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色々な思惑が交錯

いつもお読み頂き有難う御座いますm(__)m

ブックマークしてお待ち頂いている方々、感謝ですm(__)m


「で、どうすんの?」


 ケーラが腕を抑え蹲っているロゴルドと、縄で縛られ寝転がっているビルグに問いかける。奇襲が失敗してしまい、悔しそうな魔族二人。


「あの人族があれほどまでに動けるとは」しかめっ面の筋肉質魔族ロゴルド。余程筋肉に自信があるのだろう。上は黒いタンクトップ、下はぴっちりしたボクサーパンツである。ブーメランではないのはまだ自重しているのかも知れない。


「そしてケーラ様が、まさか光魔法付きのエンチャント武器を持っているとは」その点も驚いていたロゴルド。魔族は自身の闇魔法に相当自信とプライドを持っており、通常武器にエンチャントを入れたりしない。光魔法などもってのほか、なのである。が、ケーラはそんなプライドは元々持っていない。使えるなら使ってしまえ、と、遠慮なく光魔法を使ったのだった。


 リリアムもケーラの隣で既に臨戦態勢だ。ロゴルドはどうやら相当やり手のようだが、光属性持ちのリリアムと、先程のように光魔法が使える魔族のケーラ、二人も光魔法が使えるのは、相当分が悪いと思っている様子。二人に対峙したまま動けないでいる。


 そこで健人が、上の岩場から人を担いで降りてきた。担いできた人を見て驚く二人。


「え? 人族?」


「いや、ケーラ。驚くのはそこじゃないわ。その人、多分神官よ」


 神官は光属性持ちが就いている特殊な職業だ。約5年前、魔族と人族の戦いの際襲ってきた時も、光属性持ちの神官が前線に出て、魔族と率先して戦っていた。魔族には光魔法は相当効果があるのだ。通常の魔法の攻撃より、光魔法での攻撃は、魔族に対して2倍の効果がある。なので魔族とは敵対していると言っていい関係の神官。それがこの世界の常識である。


 だから健人達から魔族を救い出そうと、神官が助太刀していたとなれば、相当おかしな事なのである。


「ああ。俺も相当驚いた」事前にこの世界の事をある程度勉強していた健人も驚いていた様子。うんしょ、と、気絶した神官の服を着ている女性を地面に降ろす。


「あ、言っとくけど、タケト相当強いよ? そしてボクもね。リリアムは……まあまあかな? とにかく、あんた達だけじゃ逃げるのは無理だと思うよ」気絶した女性神官を降ろす健人に目配せしながら、ロゴルドに話しかけるケーラ。


「誰がまあまあですって?」その言葉が気に入らない。キッと睨むリリアム。


「もういい加減にしてくれ。言い争いしてる場合じゃないだろ?」またも二人の言い争いが始まりそうな予感がして、先に健人が二人にくぎを刺す。


「ごめんよタケト。だからハグして?」


「ごめんなさいタケトさん……って、なんでそこでハグなのよ! 」


「だからいい加減にしろ! ほんとに怒るぞ!」と言いつつ、結局怒ってしまう健人。


 シュンとなる二人。そしてはあ、と大きなため息が出る健人。


「まあ、なんだ。お前も大変だな」ロゴルドに同情されました。


「あ、ああ。気遣いありがとう」ついお礼を言う健人。


「で、とりあえず詳しく聞かないといけないんだが。リリアム。ロゴルドってやつの腕治せるか?」


「え? ええ。可能だけど」どうして? と驚いた表情のリリアム。ロゴルドも健人の言葉に驚いている。


「まあ実際リリアムを捕まえただけだし、それはこのビルグってやつを助けるためだったみたいだし、俺自身無用な争いはしたくないしね。こっちは無傷だし」


 健人の本音は、出来るだけ彼らと戦いたくないという事なのだが。魔物ではない、理性を持った、しかもケーラと同じ魔族。彼らを積極的に傷つけたくないのだ。だが、魔薬をばら撒いて魔物をアクーのあちこちに大量に発生させた犯人なのだから、拘束はするつもりだが。


「タケト甘いよ」憮然とした表情でケーラが口を尖らせる。


「甘いかもな。だがもし、次に俺達や仲間に危害を加えたら、その時は容赦しないけどな」


「……タケトがそうしたいなら」納得いかない表情だが、渋々了承したケーラ。


 そしてリリアムが蹲っているロゴルドに近づき、「ヒール」を唱え、ロゴルドの腕を治療した。腕をグーパーして治った事を確認するロゴルド。


「変わった人族だ。で、そこに転がっているビルグも返して貰わないといけないんだが」そう言いながら立ち上がる。ビルグはずっと地面に転がったままだ。だが、健人がロゴルドを治すという話を聞いて、さっきまで睨んでいた視線は、若干柔らかくなっているようである。


「じゃあ情報をくれ。なんで魔薬をばら撒いているのか。どうやって作っているのか。首謀者とか。あと治し方とか」


「……言える事と言えない事がある。俺から一つ言えるのは、魔薬に侵された魔物や人間の治し方は俺達も知らん。後は、そこに寝ている女に聞けば分かる事もあるだろう」


 治し方は分からない、か。以前ヴァロック師匠と共に魔族を尋問した時と変わっていないのか。その点だけははっきりと伝えるロゴルドの言葉を聞き、肩を落とす健人。


「ん?」ロゴルドの、『そこに寝ている女に聞けば分かる』、という言葉を聞いて、どういう意味なのか確認するため、気絶している女性を見たケーラが何かに気づいた。


「ちょっとこれ、隷属の腕輪!」驚いて声を上げるケーラ。それを聞いて二人も振り返る。その女性の腕には、木で出来た腕輪がついていた。


「そういう事だ。腕を治してもらった事は感謝しておこう」そして三人が女性に向き合っている隙に、ビルグを肩の上に担いでいるロゴルド。


「しまった」健人達が気づいた時にはもう遅い。ロゴルドは踵を返して、闇の中に去っていった。


 ※※※


「ごめん」健人が二人に謝る。自分の甘さのせいで魔族二人を逃がしてしまったからだ。せめてロゴルドの傷を治した後、ビルグと同様、縄で縛っておけば良かった。そうすれば逃げられる事はなかっただろう。健人のミスなのは間違いない。


「まあ、しょうがないよ。そういう優しさもタケトの魅力だし」ケーラも別に怒っていない。


「そうね。気になさらないで。まだ手掛かりがないわけじゃないわ」そう言ってリリアムは気を失って岩にもたれて座っている女性を見る。今はまだ洞窟の入り口の前にいる。


「それに、貴重な物も手に入ったしね」紫色の玉三つを手に取り、したり顔のケーラ。ずっと欲しいと思っていた無傷の魔薬だ。これを調べれば、どうやって作られたのか分かるだろう。


「でもやっぱり、元は心臓みたいに動かないんだね。ああいう風になる鍵? 条件? みたいなものが分かればいいんだけど」そう言いながら三つの紫の玉を華麗にジャグリングし始めるケーラ。上手く三つの玉を操っています。


「危ないからやめとけって」流石に物が物だけに注意する健人。テヘっと可愛く謝るケーラ。まあ美少女なだけに可愛いですが。


「早速ボクの故郷、魔族の都市に戻って調べたいところだけど、ボクはまだやる事があるしなあ。モルドーも先に行かせちゃったし」そして三つの紫の玉を、自分のカバンに直し、悔しそうにするケーラ。タイミングが悪かったので仕方ないのだが。早く解明したいという気持ちがあるのだろう。


「とりあえず一旦それは持ち帰って、ギルドでロックさんに相談しよう。ゲイルさんにも話を通した方がいいかもしれないな」かなり重要な案件であろう魔薬の事である。上の立場の人達に相談した方がいいのは間違いない。


「う、ううん」


 皆で魔薬について話していると、気絶していた女性が目を覚ました。


「大丈夫?」気遣いつつ声を掛けるケーラ。


「!」驚いて後ずさる女性。歳は20歳くらいだろうか。ピンク色のセミロングの髪に、服装は白の上下。上は巫女装束のような、着物? のような服装で、下は同じく巫女装束のような、でも真っ白な服装である。結構美人だったりします。


「あ、ああ、あああ」三人を見て、尻もちをついたまま、怯えながら後ずさる女性。


「ああ、リリアム。隷属の腕輪外せる?」その様子を見て、ケーラがリリアムに確認する。


「多分出来ると思うわ。やり方は知ってるから。やるのは初めてだけど」隷属の腕輪は禁忌なので、普通は出回っていない物。光属性持ちの中でも、外した事がない人が殆どである。


 この隷属の腕輪は、魔族の禁忌と言われ、現在は使用・作成が禁止されている曰く付きの物である。過去、まだ奴隷制度が残っていた時代、奴隷として言う事を聞かせる際に使用された。主人となる物に反目するか、言う事を聞かないと、耐えられない苦痛を味わうようになっている。


 因みに、作る事が出来るのは魔族のみ、解除出来るのは光属性持ちのみ、という、余り利便性が良くない物でもある。


「ホーリーリフト」リリアムが木の腕輪に手を当て、聖なる光を注ぐ。ミシミシと腕輪が鳴り、パキンという音と共に腕輪が外れた。


「あ、ああ」腕輪が外れた事を確認し、目に涙が溜まる女性。


「本当に、本当に外れたのね。これで開放された」そして女性が両手で顔を覆い、人目を憚らず号泣した。


「良かったわ」女性の様子を見て、リリアムが優しく微笑んだ。


 そしてもう夜も遅いので、女性が落ち着くのを待って、一旦宿に戻る事にした。


 ※※※


「あ」健人が何かをふと思い出す。


 今は宿の食堂で3人、風呂に入って食事を終え、くつろいでいるところだ。白猫は健人の椅子のそばで、宿の人が用意してくれた、薄い皿に入ったヤギのミルクを飲んでいる。


「どうなさったの?」リリアムが健人に質問する。


「大亀確認するのまた忘れた」またもすっかり忘れてしまっていた。以前倒した大亀の素材確認。


「そう言えば私も忘れていたわ」リリアムも健人の言葉を聞いて思い出した。


「でも仕方ないわ。それどころじゃなかったんだから。また機会あれば確認すればいいんじゃないかしら」


「そうだね」それでもあの二人の魔族をおびき出す前の段階、モルドーに初めて会った時の昼間にでも確認すればよかった、と若干後悔する健人だった。でもまあ既に腐っているか、洞窟の魔物達に喰われているだろうが。素材はもう諦めていいかも知れない。


「そういや、あいつら何でケーラに『様』付けで呼んでたんだ? 話し方も丁寧だったし」そしてケーラに、気になっていた事を聞いてみる。モルドーは使役している魔物だから分かる。でも、今日会った魔族二人は何でだろうか? 疑問に思っていた健人。


「え? き、気のせいじゃないのかなあ?」アハハと乾いた笑いで、額に汗を掻きつつ答えるケーラ。


「私もしっかり聞いてましたわ」腕を組んでやや高圧的にケーラをジト目するリリアム。


「あ~、あのですね~。元部下的な? 感じかなあ」明らかに狼狽えている。何かを隠しているのがバレバレだ。魔族だけどケーラは素直な子だなあ、とも、健人は思っていたりする。


「……ま、言いたくないなら無理強いしないけどね」健人がその様子を見て質問するのを止めた。騙しているわけではないようだし、事情があって言えないんだろう。なら、ケーラが言いたい時に聞けばいい話だ。


「ア、アハハ。ごめんね」頭を掻くケーラ。リリアムはジト目でケーラを見ていたが、健人が聞き出さないなら、リリアムも聞こうとはしないようである。肩を竦めてそっぽを向いた。


 三人がそんなやり取りしている間に、洞窟で健人が保護した女性が、風呂から上がってこちらに歩いてきた。


「どう? 落ち着いた?」健人が出来るだけ緊張させないよう、気遣いながら声をかける。


「ええ。有難う御座います」リシリーと名乗る女性が礼儀正しく一礼した。ようやく落ち着いた様子。


「どうかな? 話聞いてもいい?」ケーラがそんな女性の様子を見て、本題に入る。


「はい。私の分かる範囲であれば」リシリーはリリアムに勧められた椅子に、一礼して静かに座り、そして話し始めた。


 ※※※


「ロゴルド。もういい」未だロゴルドはビルグを抱えて走っていたが、ビルグの言葉を聞いて走るのをやめ、ビルグを降ろす。そしておもむろにナイフを取り出し、縛られていた縄を切った。


「失敗したな」無表情に話すロゴルド。


「まさか自分達以外の魔族が、しかもケーラ様がアクーにいるとは思わなかった。通信してきた時点で慎重になるべきだった」


 縄から開放され、地面にあぐらをかいて座り、チッと舌打ちするビルグ。アクーに魔族は自分達以外いないはずだった。ここアクーは、魔族の都市から一番離れている人族の都市だ。王都メディーならまだ自分達以外の魔族がいる可能性を考えていただろうが。だから大丈夫だと安心していた。その慢心が今回の失敗に繋がったのだ。


「しかも貴重な魔薬三つとも奪われてしまったな」ロゴルドが無表情のままビルグを責める。その言葉を聞いて、苦虫を噛み潰したような顔をするビルグ。作るのに手間取る魔薬。最近ようやく複数作れるようになってきたが、素材集めに苦慮しているのは変わらない。


「しかしこれで、あちら側に色々バレるだろうな。一人捕まってしまったしな」


「……今後は動きづらくなるな」悔しそうなビルグ。


「とりあえず実験はもう終わる頃だったから、さほど影響はないのかも知れんが。次の段階に進むにはちょうど良かったとも言える」仕方ない、と言った風のロゴルド。


「それにしても、まずはお伺いを立てる必要がある」「そうだな」


 二人はそう話ながら、夜の闇に消えていった。




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