光の塊さんは、ヴァロックだとちょび髭のおっさんに見えるそうです
唐突ですが、昨日で第三章終了と致します。
すみませんm(__)m
今日から第四章開始です。
「ん?」暫く寝起きしていたその部屋? で目を覚ます。いや、よく見ると伯爵邸の部屋ではない。広大に、どこまでもキリがない地面が自分中心に広がっているような場所。キョロキョロしてみるが、雲も草木も何もない。ただただ白く広い。
「起きたか」急に声が聞こえた。声の方に目を向けると、そこには細身のちょび髭を生やした、白いタキシードを着たダンディな壮年が立っている。何だか後光が指しているように背中辺りから光が溢れている。
「あんた誰だ?」赤毛の大男が光り輝くその男に声を掛ける。
「お前達は、私の事を神と呼ぶらしい」らしい、という曖昧な回答をする細身の男。
「なるほど。とうとう来たのか。じゃあ、俺はもうあの世界には戻れないんだな。そして今から新しい世界へ向かうって事か」細身の男に質問する。
「そうだ。カオルとの約束だからな」軽いため息混じりで答える細身の男。
「そうか。ようやくカオルに会えるんだな」あっちの世界に残してきた、仲間や弟子に二度と会えないのは寂しくもあったが、今は想い人に会える喜びに溢れているヴァロック。カオルに会うのは3年ぶりだろうか。
因みに勇者カオルこと三枝薫は、五年前の魔王との話し合いが終わってすぐに元の世界に戻ったわけではない。暫くあの世界で、魔王と人族の王との橋渡しや、残っていた魔物の退治などで、二年程忙しく過ごしていたのだ。そして一通り片付いたところで、カオルが以前いた世界に旅立っていったのだ。なのでヴァロックがカオルに会うのは、約3年ぶりという事になる。
「お前の武器だった大剣は、特別に持っていけるようにしてやろう。ストラップにしておいてやる。必要になったら、(元にもどれ)と念じれば戻る。(小さくなれ)と念じれば、ストラップになる」そう言って、ヴァロックの傍らにある白龍の骨で出来た大剣に手をかざすと、光が当たり、小さくなった。これで健人が心配していた、大剣を持ち歩かねばならない、という懸念が払拭された。
「お、おい! すとら……、なんだ? 」ストラップが分からないので、質問しようと言いかけるが、ずっと一緒にやってきた相棒、白龍の大剣が小さくなっていくのを見て、固まるヴァロック。そして3cmくらいの大きさになり、鞘の辺りに携帯と繋げるための紐がついて、ヴァロックの大きな手のひらにちょこんと乗った。
「慌てるな。先程言った通りすれば元に戻る。あちらの世界に行けば分かる事だ。ああ、それから、あちらの世界のタイムリミットを知らせるために、送っておいた赤い飴玉だが、今のうちに口に入れておけ。それは(言語理解)を授けるものだ」
「あめだま? って言うのかあれ? 食い物なのか?」そう言われてポケットをまさぐり、赤い飴玉を取り出す。前の世界には飴は存在しない。赤い玉が届いたら、異世界への移動まで1ヶ月だというのは事前にカオルから聞いていたが、それが何なのかは知らなかった。
言われた通り、おもむろに口に入れガリゴリ噛むヴァロック。「よく分からねぇ食い物だな」不思議そうに完食する。何となく甘いのは分かったようだが。つか、言語理解って何だ?
「……それはそもそも舐めて溶かして食すものなのだが。まあ、前の世界には無かったのだから食べ方を知らないのは仕方ない。言語理解というのは、言葉や現地の言葉が理解出来る能力の事だ」光り輝く細身の男が若干ため息をつき、そしてヴァロックの心を読んで、疑問に答える。
「心を読めるのかよ。さすが神様と言ったところか」感心するヴァロック。
「では、そろそろ参るぞ。ああ、服は見ての通り、お前が前日まで着ていたものをそのまま一緒に転移してやるから心配するな」ヴァロックは昨晩寝ていた当時のままの服を着ている。着の身着のままで寝たので寝間着ではないのは良かったのだろう。
「ちょっと待ってくれ。質問がある」転移を始めようとした細身の男を制止する。
「タケト、ヤマベタケトってのは何者なんだ? 俺の弟子だったんだが、異世界から来たって言ってたぞ?」彼は勇者ではない。アヤカという別の勇者と呼ばれる女性がいるからだ。なら、タケトは一体?
「あれはイレギュラーだ」ヴァロックにかざしていた手を一旦降ろし、質問に答える細身の男。
「いれぎゅ、? どういう意味だ?」イレギュラーの意味が分からないヴァロック。
「特殊だという意味だが、ある意味失敗とも言えるな」
「失敗? そうなのか? あいつはカオルの持ってた能力を持ってたぞ?」
「何! やはりそうだったか!」
驚いて声を上げる細身の男。アヤカこと片桐綾花に渡そうと思っていた能力が無かったのは、山辺健人に渡っていたからだった。それで辻褄が合う。能力を山辺健人が持っていったから、片桐綾花に渡す時には無かったのだ。それが何故かは分からないが。
そもそも、素質のない者にあの能力は渡せない。なので、やはりそういう事だったか。しかし大丈夫なのだろうか? 勇者と呼ばれる者だけが、使えるはずの能力を、失敗である山辺健人が持っている。使えているのであれば、資質はあったという事になるが、人格は問題ないだろうか? 細身の男はブツブツ言いながらある可能性を考えていた。
「知らなかったのかよ」一方細身の男の意外な反応に呆れるヴァロック。
「その予感はしていたのだがな。今初めてお前の話で確証を得た」考えるのをやめ、ヴァロックに答える細身の男。
「私は神と呼ばれる存在では有るが、万能ではない。全ての人を見ているほど暇でもない。そもそもこうやって、一人の人間と会話する事自体、珍しい事なのだ。特殊な例でない限り、本来はありえん。だから、あの失敗がどうなっているのか、注視出来ていないのだ」と、説明する。
「で、山辺健人はあちらの世界ではどうなのだ?」そして逆にヴァロックに質問する。
「多分あのまま頑張ってりゃ、あいつが勇者になってるかも知れねえ。戦闘の素質あるし。正義感強くて真面目だし。涙もろいところはあるけど思いやりのある優しいやつだ。能力も半端ねーしな」ヴァロックが健人について話す。聞いていると、健人を評価している事は良く分かった。
「そうか。なら安心だ」ホッとした様子の細身の男。人格に問題なければ良いだろう。能力を活かして冒険者でもやっていれば、あの世界の有名人、という事で生涯を全うして終わるだけだ。もし山辺健人が悪人だったら、山辺健人自体が災厄になりかねない。あの能力はその可能性を考えさせられる程強力なものだ。元々イレギュラーで転移し、能力を持っていないはずだった。だから猫に手助けに行ってやれと話した。だから当初は、例え悪人であったとしても、大事には至らないと思っていたのだ。能力がなければ、猫に助けて貰っていたとしても、ただの人なのだから。
だが、この赤毛の男によると、人格は問題ないらしい。それを聞いて安心した細身の男だった。
「あいつの能力、確かアクセル・ブースト・プレッシャーだっけ?」ヴァロックが健人の能力を思い出す。
「なんだそれは?」ヴァロックの言葉に不思議な顔をする細身の男。
「なんだそれはって、タケトが使ってる能力だろ? カオルも使ってた。あんたが授けたんじゃないのか?」何言ってんだ、という顔のヴァロック。
「まさか……。カオルも山辺健人も、そんな感じだったのか? 」唖然としている細身の男。
「あんたが何言ってんのかさっぱり分からねえ」肩を竦めるヴァロック。
「……」ヴァロックの疑問に答えず、驚いた様子のまま黙り込んでしまう。
「……導いてやれないのが残念だ。いや待てよ。猫がいたな」そして今度はブツブツ呟く細身の男。
「あ、そうだ。マシロって猫は元に戻してやれないのか。あんた神様なんだろ?」細身の男の呟きを聞いて、真白の事を思い出すヴァロック。
「獣人にすると言う事か? それは無理だ。あれは私の影響外で猫になっているからな。ただ、あれは元々猫なのだから、今の状態が自然のはずなんだが」だが、ヴァロックの話を聞いて、猫が戻りたいと言った事を思い出す。
「役に立たねぇ神様だな」舌打ちするヴァロック。
「役に立たないか。そうだな。ではせめて、山辺健人の役に立ってやろう。やつは他の転移者と違い、私には会っていないのだから、それくらいはしてやってもいいだろう」役に立たないと言われた事に対しては、特に怒りの感情を表す事もなく、淡々と語る細身の男。
「猫の理性と知性が戻れば、一度であれば、あの猫の夢に私がコンタクトする事が出来るはずだ。その時に、カオルも知らなかった事を、猫に伝えておけば、猫から山辺健人に伝わるだろう」
戻れば、の話だが。
「つか、あんた何でマシロが猫に戻ったの知ってんだ?」さっき人が多くて一人一人は見れないって言ってなかったか? ヴァロックが怪訝な表情になる。
「あれは人ではない。獣だ。猫だ。そしてあいつも変わり種、イレギュラーなのだ。更にあの猫はそもそも死んであの世界に行ったたわけではない。あの猫の希望であの世界に転移したのだ。そして、何故猫に戻ったのを知っているのか、それはあの猫の夢? に私が入ったからだ」
真白の事については、健人から余り詳しくは聞いていなかったヴァロック。だから説明されても良く分からないが、細身の男の話を聞いて、真白は他の人とは違うという事は何となくわかった様子。
「で、カオルも知らなかった事ってなんだ?」そして細身の男が言った話で、気になった事について質問する。
「そうだな。お前にも教えておこう。あちらの世界でカオルに教えてやれば良い」
※※※
「はいはい、了解しましたー」間延びする返事をしながら、黒い小さな刀の形のストラップがついている、スマホのハンズフリーの電源を切る一人の女性。有名な外車の黄色い4ドアセダンを運転しながら、ため息をついている。
「また呼び出しかあ~。嫌だなあもう!」信号待ちでバン! と怒りながらハンドルを叩く。誰もいない車内で独り愚痴を言うその女性は、長く美しい黒髪を頭の根元で縛ったおさげで、キャリアウーマンさながらの黒いタイトのパンツルックに上は黒のスーツ。それなりに自己主張しているふくよかな双丘を覆い隠すように、白いシャツを着こなしている。背は165cm程度と、日本人にしてはやや高めだが、切れ長の目と通った鼻筋の小顔の彼女は、女優だと言われても違和感がないほど、洗練された美女である。
車をパーキングに止め、バタンとドアを閉め颯爽と彼女が歩いた後には、男達の振り返る姿がいくつも確認出来る。それほど、その見た目は凛として美しい。
だが、その歩みはズンズンという音が聞こえそうなほど、怒りに満ちているようではあるが。
周りの男どもの視線などお構いなしに、三十階建てのガラス張りのビルの入り口の自動ドアを入り、受付嬢を顔パスして、エレベーターで最上階まで行く。そして目的のドアの前に到着し、コンコンとノックをする。
「社長。三枝です」そう言ってすぐ、中からの返事を待たず、勝手にドアを開けた。社長室の中では、、鼻の下に髭を蓄えた、痩せた白髪満載の、社長と呼ばれた壮年の男性が、パットの練習をしていた。サスペンスでよくある光景ですね。
「やあ三枝君。このパターが中々良くてねえ。十回中八回も入ったんだよ」ニコニコご機嫌良さそうに話する社長さん。
「ああ、そうですか。呼び出した理由はそれですか?」社長さんが気に入った様子のパターを叩き折りそうな剣幕で答える女性。
「待て待て。冗談くらい言っても罰当たらんだろう? カリカリしてると嫁の貰い手なくなるよ?」ごめんごめんと両手をパーにして待ったと引き止める社長さん。
「余計なお世話です。これ、書類を部長に出さないといけないんですけど、もう決済のハンコ社長が押してくれます?」複数束ねられた書類を無造作に取り出す女性。部長を通り越して社長が決済のハンコなんて、無茶な事を言ってます。
「それは出来ないだろうに。部長には私から話ししとくから。ところで、また事件なんだけど、行ってくれるかい?」そーっと下から女性の顔を覗き込み、怒らないでね~という感じで上目遣いで見ている社長さん。
「……警察は? SATは? つか自衛隊は?」こめかみに青筋を立てイラっとする女性。今日は早く帰りたい。
「君ならすぐ終わると思うんだよな~」未だ上目遣いでお伺いを立てる社長さん。ゴマすっているように手をスリスリしています。
「~~~~全く! 社長! さっさと案件教えなさい!」社長というのは会社で一番偉い人のはずなのに、命令口調の女性。そしてそんな女性の態度を気にせず、「ありがとねー」と急にニコニコになる社長さん。
因みに部屋の片隅には秘書の女性がいるのだが、二人の様子を見て「またか」という感じでため息をついている。
ここはとある商社。三枝薫はここの課長職についている。そしてそれは表の顔。彼女の能力は前の世界そのまま使えたので、警察や自衛隊でも厄介な事件を、裏で引き受けていた。
「今日はあいつがようやくやってくる。さっさと終わらせよう。出迎えたいから」神から貰った、願いを叶えてくれる三つの赤い玉。割れる度に願いが叶ったという証拠だと聞いている。一つは時間を遡っての自分の転移、もう一つはいとこの綾花のあの世界での復活。そして最後の一つが割れたのが丁度一ヶ月前。だから今日間違いなく彼はやってくる。
社長から受け取った、案件ついて書いてある書類を手に取り、パーキングに置いていた黄色い4ドアセダンのオートロックキーを作動させ、ハザードが一回点滅、解錠した事を知らせる。そしてそれに乗り込みつつ、彼の事を考えると、つい顔がほころぶ元勇者。彼女だって会うのは楽しみなのだ。
この二人の地球での物語は、またの機会に。
ヴァロックが地球に転移した後の小説を投稿しております。更新は不定期ですが^^;
剣鬼ヴァロックの地球転移 ~異世界の英雄が、紛争が絶えず自爆テロが横行する中東地域に現れた~
https://ncode.syosetu.com/n3797fc/
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