魔物退治を3人で
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「オーガ五十匹だあ?」ロックが大声で叫ぶ。
「ええ。ただ、依頼者が遠目で確認した程度なので、実際はどれくらいの数か分からないそうですが、おおよそそれくらいらしいです」ロックの声がでかいのはいつもの事なので、既に慣れているファルが、驚きもせず淡々と答えている。
「ったく、何だってんだ」舌打ちをしながらロックが悪態をつく。最近妙に魔物が多い。しかも数がどんどん増えてきている。
「そういや新鋭のあの二人組、最近見ないな?」黒髪の大剣持ちと猫獣人の姿を見かけなくなってもう二ヶ月以上になるだろうか?
「確か二ヶ月くらい前でしたか、タケトさんだけは見知らぬ女性と二人で来た事はありましたが」討伐依頼の確認ではなく、ドリンクを飲んで早々に立ち去ったのを、何となく覚えていたファル。
「まあ、女が何人いようとどうでもいいが。それより他にも魔物の討伐依頼が複数あるんだよな?」
「海岸沿いに現れたキラーフィッシュが約百匹、オーガが表れた森の反対側でオーク三十匹、更にコボルトキャプテンも確認されていますが数不明、ゴブリンチャンピオン率いるゴブリンの集団五十匹程度等など、ですね」
「……冒険者足らねぇ」ロックが愚痴をこぼす。アクーは他の都市に比べ比較的平和で、魔物も魔族との戦い以降、殆ど出ていなかったので、他の都市より冒険者が集まりにくい傾向があった。それもあって急に増えだした最近の魔物討伐依頼に追いついていない。領主に頼んで兵士を派遣して貰おうにも、万が一増えた魔物達がこの都市に入ってきた時、兵士の数が少なくて対応が遅れたりするのも困るだろうから、多分派遣して貰うのは難しいだろう。そういや以前の劇場裏の化け物の件はどうなったんだろうか?
「しゃあねえ。俺も出るか。ファル、下手したらここ留守にしてお前にも討伐依頼受けてもらうかも知れなくなるかもな」ロックが覚悟しろと言わんばかりにファルに話す。
「ギルド長のあなたがいなくなって、更に私までいなくなったら、誰がここを管理するんです? 他の職員には荷が重すぎますよ。さすがに責任者のギルド長と私までいなくなるのは問題かと。まあ、それだけ切羽詰まった状態なのは理解していますが」困った顔で答えるファル。
二人がそんなとりとめのないやり取りをしている間、カランカランと西部劇のような扉の開く音が聞こえ、赤い髪の大剣を背負った大男が入ってきた。
「よお、ロック久しぶりだな」手をヒョイとあげて挨拶するヴァロック。
「ヴァロックじゃねえか! お前アクーに来てたのかよ」ガハハと笑いながらヴァロックに近づき、肩をバンバン叩く。どうやら旧知の仲のようだ。
「ファルも元気か?」ロックと笑顔で挨拶し、そしてファルにも気軽に声をかけるヴァロック。
「勇者メンバーのヴァロック様、お久しぶりです」恭しく頭を下げるファル。
「そんな他人行儀な挨拶よせよ。でも相変わらず元気そうで安心したぜ」そして嬉しそうにカウンター越しにファルの肩をポンポンと叩くヴァロック。そんな久々の再開らしい様子の中、後から新たに三人入ってくる。
「よお、タケトじゃねえか。久々だな。そちらの……って、仮面はいいんですかい?」ロックが健人に声かけた後、素顔を隠していないリリアムを見てちょっと驚く。
「ええ。今はいいんですの。朝早いですし、これからすぐ移動する事になると思うので」頭を下げ挨拶をしながら説明するリリアム。
「それと、そっちの嬢ちゃんは初めましてだな」ケーラを見てロックが声をかける。
「初めましてだね。ここは来たことあるけどね」ケーラもロックに挨拶する。
「んで、今日は何しにきた?」ヴァロックに向き合ってロックが質問する。
「何言ってんだ。ギルドに来たって事は依頼受けに来たって事だろが」
※※※
修行を開始して既に二ヶ月が経過していた。その間ケーラは健人がいない家を仮住まいとして使っていた。ケーラは馬にも乗れるので、健人の家の馬を借りていた。世話をする事を条件にして。そして健人達の修行の間、彼女なりに出来る事をしていたようだ。そうやって行動しながら、彼女は毎日必ず、伯爵邸に行き、健人と顔を合わせ、時には訓練に参加していた。
リリアムもアイラ指導の元修業を続けていた。特に近接攻撃防ぎ方、ダガーの使い方を中心に訓練していた。遠距離魔法を主とするリリアムの場合、懐に入られてしまえば致命的なので、それを防ぐ手段や、反撃する方法をアイラは教えたかったのだ。そして修行の結果、真白との試合でアイラが使っていたリフレクションを使えるようにまでリリアムは成長していた。勿論、アイラほどうまく使えるわけではないが。
そして健人は、ヴァロックと毎日訓練していた。その間ずっと能力の使用は禁止。基礎を徹底的に叩き込まれた。それが功を奏して、元々健人が使っていたリズムとのコンビネーションも良くなっていた。
そんな中、ヴァロックが後一ヶ月くらいで、この地を離れる事が分かったのだ。なので修行の最終段階として、魔物討伐をしようと、ギルドにやってきたのだった。
「三人の連携も練習しないとけないしな。タケト、今日から能力は使っていいが、俺がいいと言うまで使うなよ。あと、エンチャントもな」既に健人のオリハルコンの大剣には、火の8角形クリスタルがつけられている。使い方は既にゲイルから習っていた。魔力だけは膨大にある健人は、属性のついたクリスタルを武器につけ、エンチャント魔法を使う攻撃も訓練していた。エンチャント魔法を使用する事で、物理攻撃以外の範囲魔法も使えるようになる。近接で前衛である健人の、攻撃のバリエーションを増やすには、エンチャント魔法を使えるようになる事は重要であった。
「分かりました師匠」ここずっと一緒に修行してきて、ヴァロックの強さを目の当たりにしてきた健人は、いつの間にか自然にヴァロックを師匠と呼ぶようになっていた。
「ヴァロックが師匠? お前弟子はとらないんじゃなかったのか?」ロックが怪訝な顔で質問する。
「ああ、そのつもりだったんだがな。まあちょっと事情があってな」言いにくそうに返事するヴァロック。自分がいなくなる事は言いたくないようだ。
「ま、何でもいいけどよ、お前らが来てくれたのはありがたい。魔物討伐の依頼が多くて困ってたところだ」そしてファルが先程読み上げていた複数の討伐依頼をヴァロックに渡す。
「アクーにしては多いな。全部俺一人でやれる案件だが、今日はこいつらと一緒じゃないとな」パラパラとファルが渡した依頼の紙を見ながらうーんと唸るヴァロック。
「じゃあ今日出来ない分は明日以降頼むぜ」ロックはヴァロックという戦力がアクーにいて嬉しそうだ。
「ま、今日はとりあえず3件くらい行くか」通常討伐依頼は一日一件行けばいいところを、三件行くと聞いたロックが飛び上がって喜んだ。自分が討伐に行く必要がなくなる。一方三件も? と呆気にとられた顔の健人。ケーラとリリアムはキョトンとしている。そもそも討伐依頼自体初体験なのでよく分かっていないので仕方ないのだが。
※※※
「ところで間違いなく一ヶ月後なんですか?」馬で駆けながら健人がヴァロックに質問する。
「ああ、今朝起きたらこれがポケットに入ってたから間違いねえ」そう言って知らぬ間にポケットに入ってた赤い玉を健人に見せる。
「寂しくなりますね」師匠とは後一ヶ月でお別れだ。健人は既にヴァロックがどこに行くのか知っている。一方ヴァロックも、健人が異世界の人間だというのは、既にゲイルから聞いていた。
「なーに言ってやがる。お前には仲間がいるだろ」
「まあ、そうですけど、それとこれとは別ですよ師匠」
ヴァロックにはきっと二度と会えなくなる。それが分かっているので、ヴァロックに諌められても寂しさは湧いてくる健人だった。
そして魔物が湧いているらしい場所辺りに到着し、皆馬を近くの木に繋いだ。
「緊張するよ~」ケーラが若干声を震わせ呟く。
「そうですわね。私も」リリアムは以前洞窟には健人と真白三人で行っているが、あの時は警護されると言う立場。だが今回は自ら率先して戦う事になる。冒険者として魔物討伐するのは初めてだ。
「あ、そうだ。二人ともパーティ契約しとこうか」そう言って健人が頭の中でパーティ契約とイメージする。手首を裏返した血管の辺りから、赤と青のモヤを確認するケーラとリリアム。勿論二人とも青を選択し契約した。因みにヴァロックは指導役なので契約しない。当たり前だが。
「よしいいか? じゃあタケト先頭で、リリアムが真ん中、ケーラが殿だ」ヴァロックが指示する。構成としては健人が前衛リリアムが後衛、そしてケーラがアタッカーといったポジションだ。ただ移動中は、近接の戦いに慣れないリリアムを挟むようにする事にしている。因みにリリアムの装備はアイラのお下がりなので、防具どころか武器も3人の中で最強では有るのだが。
そしてケーラの防具は真白のオリハルコン製の物を借りている。真白よりやや身長の高いケーラの事を考えると若干防具が小さいが、レッグガードやガントレットは、縛っている紐で調整できたのでさほどサイズは問題なかった。真白の靴の踵に入れていたオリハルコンも、ケーラの靴に付け替えが可能だった。ただ、胸のサイズが問題だった。真白さんは結構なものをお持ちだったようで。ケーラは泣く泣く詰め物をしましたとさ。それでもケーラだって小さいわけではないんです。本人曰く、ほんのちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、負けているんだそうです。
ともかく三人と、少し離れてついていっているヴァロックは、まずオーク三十匹がいるという森の奥に向かう。真白のような危機察知能力や、よく聞こえる耳、よく見える目を持っている者はいないので、どの辺りにいるのか目視しないと分からない。慎重に歩を進める3人。
「暗くなると大変だな」今はまだ朝早い時間帯なので全く問題ないが、今日は三件依頼をこなす予定なので、早く終わらせないと、夜遅いと目視自体出来ないので討伐を諦めないといけない。真白がいれば難なくこなせただろうが。改めて真白の有り難さに気づく健人。
暫く進むと「プギィ」「フゴォ」という、豚の鳴き声のような音? が聞こえてきた。後ろを振り返って皆を制止する健人。気づかれないようそっと木陰から覗くと、オークが人族とウサギの獣人の女性の髪を掴んで持ち上げ、下卑た嗤いを浮かべながらプギプギ言っている。奥の方にも数人、女性が地面に転がっているのが確認出来た。
オークは顔が豚そのもの、だが体は人間の姿をした魔物だ。中年太りしたオッサンのような腹、しかし腕や肩、足は筋肉がついていて太い。怪力なのが良く分かる体躯。獣人との違いはオスしかいない事、人族や獣人の女性を攫って孕ませ、子どもを作る事、そして基本気性が荒く、知能が低いので人の言葉を話せない点だ。ゴブリン同様村を襲ったり人を襲い、家畜を奪う。要する人を襲う点と、余り賢くないところが獣人と大きく違う。
「捕まっている人がいたか」被害者が複数いるのを見つけ、唇を噛みしめる健人。そしてどうしようか作戦を考えていると、健人の後ろからフッと影が自分の上を飛び越えていくのが分かった。
「その人達を離せーー!」ケーラだった。怒りのあまり飛び出してしまったのだ。
「プギョ?」いきなり声が聞こえ驚くオーク達。だが、その声の主が魔族の美少女だと分かると、ニヤリと嗤う。
「ケーラ! 勝手に飛び出しちゃダメだろ! リリアム急ぐぞ!」リリアムが緊張した顔で頷く。作戦を考える前にケーラが飛び出してしまい、仕方なく自分達もオーク達に攻撃を仕掛ける。
「あ、タケト。能力は使うな。但しエンチャントは使っていい」そんな緊急事態のような状況でも冷静に指示するヴァロック。つい能力を使おうとしたが止められてしまった。
「マジですか。分かりました」師匠の言う事なら仕方ない。だが火のエンチャントは使ってもいいらしい。訓練はしていたが、実践では初めて攻撃魔法を使う事になる健人。
「ファイアエッジ」そう呟きながら、開けた草地に沢山いるオーク達に向かって走っていく健人。大剣は炎に包まれている。ファイアエッジは剣に炎を纏わせ、切り口に炎の攻撃を加える事によって、圧倒的な火力を生み出す魔法だ。
ケーラが先にナックルで、女性の髪を掴んでいたオークに殴りかかっている。かなりのスピードど怒りが乗ったそのナックルを躱す事が出来ず、「プギョオー!」と叫びながら吹っ飛んでいくオーク。そして健人の後ろからリリアムが「ライトニングスピア」と唱える。すると一本の長い槍が、リリアムの右肩の上辺りに現れる。そしてスッとリリアムが右手を前方にかざすと、光の長い槍が飛んでいく。そして指揮者がタクトを操るように、右に左に右手を動かすリリアム。すると槍はその動きに習って、縦横無尽に動き回る。右から左からオークをどんどん屠っていく光の槍。
「ケーラ! 勝手に飛び出しちゃダメだろ!」オークを一匹一匹倒しながら、ケーラに大声で注意する健人。
「ごめん! でも我慢出来なかった」よだれを垂らしながら襲ってきたオークをハイキック一発お見舞いしつつ、謝るケーラ。
リリアムは前の二人を気遣って、広範囲魔法を使っていない。にも関わらず、3人は次々とオーク達を倒していく。そして10分もかからず約五十匹はいたオーク達を殲滅した。
「よし、これで終わりかな?」ケーラがふうと一息ついて女性達の様子を確かめようとしたその時、奥の岩陰からヒュっと何かがケーラに向かって飛んできた。気づいた健人が大剣で防ぐ。拳大の石だ。
「オークジェネラル? また大物だな」ずっと手出しせず様子を見ていたヴァロックが呟いた。