吸血鬼のオッサンが可愛くない。美少女にすればよかった・・・・・・。
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「フン。心配するな。ケーラ様のご命令だ。お前の血は吸わん」コウモリから人の形に戻ったモルドー。高飛車な態度はそのままだが、どうやら健人の血は吸わないそうである。ホッとする健人。
「普段の食事はどうしてんの?」血を吸わないなら何を食べてんだろ? 興味本位で気軽な感じで質問する健人。
「普通にお前達と同じ食事をする。本来我々は人間の血を吸えば暫く食事をしなくても大丈夫だし、能力も格段に上がる。だが、魔族と人族とは和平を結んでいるから、お前達を襲うわけにもいかん。不便だが食事で我慢している」不満そうに説明するモルドー。
「……」その様子をジト目で見ているケーラ。ケーラってこんなキャラだったっけ? 普段の天真爛漫の明るいケーラとは程遠い雰囲気に若干引き気味の健人。
「ケ、ケーラ様! これくらいの話し方なら問題ないのではないでしょうか? 私も相当善処しております故、何卒ご容赦を」ハハー、と時代劇で殿様に陳情している家臣のように、片膝をついてめっさ頭を下げるモルドー。黒く細いハート型が先についている尻尾がプルプル震えている。うん、可愛くない。ウザい。
「ケーラ。気にしてないからいいよ」健人がモルど~に助け舟を出す。
「むー。タケトがいいならいいか」健人の言葉に肩を竦めるケーラ。
「おお、ご寛大なケーラ様に感謝致します」片膝をついたまま、またもハハー、と頭を下げるモルドー。なんでこんなに低頭平身なんだろうか?
「タケトさん。一旦使役された魔物は、解除されると格が落ちるのですよ」健人の疑問に気づいたように、リリアムがモルドーの態度について話してくれた。
「そうだね。モルドーが使役解除されると、さっきの知能のないコウモリくらいになるね」ジッと冷たい目線でモルドーを見ながら、ケーラが付け加える。その言葉にまたもガクガクブルブルしている吸血鬼のオッサン。なるほど。吸血鬼がただの知能のないコウモリの魔物になる。それは確かに恐ろしいだろうな。二人の説明で納得する健人。
「あ、ケーラ様。そういえばこの洞窟の入り口で、こんなものを見つけました」
突如モルドーが思い出したようにケーラにとある小さな物を手渡す。赤い宝石のようなものがついていて、シルバーの素材のようなもので出来ている。大きさ2cmくらいととても小さい。どうやらイヤリングのようだ。見つけるとしても相当小さいものなのに、モルドーはどうやって見つけたのだろうか?
「これって……」驚いているケーラ。
「ええ。ご想像の通りかと。魔素を感知出来たので見つけられたのですが」さっきまでのガクブルが一転、片膝をついたまま、モルドーが真剣な顔になる。急に出来る男の顔になった。ギャップがひどい。いや凄い。そして小さなイヤリングを見つけられた理由、魔素とやらで感知できるようである。
「やっぱりあいつらか。これが証明になるね。モルドー。また報告しに戻ってくれる?」
「この事を伝えるので?」
「うん。頼むよ」
「承知致しました」モルドーはそう答えると、またもボンと音が鳴り、白い煙幕のようなものがモクモクと沸いて、コウモリに变化し、飛び立っていった。ん? 今は昼間なのに移動できるのかな? あ、洞窟の上に止まった。夜になってから移動するらしい。
「あれ? それは持って行かせなくて良かったの?」ケーラはさっきモルドーから受け取った小さなイヤリングをモルドーに返していない。魔薬のサンプルの時のように、協力者に渡さなくて良かったのだろうか?
「うん。ちょっとこれを利用したくてね」
※※※
季節はそろそろ秋に差し掛かろうとしている。リーリーと鳴く虫の声が静かな浜辺に小さくこだましている。この時期の夜の浜辺は肌寒い。ザザーと寄せては返す波の音が、より一層寒さを引き立たせる。
そんな情緒溢れる夜の浜辺のそばを、ヒュンと一つの影が通り過ぎる。
「確かこの辺だったはず」
影が何かを探している。浜辺をずっと飛ぶように走っていると、洞窟の辺りまでやってきた。そこでキラっと光るそれを見つける影。あそこか、と呟いて光の見えた先に向かう。
「ん? おかしいな」光が見えたのはこの辺りのはずなんだが。するといきなり「シャドウバインド」と小さく呟く声が聞こえ、黒い細い触手のような沢山の手が、影に纏わりついた。驚く暇もなく触手に捕まってしまう影。そして今度は「シャイン」という呟きが聞こえ、眩い閃光が洞窟の入口辺りから光った。暗闇にの中唐突に光る閃光。突然の事にたじろぎ目を瞑る影。シャドウバインドのせいで身動きが取れない。そしてシャドウバインドで捕まっている間に、上から縄で縛られてしまった。それからシャインの魔法でシャドウバインドが解けた。
何が起こったのか分からず、地面に寝転がってジタバタする影。捕まったのは理解出来ているが。そしてようやく眩い光が収束し、視力が回復してきた先を見てギョッとする影。
「やあ」気軽な感じで声を掛けられる。ケーラだ。他にもシャインを唱えたリリアムと健人もいる。シャインはリリアムが光を絞り、影にのみ効果があるよう、うまく調整したのだ。健人のカバンにいた白猫は、一応被害に遭わないよう、魔法発動の瞬間、健人がカバンの奥に顔を押し込んでいた。
「まさか、という顔をしてるね。アクーに君達以外の魔族がいるはずない、って思ってたようだし。まあ、だから引っかかったんだろうけど」驚いている影に語りかけるケーラ。
モルドーがケーラに渡したイヤリングのようなものは、魔族同士の通信機のようなものだった。魔族が皆持っている、魔素を使う事で利用出来る魔道具だ。有効範囲は大体1km程度らしい。
ケーラはこれを使って、魔薬をばら撒いている魔族を誘き出そうと画策した。このイヤリングは、以前真白を襲った魔族のものに違いないからだ。そして、アクーには反対派以外の魔族はいないと思っているだろう、とケーラが睨んでの策だった。
「タケト。ちょっとこいつ抑えといて」そう指示されて頷く健人。縛られつつも歯向かおうとする影の体を抑える。そして影のズボンのポケットや、カバンをケーラがゴソゴソ探している。
「……あったね」
そう言ってケーラは、影のカバンの中から3個取り出した。間違いない。魔薬だ。ただ、健人達が今まで見たものとは違い、心臓のように脈打ったりはしていない。ただの紫色の玉だが。なので問題ないだろうとケーラが手に取っている。
「ビルグだよね?」
どうやらこの魔族の名前らしい。縄に縛られているビルグと呼ばれた魔族は、悔しそうにケーラを睨んでいる。
「どうしてあなたが?」ようやく声を発した、ビルグと呼ばれた魔族。赤みがかった短髪の20代くらいに見えるイケメン魔族だ。額の両端から伸びている角が、ケーラよりも長く黒い。麻色のローブのような服を着ている。
「君達を調べに来てたんだよ」
「調べに? 思ったより動きが早い」舌打ちしながら愚痴るビルグ。
「まあ、アクーに来たのは偶然だけどね。で、何人来てるの? 」ケーラがビルグに質問するが、睨んだまま質問には答えない。
「そりゃそうだよね。簡単に口を割るわけないか。リリアム。お願い」
今度はリリアムに声をかけるケーラ。リリアムは複雑な顔をしながらその指示に頷き、「ホーリーニードル」と唱える。聖なる複数の針で出来ているその光魔法は、魔族に絶大な威力を発揮するホーリー系の魔法だ。その複数の針が、リリアムの手のひらに浮かんでいる。もう片方の手のひらには、灯りのためにシャインの光の玉でを浮かび上がらせている。
リリアムが複雑な顔をしているのは、罠に嵌め尋問する事に抵抗があるからだ。王室育ちのリリアムには、このような卑怯な手とも言える方法が苦手だったのである。それでも、やらないと解決しないのは分かっているので、協力しているのだが。
「リリアム? 王女なのか」ケーラの言葉にビルグが驚く。光属性魔法は魔族にとって天敵なのだ。
「そうだよ。なら、あの魔法がどういうものか、分かるよね? 」リリアムの変わりにケーラが答える。ビルグのひたいに汗が滲む。冷静に自分の置かれた状況を確認する。手足が自由であれば何とでもなるが、今は縛られて動けない。闇魔法で逃げようにも、さっきのような眩しい光を出されれば、すぐ見つかってしまう。しかも大剣を備えている人族もいる。
「……詰み、のようですね」諦めた表情のビルグ。
「そうだね。光属性持ちとボクのような魔族とが一緒だと、ビルグもさすがに逃げられないでしょ?」
「そうですね。なら、逃げなければいい」そう言ってニヤアと不敵な嗤いを浮かべるビルグ。ビルグの耳にはキランと光るイヤリングがついている。いつの間にか通信していた?
「! リリアム! 後ろだ!」健人が叫ぶ。人影だ。
「え?」健人の叫びに反応出来ないリリアム。いつの間にか後ろには、身長180cmほどありそうな、筋肉質の魔族が立っていた。
更に頭上から、複数の光の矢が打ち込まれた。洞窟の入口の上の岩場にも、いつの間に集まったのか、複数の人影が見える。
「クッ! ウォーターウォール!」健人が大剣を振り上げ、水魔法を唱える。実は以前オークジェネラル討伐の際、獲得した12角形のクリスタルに水属性を入れ、大剣にエンチャントとしてつけていた。その前につけていた8角形の火属性もそのままだ。なので健人の大剣には、火属性と水属性のエンチャントがついている。
健人が振り上げ唱えた水の壁が、三人とビルグ、そして筋肉質の魔物の上空にドーム型に展開する。複数の光の矢が降り注ぐも、水の壁で何とか防ぎ切る事が出来た。だが、
「うぐ!」筋肉質の魔族の男が、リリアムの腕を捻り、後ろ手に捕まえた。
「ビルグを開放しろ」野太い声で命令する筋肉質の魔族。
「ごめんなさい。気づけなかった」捕まりながら、項垂れるリリアム。
「通信されてたのか」しまった、と舌打ちするケーラ。
ククク、と嗤うビルグ。その笑みは不気味だが地面に縛られ寝転がっているので若干滑稽ではある。だが、シリアスな場面なので誰も突っ込まないが。
「多勢に無勢ですよ? ケーラ様」ビルグが寝転がってニヤけながらケーラを見上げる。
「てか、ロゴルド。あんたもなのか」ケーラが筋肉質の魔族を睨む。睨まれたロゴルドと呼ばれた筋肉質の魔族は、ケーラの睨みを気にした様子もなく、言葉をかける。
「ケーラ様もお考え直し下さい。こいつら人族は我々の下僕となるべき存在。仲良くするべきではない」
「やーだね! ボクはそこのタケトとカップルになるんだもんね! んで人族の美味しい料理を沢山食べるんだから」
フン、と鼻をかけてロゴルドの話を突っぱねる。
「いやだからカップルになれへんから」こんな状況でもそんな言葉が出てくるケーラに呆れる健人。久々に関西弁が出ました。
「あなたは本当に懲りないわね」はあ、とため息をつくリリアム。
「ふん。リリアムは羨ましいだけだろ?」ケーラがリリアムの言葉にカチンとなって言い返す。
「全くあなたは……。わざわざ私を煽らなくていいでしょう?」
「正直になれないあんたを煽っても面白くもなんともないねー!」
「何を偉そうに! あなたこそ無理しているの丸わかりなのですよ!」
「ギク! き、気づかれてたからって気にしないんだから!」
「もっと気になさい!」
「うるさいバーカ!」
「な! バ、バカとは何なの! バカと言う方がバカです!」
「「「……」」」バトっている美女二人に、呆れている魔族二人と健人。因みにリリアムはロゴルドに捕まったままケーラに突っかかっています。
リリアムは捕まっていて、そして上の岩場は敵だらけ。現状かなり緊張状態のはずなのだが、美女二人がヒートアップしているので、緊張感が一気に台無しになってしまった。多分上の岩場にいる敵達もポカーンとしているっぽい。
だが、静かに状況が動き出す。ギャイギャイ言い争いながら、ケーラがコソッと「ホーリーニードル」と呟く。拳から1本だけ光の細い小さな針がロゴルドの額の真ん中に飛んでいった。「ウガア!」不意をつかれたじろくロゴルド。光魔法にも驚いている。その隙に、ロゴルドが驚いている間に手にとっていたダガーで、掴まれているロゴルドの腕を切り裂いた。鮮血が舞う。「アグ!」今度は急に腕に痛みを感じ、ついリリアムを掴んでいた腕を離してしまったロゴルド。そしてその隙をついて、素早くロゴルドから逃げ、健人とケーラのいるところにリリアムは移動した。
ケーラが今持っているナックルは、真白が以前使っていた、光魔法のクリスタルをエンチャントとしてつけていたオリハルコンナックルだ。それを事前に知っていたケーラが、闇魔法より光魔法の方が効果があるだろうと判断し、光魔法をロゴルドに放ったのだ。効果覿面。まさか魔族のケーラが光魔法を使うとは思っていなかったロゴルドは、ケーラの思惑通り、放たれた聖なる針に不意をつかれたロゴルド。そしてリリアムが切り裂いた腕から、血が未だ止まらない。ドクドクと溢れる腕を悔しそうな顔で抑えている。
「タケト! 今のうちに上へ!」ケーラが健人に叫ぶ。すぐさまケーラの言いたい事を理解して、健人は能力を開放、下から10mはある上の岩場へ一気に駆け上がり、矢で攻撃してきた敵達に迫る。ざっと数えて5人ほどはいるようだ。そして明らかに驚いている様子の敵達。この高さまで数秒とかからず登ってきた健人に驚愕しているのだ。
彼らから、魔薬の事や今回の件を色々聞き出したいとも考えていた健人は、攻撃してきた上の岩場にいる敵達を出来るだけ殺さないよう慎重に攻撃する。健人がフェイクで大剣を振りかぶり一人の敵に肉薄する。慌てて持っていた剣で応戦する敵だが、オリハルコンの大剣は、敵の剣をパキンと簡単に折ってしまった。そしてすかさず健人が敵の鳩尾に、大剣の柄を力を加減して突き入れる。「ガフ!」と敵が呻いて、気を失った。
その攻防のうちに、他の敵達が一斉に逃げてしまった。とりあえず一人でも捕まえられたので、よしとする健人。それよりも、気を失っている敵を見て驚いていた。
「……まじかよ」健人が気絶させた敵は、白い衣服を着た若い人族の女性だった。





