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Angel Break!【1年生編/最終世代の学園】  作者: 山野佐月
【1年生編/最終世代の学園】
1/66

プロローグ【封印ラジオ】

 俺は正義ではないつもりだ。しかし、

 見る者によっては正義なのだろう。

 俺はヒーローではないつもりだ。でも、

 助けられた者からしたらヒーローなのだろう。

 でもやはり、何度考えても、

 俺は自分が正義のヒーローだとは思わない。

 否定せざるを得ない。

 俺はあくまで、悪の味方。

 俺は悪魔で、正義のヒーローではない。


これは、

絶対零度の解凍と、クリムゾンの解答の物語。

 開幕。死なない程度にお楽しみ下さい。


 《プロローグ》

 でも。

 悪魔というのはあくまで俺のする所業の話で、俺が悪魔族というわけではない。悪魔族なんてものが存在するかは知らないけど。…いや、多分いるのだろう。俺はそうじゃない。

 というか、悪魔とか悪の味方とか、あんまりさっきのくだりは気にしないでほしい。とくに深い意味は…あるが、別にそれは俺の今日の一日を見ればわかることだから、別に今は忘れていただいて構わない。

 では俺の今日を見ていただく前に自己紹介をさせてくれ。知らない奴の日常ほど見ててつまらないものはないからな。わかるぜ。俺も一般人にドッキリを仕掛ける番組は大嫌いだ。有象無象からパリピだけを選んで映すって行為が、逆に何かに媚びへつらっているようで嫌いだ。

 俺の名は〔薙紫 紅〕。読めた?

 なぎし くれない だ。主人公にして語り部。

 え?メタい?いやいや、プロローグだからこんなもんだろ。っていうかメタいのは俺もあんまり好きじゃないし、これからはあんまりしないから安心してくれ。

 自己紹介に戻ろう。戻るまでもなく自分語りをしてるような気もするが、とりあえずテンプレ自己紹介をしよう。

 薙紫紅、今年から高校生。(今は春休み)。

 好きな食べ物は甘い物。

 嫌いな食べ物は辛い物。

 趣味は…する暇がない。

 好きな人達は…どこかへ行ってしまった。

 別に同情してほしくて言ったんじゃない。これはあくまで自己紹介なんだから。でもこれが俺だ。

 俺は寂しい。

 俺は強がったりしない。

 俺はある『魔法』を抱えている。

『クリムゾン』。これは負荷能力、もしくは不可能力、または付加能力、そして孵化能力と言って、魔法の才能が無くても常時発動している、呪いのような物だ。

 効果は一つ。《事件に巻き込まれる》。五歳の時から一日2回ずつ、俺は最低でも殺人事件、最高で神のような能力者の野望に巻き込まれて来た。

 まあその辺も本編で丁寧に紹介するから、ちょっとだけ覚えてくれればそれでいい。

 今日の一日、それには二つの事件が伴う。

 では自己紹介も終わったところで、

 俺の、俺たちの物語は始まる。

 …いや、これは、始まる少し前の話か。


【封印ラジオ】

 〈1-1〉

 ラジオ。ラジオをご存知だろうか。

 そう。ラジオである。

 まあ最近はラジオは廃れたらしいが、

 それでも全く知らないということはないだろう。

 そのラジオ。レィディオで、最近、不可解な現象が起きているらしい。なんでも、ある放送局で関係者の誰も知らない番組が流れているとか。そしてそれがラジオの構造的にあり得ないことから、ついに、解決してくれと警察から電話があった。

「こりゃあ異能事件だ」

 熟年の警官、うちのすぐ近くの駐在所に寄生している俺の知り合いのおっさんは俺の目を見てそう言った。

「まあ、そうかもしれないですね」

「大事件だぜ…腕が成る」

「成っちゃったかー」

 このおっさん、名前は鈴木。前に一悶着あって、最終的に俺に協力してくれる唯一の警察になった。そう、警察から電話があったのは俺じゃなくてこの人。

 この人は、俺と対等に話せる数少ない人間だから。

 クリムゾンではなく、もう一つの力のせいで人々から怖がられる俺に対して、普通に話せる数少ない人間。

 俺は少なくとも人生のうちで10000人以上人に会ってきたが、そういう特殊な人間はまだ6人しか知らない。

「…でも、なんで異能だと?」

「さあ…でも、上層部が手に負えないって…」

「へえ」

「人間ってのは理解できない物を不可思議な物と思いたがるからなぁ。実際は天才的なエンジニアが犯人かもしれないが、上の人達は怖がり屋だから。とりあえずお前に押し付けるんだろ」

「…」

「まあ、でもいいんじゃないか。あの『庵内』とか『巫』とかを相手するよりよっぽど」

「まあ、それはそうですね…」

 プロローグだからこんな説明の仕方が許されるが、庵内と巫のことは気にしなくていい。さっき言ってた神のような能力者ってだけだ。以前に俺が倒した奴ら。地獄の底に封印してやった。

 俺達はさっそく、駐在所を後にして調査に乗り出した。外に出ると、桜が綺麗だった。なるほど、花見で酔っ払って踊りまくる人みたいに、能力者が浮かれて放送をジャックしたのかなとも思った。

「じゃあ、どこから調査すっかなー。紅、任せた!」

「任せられるのは良いですけどね。でも、俺もどこをどう調査すりゃいいのかなんてわからないですよ」

 わからなくても、どうせ巻き込まれるから。

 それに、事件だらけの毎日、

 探偵スキルなんて学ぶ暇なかった。

「んじゃさ、とりあえずラジオ局に行こうぜ」

「はーい」

 てくてくてく。

 可愛い擬音だな。次期高校生とおっさんの足音なのに。何がてくてくてくだよ。

 ラジオ局についた。


 〈1-2〉

 問題の現場。よくある、声優が2人で対話するスペース。毎週水曜日にここで行われるはずの番組が、何故か謎の女の声に変わって放送されてしまう。出番を奪われた2人の声優はそれなりに大御所らしく、しかも夢の共演だということで、

「早急に解決していただきたいです」

 …とのことだ。

「わかりましたお任せ下さい」

「料金はいくら払えばよろしいですか?」

「いいですよそんなの」

「⁉︎」

「中学生ボランティアと公務員ですし」

「い、いえでも…警察の本部もお手上げだということで来ていただいている以上、払わないわけには…」

「いいんですよ。そんなのはどうでも…それに、俺達はラジオの為に来たわけではありません」

「え?ではなんの為に?」

「…決まっているでしょう。犯人を更生させる為に来たんです。俺は悪の味方ですから。」

 っていうか、お手上げだったのか。本部。

 とにかく俺達は調査を開始した。そういえば、おっさんと組んで動くのは久しぶりだ。

「魔法、超能力、共に痕跡無し…おい紅、そっちは?」

 おっさんの銃には異能を感知する機能もある。俺はただ単に気配を感じとるだけ。俺達は共に無能力者だ。

「ダメでーす」

 困ったな、とおっさんは言う。まあ確かに、既に午後3時、俺は今日中にもう一つ大事件に巻き込まれるから、この後のスケジュールはキチキチになること不可避なのである。仕方ない。俺のせいだし、責任を取って晩酌には付き合ってやろう。俺はジュースしか飲めないけども。

「あーあ久しぶりに忙しくなるなー、まあ、いつも忙しいんだけど。でもなんていうか今回、めんどくさい匂いがするんだよな。あー困った困った」

「いやいやそうじゃなくて」

「?」

「紅、おめーわかってねえなあ」

「どういうことですか?」

「…まあ簡単に言うとだ、放送のジャックが完璧すぎて気持ち悪いんだよ」

「…?」

「手際がさぁ、完璧すぎる」

「計画をよく練っていたんでしょうね」

「違うな、そんな次元じゃない」

「え?」

「どんな人間だろうとどんな異能を持とうと、犯罪をしようとすれば誰しも緊張して計画通りにいかなくなるのが普通だ。でもこいつは、普通でも、普通じゃなくもない」

「…」

「完全犯罪とか、慣れているっていう次元じゃなくて、いつもやっている、って感じだこれは」

「いやでも、いつもやっているって、他のラジオ局からはジャックされた報告なんて来てないですよ」

「うん。だから、困ったな、なんだよ」

「?」

「それが出来る能力者なんて、限られてくるだろう」

「…『封印能力者』ですか?」

「ああ」

 封印されるべき能力者。

 そういうやつらが存在する。俺はそれ以上にも倒されないからあまり最近は気にしてはいなかったが、一般人や能力者から見れば脅威の存在。封印能力者は、世界を滅ぼせる。その域に達した者なら、公の場で犯罪を犯してもミスはでないだろう。それに、力のわりにやることが小さいのは、封印能力者の特徴の一つでもある。

「確実だとは思うが結局推測の域を超えない」

「うん」

「もっと証拠が必要だな…」

「じゃあ、聴きますか、その番組」

「そうだな…面白いことを祈ろう」


 〈1-3〉

 レディース!お待たせ!

「…」

 今日もこの時間がやってきた!

「ジェントルメンも混ぜてあげて」

 時破田心裏のぉ哲学レィディオおおおおお!

「名バレしてる⁉︎」

 それではさっそくお便りを読んでいこう!30分しかないから早口で!まずは当陸県玉井市にお住いの 初期微動継続時間よ止まれザ・ワールド さんの投稿だ!

「は?」

 最近うちの息子がサッカーしたいだの野球したいだのうるさい。うちの息子にはもっと高尚な趣味を持ってほしい。小さい頃から音楽会や美術館に連れて行っているのに、どうしてそんなつまらない人間に育ってしまったのか。時破田さん、教えてください。…うーん。これまた面白いリスナーさんが現れたな〜!よーし、リスナーのお父さんの面白さに免じて、正解を教えてあげよう!

「…」

 大切なのはジャンルじゃないよ!確かに、音楽や美術がスポーツの上に立つというのは理解できなくもない。芸術は才能でできていて、運動は筋肉でできているもんね。芸術と運動を比べれば芸術が上と考えるのは自然な考えだ。でもね、運動にも美しさが存在するように、芸術にも優劣が存在するんだよ?大切なのはジャンルじゃない。優劣をつけられた時に、上に立てることなんだ。…いや、下に立たないこと、かな。だから、息子さんには運動する方が合ってるんだよきっと。お父さんはそれを嘆くんじゃなくて、応援してあげなくちゃ。活躍できるジャンルを見つけたんだなって。最終的にどんなジャンルにいようと、価値あるのは誰かの下に立たない人間だけなんだから。

「…へえ、結構面白いこといいますね」

「人生相談ダイヤルって感じか…?哲学レィディオねえ。この感じだと、一定数のリスナーが存在するようだが」

「いや、そうとは限りませんよ。心を読める能力者とか、テレポーターとかなら、全人類からお便りをもらうことができます」

 では次に行こう!宮宮県春市にお住いの +光を纏い光を喰らう闇の戦士+さんから!

「痛い」

 僕は今中学二年生なのですが、

「中2だろうとは思ってた」

 先月から気になっている女の子がいます。しかし、その子には彼氏がいます。奪ってしまいたいのですが、僕にはそれをなせるだけの魅力と度胸がありません。どうしたらいいでしょうか。…うーん。また面白いリスナーさんだ!よっし、じゃあ、教えてあげよう。

「結構重い話題だな」

 そいつ、そんなにいい女じゃないよ。今のうちに忘れよう。だいたい、中学で彼氏もしくは彼女いる奴なんて糞だよ、だって義務教育の間さえ勉強に集中できない奴らだよ?その彼氏君と奪いたい彼女ちゃんの顔みてみ?最高峰の等大に入れる顔か?そういう奴らはまともな学歴なんてゲットできないし、学歴社会では埋もれていくばかりなんだよ。だから、例え彼女ちゃんから言いよってくるようなことがあったとしても、君は君の将来の為にお付き合いをするべきではない。君が奪うべきなのは彼女じゃなくて学歴、そして将来の夢なんだよ。

「個人差がありますって最後につけたい感じだけど、なかなかいいところをついてますね」

「ああ。…さて、続きが気になるところだが、この辺で切っとこう。どうだ?紅、こいつは」

「はい。こいつは思考異常者、そして封印能力者ですね。めずらしい。これは紛うことなき能力犯罪です」


 〈1-4〉

 封印能力者には昔にたくさん会ってきたが『クリムゾン』という俺の異名が業界に知れ渡るにつれエンカウント率は下がって行き、ここ数年は会っていなかった。

 封印能力者は世界を滅ぼせるが、実は数が多く、運良く社会に適合して就職してる奴までいるらしい。それもそのはずというかなんというか、封印能力者は普通の能力者に比べて、精神の異常が軽度なのだ。それが何故かはわからない。まあ、人の心のうちなんてわからないのが普通だが。個人的には、いつでも欲求を満たせるという認識による心の余裕があるからだと思う。

 とにかく、封印能力者は基本大人しい。

 だから、普通の、世界を滅ぼせない能力者の仕業なのかとも思っていたけど、でも何か、放送を聞いていて思い出す人物たちがいた。そいつらの名は…まあどうでもいいとして。哲学レィディオなんてやりたがるのは封印能力者だ。世界を滅ぼせるから、世界を理解した気になる。それが悪いことだとは思わないけど、ラジオ局と声優に迷惑をかけるのは悪だと思う。

 だから、悪の味方を冠する俺は、そういう奴を救いたくなる。そう、俺は軽度ではなく、重度の思考異常者だ。

 おおかた支配欲が湧いたかそれとも孤独になったか、なんにしろ、この放送をした今回の犯人、時破田心裏とやらは放って置けない。俺の心はこの悪を救うことでいっぱいになり、おっさんはそれに気づいたのか、急いで捜査しようと俺にラジオ局を出るよう促してくれた。ありがとう。俺にやる気が起きる時、事件に巻き込む呪いである負荷能力クリムゾンとは別の力が働いて、周りに恐怖を与えてしまうから。おっさんは毎回それを防いでくれる。全く、この人はいい人だ。感謝感激雨霰。

「あれ?」

 そんなことを言っていたら、雨が降ってきた。俺とおっさんは住宅地の通路を走っていたから、雨宿りする場所が無いな、と嘆いた。まあ、元より雨宿りをしている場合では無いが。

「あられが降れよ、どうせ降るなら」

「紅」

 と、そこには。

「…」

 恐らく俺と同年齢ぐらいの女がいた。

 髪の毛は後ろで団子にまとめられており、メガネをかけていて、漫画の単行本をもっている女。

 まさか。

 いやまさかそんな、ありえない。

 でも、それは明らかにおかしい現象だった。何故か、そいつの周りだけ雨が無いのだ。いや、無いんじゃなくて…

「消して…いや、どこかへ飛ばしているのか」

「…」

「おい紅、まさか…」

 テレポーター。お便りを集めるだけじゃない。もし、時破田心裏とやらがレベルの高いテレポーターなら、ラジオもジャックできるし、ジャックした痕跡すらどこかへ飛ばせる。そして何より…

「…後はなんとかするから逃げてください」

「紅、やっぱりあいつが?」

「ええ、この感じ、間違いないです。凶大な超能力、これは封印能力者だ」

「…後は任せたぞ」

「はい」

 おっさんをここに居させるわけにはいかない。

 能力付きの拳銃ぐらいじゃ絶対に勝てない。

「クリムゾンくん」

「!」

 シャベッタアアアアアアアアアアアアア!

「じゃなくて、薙紫紅、薙紫くん」

「紅でいいよ、そっちは?」

「時破田心裏」

「…」

「あ、しまった、時破田心裏じゃないよ」

 こいつはアホか!

 アホかボケえ!

 何?このギャグ漫画みたいなノリ!…いや、ギャグ漫画じゃない、バトル漫画のちょっとしたギャグパートのノリ!これ、うっかりしてる天然ちゃんだけど実は強者であることを表す表現の一環で自分の名前バラしちゃう奴!

「時破田鋭利」

「そんなに変わってねえ」

「しまった。これは弟の名前だった」

「まず苗字から変えようよ」

「あたしは時破田心裏」

「諦めるな」

 何?何こいつ?さっきの緊迫してたのは何?いや俺もシャベッタアアアアアアアアとか思ってたけど。

「まあ、ご存知の通りあたしが放送をジャックした犯人だよ。知ってる声でしょ?」

「…こちらの捜査は筒抜けだったようだな」

 やっべ。シリアスに戻そうとしてるのかわいっ。おもろっ。おっもろっ!

「…」

 彼女は漫画のページをめくる。

「まあ、捜査はずっと見てたし聞いてた…なにせ、あなたの推測通りあたしは封印能力者でテレポーターだから」

「人と喋る時は目を見て喋れ」

「ああ、ごめん、それは無理なんだ」

「は?」

「あたしはさっき言った時破田鋭利っていう弟に存在を消滅させられ続けてるんだ」

「…え?」

「だから、『生きている』とか『話している』とかいう事実を、逐一漫画からテレポートしなくてはならないんだよ」

 …いきなり新情報を大量に持ってこないでほしい。どれが今一番重要な情報なのかわからなくなるじゃないか。

 ・時破田心裏はやはり封印能力者のテレポーターだった

 ・弟の鋭利に存在を消滅させられ続けている

 違う。

 このへんは今はどうでもいい。いつかどうせ巻き込まれるにしても、今は覚えておくだけでいい。今重要なのはこれ。

 ・概念をテレポートできる

 封印能力者確定だ。こいつは世界を滅ぼせる。

「はっ、かわいそうにな。じゃあ何か?それでお前はひねくれて、哲学レィディオなんて始めたのか?」

「まさか。これでも日常生活じゃ不便はしてないよ」

「日常生活じゃない場面ってどこだ」

「さあ?紅の知ることじゃないんじゃない?」

「じゃあさ」

「何?」

 いつものように。いつものように。いつものように。いつものように。いつものように。いつものように。いつものように。いつものように。いつものように。いつものように。

 俺はこれまでと同じように問いかけた。

「もしその呪いが解けるって言ったら、もしその呪いが解けたらお前は放送のジャックをやめてくれるか?」

「どうしてそうなる?ストレスは感じてないし無関係って今言ったじゃん」

「単なる交換条件だよ。俺がその鋭利とやらがお前にかけた呪いを解く代わりに、これ以上ラジオ局の胃をきりきりさせるなっていう」

「わりにあわないな。そんなことできるわけないじゃん。それとも何?あなたは最強主人公か何か?周りに出来ないことが出来て、ちやほやしてもらえる感じの」

「いいや。でも…」

 俺はこう言った。

 達成『マゼンタ・エモーション』。

 それが俺の『達成』だ。

 お前のテレポートで消滅に抗えるということは、弟の呪いもまた異能なんだろう。どれだけ強いかは知らないが。それこそ世界を滅ぼせる能力かも知らないが、

「俺には関係ない。」

「『達成』には関係ない。」

「あらゆる常識とあらゆる非常識を操るのが能力者なら、俺はそれを止めることができる。」

「あらゆる当たり前とあらゆる摩訶不思議の上に立つ、俺は達成使いだ。」


 〈1-☆〉

 プロローグももう終わりかと思うと、少し寂しい気分になる。まあ、一話10000字もあるのだから、そうなって当然だろう。

 では、最後に俺はちゃんと自己紹介をしようと思う。

 薙紫紅。15才。今度の春から高校生。

 目にかからない前髪、うなじが見える後ろ髪。

 黒髪。黒い心。重度の思考異常者。

 悪の味方。達成使い。

 クリムゾンという負荷能力の呪いを持つ。

 5歳の頃から一日二件の事件を解決してきた。

 これまでに約、8000件。

 かっこいい。超絶かっこいい。いえーい。

 病院暮らし。

「あ!え!い!う!え!お!あ!お!」

「か!け!き!く!け!こ!か!こ!」

「ねえ、まだ?」

 俺の家は病院だ。ここ、皆砂糖県奈実田亜市にある大病院、通称、『黒い実験場』に俺の部屋はある。俺の達成に恐怖せず対等に話せる人物の1人である小学校の頃の保険の先生が、毎日事件のせいで傷だらけになって保健室にくる俺に紹介してくれた場所だ。ここでは、憲法スレスレの治療を実施しており、そのおかげか俺には目立った後遺症はない。一生傷はたくさんあるが。

 で、そこに時破田を連れてきた。何故かというと、少しばかり頑張らなくてはならないから。

 どういうことかと言うと、俺のマゼンタ・エモーションは『感情』や『思考』、『精神』を操る達成であり、オート発動の防御時はともかく、攻撃するには、思考異常者には効きにくいのである。能力では抗えないが、感情では抗える。信号を無視して人を撥ね飛ばす車も、行き止まりでは進めない。そんな感じ(たとえが悪かった)。感情を操る達成は、思考異常者に対して、防御時、つまり発動MAXの1/10しか効かない。封印能力者は思考異常がマシとさっきは言ったが、この場合はそんなに関係ない。封印能力者もやはり1/10しか効かない。もちろん、それ以上も同様。

「よしっ発声できた」

「おお」

「じゃあ行くぜ」

「あたしは何もしなくていいの?」

「声を聞いてくれればいい」

「ふぅん」

 1/10しか効かないから、気合をいれて、声も出さなくてはならない。叫び疲れるぐらい叫んで、喉が枯れるぐらいお腹をつかって声を出す。

 俺は呪いを解くべく、達成を発動した。

 叫ぶ!

「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

 決して、勘違いしないでほしいのが、これは伏字ではないということ。俺はアダルティな言葉を叫んだわけではない。ただ、思いっきり、空気砲のように声を出したからよく聞こえなかっただけである。

 これの1/10で済むようになったのはいつからだったろうか。あの、『庵内』湖奈々と『巫』槍と戦った時からだろうか。まあ、その辺の話はまた今度するとして。

 今は。

「…!」

「どうだ?」

「の、呪、えっ?」

 時破田鋭利、弟君が残した残留思念を達成で書き換えた。能力を、何度か変質させた。消滅する呪いを創造する呪いに、創造する呪いを創造する能力に、創造する能力を想像する能力に。そして、想像する能力を、テレポーテーションに混ぜた。

「何か言うことは?」

「あ、ありがとう」

 そう、俺はあくまでお前の為にやった。

 俺は悪魔で、悪の為に動いた。

 ラジオ局に迷惑をかけさせない為とは言ったが、あれは、ラジオ局の人と声優達を思っての言葉ではなく、ラジオ局の人と声優達から時破田がこれ以上恨まれない為を思っての言葉だ。

 俺は悪の味方だ。

 俺は、弱い者の味方。

 だって、正義は強いじゃないか。

 正義になれなかった奴もいる。

 正義になりたかった奴もいる。

 正義のつもりの奴もいる。

 正義を憎む奴もいる。

 正義とかけ離れてしまった奴もいる。

 正義から嫌な目線を向けられる奴もいる。

 正義に育てられなかった奴もいる。

 正義の団結の為に悪にされた奴もいる。

 正義に勝手に仮想敵にされた奴もいる。

 正義なんかクソ食らえだ。そんな強い奴らは、1人でたくましく勝手に生きてればいい。

 俺は、そんな強い奴らに、弱い悪が、貧弱な悪が蹂躙されないように悪を助けたい。この時破田心裏も同様だ。

 俺は知っている。

 悪の感情は、いついかなる場合でも弱い。

 だから、助ける。

 あの庵内湖奈々も、巫槍も、

 いつか助けてみせる。

「よし、じゃあ…」

「ね、ねえ、紅」

「?」

「もう一つ、助けてほしいことがあるんだけど…!」

 彼女がそう言った瞬間。

「緊急ニュースをお伝えします。避難指示です。ただいま奈実田亜市に隕石群が接近中です。奈実田亜市にお住いの方々は今すぐ避難してくださ…」

「あちゃあ」

 最近多い隕石。まあ、多分俺のせいだ。

 クリムゾンが働いた。本日2度目の事件。

「…チッ」

 あれ?今舌打ちしたか?時破田。何がそんなに…

「紅、ちょっと待ってね」

「え、いや、待つけど」

 すると。彼女は両手を広げて前に出した。

 なんだろう。抱きしめられたいのだろうか。

 俺が疑問に思っていると。

 しゅんっ、と、彼女の両手に隕石が。

「!」

「紅、これは単なる交換条件だけど」

「お、おう」

 隕石を地べたに置いて、仕切り直す。

「あなたにも呪いがあるようね」

「うん…まあな」

「どうやらそれはあたしでも消せないらしいわ」

「…」

「だからというわけじゃないけど、一つ頼まれてほしいことがある。」

「…なんだ」

「あたしのたった1人の友達を助けてほしい」

 それは悲痛な願いなのかどうかはわからないが、彼女はその時真剣だった。

「友達…?」

「ええ。その子、今、捕らえられているの」

「へえ…で、俺はどうすればいい?」

「思考異常者だけが集まる学校、『天角学園』に乗り込んで、あたしの友達、リリー・シエルを助け出してほしい!」

「何と交換だ?」

「少なくともリリーを助け出すまでの間、あたしはあなたのその呪いを肩代わりする」

「…」

 呪いには触れられなくても。

 呪いの効果を自分に持ってくることはできるのか。

「…頼み事が通るのは、頼まれる方にメリットがある場合だけだ、俺はそれによって何を得られる?」

「天角学園は思考異常者の学園。つまり…」

「つまり?」

「あなたでも友達100人作れちゃう!」

「引き受けよう!」

 交渉成立。

 というわけで、

 俺達の物語はここから始まった。


 これは、思考異常者達の物語。

 俺も含めた、俺達の物語。

 プロローグはこんなもんでいいだろ。

 これから、長いんだし。


 それでは、死なない程度にお楽しみください。

賢い人はこれを読むらしいよ

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