修行はまだまだ続きます
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「うりゃあ!」ケーラのオリハルコンナックルが、ゴブリンチャンピオンの頬を強打する。「ウゴオオ!」という声と共に吹っ飛んでいくチャンピオン。
「マ、マダダ」何とか起き上がろうとするチャンピオンに、更に追い打ちをかけるためダッシュで近づき、それからジャンプして今度は上からオリハルコンの踵のキックをお見舞いする。
「グアアアア!」鳩尾に入った蹴り。地面に転がり苦しそうに腹を抱え、悶え苦しむチャンピオン。「トドメだ!」地面に着地したケーラが脚を思い切り振りかぶり、悶えているチャンピオンの頭にサッカーキックする。ブゴン! という生々しい音と共に、チャンピオンの頭だけが飛んでいった。残った胴体がピクピク痙攣している。
地面にはゴブリン達の屍が累々と広がっている。討伐依頼通り、ゴブリンは五十匹、チャンピオンが一匹だった。それをヴァロックの指示通りケーラ一人で倒したのだ。魔法を使わずに。
「はあ。はあ。疲れたー」と、チャンピオンを倒して気が抜けたのか、地面に大の字になって寝転ぶケーラ。
「ケーラ。やっぱりここにも魔薬あったぞ」健人が寝転がっているケーラに声を掛ける。それを聞いてガバっと起き上がり、声のする方へ駆けていくケーラ。
「さっきのと同じだね」ドクンドクンと心臓のように脈打っているのはコボルトキャプテンがいたところと同じだ。リリアムとヴァロックも近くに来ている。すると、いきなり紫の玉がドクンと大きく跳ね上がり、歪にコブが出来てそれが膨れ上がってきた。嫌な予感がして皆距離を取る。武器を構え警戒しながら様子を見ていると、そのコブが人一人入るくらいまで膨らみ、ポンと弾け、中からずぶ濡れになったゴブリンが、「ギシャア」と声を上げながら出てきた。
突然の事で言葉を失う健人達。
「産まれてきたのか」勇者メンバーで剣鬼の二つ名を持つヴァロックも驚いている。
「でもこれ、大人のゴブリンだ」健人が大きさを見てそう判断するが、間違いなさそうだ。
「そうだね。これが魔薬の効果。ボクも見たのは初めてだけど」ケーラも知識としては知っていたようだが、その現象に驚いている。
「とにかく、倒しましょう」リリアムがそう言って、産まれてきたゴブリンに「ライトニングニードル」を唱え、複数の光の針を飛ばした。さほど距離がないのにわざわざ魔法を使ったリリアム。何故って? 玉から産まれてきたゴブリンが気持ち悪かったからだそうです。
「クギャア?」産まれたてのゴブリンが疑問に思うのも束の間、複数の光の針に刺されて事切れた。産まれてすぐ殺されてしまうという、ある意味哀れなゴブリン。
一方紫の玉は、何事もなかったかのように、またもドクンドクンと鼓動している。
「俺がこの玉を斬ります」そう言って健人が大剣を振り上げ、一刀両断にした。「ギャアアアアアア!」先程と同じく叫び声を上げる紫の玉。そしてブシュウブシュウと音を立て、紫色の瘴気のようなものが霧散していった。
「やっぱ気味悪いな」大剣をブンと一振りして鞘に収めながら、徐々に消えていく紫の玉を見つめ、呟く健人。
「これで結局、討伐依頼あったところに全部魔薬があったね」やはり魔物増加の原因は魔薬だろうと確信し、厳しい表情をするのケーラ。
「先程も言ったけど、お義兄様とお姉様に報告するわ。そしてギルドにも報告した方がいいわね」リリアムも険しい顔をしている。
「とりあえず魔薬を退治すれば魔物は湧かないみたいだからこれで落ち着くだろう。素材確認と討伐の証拠集めたら戻るぞ」ヴァロックが皆に指示した。
三件目の討伐依頼のゴブリン退治を終え、クリスタルの確認と討伐の証拠の耳集めをしていたら、既に夕方近くになっていた。コボルトキャプテンから取れる素材は毛皮だったが、これも嵩張る上剥ぐのに時間がかかるので断念していた。クリスタルの欠片と討伐の証拠の耳を狩るのだけはやっておいたが。ゴブリンとチャンピオンからは素材が取れないので、燃やして埋めておいた。
さすがに三人共クタクタだ。だが、3件の討伐依頼を、それぞれの修行の目的に合わせ、達成できた事は、特にリリアムとケーラにとっては、大きな自信になったようだ。疲れた表情の二人だが、充足感に満ちた顔をしている。
そしてギルドに到着し、ファルに討伐の達成報告と、素材の換金を依頼する。待っている間ギルド内の酒場の方の机にうつ伏せる3人。
「疲れたー」「ほんとね」「動けないー」3人ともグダーとしている。因みにリリアムは、さすがに今の時間は人が多いので仮面をつけている。
「三件の依頼お疲れだったな」一方ギルド長のロックはホクホク顔だ。1パーティで3件も片付けた事が嬉しい様子。「ま、ヴァロックがいりゃあ余裕だろうがな」
「俺は何もしてねーぞ」ヴァロックが口を挟む。「あいつらだけで3つ終わらせたんだよ」
「おお、そいつぁすげぇ」またも嬉しそうなロック。ヴァロックは根無し草で有名で、いつフラッと何処にいくか分からない。だが、健人達ならアクーで冒険者として暫く魔物討伐してくれるだろうと期待していた。その三人が三件とも、自分達だけで達成出来たなら、今後もアクーの魔物討伐は期待出来る。
「んでロックよぉ、ちっと話があるんだが」急に真面目な顔をするヴァロック。
「なんだ? どうした?」雰囲気が変わったヴァロックに、ロックも真面目な顔をして向き合う。そしてヴァロックは改めて魔薬の事を説明した。
「……なあ魔族の嬢ちゃん。取ってきたっていうサンプル見せてくれねぇか?」話を聞き終わったロックが、神妙な顔でケーラに話しかける。
「ふえ? ちょっと待って」机に打つ伏して少しウトウトしていたケーラが、ふいにロックに声をかけられ、ポケットから小瓶を取り出す。小瓶に入った紫の小さな欠片は、全く動いていない。ミミズが死んだようにも見える。
「魔薬そのものもあったんだけど、危険だと思ったから持って帰ってこなかったんだ。これは魔薬の効果で変形した魔物を倒した後、落ちてたのを拾ったんだ」と説明するケーラ。それを上から下からと、しげしげと見つけるロック。
「とりあえずヴァロックの話は分かった。ギルドでも通達しとく。特に紫の玉があっても触らないようにってな」ロックがヴァロックにそう伝える。
「おう。よろしく頼むぜ」ヴァロックが欠伸しながら答えた。そして素材確認が終わり、お金を受け取ってようやくギルドを後にした。
オークジェネラルに入っていた12角形のクリスタルは、健人がエンチャント魔法に使いたいので、これだけは換金しなかった。
「このまま帰っても遅くなるし、どっかで皆で飯食っていくか」ヴァロックが皆に提案する。
「賛成! ボク一人じゃ寂しかったんだ」さっきまで眠そうにしていたケーラが、その言葉を聞いて急に目が覚めたように声を張り上げる。
「そうね。私もたまにはお外でお食事したいわ」いつも伯爵邸で食事を済ませているリリアムも同意する。
「じゃあ、宿屋にある食堂に行くか」健人がギルド近くの食堂を指定した。皆疲れていたしあれこれ動き回るのも億劫なので、健人の提案に乗った。
※※※
「はにゃ~お腹いっぱい~」ぐでーんとしながら馬の首に体を預けているケーラ。既に月がのぼっている夜の道。馬はかっぽかっぽ蹄の音を立てながらゆっくり歩いている。
「全く。食べ過ぎなんだよ」健人がケーラに呆れている。
「本当ですわ。なんであんなに無茶してお腹にいれようとするの?」仮面をつけているリリアムも。
「だって~、美味しかったんだも~ん」眠そうにムニャムニャ言いながら言い訳になってない言い訳をするケーラ。
三人は今、ケーラが宿泊している健人の家に向かっている。ケーラが食べ過ぎで動けないので、仕方なくケーラを乗ってきた馬に乗せ、健人が馬に乗りつつそれを引き、リリアムも馬に乗って共に並んで進んでいる。因みにケーラの乗っている馬は健人の馬。そして健人の乗っている馬はゲイルが貸してくれている。ヴァロックは彼らに付き合う必要ないので、一人で先に伯爵邸に戻っていた。
「まあ、おかげで私は初めてタケトさんの家にいけるわけだけれども」内心ドキドキしながら小さく呟くリリアム。健人には聞こえなかったようだが。
とにかくようやく健人の家につく。庭に三人の馬を繋げ、中に入る。リリアムはドキドキしながら。
「ここがタケトさんのお家なのですね」初めて入る庶民の家。それも新鮮だが、ここで健人が生活していたという証があちこちにある事を確認出来るのが嬉しい様子。
「ケーラ。風呂入れよ。そのまま寝ちゃったら臭いから」健人が注意しておく。放って置いたらきっとこのまま寝てしまうだろう。だが、今日は魔物を沢山狩ったので、自分でも気づかない臭いがついている可能性があるのだ。そして当然汗もかいている事だろう。
「く、臭いとか言うな!」失礼な事を言われたと思い、目が覚め健人に言い返す。健人は優しさで言ったつもりなのだが。そんなケーラを気にせず健人はアハハと笑いながら、「じゃあまた明日な」と言って、リリアムを外に誘い、出ていった。
「全く、こんな可愛い子に対して失礼だなあ、そして一人にして置いていくのか。分かってたけど」ちょっと寂しいケーラ。
「ま、今日は疲れたし、お風呂入ってサッサと寝るか」誰に話しかけるでもなく独り言を言う。
そして椅子から立ち上がって風呂の用意をしようとしたその時、窓をコンコンと叩く音が聞こえた。
「はーい」それを不審にも思わず、慣れた様子で返事をして窓を開けるケーラ。そこには一匹のコウモリがいた。