第三話【その教室には化け物がいる】前編
時破田心裏に負けた。いや、勝った。
「ざん!(林道君!大丈夫だった?)」
「心配したぜ、なかなか帰ってこねえからよ」
「…」
いや、俺は負けた。勝たされたってことは負けだ。
…救ってみせる、か。
この俺が、救われてたまるかよ。
「…全員集めてくれ、話したいことがある」
「ざん(わかった)」
そして集まった、10名のアスクブランク。ざわざわとしているところで、林道栄徹はこう言い放った。
「みんな聞いてくれ。俺は時破田に勝つ」
静寂。
「その為に、みんなにも協力してほしい…いや、みんなだけじゃない。クラスメイト全員だ。もちろん、桜原棘もだ」
「⁉︎」
全員が、驚きの表情を浮かべる。
実は、時破田心裏との会話を彼らは知っているのだ(青土時雨の能力【塞凜波動】で、世界に開いた穴を伝って音を引き寄せていた)。しかし、まさか危険人物である桜原まで呼ぶと言い出すことは想像できなかったようだ。
この後彼が言いそうなことがなんとなくわかっていた。時期は五月で、既にクラス一丸になってすることといえば。
「学園祭の成績で俺達はトップを取る!」
期せずして平和が訪れたようだった。
〈There are monsters in that class!!〉
天角学園は、凶悪犯罪者クラス(技術使い)、連続殺人犯クラス(殺人術者)、覚醒者クラス(異常身体能力・五感能力保持者)、異能力者クラス(魔法使い、超能力者など)、封印能力者クラスからなる生徒陣と、わずか10名ほどの教師で構成されている。部活は二つのみである。2名の封印能力者と1名の能力者、そして2名の無能力者で運営されている生徒会執行部(2名の無能力者に関する詳しい資料は216ページ)と、2名の封印能力者と1名の達成使いで運営されている人助け部である。
「美樹先生!」
「ひゃああああああっ⁉︎」
叫ばれた。俺は後ろから声をかけただけなのに。
「あ、ああ…紅か。どうした?馴れ馴れしい」
「馴れ馴れしいって…いやですね先生、これから部室を決めに空室回るんですけど、先生も来ますよね?」
「え?なんでだ?」
「顧問じゃないですか」
「ああ…いいぜ、勝手にしな、どーせ顧問なんて名ばかりなんだからよ」
「この間はありがとうごさいました」
「…む」
「先生、いまさら他人面しないでくださいよ。一度は流血沙汰を起こした仲じゃないですか」
「…うん、そうだな…あれ?それはちがくね?」
先生は何か資料を読んでいた。…あの先生が、俺に背後を取らせるほど集中して見ていた内容が気になって仕方ない。
俺がそう思っていると、先生は話しだした。
「お前さぁ、生徒会に興味ない?」
まさかの質問だった。
俺と先生はリリー達の元へ向かう。
「いや先生、今まさに人助け部ライフが始まろうとしてるんですよ?」
「いやまあそうなんだけどよ、ちょっと疑問を感じてな?ほら、これ見てみ、ここに、無能力者2名って書いてるだろ」
「あ、ほんとですね」
「生徒指導室のロッカー埋もれてあった資料なんだが、これは今年の情報だ…あれから、生徒会メンバーは変わってない。無能力者2名は未だ存在する」
「…」
「私はこの2人は達成使いだと思う」
「そりゃないですよ」
「え?」
驚かれた…まあ、普通、わざわざ無能力者という書き方がされているのを見たら達成使いだと思うだろう。しかし、
「それはありえないんですよ。達成使いには達成使いのコミュニティがあるんですけど、ここに誰かがいるだなんて聞いたことありません。どころか俺は天角学園の存在すら知らなかったぐらいですよ」
そう考えると、小5の頃から本格的に裏社会に入り浸ってる俺がここを知らなかったという方がおかしな話のように聞こえるが…でも、達成使いは孤独なんだ。一箇所に集まる。
情報は交換されるのだ…まあ俺は思考異常を持ってるから、コミュニティの人間と極力関わらないようにしてたけど。
「あまり、縁がないのか。こういう場所とは」
「そりゃそうですよ。達成使いは確かに変な生い立ちをするもんですけど、みんながみんな思考異常を持ってるわけじゃありません…まずほとんどが入学できないし、しても目立つでしょう。だから、ありえないんです」
「ふぅん」
「で、なんで生徒会を勧めたんですか?」
「いやお前、怪我しすぎだからさ」
先生は言った。
その眼帯の下に目はあるのか。そう、俺は昨日から眼帯をしている…何故か。いつも通りクリムゾンの呪いで事件に巻き込まれて、片目を奪われたからだ。
「無いですけど…でも、ちゃんと保管してますよ。『黒の実験場』っていう怪しい病院があるんですけど、そこに持ってけば完全に直してくれるんです」
「そうじゃねえ…なんか、感覚が麻痺してねえか?お前。理事長に時々直してもらえるからか?桜原棘に肉片の状態から元に戻されたからか?それともその病院のせいか?」
「でも、昔からのことですし、もう慣れましたよ」
「そうじゃねえ。だったらそんな癖は早めに取っておけ。もっと自分を、自分の体を大切にしろ…おもちゃじゃねんだぞ」
先生はそんなキャラだったか…?
俺はそう思ってたが、素直に、「肝に命じます」とだけ返して、そのあとは無言になった。
ガサツだと思っていたけど、先生は以外と神経質なのだろうか。別にいいじゃないか片目くらい…。
どうせ治るんだし。
俺がそんなことを考えていると、リリーの姿が見えた。
「遅い!もう決めちゃったよ!」
決めちゃったうなよ。
〈5-3〉
学校外のコミュニティについて。
機会を逃してしまったからやめといたけど、以前からちょろっと名前を出していた彼ら彼女らのフルネームを今のうちに一気に出してしまおう!
おっさん警察官、名前は鈴木礼二。異能を埋め込んだ銃を使う。時々俺とチームを組んで異能事件の解決に当たることもある。よく考えたら、おっさんが時破田の件(封印ラジオ参照)に俺を巻き込んでくれたお陰で、俺は無事高校に通えていたりする。銀行強盗をした時に庇ってくれたのもおっさんだ。
息子とまではいかなくても、おっさんは俺を、まるで弟のように扱ってくれた。
天才少年、滝村望。彼ともう1人、斬撃少女、咲宮歌織。この2人とは、かつて誘拐され、俺とおっさんが助け出した時に知り合った。少年君…望君はなんか、パソコンに強い。
歌織ちゃんは斬撃を使う超能力者だ。彼女に切れないものはない。というわけだ。
おっさんには色々お世話になったし、
望君には色々教えてもらったし、
歌織ちゃんには色々切ってもらった。
まあ、この3人がいなければ、とっくの大昔に俺は孤独から自殺していただろう…今、時破田を始めとした同年代の友達がいるのも、全部3人のおかげだ。
ちなみに中学時代については以前も言った通り悲惨な状況だった。俺はできるだけ周りに迷惑をかけないように気をつけていたが、気をつけてなんとかなるならなんとかしてた。
達成『マゼンタ・エモーション』、負荷能力『クリムゾン』、そして思考異常『悪の味方』。俺を構成しているほとんどのものが、俺を全力で孤独にしていた。
しかしまあ、今こうして恵まれているんだ。
過去のことは忘れよう。
「じゃあ、今後の目標やらをちゃんと整理するわよ」
リリーが部長のようだ。
彼女は、これまでのあらすじを語り始めた。
「天角学園ならびにその海外版を普通の学校にすることが、私たち人助け部の活動目標よ!具体的には、この部室を拠点にして、学園の生徒の問題や呪いや争いを解決するの!」
「ほうほう」
当然、リリーも時破田も今は封印されてるから、問題や呪いや争いを解決するのは俺ってことかな?
「そのことについては安心していいよクレナイ、どうやらタイプによっては封印されてても存在の内部でだけなら力を発揮できるみたいだから」
「タイプ?」
なんだそりゃ?
「多分クレナイはピンとこないだけで知ってると思うんだけど、魔法にしろ超能力にしろ、封印能力は二つの種類にわけられるのよ。魔法なら『絶対』系と『破壊』系、超能力なら『具現』系と『流派』系。」
「ほう」
「ここでいう『絶対』、そして『具現』は、存在の状態を決める作用を持つの。で、『破壊』と『流派』は存在の状態を変える作用を持つ。」
「…」
それ、あんま変わんなくね?
「いや、全然違うよ。変わった後が基本とされるのと、変えられる前が基本とされるのとでは」
「うーん…?うん」
「まあわかんないならいいや、とりあえず私たちもそれなりには戦えるってことよ」
「うん」
それはよかった。
「部室はここ!旧吹奏楽部室。広いでしょ?さらにその前は茶道部が使ってたらしいわ。って言っても、それはここが阻害地区にされる前の話だけどね」
確かに広かった。
茶道部が一番選びそうにないぐらいだ。
「しかしいいところを見つけたな。あ、でも、なんでここにしたんだ?理由は?」
「都賀先生が勧めたからよ」
「…」
生徒指導室にいないと思ったら、先についてて、めっちゃ張り切ってたんかい!
「ちなみにお帰りになられたわ」
なんでだよ!これからだろ!
「せっかく広いんだし、部員以外も入れる、図書室みたいなスペースにするのもありだね」
時破田は言う。
さすが時破田。さすが時破田だぜ。
「それについて私からも提案があるの」
そしてすかさずリリーは台無しにするよな。
知ってた。
「部員をあと2人増やしまそ!」
噛むな。
「2人って…」
「男女1人ずつがいいね」
「…」
まあ、男女比については気になっていた。
夏休みが始まるまでには、男子もう1人は欲しい。
「そうじゃないと、体育祭のリレーが!」
「ん?」
もしかして、体育祭のリレーに出たいのか?ああでもそういえば、リリーは青春したいガールだったな。青春したガール。
「リレーは4人編成なのよ!」
「あ、ああはいはいそういう…」
「4人編成で戦闘評価Sを取るの!」
「リレーをソシャゲみたいに言うな!」
4人編成って言葉でソシャゲを思い出すな!
「最近のソシャゲはさぁ、ゲームシステムがほとんど同じよね。ガチャ引いて育成してチームアップして、ストーリーをクリアするんだけど、最新の章までクリアしちゃったらガチャ引ける宝石が手に入りにくくなって、んで課金しちゃって、イベントクエストもそのうち復刻だらけになって」
「そ、それはゲームシステムじゃない!」
「だけど時間が経つにつれてやることも増えていって、それでメンテナンスが長引いて、プレイヤーはこう言うの、『詫び石だ!やった!』」
「まあそれはともかくとして」
時破田が仕切る。さすが時破田だぜ。
「これからも頑張っていこうね、2人とも。」
そして締めの一言。完璧だぜ。
「いーや3人じゃ足りないわ!スカウトよ!」
そしてお前が台無しにするんだよな、知ってたよ。
というわけで、部員スカウトが始まった。
〈5-3〉
リリー・シエルは、大昔に異能犯罪の大事件を起こした両親の元に生まれた。まあその辺の話はまた近いうちに過去編でちゃんとするとして、とにかくリリーには親から受け継いだカリスマがあった。
微妙に、妙に、絶妙にムカつくリリーだが、聞いた話によると人間としてはよくできたやつらしい。
時破田はリリーに小さい頃出会ったらしいが、その頃からすごい奴だと感じていたらしい…。
なんでも、取る行動が全て正しいとかなんとか。
というわけで俺は3組を担当することとなった。
1年3組、覚醒者クラス。
覚醒者とは、体の機能が異常なまでに発達した奴らのことだ。例えばパンチ一発でビルを破壊するとか、体温で鉄を溶かすとか、片足ジャンプで大気圏まで飛ぶとか。人間にして人外。中には、異能を上回るほどの力を持つ奴もいる…が。
「失礼しまーす」
基本的に発達しやすいのは脳だ。ほとんどの奴は頭が良くて、勉強の方へ行く。戦闘なんてあまりしない。
戦闘評価とは無縁のやつらだ。
彼らは机を寄せ、グループに分かれて何か研究しているようだった。きっとあれには、世界を支える何かが書かれている。
「あれ?どうしたんだ…えっと紅君」
「いやちょっと、部活の勧誘だよ」
「ほう」
俺の目の前にいる男、烏丸憂はクラス委員長だ。委員の会議で知り合った。この男はハイブリッドタイプ。
勉強もできて戦闘もできる。
「みんな聞いてくれ!部活の勧誘だそうだ!」
そして人望も十分。俺とは違い、正真正銘クラスをまとめる、クラス委員長。だが欠点がある。
プライドがえげつない。
「えーみなさんこんにちは!1組の薙紫紅といいます!今回は私達が作った『人助け部』の部員募集に来ました!」
プライドが高い…では済まない。
いや、逆だ。済んでしまうほど高いのだ。
「人助け部ではこの学校をよりよくするために、生徒の悩みを解決する活動をしたいと思います!」
3組・覚醒者クラス。
彼らは見下す…というより、見降ろす。
自分が相手より上にいることを前提としてしまう思考異常、『一色強引』を持っている。
1組の技術使いのプライドの高さとはまた種類が違う。彼らはそうだな、先進国が後進国を見るような感じだが、ここの奴らのは選民思想のようなおっかなさがある。
「──誰か興味のある方はぜひ!」
「おいおい、そりゃないぜ紅君、うちは暇じゃない」
クスクスと笑い声が聞こえる。
しかしこれは俺を馬鹿にしているわけじゃない。なんというか、無知な若造を相手しているような感じだ。
「帰った帰った…紅君、うちは忙しいんだ」
「えっ、ちょ、」
そのまま俺は教室から追い出されてしまった。
「ごめんな紅君、うちは援助を貰ってるだけに休むわけにはいかないんだ。すまんな」
烏丸君はそう言って、扉を閉めた。
〈6-2〉
「おや、薙紫君。その眼帯はどうしたのかな?」
理事長だった。
厳しい割に妙に甘い理事長だった。
眼帯に気づいたその瞬間、理事長は俺が目に傷を負ったという事実を『封印』する…してくださる。なるほど、こうして見ると(目だけに)違いは歴然だ。
同じ目を治す行為でも、回復魔法で回復するのと、封印魔法で封印するのとでは…リリーの言っていたことが理解できた。
「その様子だと、門前払いを食らったね」
「ええまあ…そうなんです」
理事長には全てお見通しらしい。
「まあ、男女比については一旦目を瞑るとして…薙紫君。君は1人も引き抜けなかったようだけど、どうしてできなかったと思う?」
「…仲間意識が強いからですか?」
「まあ、仲間意識もある。実際彼らの研究は力を合わせれば合わせるほどクオリティが上がる」
「援助?がなんたら」
「政府からの資金援助だね。わかりやすい報酬だ。だけど、彼らはそれをもらうからって自惚れているわけじゃない」
援助とはそういうことだったのか。
なるほど、自信もつくわけだ。もちろんああいう奴らは生まれた時から自信満々なんだろうけども。
「…一色強引という思考異常があるから?」
「違うね。君がちゃんと目を見なかったからだ」
理事長は、無表情でそう言った。
「…目を?」
「仲間意識が強いってことは、それについてけない人もいるかもしれないね」
「!」
なるほど確かに、それなら俺は個々を見ていなかったことになる…グループで固まっていたが、固まっていない奴を探そうとしていなかった。
「未来の仲間を探せば、自ずと目が合うと思うよ、私は。まあ経験則だから、あんまり期待されても困るがね」
「…行ってきます」
「はい。さようなら。」
その時、理事長が厄介払いをしていたことを、俺はその後ずっと気づかない。
俺は3組へ向かった。
〈5-3〉
十人十色を全て下に見るから一色強引である。
彼らに悪気はない。
「失礼しまーす!」
クラスに飛び入り…俺は見渡す。孤立している奴を見つけ出す。見つけ出した。グループで研究をしている時間なのに、ただ1人携帯をいじっている金髪の女。
しかしどことなく高貴で、どことなく自信に溢れているような佇まい。なんだか、期待できそうだ。
「チッ」
どこからかそんな声が聞こえた。
「忙しいって言ってるだろ…君しつこいな」
「お前らには用は無えぜ…忙しいってんなら尚更だ」
俺はずかずかとその女子生徒の元へ歩みを進める。
そして仁王立ちだ。
「でもお前は暇そうじゃねえかよ!まるで不老不死みたいにのんびり生きやがって!」
「…妾に何か用か」
「助けてくれ。このままじゃあ、この学園は滅ぶ。」
「…ほう」
ざわめきが起こる。
…というか、彼らはむしろヒントをくれていたのかもしれない。俺はこの時点で気づくべきだったんだ。
『下に見る奴ら』が最も嫌うのは、
『下に見れない奴』じゃないのか、と。
よく見れば、金髪に派手なかんざしがしてある。
少女は、すっくと立ち上がって、
「面白そうじゃのう、廊下で続きを話そう。」
と言った。
これが、キャサリン・ヴァルキューレという女との出会いだった。
「待て」
2人で教室を出ようとしたその時、クラス委員長・烏丸憂に呼び止められた。そして、
彼は続けて、こんなことを言った。
「そいつを持っていくのは構わない…だが、紅君よ、うちのクラスの反感を買っておいてただで済むと思ってるのか?」
「はぁ、そんなものに金をかけた覚えはないね」
そいつを持っていくのは構わない、ねえ。
そこまでこの女子は嫌われていたのか。
「リレーに出るんだろ?」
「ああ」
「じゃあそこで勝負をしよう…どうだ?お前だって、うちをぶちのめせるのならぶちのめしたいだろ」
俺はにやりと笑う。
「いいね。そうしよう。烏丸君」
「烏丸だ」
まじで?
「烏丸君。白黒つけようぜ」
「ああ。部活対抗リレーで、君達に恥をかかせてやる」
というわけで。
こうして、三つ巴の戦いは完成した。
人助け部、3組、そして自己完結。
それらは三つ巴というより三竦みかもしれなかった。
〈6-9〉
理事長室に理事長と、そして9人の教師。
「どういうことですか理事長、説明してください」
「…」
「あー、めんど」
「静かに。怒られますよ」
「それについては私も気になるところですね」
「達成使い監視係は何をしてたんだ?」
「私は何もしてませんでした」
「まさかあの女が動くとは…」
「理事長、あの人はあなたにしか止められません!」
「暴走したら危険ですよ、どうするおつもりですか」
合わせて10人。10人の猛者。
このたった10人で、天角学園は維持されている。
昔はさらにその半分だったが。
今回の職員会議の議題は、
『キャサリン・ヴァルキューレについて』。
「みなさん…毎年言ってますがご安心を。彼女は確かに私と同じ絶級能力者で、しかも地上最強ですが、この世の誰より無害です。彼女は『観測する』以外の目的を持たない人間です。」
「今回、それ以外の目的を彼女が持ったから!こうして緊急で集まったのでしょう!何かの拍子で彼女が暴れ出したら、どう責任を取るおつもりですか!」
「…」
理事長は思う。彼女が暴れるわけがない、と。
いや、暴れられない、と。
「…どちらにしろ、彼女の行動を邪魔できるのなんて、天使くらいでしょう。私にはどうしようもありません」
付け加えて言う。
「それに、彼女が『能力堆積』を放棄した今、3組にいるよりもむしろ、薙紫君の隣にいた方が安全性は高くなる。」
「…」
会議は終わった。
そして、彼女の青春は始まった。
〈6-1〉
部室にて。
「よう時破田!実はよ!こっちも部活を作ったんだぜ!名前はまだ無えけど!自己完結のメンバーがそのまま部活のメンバーだ!俺を含めた選りすぐりのランナー達でてめえらを」
「やぁ林道君、ごぶさただね」
「おう久しぶりだぜ!」
…。
元気がいい。
彼は林道栄徹…2組・連続殺人犯クラスに所属している殺人鬼にして、これまたクラス委員長。自分だけで答えを出して周りの言うことを聞かない思考異常・自己完結を持っている。
先日、時破田と揉めたらしいが、あの感じだと完全に仲直りしたらしい。よかったよかった。
「って、リレー出るの?」
「あ?なんだお前馴れ馴れしいな」
「本日二度目の馴れ馴れしさだったのか…」
「あ、ああ!えっと…会議の」
「薙紫紅だよ」
「そうだった!そうそう、渚!」
「薙紫だよ…」
「紅。そうだ。」
思い出してくれたようでよかった。
「俺らはリレーの順位でてめーらを潰す!」
「つ、潰⁉︎」
潰されるのかよ!どうやってだよ!
「ということでてめーら、毎日のトレーニングと健康管理を欠かすなよ。やるなら全力で戦おう。不戦勝はいやだかん…」
「あ、ああ、そうだn」
「⁉︎」
「⁉︎」
いったい何が起こったのか──
──林道君が、俺の背後を見て、驚いた。驚いて、ズザザッと後ろへ下がった。距離を取ったようにも見えた。
「あ、ああ、ドリンクバーか?凄いだろ?理事長に言ったら付けてくれたんだ。あの人厳しいけど甘いよな」
「そ、そうじゃねえ!」
ドリンクバーじゃねえのか。ということは、関西人みたいな感じで必要以上にリアクションを取ったのではないのか。
「じゃあ、俺、いつのまにか神からチート能力を貰っていたのか…そりゃあ、驚いても仕方ないよな」
「違え(怒)!」
怒られてしまった。じゃあなんなんだよ。
「そ、そいつは一体誰だ」
「え?」
彼は指差す…キャサリンの方を。
「え?妾?妾はただの無害な冒険者じゃ」
「嘘つけ!なんだ、その…なんだ?オーラ?は!てめえ只者じゃねえな…俺か、俺以上か!それだけの実力を持っている生徒なんて、ここには封印クラスか桜原以外にいないはずだろ!」
彼は一体何を言っているのか。
オーラ。それなら俺にもわかる。
それこそ、キャサリンのオーラは俺か、俺以上ぐらいで、そんなに驚くほどのものでもない。街中で会ったら、覚醒者だとわからないレベルの低さだ。
「林道君、それはどういう…」
「紅、てめえは感じねえのか?この莫大なオーラを」
「え、いや…失礼だけど、オーラはそんなに…」
「ばかやろー!」
「ぎゃー!」
ぶ、ぶたれた!そんな!これは理不尽な暴力だ!
先生にチクってやる!
「紅、ふざけてるの?」
「えっ」
「そうだよクレナイ、私たちも実は疑問だったんだよ、どうしてここまでの猛者が学校にいるのかって」
「えっ」
俺だけがオーラを小さく感じているらしい。
どういうことだ?というか、そんなに凄いか?
わけがわからない──
──キャサリン・ヴァルキューレ。
この認識の差は、まさか彼女の力によるものなのか?え、いやでも、見る人によっては弱く見えたり強く見えたりする…それは、覚醒で得られるような物なのか?烏丸君は普通に強く見えたのに…いや、能力者だったとしても、一体どんな能力で?
「はっはっは」
その場の全員の思考が彼女の笑いによって止まった。会ってすぐでなんだが、そろそろネタバラシの時間のようだったから。
「そう怖がるでない、栄徹君。妾はただ、周りより上になっているだけじゃ。」
それは、地上最強の能力者。
金髪かんざしの彼女の能力は、シンプルだった。
「【臨時雇い】。【臨時雇い】と書いて【サバイヴリンク】と読む。その効果は、
問答無用で相手を超えること。
妾の能力はそれだけじゃ。
それだけ、それに尽きるスキルじゃ。」
ーと。
彼女はさらっと、えげつないことを言った…。
尽きるスキル。スキル尽きる。
そりゃあ、3組の生徒が嫌うわけだ。見下ろせない人間はそりゃ不快だろう…彼らからしてみれば、優しくしてあげたのに冷たくされたようなものだろう。
「…それって」
「うむ。最強じゃ、妾は。」
「それは、地上最強の能力者という意味か?」
俺は慌てて聞く…地上最強になることの危うさを、よく昔誰かさんから聞かされていたから。
「もちろん条件付きじゃ。そうでなければ、天使に殺されてしまうからのう。能力を溜め込む能力【能力堆積】で妾に残る能力は、能力を放棄する能力【能力風化】で消しているから、今の妾はその場その場で相手を超えるだけで、勝負が終われば、超えるために増やした実力は消える…だから、ギリギリ、アリカちゃんには見逃してもらっているのじゃ。というわけだから、3人とも、慣れるまでは我慢して欲しいのじゃ」
「…お、おう…じゃあ俺はこれで…」
林道君は帰っていった。
…最強を許さないルール、アリカ・レリエル。
最弱とはいえ天使を、ちゃん付けした。
余裕がにじみ出ている。
なるほど俺たちはとんでもない爆弾を抱えてしまったらしい。
まあ、理事長も烏丸君も、能力が無く、アスリートにも負けてしまうぐらいのフィジカルしか持たない俺と一緒にいさせた方が良いと判断したんだろうが、
あはは。
リレーじゃ活躍してくれそうだけど。
どうしろってんだよ、爆発寸前じゃないか。この爆弾は。
「では、これから宜しく、のう」
本人も気づいていないようだけど。いや、周りも気づいていないようだけど。理事長も絶級能力者のくせに、なんで気づかなかったのか…こいつは少しまずい事態だ。
「ああ。よろしく。」
俺がオーラを小さく感じ取れてよかった。
少しずつ、大きくなっている…オーラが。
なんとかしなくては。
こいつの能力は、『臨時雇い』の付属能力は、
捨てる以上のスピードで増え続けている。
後編に続く。




