第三話【禁断少女は諦めない】改編
薙紫紅という人間は。
薙紫紅という人間は正義の味方ではない。
彼はあくまで、悪の味方である。
彼は悪魔で、正義の味方ではない。
だから彼は、こんな突拍子もない行動を取らないと、私は決めつけていたのだ。
「どうだ…どうだ。たったの一瞬だけど…」
それこそ悪魔。彼は、『最近知り合った少女が因縁の敵に似ているから』という理由で、反逆した。
全てのルールである私に、反逆したのだ。
「あんたを止めてやったぜ…どうだ!」
彼の物語は、彼女のような強者を守ることで、私を止めることで、初めて一つのストーリーとなるのかもしれない。
〈Forbidden girls will always and always repeat the same mistakes from now on.〉
俺は心身ともに、ひどく衰弱していた。
その為ではないが…天角学園の文化祭は夏休み直前に行われるが、俺はいまだに日本にいた。いつまでも脳ばかり働かせて、体はずっと動かせないまま…というだけである。庵内湖奈々から以前聞かされた話を例に取れば、天罰の執行猶予は本人が自覚するまで。それだけ増えた能力を全て確認するにはおよそ2ヶ月はかかるとリリーは言っていた。そして、明日でちょうど2ヶ月後。もうあまり時間は残されていないというのに。
俺ときたら、文化祭を楽しんでいた。
『クレナイ、あれ美味しそうだね!』とか、『あっち並んどいて!』とか、『うまい!』とか。
生徒会執行部が既に更生させた3年生の屋台で売られている食べ物どもを買い、食い比べ…とか。
呑気なものだ…だがまあ、ここ2ヶ月ほどは、体育祭が終わってからは…キャサリンが学校を去ってどこかへ消えてしまってからはずっと、事件、人助け、対策を練る、そればかりの毎日だったから…そうだ。
結局、強硬手段に出るしかないという結論がついた今、俺の死は確定したようなものだし…最後に、人生を楽しんでおくのはアリ、だ。
死なないけど。
きっと彼女は死以上の苦しみを俺に与えるだろう。
…それでもここ2ヶ月。
本当に頑張った。みんなに協力してもらって…。
鈴木礼二に。咲宮歌織に。滝村望に。時破田心裏に。リリー・シエルに。キャンディ・ベルに。美樹巴に。都賀生命に。須川朝登に。叶屋柳に。桜原棘に。林道栄徹に。種子島軽に。近藤いつみに。烏丸憂に。
協力してもらって…それでも『天使打倒』は不可能という結論がついた。当然といえば当然だが。
天使は勝つ為に理屈を必要としないんだから。
…。
声が聞こえる。ああ。
俺は返事をする。すぐ行く、待ってて。
友達も、増えに増えたものだ…部員にクラスメイト、ライバル。それから、『他人』も。
はっきり言って、俺は最高に幸せになれた。
以前の俺なら、もう心残りはないんだろう…。
…。
だけど俺には今、帰るべき場所がある!
今日何度目の決意だろうか。虚しい。でも熱い。
俺はその日、文化祭を目一杯楽しんだ。そして、文化祭の終了と同時に、夏休みを迎えることとなった。
さあ、では。
俺は大きく息を吸って、扉を開けた。
理事長室の。
そして、言い放ったのだ。
理事長先生、俺を彼女の元へ連れていって下さい。
答えはノーだった。
〈11-11〉
先生は、彼女はもう寿命だ、と言う。
そしてこんなことも暴露した。彼女と私は旧知の間柄だ。だから知っている、彼女は、複数持っている『年齢を操る能力』で姿を若くしているだけで、本来はもう150歳、とっくに死んでいるはずの人間なのだ、と。
その暴露は、理事長なりの優しさでもあった。
君が無理することはない。遠回しにそう言った。
だがまあ、俺がそんな優しさに乗っかって、諦める勇気を持って彼女を見捨てられるような人間なら、こうしてここにはいないし、死ぬ覚悟を決めることもなかったろう。
理事長は続ける。
彼女の能力『臨時雇い』は若き頃(彼女にとってはその時も別に若くはないが)、一度切り離してすり潰し、混ぜて捏ねてもう一度貼り付けた能力であって、それに能力を付属させて加工しても、どうしてもすぐ劣化するものなのだということも教えてくれた。まあその辺は大体察しはついていたが。
さらに続ける。
限界が来たのだ。応急措置を重ね合わせて延命することができなくなったのだ、と。どんな劇薬も、入れ物が無ければ土に混ざってそのうち消える。とも言っていたかな。
そして最後にこう言った。
ようやく彼女は終われるんだ。邪魔しないでやってくれ。…それはそれは悲しそうに、理事長は言った。
まるで、本当は自分だって救いたいとでも言ったかのような空気になった…俺は、引き下がらない。
俺は、入室した時から変わらない嫌な目つきのまま、理事長に対してこう言うのだった。
ようやく俺は始まるんです。邪魔しないで下さい。
その後も話し合いは続いた。
そして、一時間後。
理事長は譲ってくれた。ゲートを開き、俺を、彼女の元へ行けるようにしてくれたのだ。
〈1-8〉
天使に対抗する為にはどうすればいいか。異能のプロ達が皆無理だと言う中、俺は最後まで考えてみた。
そして、『あれ』の存在を思い出したのだった。
それを持って、俺はゲートをくぐった。目を開けるとそこは異世界…ではなく、どこか日本でない別の国のようだった。
凍えるように寒い…俺はすぐに、暖まれる場所を探す。すると、ちょうどいいところに家があった。手入れのされていない、明らかな廃墟だった。…色々あって俺は、廃墟暮らしには慣れている…ここを拠点にしようと、そして、今日のうちに決着がつかない場合は、ここで夜を明かそうと決めて、俺はその廃墟に入っていった。
玄関までに庭があった。そしてそこに、大きな穴が、空いている。俺は推測する───恐らく墓があったのだ。
誰かが勝手に移動させたのだろう…墓石を盗むというのは考えられない。多分ここに偉人が住んでいたのだ。
俺はそろそろ命の危機を感じたので、その廃墟の中に入った。洗面所にあった鏡で見てみると、まつ毛が凍っていた。そうだな、恐らくだがここはシベリアのような寒い地域らしい。
こんな場所に本当にキャサリンがいるのか不安になったが、しかし俺はここに待機して、ことが起こるのを待つしかなかった。幸い事件が起こればクリムゾンで追いつくことができるから、とりあえず今は休憩できる…。
「…はあ」
キャサリン・ヴァルキューレが犯した罪のことを、理事長は隠していた。前に聞いた時、彼女がどういう存在なのかを教えようと言っておきながら、彼は黙っていた。
いいやそれだけではない。全ての始まり…リリーが捕まった時だって、理事長は過去の事件のことを濁していた。
理事長とキャサリンにとって、クラス分裂事件『異能解放』はトラウマになっているのか…なかったことにしたいらしい。無論、忘れるというのも一つの解決手段だと俺は思うけど、しかしだからといって、周りにまで忘れてほしいと求めるのはおかしいだろう…俺は、助けを求めてほしかった。
能力の劣化。
強すぎる能力が故に───修復も出来ない。だけど。だけど、もっと前に言っていてくれたら、何か変わったかもしれなかったじゃないか。会って2週間で会わなくなるのは、卑怯だ。
俺はまだ、俺達はまだ、あいつのことを認識すらできていない……ただの強い奴、としか、思えていない。
「…今更、仕方ないか」
そう、仕方ない。愚痴を思ってみたものの、結局のところ誰も悪くないのだ。俺達は無知で、キャサリンや理事長は愚かで、リリーの父親、ザリオ・シエルは純粋だった……つまり、誰も悪くなかった。ただ、正しくなかっただけ…だ。
もしかしたらキャサリンは死んでしまうのかもしれないかど…いや、そんなことはさせない。
何も変わらなかったなら。何も変えないために戦えばいいじゃないか。みんなが託してくれた『これ』があれば。万が一ぐらいの確率で、彼女を助けることができるのだから。
〈00-01〉翌日。
『その感じ』には、もう慣れてしまったような感じがする……負荷能力『クリムゾン』による呪いが、発動した。
さて。行くとするか。
と、俺は椅子から立ち上がり、その辺にあったコートを勝手に拝借して、外へ出て駆け出していったのだった。
なんだか「いってらっしゃい」という声が聞こえたような気がしたが、まあ気のせいだろう。
……一方その頃。
キャサリン・ヴァルキューレはというと、やはりシベリアにいた。俺よりももっと先に、キャサリンは『最強を許さないルール』アリカ・レリエルと対面していた。
本来はその場所に存在しないであろう花畑で、2人とも、今世紀最大の殺気を放っていた。
「よう、アリカちゃん」
「ちゃん付けはよせ、キャサリン・ヴァルキューレ」
そんな会話があったらしい。そしてこう続く。
「というわけで、【天罰】だ。君は真に地上最強になってしまった。もう放っておけない。潰す」
「…ふむ」
「一応、私は神に反する為に生まれてきた存在だからな…キャサリン、お前に【神罰】が下る前になんとか最強を辞めさせてやりたい。神罰の方は本当にヤバい奴にしか下すべきではないと思っているのでな」
「でも妾は神の資格を手に入れてしまった」
「ああ。そのレベルまで来てしまうと、もう私以外には神罰は覆せない。だから感謝しろよ───死ぬより辛いことが起こる前に、殺してやる…なあに、痛くはしないさ」
「優しいんじゃの」
「皮肉か?」
「いやいや。遺言かもしれんぞ」
「ふん……ところで、キャサリン」
「うむ?」
「その『能力放棄』が破綻した今、お前は天角学園の生徒の全能力全技術全殺人術全覚醒を持っているんだよな」
「…ああ、それがどうしたのじゃ?」
「いや、今、お前が放っているそのオーラだが…なんだか見覚えがあって、な」
「見覚え?」
「いや、なんでもない…シエルの血統はやはり恐ろしいというだけの話だ」
「?」
それはつまり、今のキャサリンの超能力の質が庵内湖奈々と同じ、つまりはリリー・シエルと同じだと言っているのだが、キャサリンはそれを知る余地もない。
「さて!始めるとするか!」
「うむ…だがアリカちゃんよ、これって抵抗するのは」
「ありだ。むしろしてほしいね。今までに黙って殺されてくれた奴はいない……抵抗してくれた方が、計画通りだ。最も、あいつ以外は黙らず死んでいったけどね」
「あいつ?」
「お前にすごく似ている奴だよ」
アリカ・レリエルがそう言った時点で。俺は、追いついた。駆けつけた。俺はその光景を見てぞっとした。
そこにあったのは、莫大な『魔力』。莫大に莫大を合わせて二乗したような、莫大さ。爆大と言ってもいい。
「んじゃ、達者でな」
アリカは、莫大としか表現できないようなその魔力を『球』にして、回転させ───徐々にその形を崩していく。
球が無くなった時、そこにあったのは剣だった。
「『全てを私とする能力』────────
─────────────【無神論者】」
〈1-6〉
キャサリンの能力放棄が機能を完全に停止したのはつい最近のことである。学園に篭っていたキャサリンの元に、ある1人の少年が現れたその時から、だ。体育祭の前日。その少年は彼女に会いに来て、こう言ったのだ。
「生きたい?なら、僕の能力をコピーすればいいよ」。とはいっても彼女は自分の意思でコピーをするわけではないので、それを言われる前にもう、その少年の能力を臨時雇いしていた。
すると、異変が起こった。
その少年の能力がキャサリンの臨時雇いと混ざり合って、目を疑うような防御性能になったのだ……いちいち相手を超えるまでもなく、一度超えたらそのまま。
完全なる防御。キャサリンはそう思った。これさえあれば、なるほど天使に勝つことはできなくても、殺されることはないと……しかし、少年は───巫槍は真逆のことを思ったらしく、1人でこうつぶやいた。
「……やっぱり駄目だったか。まあいいや、臨時雇いの有用性はそれでも中々のものだし……」
わけのわからないことを言う。だがしかし、それについて彼女は気にしている場合ではなかった。彼女は、その時点では『能力放棄』が止まっていることに気がついていなかったが、しかしその危険性は知っていたのだ。……だがそれ以上に。巫の能力は、もしかしたら天罰すら防ぐのではないかと、彼女は思ったのだ。思ってしまったのだ。…何度でも言おう、
これは彼女が望んだことである。
どうせいつか破綻する日常を大事にしたって仕方がない………ならばいっそのことそれに命を賭けてみよう。頭が完全に破綻していると言いたくなる。
天使に叛逆することを選んだ。はっきり言って馬鹿だ…天使アリカは今までに逆らわなかった者はいないと言ったが、そんなのは大嘘である。天罰というのはつまり手術のような物だ。黙って受ければ受けるほど、軽くなる……皆が皆、銃を置いて両手を上げて、黙って殺された。そうすれば、きっと来世も人間に生まれると信じて。だが彼女は、期待してしまった。
「…【臨時雇い】」
【絶対零度】【テレポーテーション】【剛水球】【黒刀】【封印】『歩く技術』『走る技術』『火を起こす技術』『石を削る技術』『枝を折る技術』『目で追う技術』『薬物使用の技術』『放火の技術』『強姦の技術』『虐待の技術』『器物破損の技術』『詐欺の技術』『監禁の技術』『誘拐の技術』『自殺教唆の技術』『強盗の技術』『毒の技術』『体罰の技術』『迫害の技術』『銃砲刀剣類の技術』『公害の技術』『汚染の技術』『脅迫の技術』『ストーキングの技術』『ハッキングの技術』『爆破の技術』『事故の技術』『欠陥の技術』『公務執行妨害の技術』『人体実験の技術』『ハラスメントの技術』『横領の技術』『怪盗の技術』『混入の技術』『不正の技術』『レプリカの技術』『滑り殺す』『抉り殺す』『絞め殺す』『斬り殺す』『縛り殺す』『溢れ殺す』『貫き殺す』『躾け殺す』『轢き殺す』『噛み殺す』『踏み殺す』『落とし殺す』『背後から殺す』『練り殺す』『撃ち殺す』『隠れて殺す』『公衆の面前で殺す』『メスで猟奇的に殺す』【絶対行使】『密室で殺す』『燃やし殺す』『捻り殺す』『挟み殺す』『諭し殺す』『ブチ殺す』『封じ殺す』『竜すら殺す』『ブレて殺す』『クールに殺す』【具現隷骸】『全ての覚醒』【具現蒼穹】【名付け親】、そして【無神論者】。これらをオリジナルの1500%ぐらいでそれぞれ放てば……これほどの力があれば、天使撃退も夢ではない、と。
でも、それは夢に過ぎなかった。
計画通りそれらを使ってアリカを攻撃するキャサリンだが、しかしアリカは無傷のまま!
「⁉︎」
彼女は驚きで声が出なかった。
何故だ。何故。
パワーは足りているのに、何故──!
そんな彼女の疑問ももう解決されないまま、剣にかき消されそうだった……それもそのはずである。キャサリンは天使を生物だと認識していたから。
それは違うのだ……天使はルール。
ルールに対して人が出来ることは、守るか、破るかの二つだけ。決して、逃れなれないのだ。
本人は断罪に反抗などできない。……だから。
だから彼は、彼らは、誰かが庇ってあげなくちゃならないと思ったのだ。
巫槍はキャサリンに正体を聞かれた時こう言った。
「僕は『0代目悪の味方』とでも言っておこうかな」
ならば俺はどういうのだろうか。
「俺は初代…俺は悪の味方だ」
そして物語は、冒頭へと戻る。俺は駆け出しキャサリンを前へ躍り出た。そして、右手に持った『それ』を使ってアリカ・レリエルの攻撃を『消す』!
そして言うのだった。
「どうだ…どうだ。たったの一瞬だけど…」
「……!」
「あんたを止めてやったぜ…どうだ!」
〈11-2〉
かつて庵内湖奈々と戦った際。俺は準全能である彼女に対抗する為、アリカ・レリエルの力を借りた。彼女の能力『スクリーザ・ショット』を、ある剣の『柄』から使えるようにしてもらったのだ。しかし俺には異能適正が無いので、50分間という制限時間があった。結局その後の戦いで残り0.01秒まで使ったのだが……しかし裏を返せば0.01秒なら俺は絶級能力を使えるということだ。この二ヶ月、みんなに協力してもらって、できる限りこれを強化した……保管していた甲斐があった。みんなは残り0.01秒の充電を、0.1秒にまで引き上げてくれた。
そして、それで十分だ。
0.01秒はともかく、0.1秒なら異能適正の無い俺でも認識することができる時間である。すなわち。地上で唯一、天使アリカに対抗できる『0.1秒の無神論者』を発動できる───
───「それじゃあダメだぜキャサリン。
天使ってのはルールなんだ…実力で上回ったって倒せるものじゃあない。天使は勝利するために理屈を必要としないんだ。
逆らおうとするのが既に間違いなんだよ」
「お、おぬし…」
「紅くん…あらら、来ちゃったんだ」
「だけどお前のような奴を救う為に、俺のような存在がいるんだぜ…なあ、納得できないよな。このまま殺されるだなんてまっぴらごめんだよな?」
「……」
「だったら決心をするんだ。
たとえ殺した相手が極悪人でも、謝る決心を。
たとえ相手より強くても、弱くなる決心を。
たとえ理不尽なことが起きても、受け入れる決心を。お前は、悪者になる決心をしなくちゃならない。」
「悪者…に…」
ある者はそれをダーク・バランスとも言う。
俺がキャサリンと話していると、アリカ・レリエルが口を挟んできた。特に動揺もしていない風だった。
「急に現れてなんだい紅くん」
「…アリカさん、その節はどうも」
「君の邪魔が入ったせいで、天罰が外れちゃったじゃないか……ああ、めんどくさい。まあ、私の力をぶつければ天使に叛逆したことにはならないってのはいいアイデアだったけど。ふふ。一体誰が考えたんだい?」
「…リリーですよ」
「……やはりシエルの血統か。末恐ろしいね」
天使は嫌な笑みを浮かべる。なんだか奇妙だった。まるで、その先の未来を見据えているかのようで。
「最も、俺はそうしましたけど、そんなつもりはなかったんですよ……俺はあなたの天罰も、神の神罰もさせはしない」
「…へえ。こだわるねぇ。この子とは会ってまだ間もないんじゃなかったっけ?」
「だけど、キャサリンはずっと苦しんでいた」
「…」
「それに、あなたが天罰を下すことが仕事なら、俺の仕事は悪人を救うことです。会って間もないだなんて関係ないですよ」
「…ふうん。で?どうするつもりだい?」
天使は明らかに機嫌が良かった。
余裕、という感じがにじみ出ている。
「キャサリンを無能力者にしてください」
「……わかってないね。それが出来ないからこうして殺すしかなくなったんじゃないか」
「え?」
しかるべき常識をわきまえていない──出来るものならそうしてる、というようなことを言われた。
「絶級能力は消せないよ。どんなことがあっても。絶対に。使用者が絶命しない限りは。……ここでいう絶命ってのはただ死ぬって意味じゃないからね。全知全能でも生き返れないほど存在が失くなるってことなんだからね」
「い、いやでも、さっきだって…」
「効果によって生み出されたエネルギーはそりゃ消えるけど……効果自体は消えることがない。」
「う、嘘だろ…」
「嘘じゃないさ。というかそもそも、おかしいと思わなかったのかい?神の資格を手に入れた人間を天使である私が殺すだなんて。逆だよ逆……神の資格を手に入れた人間は、もう絶対に死なないんだよ。実力面で、神の領域の天使を含めても最強になってしまったから。
だから、その絶対を覆す為に唯一殺せる天使に頼る。ズルをして、ちゃんと死のうとする。私が勝手に殺すんじゃない。他でもない、能力自身が寿命を迎える為に私をそうさせるんだよ」
「……法則である天使が例外的に殺せるだけで、本当は不老不死……最強になってしまったが故に、その効果は天使にも消せない…⁉︎……で、でも」
「でもじゃない」
不勉強だね君は───────。
「裏社会で育ち、異能社会に詳しくない……というのはわかるけどさ。でも、想像してご覧よ。君のように全知全能を救おうとした人物達は今までにも大勢いたんだぜ……だけどその全員が天罰を黙って見ているしかなかった」
「‼︎…」
「君がやったことも、君がやりたいことも、みーんな、過去に一度はあったことだ…だけど、誰も成し得なかった。
ねえ君は、自分が達成使いだからどうにか出来るとか思ってない?そりゃ君は天使でも殺せない、全てを統べるルールにも殺されない存在だからよくわからないのかもしれないけど、キャサリンはそうじゃないんだよ?
コナナちゃんもそうだ。彼女は自力で助かっt」
「待て」
その時。ひとつ、道が拓けた。俺は発見したのだ。道というより、それは穴だ。抜け穴であり、落とし穴。だけどこれもまた、それで十分なほどの───!
〈8-2〉
「何故、庵内湖奈々は生き残った?」
「…」
「何故、ガティア・シエルは死んだ?」
「…おや、痛いところを突くね」
俺は問い詰める。天使に喧嘩を売るように。
何故この2人は例外なのか?
「天罰を受けてなお、庵内さんは死んでいなかった……他でもない、あなたによる天罰なのに。俺と戦った時は天罰ではなかったかもしれないけど、その前は?」
「…うん。続けて」
「ガティア・シエルは虚無に飲み込まれて死んだと聞いた……使いこなせていなかったとしても、しかし確かにそこには全能が存在していたはずだ。なら、能力者本体を失うと消えてしまう絶級能力は、能力者を守るんじゃないのか…?」
「うん。正解だな」
天使は笑っていた。それがどういう意味かはわからないけれど、いい笑顔だった。
「まあ君の指摘は正しいよ…だけど彼らは参考にしないほうがいい。コナナちゃんは…あれは本当の化物だし、ガティアに関してはシエルの血があるんだから、死ななくて当然だし、死んで当然だ……彼らは君のいう通り、天使に頼らなくても寿命を決めることができるんだよ」
「……そのくらい強いってことですか」
「うん。そしてキャサリンちゃんは残念ながら、そのくらい強くないんだ」
天使は続ける。
要するに神の資格には二つ種類があるのさ。
「一つは『観測者に神だと思わせることができて尚且つ全知全能である』キャサリンちゃんのようなタイプ。そして二つ目は、『全知全能であるだけである』コナナちゃんやガティアくんのようなタイプ。後者の人間は、【領域耐性】を持っているということだ」
「どう違うのじゃ…?」
ここで久しぶりにキャサリンが口を開けた。
「どうもなにも」
「先が基本か、後が基本かって話…ですよね」
「そう」
「…?」
目線からわかる、ちゃんと説明してくれというメッセージ。それに答えて天使はこう言う。
「君の『相手を超える』能力なんかは実にわかりやすい例なんだよ…先が基本か、後が基本か。なら、臨時雇いの場合は先が基本ということになる。
だけど。名付け親や総司令官は後が基本だ。
はは、名付け、司令というところからもわかるね」
「ん?いやその理屈なら、『雇い』もその部類に入るのではないか?」
「…今のは忘れてくれ」
天使は仕切り直す。
「だからね、相手を超えるために、今から後へ変わるだろう?それはつまり、先が基本ってことだ。何かを成し遂げる為に何かをする能力…防御や回復はほとんどそうだ。
だけど、名付け親──願い事を叶える能力──や、総司令官──全てを操る能力──は、ただ単に何かできるだけ。なんでも成し遂げられるんだ。だから────」
「弱くなることで天罰をある程度回避できた」
「ああ」
理解したようだった。
『神様のパラドックス』という話がある。「持ち上げられない石を出す」という課題を出された時に、石が持ち上げられないか石を生み出せないかのどちらかになるので万能の存在はありえない…という。
「だからその矛盾をクリアした…彼らは、持ち上げられない石を持ち上げられないまま持ち上げた。まあそれを人間が見たところで理解できないし、パラドックスは覆らないんだけど…」
「しかし、天罰を回避した。死ぬことができた。つまり、最強の力を有したまま最強でなくなった」
そして、沈黙が訪れる。
この後に続くセリフを言えさえすれば、なんと俺の勝ちは確定される……しかし同時にそれは、敗北でもある。問題を先送りにしただけだ。
だけど、だけど。予想外の展開で、こうするしかなくなってしまったのは事実だけど。
俺は、自分の意思でこう言おうと思う。
「…キャサリン」
自分で判断して、将来の自分に任せよう。そして俺は決してそれを、悪いことだとは思わない───俺は気づいていた。
名付け親と具現蒼穹がそこにあることに。
「庵内さんと、巫の能力を使え……そして、お前も矛盾をクリアするんだ。そうすればお前も、天罰を回避できる」
辛かった。
俺はまた、ズルをしてしまった。
「大丈夫。あの2人ほど手強い奴を、俺はあいつ以外に知らない───」
おや、また伏線が誕生したようだった。
〈3-1〉これ以上伏線を張ってたまるか。
手強い人間3人目。しかしそいつは無能力者だ。
名前を、『刃渡 唯』。
こいつについて詳しく説明する気は無い。だが一つだけ特徴を伝えておくとするなら、こいつは中学時代のクラスメイトだ。
恐怖の対象であった俺に対して3年間普通に話し続けた猛者。
思考異常を持っているわけでもない…完全なる普通の人間。しかし、彼女は俺に話しかけ続けた。すごい精神力だったと思う。まあ俺は思考異常が感染る可能性があったから、返答できなかったわけだが。
さて、ではそんなところで今回の事後報告。
結局あの後、アリカ・レリエルは見逃してくれた……キャサリンが名付け親を使って臨時雇いを弱体化するのを。つまり俺は結局、宿敵の力を借りてしまったというわけだ。
だけどまあ、やはり悪いとは思わない。終わりよければすべてよし、今回はそれでいいじゃないか。
「のう、なんで助けてくれたんじゃ?」
「ん?」
あれから、パスポートを失くしたと言って航空会社を騙して…それで、なんとか日本に帰ってきた。俺たちは、我らが天角学園の校門前まで戻ってきていた。そこで、キャサリンにそう質問されたのだ。
「くれない、おぬしは悪の味方だと言っておったではないか…確かに妾は極悪人じゃが、しかし今回の場合に限ってはそうとも言えないのではないか?」
「はは…まあ、確かにポリシーとは違うかもしれないけども……しかし、俺は悪の味方である前に、1人の人間だ」
「…」
「人として欲望に忠実に…したいことをしたんだ」
「庵内湖奈々、か」
「そうだな」
俺は照れずに堂々と言うのだった。
「初恋の人を思い出してしまったから───うっかり助けてしまっただけだ。…今ではあの人には完全に冷めたけどな」
「あっはっは」
そして、俺たちは校門をくぐって、学校に帰ってきた。…いや、登校したのだった。俺たちの学校に。
そしてキャサリンは、正式に人助け部に入部した。
〈3-1〉
「今回のことは私の責任だ」
理事長室に呼び出された俺は、なんか謝られた。
「そして、感謝をしたい…彼女は私の大切な友だ。本当なら、なりふり構わず助けに動くべきだった。君が動いてくれていなかった場合のことを考えると、頭が上がらない」
「え、じゃあ飛行機代とか…」
「もちろん全額出そう」
「やったー!あ、じゃあ、失礼します!」
俺は理事長室を飛び出し、携帯を取り出しておっさんに電話をする。「ごめんやっぱり金貸してくんなくて大丈夫です!」と伝えると、「おめーもっと早く言えよ」と怒られてしまった。
そんな中。
理事長室には、2人の能力者がいた。…のではなく、キャサリンはかなり弱体化しているので今はまだ無能力者だ。
「……うむ?くれないは死亡扱いになっていたのではなかったのか?そういえばどうして飛行機に乗れたんじゃ?」
「あれは私のだ」
とんでもないことを言った。
「もちろん空港の職員にも金を握らせて黙らせた……まあそんな遠回りをするくらいなら迎えに行っても良かったのだがな」
「…朝登くん」
「なんだ?」
「おぬしは成長したのう」
「してないさ」
そんな会話があったようだった。
さて、では今回はこんなところで締めさせてもらおう。
正式に人助け部部員が増えたところで。しかし案外、次話でリリーあたりがあっさりもう1人増やしたりしたりして。
……男女比のことを考えると、男が望ましい。
ではでは!最後になにか言って終わろう。
次回、リリーの能力【絶対零度】の正体が明らかに!……でも、封印されてるんだよなぁ。
ん?ていうか『シエルの血統』って、
後はリリーだけってことになるのか。




