第三話【その教室には化け物がいる】後編
「おやおや、どうしたんだ。
怯んじゃってるのか?それともあのキャサリン・ヴァルキューレを見てると庵内さんを思い出して辛いのか?まあ、普段からその庵内さんと同じ質の魔力を持ってるリリー・シエルと話しているぐらいだからそんなことは無いんだろうけど。
さて。
君は僕たちを助けると言ったな。
今はまだ縛り付けておくことしかできないけれど、お前たちのことをいつか絶対に助けてみせるって、あの時そう言ったな。
どうだ?算段はまだつかないか?
まあ、庵内さんがよく昔話をしてくれるから暇はしてないし、むしろ人助けに明け暮れていた頃より楽だから別にいいんだけど、しかし『自己犠牲』できないというのは辛いな。
君は、僕のもう一つの思考異常、『決定論』を否定すると言った。そして、庵内さんの思考異常、『完全悪』を消すと言った。そうすれば、僕たちは真人間になって、普通の人生を送れるはずだ、必ず実現してみせる、と言った。
君は日々成長しているな。
あの事件以来、君は仕事を失敗していないし、『達成』も以前よりグンと強くなった。
しかし、思考異常だけはまだどうしようもないみたいだな。
辛いことだ。
さて、キャサリン・ヴァルキューレは庵内さんにかなり似ている怪物なわけだけど、別に怖がる必要はない。
そして、君がずっと探している、物事を達成や能力での力づくではなく、心によって解決する方法はきっと学園にいれば見つかるさ。
まあすぐに見つけろとは言わないけど、
早くしないと彼女…いや、彼女らは救う前にめちゃくちゃになってしまうだろうよ。最近のお前は少し平和ボケしているから、こうしてわざわざ教えてやったんだ。急げよ。
庵内さんの復活が近い。
まあ多分その前に僕が外に出ることになるけど。」
〈46-1〉
「…お手紙どうも…」
目が覚めた──
──二つの意味で。巫槍の声を聞いたのはいつ以来だろう…達成による封印攻撃を掻い潜って夢の中に声を届けるとか、あいつもいい加減ぶっ壊れ性能だな…まあなんにしても、俺は手に入れた青春を楽しみすぎて彼の言う通り平和ボケしていたようだ。
準全能・庵内湖奈々の復活が近い。
さらっと重大発表…だけど、彼女のことだ、悪の味方ならぬ悪そのものな彼女だけど、外に出たからってすぐに悪事を働こうとはしない…興味深い人間を見つける為の、あてのない人探しが始まるだけだ。
タイムリミットが近づいているのはキャサリンの方だ。人助け部に入部したあの日…彼女が庵内湖奈々や理事長と同じ絶級能力者であることが判明したあの日から既に二週間。
あれから彼女の能力は増え続けている…本当に微々たる物だけど、俺は知っている。その微々たる物の重要性を。
最強を許さないルール・天使アリカ・レリエルの力を借りて庵内湖奈々を倒せたのも、実力に微々たる差があったからだ。
巫槍があんなズルみたいな防御性能になったのも、微々たる能力を進化させたからだ。
そして、絶級能力者になる素質を持つキャサリンは、巫槍と同じことができるはずだ。…いや、庵内湖奈々が最強の防御をものともしなかったように、キャサリンは恐らくそれ以上のことをやってのける。
「よし!」
学校に行こう。今日は体育祭だ。
〈7-0〉
3組・覚醒者クラスのクラス委員長。
烏丸憂はこれでもかと言うぐらい完璧に近い人間である。
それは全能…とかいう意味ではなく、人類にとって、つまり尽くしてもらう側にとって、一番好ましい個性を持っているということだ。そしてそんな世界のニーズに応えるかのように彼は人類に奉仕する。
完璧すぎる頭脳。肉体。五感。
ほとんどの異能では彼を倒せない。打倒どころか、文字通り横に倒すことすらできない。
しかし、そんな彼には一つだけ弱点がある。
精神の脆弱さだ。
こと心の強さに焦点を置けば、彼は天角学園の猛者達の中で一番、心が弱いと言えるだろう。
「…」
朝、彼は目を覚ます。
そして聞こえてくるのは、父親の声。
今は亡き、男の声。
───鍛錬を怠らないように。
───了解しました。
───体育祭、頑張りなさい。
───はい。頑張ります。
そしてその声と会話をする。幽霊がいるわけではない…この声は、彼が勝手に聞いている幻聴にすぎない。
では、何故父親の声を聞くのか?
それには三つの理由がある。
彼は歯を磨き、顔を洗い、髪を整え、朝食を食し、また歯を磨き、服を着る(天角学園には制服が無い)。
「…」
一つ目の理由は、ただ単に父親を尊敬していたから。二つ目の理由は、父親がいないのが寂しいから。
毎朝1000kmのランニングを1分足らずで終わらせる彼は、それで汗をかかない。そのまま、学校へと向かう。
いつもの廃墟のような学校はどこへやら。
体育祭ともなれば、活気で溢れていた。
「やっほー、烏丸」
「おう、おはよう」
天角学園の平和なゾーンにいる人達がはしゃいでいるのだ。厳密に言うとそれは、生徒会によって更生させられたらしい3年生全員と、人助け部によって活動停止状態に追い込まれた1年1組、2組…そして元より犯罪に関わっていない1年2年3年の3組覚醒者クラスの生徒達、となる。ついでに一部の職員も。
こうして見ると、思ったより天角学園は平和な学校なのかもしれない…毎日事件がどこかで起こっているようだが。
2年生に関しては3組以外は一度も誰も登校したことがないという有様だから、さっきのは取り消さざるをえない。
「…」
三つ目の理由は、自分に自信が持てないから。
彼は、褒められすぎた。
褒められすぎて、よくできすぎて、
理想の自分が、作れなくなった。だから、無理やり父親を神格化したのだ。自分の上位互換を心の中だけでも存在させないと、自分は壊れると察した自分が、理想の自分ならぬ理想の父親を作った。
「…」
───緊張しているのか?
───はい。もし負けたらどうしようかと。
───大丈夫だ。お前は自慢の息子だ。
───お父様には敵いません。
───いつかは私を越す日が来るよ。
「…」
だから。絶大な力を持ちながら平然とのんびりと生きているだけのキャサリン・ヴァルキューレが嫌いになったし、自分を馬鹿にしているかのような精神力を持ち合わせている薙紫紅が嫌いになった。ああ見えて彼は、ビビリだが、心は強いのだ。
───気に病むことはないよ。
───そうですね。
今日、2人まとめてぶっ潰すことができると、彼もまた浮かれていた。彼だって人間だ。
そして人間である以上、そんなめちゃくちゃな脳内がいつまでももつはずもない。彼もまた、爆発寸前だ。
〈2-8〉
俺達の決戦の場は最終種目、部活対抗リレーだ。
「それ、消去系を使った方が早いのじゃ」
「えっ⁉︎マジで⁉︎あっ、これ、消すんだ!」
「そうじゃ。でもすきるれべるを上げてからの方が」
「ああー‼︎」
「あ、こんてぃにゅーできるみたいじゃ」
「やるやるやる!」
「いや、それはだいやの無駄遣いじゃよ」
「あぁー…確かに、まだ出てないもんね」
「…」
二週間が過ぎ、リリーはキャサリンとめちゃくちゃ仲良しに…一方で時破田はあまり彼女と話さない。
キャサリンの能力、『臨時雇い』は超能力だった。つまり彼女は時破田と同じ超能力者ということになる。だからてっきり超能力者同士仲良くなるかと思いきや、意外な展開である。
まあ、だからといって。
仲は悪くないし、リレーに支障はきたさない。
「よう時破田!今日はぶっ潰してやっからな!」
「あ、林道君、こんにちは」
「こんにちは…おお、えっと、渚、お前もいるじゃねえか、今日はお互い、全力でなおかつ楽しんで走ろうぜ!」
林道君は本当に根だけはいい奴だ。
「薙紫だよ…そうだね、いい勝負をしよう!」
「おうよ!」
握手をする…こうしていると、目の前にいるのが殺人鬼であることを忘れそうになる。危ない危ない。ただでさえ俺は加害者擁護しがちなところがあるんだ、気をつけなくては。
「俺とも、握手してくれるかな?紅君」
その。
その大男、烏丸憂は1人で俺に会いに来たようだった。
突然の出来事に、俺は戸惑う…彼はついさっきまではいなかった。俺の視界の中はもちろんのこと、彼の漂わせる強者のオーラを感じ取れる距離にはいなかったはずなのだ。
超高速移動をしたのか。それこそ異能のように。
「あ、ああ、今日はよろしく…」
「よろしく、フェアに戦おう」
俺は内心ビビっている…俺が達成使いでなければ彼は俺の手をそのまま握りつぶすことができるのだ。まあ、プライドが高すぎるからといって、烏丸憂は誠実な人間らしいから、
杞憂、というやつなのだけど。
…杞憂は確か、杞さんが天が崩れ落ちないか憂いたことから出来た言葉だったっけ。…彼には、天を崩せると思わせるような凄み…雰囲気があるが、しかし、杞憂だろうと烏丸憂だろうと、俺を殺すことはできないんだ。落ち着こう。
それに、今回は戦う必要がない。
俺は二週間の間、キャサリンにばかり気を取られていたわけではない。きちんと、3組のことは調べ上げた。簡潔に結論を述べると、彼らは無害だ。人助け部が介入するまでもなく、彼らは自分を助けるから、俺達は深く関わる必要がない。
ただ1人、烏丸憂を除いては。
そんなことを考えていると、放送が聞こえてきた。
「最終種目、部活動対抗リレーに出場する選手の皆さんは、待機場所へ集合してください。繰り返します…」
俺達は目を合わせる。
「よし!みんな頑張ろー!」
リリーの掛け声に合わせて、俺たちは咄嗟に「おー!」と言ってしまう…なるほど、彼女の説明できないカリスマというものの断片を見た気がした。
〈6-9〉
第一走者
-薙紫紅-烏丸憂-種子島軽-
第二走者
-時破田心裏-御影寺雷鳴-林道栄徹-
第三走者
-キャサリン・ヴァルキューレ-坂本新-近藤いつみ-
第四走者
-リリー・シエル-九野宮力蔵-青土時雨-
「…」
時破田はそれを見て無言になる…キャサリンと話さないだけで今日も普通に話していた時破田が俺の前で無言に。
全く、照れてんのか?ったく、早く告白しろよ。
「紅、いつみちゃんが」
そんな俺の独白を否定するかのように時破田h
「⁉︎」
ええ!?近藤さん、アスクブランクに混ざってる!
「仲良くなれたようで良かったけど…」
「あの子なかなかフレンドリーよね…」
という会話は中断された。
また放送だ。
「それでは、各選手は位置について下さい」
それでは。
そろそろ、あの疑問に答えたいと思う。
「こいつらがまともなリレーできんの?」
そう、それである。その答えとして、ここがどこなのかを明かしたいと思う…ここは阻害地区の一部である、軍事研究所だ。普段は爆弾飛び交う戦場だったり、または訓練の為にわざと色々ギザギザにされている山だったりする。
普通のトラック半周ではうちの学校では絶対に足りないということで、理事長がわざわざ借りてくれたのだ…全長は1km弱。
俺からすればそれは悲報である。
達成使いはこういう時無力だ…割といっつも無力ではあるけど、技術使いや殺人術者、覚醒者や能力者と違い、速さの勝負ではどうしても敵わない。特に一キロもあったら、どれだけの遅れをとってしまうだろうか。
「ん?どうした、楽しくいこうぜ」
スタートの位置に立った俺に林道君はそう言う…なるほど、カリスマではないが、この人はリーダーに向いている。
とても元気が出てきた。単純だなぁ、俺。
「位置についてよーいどん!」
と。
その瞬間。
え?
何?
と…俺は唖然としていた。
何が起こったのか。
俺の隣にいた2人が、いなくなっていた。
というか、予測出来なくもなかったことだが、まさか、いくら常識を持ち合わせていないからって。
普通。
放送でよーいどん!を言うか⁉そして、位置について、と、よーい、と、どん!、の間を空けないとか!
「く…クレナイ早く出発して‼︎」
今回のライバル、烏丸憂。
前回の強キャラ兼ボケ役、竜殺し、種子島軽。
俺はこの2人に凄く引き離された状態でスタートを切ることとなったのだった…ふっ、やれやれ。
「ど畜生おおおおおおおおおおおお!」
〈5-8〉
しかしこれは奇跡だったと言えるだろう。ちょうど山に差し掛かるところで、俺は、その2人に追いついた。
何故?どうやって?それは2人が揉めていたからだ。もちろん、足を止めてはいないが。
「ざん!(お前に一位は取らせない!林道君に金メダルを取らせてあげる為にもお前をここで潰す!)」
いや俺言っちゃうよ?
『ざん』の二文字に意味を込め過ぎだろ!!
「フン…邪魔すると言うなら仕方ない、今度こそ潰してやる、かかって来い。お前達が取るのは銅メダルだ」
「ざん…(こっちこそ、今度こそこの大剣『竜殺し』でお前を再起不能にしてやるさ、銅メダルはお前らが取れ)」
剣を置いたらもっと速くなるんじゃね?
彼女は加速し、前を走る彼を攻撃する…竜殺しの剣で体を真っ二つにせんとばかりに。ちなみに俺はその30mほど後ろを走っている。ははっ、肺活量には自信があるのだ。既に500mを過ぎたが息を切らしていない彼らに比べれば恥ずかしくなるが。
その2人は激戦を繰り広げる。
…ように見えたが、どうやら実力差があるようだ。
種子島軽は完全に遊ばれている。
「…」
烏丸憂は飽きたのか、一瞬で彼女の後ろに回り込んで掌底で一撃を入れ、倒れさせる。
「ざん⁉︎」
坂道…当然、俺の方へ彼女は落ちてくる。
どうやら重い剣はあれで手持ちの最後だったらしい。
「次は」
彼は余裕、という感じで俺に言う。
「次はお前と戦ってみたいものだな、紅君」
「…悪いが体育祭でまで人を殴る趣味はないな」
「ぐっ…ざん!」
俺達がバチバチと目を合わせている間に、ちゃっかり彼女は素早く抜け出し、先に先へ進んだようだ。
そして、彼は、近づいてくる。
「…なら話し合おうじゃないか」
「なんだよ、足が遅い俺が可哀想だから構ってくれてるのか?だとしたらそれは余計なお世話だぜ…俺が遅れたぶんは、あいつらが必ず取り返してくれる(計算だ)」
「いや別に…俺は、別に君を哀れむようなことは思っていないよ。ただ、羨ましがっているだけさ」
「…羨ましがって?」
彼の脳内では俺が知ることのない会話があった。
───早く走りなさい。
───お父様。しかし気になることがあるのです。
───それは勝利よりも大切なものか。
───いいえ。
───ならば、勝利を優先せよ。
───しかし、後の勝利に必要な物かと思いまして。
「ああ。俺は君が羨ましい。紅君。」
そして俺はリレー中に絡まれて、こう言われた。
「君はどうして完全なる力を持ちながらそんなにも不完全な人間でいられるんだい。教えてくれよ。」
人助け部員として。彼はそう付け足した。
〈7-9〉
完全なる力──
──それは達成のことではない。
努力をし、何かを成し遂げられる人間であること…それこそが、彼の考える、完全なる力である。
2人はその辺に腰を下ろして話し合う。
「ほう…なるほど、それで…達成を得ることが出来たのか。逆に言えば、よくそんな状況で努力できたな、君は」
「…努力なんてしたことないよ俺は。ただなし崩し的に事件に関わり続けて、経験が積まれていっただけだ…自分から成長しようだなんて、思ったこともない」
いきなり重要な話をする。
あの種子島軽のスピードを持ってすれば、あと500mちょっとなんてすぐにゴールしかねないからだ。
「あまり時間はかけられない。なあ、烏丸。お前の要件はなんなんだ?あいつ、そろそろゴールするんじゃないのか?」
「時間はかけない…というか、要件は既に終わっている。 」
「え?」
「お前についてだ。お前が俺の敵に回るべき人間なのか、判別をしたかった…それだけだ。他にはない。」
「俺の…クリムゾンの呪いのことを知りたかったということか?でもなんで…」
「呪いについて、ではない。思想についてだ」
思想。
彼はそう言った。
「だからな俺は知りたかったんだ…一体どういう生い立ちなら、悪の味方だなんて思考異常が生まれるのか、を」
「…」
「判別した結果、お前は俺の敵にはならない…と思った。お前がさっき言ったように、悪の味方だなんていうのは他人の受け売りなんだろう?だったら、俺たちは『同類』ということになる。俺が、今は亡き父親に頼っているように」
お前もまた、他人に理論を任せているのだろう。彼は俺に向かって、本当に核心をつくようなことを言った。
そうだ、俺は…まさに決定論に出てくる加害者のような人間だ。庵内湖奈々を反面教師に、巫槍を手本に、俺は出来ているようなものだ。すべてが他人。
「…俺の思考異常まで調べてくれたのはありがとうだけど、じゃあ、烏丸君はどういう結論を出したんだ?それに、俺が羨ましいってどういうことだ」
「そのまんまの意味だよ」
彼は言った。お前だって気付いてるだろう。
俺は、まさにお前のような冷酷になりたかったのだ。
と。
「冷酷?俺が?」
「褒め言葉じゃあないぞ…良い意味じゃなく、悪い意味で、俺は冷酷になりたかった…いや、冷静、の方がいいか」
「…悪くなりたかったのか?」
「ああ。正確に言うなら、俺は人間になりたかった。他人の受け売りだろうが自分の信念として貫き通し、努力をしても報われない…まあお前は努力が出来ないわけだが、それでも一緒だ。完全を持つ不完全…お前のような姿こそが、俺の昔の目標だったんだよ。人間味のある、弱点のある人間が。」
「…」
そんなことを言われても…というのが、俺の今の感想である。天才には天才の苦悩があるというが、そういうことかな、とか、そんなことぐらいしか考えられなかった。
「俺が自分で作った幻聴が俺に囁くんだ」
───勝て。
───何者にも負けるな。
「…お前はそれが嫌なのか?」
「いや、さほど嫌じゃないね…だけど、高みを目指す生活が、最近はしんどいんだよ…成長する自分が怖い。いくらでも理想を生み出して、いくらでも追いつくのが怖い。」
怖い…とは。
「それってつまり、自分がどうなるかわからないのが怖いってことか?」
「そうだ。お前もそうだろう?」
「いいや」
「…ん?」
俺は、確かに人生が壊れ気味だけど…しかし、最後にどうなるかは怖くない。それは達成使いだからじゃなくて、俺にはある信条があるからだ。心情があるからだ。
「大事なのは過程だ。結果じゃねえ。」
「それは欺瞞だろう…結果を出さずしてどうする」
「結果を出さなきゃ意味が無いって?」
「そりゃそうだろ」
「じゃあ、意味なんていらないんじゃないのかな」
「!」
何かに気づいたようだった。
ああなるほど、こういうのを、人助けと呼ぶのか。もしかして、今までの奴らとも、意外と話せば解決できたのかもな…。
「失敗しようが、最終的に意味が無くなろうが、俺もお前も、永遠に人助けをやめない。そうだろ?」
「…」
「それと同じことだよ。さっさと目を覚まそうぜ」
お前は賢すぎて、過程がつまらなくなってしまったのかもしれないけど、それはかけがえの無い物なんだぜ。
なんて。そんなことを言ってみた。
俺はその、かけがえの無いものを手に入れたことがあまりないから、あまり説得力はないけど。
彼の言うこととは違い、俺は彼の逆の人間だけど。
「…乗れ」
彼は満足したようだった…ん?
「え?乗れ?どういうこと?」
「いい言葉を聞けたんでな…特別サービスだ!」
そういうと烏丸君は俺を連れ去った。
片手で抱えて。
「う、うわぁああああああああああああああ⁉︎」
超スピード。で、済むのだろうか。
さっさと彼の背中やらに乗れば、もっとはっきり見えただろうが、種子島軽と、待機している次の走者が見えた。
「‼︎…」
これでも、実力の最大ではない。なるほど、人を見下す『一色強引』が彼らに存在しているのも、納得だ。
才能と努力で、人を超えた人間。人間らしさを失う代わりに得た力。得てしまった力。彼はそのほんの一部を披露した。
「ざ、ざん⁉︎(な、なんだ⁉︎後ろから急になんかきたと思ったら連れ去られてる⁉︎…って、2人とも⁉︎)」
「まあ、お前とは…ついでに種子島も…お前らとは判別の結果『友達』にはなれそうにない」
何を言うのかと思ったら。
彼はゴール直前で止まって、そしてこう言った。
「だが、これから、いいライバルでいてくれるかな?」
「…ざん(う、うん?)」
「…」
なんと返せばいいのだろう。ライバル、か。
今までの人生で、そんなものはいなかったな。
あれ?
なんだか、口角が上がっているようだった。
俺、嬉しいのか?
「ざん(まあわかった。今度は負けないからな)」
「ああ。」
「…烏丸君」
「うん」
俺はテンパってしまったようだった…なんでこんなことを言ったのだろう。わけがわからない。
「ふ、不束者ですがよろしく…」
「…ふ、あははははは。そうだな、不束者同士、仲良くせずにやってこうぜ、紅君。」
というわけで。
今回は戦わなかったな。
まあ、それはつまり帰り道で事件に巻き込まれることが確定したようなものだけど、それでいいと思う。
体育祭は戦う場じゃなくて、遊ぶ場だからな。
とまあ。
そんな感じで今回は締めさせてもらおうかな。
ああでも、恒例の事後報告をしなければならないから、リレーの結果を見届けてから、だな。
〈1-9〉
あはは。
とんでもない。
何が、帰り道で、だ。
俺はそんな風に都合よく、クリムゾンの呪いがイベントを避けてくれないことを、よく知っていただろう。
それでは、次回!俺以外は文化祭だが、俺はまあ、大事件に巻き込まれて海外へ行くことになる…しかし今回の場合は、巻き込まれてというより、ある程度警戒はしていたのだが。
リレーの結果だ。
第2走者3人の走りは平和的なものだった。
時破田と林道君が同時に走っていたことを考えると、本来あり得ないほど平和的だった。純粋な走りでの勝負、だった。
色々強化した時破田、それに負けないことに特化した林道君、そんな化け物たちに平然と並ぶ…えっと、3組の御影寺君。という人。何気に一番褒められるべきはあの人じゃないのかな。
しかし、第3走者の走りで問題が起きた。
結局、御影寺君が1着、林道君が2着で第2走者の戦いは終わったから、うちの第3走者キャサリン・ヴァルキューレは最下位でスタートを切ることとなった。
彼女の能力が発動した。
1位はしょっぱなから【火炎・流星】を使ったアスクブランクの近藤いつみ…と、3組の…なんとかさん。
同じほどの速さだったが。
キャサリンは【火炎・流星】を臨時で雇った。
しかも強化して。驚くなかれ、250%にして。
なんとかさんと、近藤いつみを追い抜いて、1着でゴールし、リリーにバトンを渡した。
第4走者はこれまた平和だった。
そして、最終的に勝ったのは3組メンバーだった。
というわけで!
最終種目である部活動対抗リレーの終了とともに、俺たちの体育祭は幕を閉じた。
そして、俺は、気づいてしまった。
キャサリンのオーラが凶大になっていることに。
いったい。
何がいけなかったのだろう…近藤いつみの体に眠っているドラゴン、ファザー・エルシスがいけなかったのか、それとも、リリーのカリスマに触れたからなのか…。
キャサリンは完全に、神の資格を手に入れていた。
法則化の準備は完了していた…『風化』とかいう、能力を放棄する能力とやらが、完全に機能していなかったのだ。
そしてそれは彼女自身もさすがに気がついたようだった。体育祭後、彼女は学校から姿を消した。
法則化できるということは、神罰を受けるということであり、最強に返り咲いたということは、アリカ・レリエルの天罰の対象になったということである。
つまりは、庵内湖奈々が味わったような体験が、苦しく辛く、苦く甘くない体験が彼女に降り注ぐことになる。
なんとかしなければ。
そんなところで、今回は締めさせてもらおうと思う。
…そういえば、まず最初に言うべき感想をまだ言っていなかったな。危ない危ない。
体育祭、楽しかったです。来年も、みんなで。




