「…………」

 暗いからよく見えなかっただけで、絶対零度で視界の悪さを凍結すればよく見えるだろうと能力を発動してみるが(ひょっとして監視カメラでもあるのかと思ったけれど)しかし何もなかった。私の異能蒐集、最後の最後で格段に高い壁にぶちあたったらしい。

 ……相手にそれなりの強者がいると確定しているから、迂闊にテレポートもしたくない。さあ、どうするか。

「リリー・シエル様」

「!」

 その時だった。私の背後から声が聞こえた。

「ようこそおいでくださいました」

「…貴方は?」

 男の人だった。スーツを着ていて、私よりずっと年上の。厳かな雰囲気があって、なんだか只者ではなさそうだった。

「私はこの屋敷の執事にございます」

「……屋敷」

 そんなものはどこにもない。みる限りは少なくとも。

「『能力』でお探しくださいませ、もう『妨害逆算』は解かれておりますゆえ」

 妨害逆算…というのは、サーチを欺く能力のことだろう。

「あなたがやってたの?」

「まさか。私などはただの執事にございます」

 私は絶対零度を使って辺りを見渡す……わけではなかった。さすがに妨害なんちゃらでその屋敷とやらを私に全く認知させないというのは不可能だ。能力がなければわからない場所にあるというのが妥当だろう。

 私は、地面を見る。

 そして、屋敷までの景色を全て凍結する。

「そうにございます。()()()()()()()()()()()()()()()()()()【地下帝国】こそが、私どもの屋敷、ということにございます。」

「へえ」

 目の前もとい目の下には、確かに地下帝国が、地下都市があった……アメリカなのに、明らかに中国の街並みだが、確かにそこにあった。一度落ちたら永遠に落ち続けそうなくらい、大きく、深い穴。というか、管。その管の周りにくっついて(なんだか水道管にひっつく汚れのようだ)街は存在している。

 というか本当に、落ちたらどうなるんだろう。

「とは言いましても、住居という意味での屋敷はこの全てではありません…『ご主人様』や『シモン様』などは最下層で暮らしておられます」

「ん?ご主人様?」

「はい……おや、ご存知ではありませんか」

「誰よそいつらは」

「いえ。知らないのなら知らないで構わないのです。あまり深入りなさらない方が宜しいかと。」

「ふぅん」

 私は不信感を覚えた。そしてなんだか、人の悪意のような悍ましさを感じた。よく見ればこの執事、目が死んでいる。

 私はそいつをじっと見つめる。

 個人的に、怪しい奴はジロジロと見るようにしているのだ…そしたら、

「!」

 その執事の後ろに隠れるように、少年がいることに気づいた。私と同じかそれ以下の背丈で、おどおどしていて───

「リリー・シエル様。共鳴烏をご所望ですね?」

 そう執事が言うと、少年は前へ出された。私はどうしていいかわからなくて、とりあえず言葉を紡いでみる。

「何?……何のつもり?」

 すると、その執事はとんでもないことを言った。

 言い出した。

「いえですから、これが共鳴烏にございます」

「……人間を()()とか言うもんじゃないわよ」

「ああいえいえ、こちらは商品にございます」

「はぁ?」

 商品?なんだ、それは。一体なんのことを───

「……まさか、本当に何もご存知でないのですか?それとも、『器』は不必要ということにございましょうか?ならば、お代金は結構にございます」

「……わからないわね。一から説明してよ」

 とは言いつつも、答えはもうわかっていた。その執事の言葉を聞いた途端に、私はその少年を連れて日本まで瞬間移動した。()()があるという事実が、現代っ子の私には刺激が強すぎて、つい逃げてしまったのだ。

「わかりました」

 まずはここが世界最大の人身売買市場となった経緯から順にお話し申し上げます。


 〈3-1〉

「はー!はー!はー!はー!はー!」

「あ、あの…」

「ち、ちょっと話しかけないで!てか黙れ!」

「は、は、はい…」

 なんてこった。と、私は思った。

 まさか、共鳴烏がそんな代物だったなんて。…いや、問題はそれではない。あの大穴の中に、奴隷市場があったなんて。

「お、おいリリー、どうした?」

 とりあえず天角学園に帰ってきた私は、人助け部の部室に飛び込んだ。そこには、たまたま来ていたクレナイがいた。

「…やばい」

「ん?またお墓でも触っちまったのか?」

「違う」

 そんなジョークを飛ばしてる場合か───私はその少年もとい共鳴烏をクレナイに引き渡した。

「え、えっと…この人は?」

「ちょっと待って。とりあえず、何も言わずに受け取って。そんで、ちょっと協力してほしいかもしれない」

「落ち着けよ…保護すればいいのか?」

「うん。あと、できるだけ喋らさないで。一言も。アメリカや中国の霊的文化がどういうものかわかんないから」

「霊的文化…なら、喋らない方が死を連想してよくないんじゃないのか?」

「なんにしろ!」

 私は息が落ち着いたのを確認すると、クレナイ(なら巻き込んでも死ぬ恐れがないから大丈夫)に全てを話した。

「その子は奴隷……というか、人造人間らしい。共鳴烏(ともなりガラス)っていう能力を軸にして構成されている存在で、クレナイには分からないかもだけど、かなり危うい。普通にしてれば大丈夫だけど、何が起こるかわからない」

「はぁ?それ、確かなのか?」

「確かだよ。絶対零度で確認したから」

 すると、クレナイは嫌な顔をする。というか、信憑性を感じるのが遅い。私も、彼が人造人間であることに気づいたときは大層驚いたけど。

「……どこ産だ」「え?」「お前は一体どこに行ってきたんだと聞いてるんだよ…俺はわからないけど、こいつの体のどこかに、番号が振られていないか?」「…!」

 あった。私はそれを読み上げる。

「A-12-709」

「A-12か……………じゃあ『博士』だな」

「博士?」

 私はなんだか嫌な予感がした。クレナイが、怒っていて尚且つ怒っていないような、なんとも言えない表情をしていたから。

「…リリー、聞くか?」

「何を」

「その奴隷市場について。俺はA-12を知っている」

「‼︎」

 私は当然「聞く」と答えた。

 そしてそれを聞いたら、私は怒りのあまり部室から飛び出して、すぐさまアメリカへ向かってしまった。


 〈3-1〉

 売春を許容するべきという意見がある。

 もちろん売春婦の身の安全を確保した上での話だが、しかしそれならば禁止するべきではないという考えが、ある。

 そんな風に。

 個人個人によって、倫理観というのは変わるものなのだ。もう一つ例を挙げるなら、受精卵を使ってes細胞を作るのはありか無しか、という問題もそうだ。まあそれについてはもう考えなくてもいいらしいが。

 なら、人造人間を作って売るのは?

 彼らが人間として売っているから、人造だろうが関係ない、と言って議論を終わらせることはできる。でも、実際に作っているのは人間ではなく、能力を軸にした人形である。

 果たして人形に人権はあるのか。

 それも、人それぞれで決めることだ。

 俺は性行為を商売にするべきではないと思うし、iPS細胞とes細胞なら前者を選ぶ。そして、例え人形だろうが、こんなにも人間らしいこいつを商品にして売るだなんて、相当異常だと思う。……お前も、倫理観に対しては自己中心的であった方がいいんじゃないか?リリー。お前はどう思う?

 どうする?

「うおおおおおおおおおおっ!」

 私は───決めきれない。

 というか展開が早すぎてどうしようもない。

 だからとりあえず……潜入してみることにしたのだ。この怒りをぶつける場所探しに。こいつを連れて。

「うわぁああああああああ⁉︎」

 高度40000フィートの空を飛ぶ……そして一気にアメリカの地下都市に到着する。

「巻き込んじゃってごめんね、共鳴烏。あんたがいれば、不法進入せずに済むのよ……返品しにきたという名目で、最下層まで安全にいける」

「あ、あの、リリーさん、でも」

「ごめんね。私のエゴにつき合わせちゃって。でも───私はこの目でちゃんと、あなたの生まれ故郷を見たい」

「し、執事さんが黙ってませんよ…!そろそろ、嗅ぎつけて到着するころですよ!」

「……あ───!」

 そういえば、代金を支払っていなかったな。

 彼は不手際で怒られたはずだろう……なら、また私たちが来たなら、最悪殺しにかかってくるかもしれない。

 なんということだ。

 玄関の時点で争いごとを起こしてしまえば、この後の潜入も難しくなるかもしれない…それは避けたい!

「お客様、お待ちくださいませ」

「…!」

 遅かった……もう嗅ぎつけてきた。

「あわ…リリーさん」

「君は後ろにいなさい」

 少年を下がらせる。逆に、執事は近づいてくる。その両手には剣が握られており、殺意丸出し、という感じだ。

「お客様。どういうおつもりでしょうか、この私めにこんなものを握らせるなど……」

「そっちこそどういうつもりよ。人身売買に加担してる犯罪者の癖に、えらく威勢が良いじゃないの。あなたはもっと、この世の日陰で暮らすべき人間よ」

「やかましいの───です!」

 瞬間!彼は歩くのをやめ、飛んだ。そして、一気に距離を詰め、二つの剣供による連撃を喰らわさんと、私の後ろを切るような勢いでそれらを突き出す!

 明らかに達人のそれではない。独学だ。だが、それなりに様になっているのがうっとおしい。

「貴女こそ!正義の味方気取りでいい気になっているではありませんか!こんな風に突撃してきて!あなたは日向で暮らすべき人間なのかもしれませんが……」

 そして、二つの剣に異変が起こる。

 風を纏ったのだ。そしてそれらを斬撃として発射する。

「!」

「ならば地底は放っておいてほしいですな!」

「攻撃を凍結」

 風の斬撃を止める。それでも彼は懲りずに、また連撃を繰り返す。そして私はそれを避け続ける。

「こちらにはこちらの文化があるのですよ!そして、人間にはそれぞれの感性があるのです!売り物として生み出された物を売っているだけのことを、責められる覚えはありません!」

「だからエゴなんだつってんじゃん」

 私は右手を前に出す。そして、今度は概念をではなく、普通に目の前の空間を凍結する。執事はもちろん右へ移動して回避した。全く焦りがない。それもどうかと思うが。

「だけど少なくとも、感性って話をするなら貴方達の感性は狂っている。だいたい、地下に潜ってる時点で、やましいことだと思ってるんじゃないの?」

「は、それは貴女のような邪魔者が多いからですよ!常識と言って他人に持論を押し付ける貴女のような邪魔者がね!」

 執事は片方の剣を天に掲げる。

 すると、落雷が起きて───今度は雷を纏った。

 もう片方は投げ捨てた。

「なんで邪魔されるのか、わからない?」

「さあね考えたこともなかったですねぇ!ただ単に、何かを成し遂げるには批判が付き物というだけのことと認識していましたよ!……まあどれだけ邪魔されようが」

 雷を、増幅させている。

「私たちを止めることは出来ない!それは絶対に変わることのない運命なのですよ!あはははははははははは!」

 笑いは止まらない。そうしているうちにも、雷はどんどん集められ、シャレにならない程のエネルギーになった。剣を片方捨てたのは、避雷針を連想させて霊的意味を持たせるのと、ただ単に両手でないと支えられない程の重さになるということだろう。そしてそうなったようだ。

 取り扱い注意。転んで落としたら、恐らく地下都市の上層部は崩壊するだろうという感じだ。雷は圧縮され、剣を中心に回って回って、渦を巻いている。……これは、世界を破壊とまではいかずとも、州ぐらいのサイズなら余裕という感じだ。

「さあ!貴女も見せてくださいよ!封印能力とやらを!『シエルの血統』とやらの力を!」

「言われなくても見せてあげる」

 私は構えない。

 今まで通りに右手を前に出しているだけ。ふざけているように見えるかもしれないが、しかしこれで十分なのだ。

「ふふ…では喰らってもらいましょう、私めの最大威力を!なみに、これを喰らって生き延びた者は誰もいない!」

「……変わらない運命だって?」

「うん?」

「変わらない運命だって、言ったよね」

「ああそうですよ…あなたは敗北に喫するのです」

「運命が変わらないというのなら、それは私達の敵だ───もう死んでもらうしかない」

「…ほう。では殺して見せなさい。ただし、ここを通れればの話ですがねぇ!」

「来い」

 そして、雷と氷が激突する!

「合同逆算・必殺雷電(ひっさつらいでん)─────!」

「────────凍てつけ、絶対零度。」


 〈3-18〉

 妨害逆算に、合同逆算。

 その関係性は今は詳しくはまだわからない。だから、少しもやっとする部分があるが、しかし、ここは喜ぶ場面だろう。

 喜ぶまでもないけど。

 私は執事さんに無事、勝利を収めた。

「あ、あわわわわわ」

「落ち着いて、ていうかそっち持って、縛るから」

 そして意識を失った彼をすかさず拘束する。

 ちなみに、私が独自に決めているルールの中に、絶対零度による凍結は無闇に人に使わない、というのがある。今回もそれに従って、彼の拘束にはガムテープのみを使った。

「…さて」

 今の騒動で、完全にバレてしまっただろう……となると、ゆっくり見学とはいかなさそうだ。仕方がない。

「これから貴方を連れてこの穴を落ちる───寄り道せずに、一気に最下層まで行くわよ。事態は急を要する」

「わ、わかりました…」

 絶対零度は無闇に人に使わない。それはこの彼に対してもそうだ。行きしなだって、()()()()()()()()()()()()()()()飛行の魔法を使ってきたし、ここで絶対零度を使って彼を天角学園に帰すつもりはない。このまま付き合ってもらう。

「警備が来る前に行くよ」

 地面と地下との間を凍結し、足場を消した───私と彼は自然落下する。そうすると、地下都市の様子が見えてきた。

「りりりりりりリリーさん!こ、怖いです!」

 彼が何か言ったような気がした。

「え⁉︎なんて⁉︎」

「怖いです!スピード早すぎて怖いです!」

「ああ」

 こういうちょっとした所で人間っぽさを見せてくれてありがたい…という話は置いておいて、私はスピードを緩めてやった。まあ実を言うと元からそうするつもりだったのだが。

 私は傾斜70度でスキーをするように緩やかに落下する。スキー板は靴の裏、雪山は空気である。

 そして私は周りを見つめる。中華な雰囲気の中に所々アメリカがあるような街並みに、軽く感動を覚える。

「綺麗だよね、やっぱり…ここって」

「そうですか?」

「光が綺麗」

「地下ですからね」

 そんな会話を重ねていくにつれ、私はある重要なことに気がついた───彼彼と言ってきたが、その彼の名前を聞いていなかったではないか。

「ねえ、あなた名前は?」

「僕は…シモンです」

 シモン・サクリファイスといいます─────

 そこで私は疑問を覚える。確かあの執事が『シモン様』とか言っていたような気がするけど、どういうことだ?

「…そう、シモン、よろしくね。あわよくば貴方にはうちの部員になってもらうわ」

 …と、思ったが、しかしとりあえず今は気にしないことにした……ひとまず落ち着いてから、整理しよう。

 さて。

 では、落下中ではあるが、前編はこの辺で締めさせていただこう。いやあ、とんでもない巨敵に喧嘩を売ってしまったものだ。しかも次回で完結しないってんだから……そう、中編に続く。では次回予告だけして終わろう!

 次回!期せずして街を見学することになった2人!そこに待ち受けていた、驚きの文化とは⁉︎

 第四話その二、物語は加速する!


 〈9-9〉

 理事長室で笑わぬ男が1人。そう、須川朝登だ。

 彼は思考する─────どうすればいいのか。

 こんなものを押し付けられてしまったという事実がもう嫌になる……あんなものを。『あれ』以上のものを。

 世界が対応を諦めたそれは、今も地球を目指して動き続けている…私ひとりの力では埋め尽くすなど到底不可能だ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()彼女なら、あれが来る前までに打開策を作っておけるはずだ。

 …世界の為にも、しっかり()()()()をこなしてほしいものだ。


 続く。

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