リリアムはケーラとは違うようです
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「ふああ~、疲れた~」馬上で両腕を広げ大きく伸びをする健人。
「ウフフ。はしたないですわ」健人の様子を見て笑うリリアム。仮面をつけているが楽しそうなのは見て取れる。
健人と二人きりというのは珍しい。疲れてはいても自然と笑みがこぼれるリリアム。今二人は馬に乗って伯爵邸に戻っているが、早馬だと疲れるので、ゆっくり帰っている。
「リリアムも強くなったな。魔法使わずダガーだけであれだけ戦えたら、戦力としては十分だよ」
「そうかしら。でも、褒めてくれて嬉しい。お姉様に追いつけ追い越せと、毎日頑張ってきた甲斐があったのかしらね」頬を赤らめ、フフっと超絶美女スマイルでお礼を言うリリアム。実はオークジェネラルを倒した時に、パーティー契約していた事もあって、一気にレベルアップしていたのも理由の一つだったりする。二人とも疲れていたからか、気づいていないようだが。
「これから一ヶ月はずっと魔物討伐だと思う。早く素材確認と討伐の証拠集めをサクサク出来るようにならないとね」
「そう、ね。あれに慣れる事が出来るか不安だわ」頬を引き攣らせるリリアム。
「アイラさんでも出来たんだから大丈夫だって」
「そうね。お姉様に負けていられないわ。タケトさんにも迷惑かけたくないし」
「まあ、洞窟に行った時のままなら、正直戦力にはならなかっただろうけど、今は寧ろ頼りにしてるよ」以前とは評価が変わっている事を笑顔で伝える健人。
当初一人で行動したいと思っていた健人だが、今日初めて三人で魔物討伐をやってみて、思った以上にうまく連携ができ、大量の魔物も強敵もすんなり倒せた事で、一人より仲間がいた方がいいと思い直していた。特にリリアムの光魔法は、魔薬に侵された魔物を倒すのには重要だ。
「俺が足引っ張らないか心配だよ」ハハと苦笑しながら自虐する健人。
「大丈夫よ。タケトさんは私達のリーダーよ」リリアムが健人を持ち上げる。
「私なら最初から一人で冒険しようなどと思う事はなかった。でもタケトさんは一人でもやるって言った。その強い気持ちは素敵だと思ってるわ」真剣な目で健人を見つめ、話すリリアム。
「ありがとう」素直にお礼を言う健人。超絶美女の直視にちょっと照れる。
「寧ろ尊敬してるわ。いえ、尊敬と言うより……」そこでハッとなって続きを言うのをやめるリリアム。
「ん? 」なにか続きがあるような言い方だが?
「あ、あの、その……」どうやら顔が真っ赤だ。仮面で表情までは良く分からないが。どうした?
「お? どうやら着いたな」気づいたら伯爵邸の門の前に到着していた。
一方、一大決心して何かを伝えようとしたリリアムは、二人きりの時間が終わってしまった現実に引き戻され、ヘナヘナと力が抜ける。はにゃあ~という声が聞こえそうなほど力の抜けた様子で、馬の首にぐでーと持たれてしまった。
「リリアム王女、大丈夫ですか?」その様子を見て門番が慌てて近寄る。
「え、ええ、大丈夫です」門番に声をかけられ、はあ~、と大きなため息をつき、姿勢を正して自分の馬の手綱を掴み、先に行く健人に追いつこうと馬を伯爵邸内に乗り入れた。
※※※
それから四週間程、三人はほぼ毎日、ギルドでの魔物討伐依頼を受け続けた。ヴァロックの指示で、時にはペアで、時には一人で、依頼をこなしていった。そのうちの一組または一人にヴァロックが同行し指導を行っていた。そしてついに明後日には、ついにヴァロックとのお別れだ。
そして、ヴァロックがいなくなると同時に、今後三人は改めて冒険者として、仲間として、依頼をこなしていく事になる。今日ヴァロックは、ゲイルとアイラの二人と一緒にいる。彼らにも二度と会えなくなるので、旧交を温めているのだろう。そして健人・リリアム・ケーラの三人は、今日も魔物討伐の依頼をこなしていた。
この三人のおかげで、アクーの魔物は相当減っていった。一日三件、多い日で三件依頼を片づけるこの三人組は、ギルド内で相当有名になっていた。そして一度、討伐から帰ってくる際、あまりに疲れたリリアムが、仮面を付け忘れてしまうミスをしてしまい、この三人組に王女リリアムがいる事が周知されてしまっている。他の二人も指摘し忘れてしまうほど疲れていたのだった。だが、過去にアイラ王女が、同じく冒険者として活躍していた事もあって、冒険者達は王女だからといって、当人達が心配していたほど、騒ぐ事はなかった。
「でも、やはりお父様には一言伝えないといけないかも」ふう、とため息をついて、リリアムがキラーフロッグの討伐の証拠の足を切り取っている。今も魔物討伐の真っ最中。キラーフロッグはその名の通りカエルの魔物で、大きさが1m半もあり、10cmほどの長さの牙を持っている。更に長い舌で攻撃してくる。その威力は岩を砕くほどで、舌についた粘液には麻痺毒があり、容赦できない魔物である。それでも三人にとっては楽勝だったのだが。
「報告のためにメディーに行った方がいいか?」健人がリリアムの話を聞いて、王都に向かう必要があるか聞いてみる。
「ボクも行きたいかなあ」ケーラもキラーフロッグの足を切り取りながら、行ってみたいと言う。姉探しをしたいからだ。
「わざわざお父様に会いに行かなくたって、アクーから風魔法で報告でいいと思うの。会って伝えたら引き留められそうだし」会って話すのが面倒、と言わんばかりに再度ため息をつくリリアム。
「まあ、そりゃ王女が冒険者やりますって言ったら引き留めるよな」ハハ、と乾いた笑いをする健人。王様の気持ちはよく分かる。普通自分の娘が危険な冒険者をやるだけで気になるだろうに、王女という立場なら猶更だろう。きっと王様に仕えている人達も止めるだろうし。姉のアイラの時でさえも反対していただろうに、更に妹まで冒険者をやっていると知ったら、引き止めたくなるのも分かる気がする健人。
「そうなの。だからやっぱり報告は風魔法でやっておくわ」キラーフロッグの足の束を抱えて、冒険者をやっている事を、王様に直接会って伝えるのはやめる事を決めたリリアム。冒険者は既にやっています、と事後報告にして、王様に諦めて貰う作戦でいく事にした。
とにかくリリアムとケーラは、この約四週間で相当逞しくなった。討伐の証拠集め、素材の切り取り、クリスタルの確認、この作業の苦手意識はかなり払拭出来ている。更に三人パーティー契約を組んでいる事で、お互いのレベルが相当上がっているため、既に二人とも高レベルランクの冒険者である。オーガロード程度なら一人で倒せるほどの力をつけている。当然ながら、先に冒険者として活動していた健人が頭一つ抜けているが。
そして依頼のあったキラーフロッグ五十匹の討伐の証拠の足を集め終わり、馬に引き返す三人。そしてここにも魔薬はあった。いつものように切り裂いて消滅させておいたが。
「しかし、魔物の出現の理由が、ほぼ魔薬だね」ケーラがため息をつく。
「ゲイルさんから既に依頼貰っているし、その調査は明後日からやる事になってる」健人達は、ギルド経由で、ゲイルから魔薬をばら撒いている犯人を見つけるよう、指名依頼を貰っている。ギルド経由なのは、健人達が一介の冒険者であるという扱いにしておきたいゲイルの心使いだ。直接依頼をすると、伯爵の専属の冒険者と認識されてしまう。そうなると、他の冒険者から嫉妬され余計なもめ事が生まれる可能性がある。ギルドの討伐依頼を受けるにも、専属なら伯爵の依頼だけやっておけ、と言われ邪魔されかねない。だが、ギルド経由であれば、依頼者が誰かギルド職員以外は知り得ないし、一般の討伐依頼のように装える。
そしてアクーで一番のやり手となった三人であれば、不測の事態にも対応できるだろうとの事で、ゲイルが依頼したのだった。
因みにカインツ達にも、既に魔薬の事は伝えているので、以前劇場裏で現れた化け物が、魔薬が原因である事は既に共有済。ただ、何で出来ているか、どうやって作られたのかまでは、ケーラからの情報により、本来は禁忌なので解明は難しい事も共有されていた。
そしてゲイルによると、他の三都市と王都の周辺でも、魔物は増えていると伝え聞いている。それらも魔薬が関係しているかも知れない。
「今日はこれで終わりだな」健人が馬に討伐の証拠の、キラーフロッグの足を束ねた塊を乗せ、自分も馬にまたがる。
「そうだ。ケーラ、今日中に俺の家から出ておいてくれよ」そしてケーラに話しかける。
「やっぱり出ないとダメ?」え~、という残念そうな顔で聞き返すケーラ。
「当たり前だろ。俺はもう伯爵の家から出ないといけないんだから、家に帰らないと。ケーラと二人で同じ家に住めないだろ」
「ボクは大歓迎なのに~」ちぇ~、とつまらなそうに返すケーラ。
「ケーラももう十分強くなったし、宿に泊まるのは問題ないだろ。お金だって相当稼げたんだし」ケーラの返しを意に介さず理由を説明する健人。当初一人で宿に泊まるのが怖い、お金がないという理由で、空き家だった健人の家を貸していたが、この約四週間でケーラは相当強くなっているし、毎日のように魔物討伐をして素材を売っていたのだから、お金だって今はもう大丈夫なはずだ。そもそも魔族なので強いはずなのだから、そんな心配するのも不思議なのだが。
「二人きりでなんて、あなたとだったら問題が起きそうで怖いわよ」リリアムも健人に加勢する。
「あんたは一緒にいてほしくないだけでしょうが」ケーラがリリアムを一睨み。ツーンと目線をそらすリリアム。
「なんで一緒にいてほしくないんだ?」二人のやり取りの間に入って健人が質問する。
「い、いえ、何でもないのよ」焦ったリリアムが、オホホホと珍しく? 貴族らしく王女っぽい笑い声をあげる。若干額に汗が光っているように見えるのは気にせいだろうか。
「ちょっと! 余計な事言わないでよ」肘でケーラの脇をつつきながら、小声で注意するリリアム。
「ふーんだ」でもケーラはプイと顔を逸らした。
「まあ、仲良いんだろうな」二人のその様子を見て、あさっての方向に勘違いしている健人。ともかく、二人の訓練は順調に終える事が出来た。頼もしくなったと思い、二人を見て微笑む健人。まだ二人はにらみ合いをしているが。明後日までは皆準備のため一旦討伐の依頼はお休みだ。これから旅が始まる。真白を元に戻す旅が。ようやくスタート地点だ。
これから始まる旅が順風満帆にいくとは思わないが、とにかく真白を元に戻す事が出来るよう、心の底から願う健人だった。