真白とご対面、そして秘密を明かす
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「にゃーん」一声鳴いて健人にスリスリする白猫。
伯爵邸の、健人が泊まる部屋。そこにケーラとリリアム二人と一緒にいる。今日の修行が終わって、夕食の後、ケーラが白猫を見たいと言ったので、二人とも来たのだ。どうしてリリアムも来たのかは不明だが。また、健人が昨晩家に帰っている間、ここのメイドが白猫の面倒を見てくれていたようで、特に問題はなかったようだ。
「ほー、これがマシロさん?」マジマジと見ているケーラ。「ん? ……魔素が少し残ってるね」そして急に真顔になる。
「そうなのか? そもそも魔素ってなんだ?」健人が尋ねる。
「魔物が持つ悪意の塊といえば分かるかな? 魔物にはその魔素があるから、凶暴になって人を襲ったりするんだ」
「じゃあ、真白は今魔物って事なのか? もしくは今後魔物になったりするのか?」健人が気になって質問する。
「いや、魔物じゃないよ。魔素が残ってると言っても極わずかだから、ほぼ猫だよ。そしてこれくらいなら魔物になる事はないよ」
「そうか」ホッとする健人。
「でも、魔薬の侵食から助かった事もびっくりだけど、猫に変わったって、そんな症状聞いた事ない」ずっと真面目な表情で白猫を上から下からマジマジと見ているケーラ。そして見られていても気にせず、前足でカリカリ首を掻きくわぁ~、と欠伸する白猫。
「魔素とやらが残っているなら、それを取り除けば戻れるのかしら?」リリアムが質問する。
「分からない。こんなケースは初めてだから。あと、魔素を取り除くってのは普通無理なんだよ。侵食というのは、体の中の臓物に魔素が取り込まれてしまっている状態。魔素自体を取り除こうとするなら、侵食されている臓物自体を取り除かないといけない。それに、マシロさんにどんな風に魔素が侵食しているか分からないし」
「だからヴァロックさんが、魔物化する前にマシロさんを斬って助けたっていう事も、魔薬の事を知ってる者からしたら、相当とんでもない事だったりする」事細かなケーラの説明を黙って聞く二人。
「光魔法で何とかなりそうかしら?」闇魔法の技術なら、光魔法で治せないか? そう思ったリリアム。
「抑える事は出来ると思うけど、魔素を消し去るのは無理なんじゃないかな?」そもそも初めての例なので、ケーラも良く分からない。
「そういや魔素が残ってるってどうして分かるんだ?」健人が気になった。自分やリリアムには分からない。何か方法があるのだろうか?
「そりゃ魔族だからね。魔族は魔素を察知出来るんだよ」当然、とでも言いたげなケーラ。て事は、魔族にしか分からない?
「ん? 前にヴァロックさん、洞窟で真白が魔薬にやられた時、魔素がまだ残ってるから近づくな、って俺に注意した事あったぞ?」リリアムが攫われそうになって、真白が魔薬を食らった時の事を思い出す健人。どうして人族のヴァロックには魔素が分かったんだろうか?
「だってあの人、多分魔族と人族のハーフだよ」知らなかったの? という感じで話すケーラ。
「「えええええーーーー!!」」健人とリリアムが二人してびっくりする。
「珍しいよね。ヴァロックさんって魔族と人族が敵対してた、正にその時に産まれた子どものハズだしね。今と違って」
二人ともポカーンとしている。衝撃の事実だ。ヴァロックさんは人族じゃなくて魔族との混血種。しかし、あれだけ化け物じみた強さの理由が分かった気がする。
「これはボクの推測だけど、あれだけの達人で、魔素の存在が分かるから、侵食が始まって間もない状態なら、魔薬との繋ぎ目が見えたんだと思う。そこを断ち斬ったのかと」ヴァロックが魔素を斬れた理由を考察するケーラ。詳しい事は本人に聞かないと分からないだろうが。
「しかしケーラ、えらく詳しいね」そこでふと健人が疑問に思う。前に魔薬の事は知らない魔族もいるって言ってたくらい、秘密の技術のはずなのに。
「ア、アハハ。ボクはたまたま知ってただけ」健人の指摘に明らかに動揺して誤魔化すケーラ。
「「……」」ジト目でその様子を見る健人とリリアム。
「……まあ、その事については追々話するよ」その視線に耐えられなくなって、視線を外し下を向いて弁解するケーラ。
「そ、それより、ね? ボクがいたほうが役に立つでしょ?」誤魔化しつつ、そして急に顔を上げて、隙あり、と健人に擦り寄るケーラ。でも健人はスッと離れる。舌打ちが聞こえたのは気のせいだろうか?
「ちょっと! 油断も隙もないわね」リリアムがケーラの行動に抗議するかのように怒る。
「いいじゃんねー? あ、マシロさーん? 早く戻らないとタケト取っちゃうよー?」と、今度は両手で白猫を上に抱き上げてフフーンと言いながら語りかける。
だが、そう語りかけられても、無関心な様子の白猫。「なーご」と一声鳴いただけだ。
「……もしかして、この白猫って人間だった時の記憶とか一切ないのか? 」健人がその様子を見て怪訝に思う。
「そうね。マシロさんの意識があれば、ケーラの不遜な行動に怒りそうなのに」リリアムは二人の仲の良さを知っているので、同じく不思議そうな顔をする。
「こら! 不遜な行動とか言うな!」ケーラがリリアムに抗議する。
しかし白猫が自分に無関心なのが何となく寂しい健人。懐いてはいるのだが。どうやら獣人だった頃の記憶や思い出は一切ないようだ。忘れてしまったのだろうか? そうでない事を心の中で願う健人。でも忘れてしまっているとしても、真白を元に戻したい気持ちに変わりはないが。
「あ、そういや、マシロさんってどんな子だったの?」ケーラが白猫を床に置きながら、健人の恋人について質問する。
※※※
健人はケーラに、スマホに収めていた写真をいくつか見せた。当然見せられる写真を選択して。カップルだから色んな写真がありますからね。そしてそれを見て、ケーラだけでなく、リリアムも、スマホに写った真白を見て驚いている。
「マシロさんだわ。これ、先日の浜辺ですわね」
「これがマシロさん? すっごく可愛い。いやそれよりも、姿形が写ってるこれは何?」
二人が驚いているのはスマホだ。当然ながらこの世界には存在しない物で、そしてこのように写真という物自体もない。リリアムは以前健人が撮影している様子を見てはいたが、保存されている写真をみるのは初めてだ。
「まあ、二人はこれから俺と旅する訳だから、俺が何者か話しとくよ」そう言って健人は、自分が異世界で死んでここにやってきた異世界人である事、更に真白が元猫で、自分がこの世界で生活するのを手助けするためについてきた事などを二人に話した。
リリアムとケーラは信じられないと言った顔をしている。
「違う世界から来たのですか。にわかには信じられないけど、その不思議な機械は、確かにこの世界では作る事が出来ない精巧なものね」
「タケトがこんな嘘ボク達につく必要ないしなあ。でも不思議だね」
「これはスマホと言って、本来は電話……、と言ってもわからないな。本来は遠くの人と話すための機械なんだ。ああ、そうだ」
と、健人は更に二人に説明しつつ、スマホの中に保存してあった、真白以外の前の世界で撮影した動画や、写真を二人に見せた。動画は健人が前の世界でライブをやった時の映像で、写真は町の風景やライブ仲間と撮ったものが残っている。因みに健人が風景写真を取っていたのは、自分達の音楽を自作CDにして販売するのに、ジャケット作成の参考にしようとしていたものだ。
「音が鳴ってる? こんな小さな絵が動いてる?」激しい音楽とその動きが再生されているのを見て呆然としているケーラ。
「後ろの箱? 窓がついていて不思議な車輪がついているこれは……。ゴーレムかしら? 建物には窓が沢山ついていてとても大きくて背が高いわ。見た事ないものばかり」リリアムは動画以外の写真にも興味を示している。
二人ともただただ信じられないといった表情で、スマホで再生される映像や、写っている車やビルを興味深げに見ている。
「ゴーレムってのが何か分からないけど、これは車と言う乗り物なんだ。馬が必要なくて、そして馬の三倍は速いよ。俺はこれに轢かれて死んじゃったんだ」リリアムの疑問に答える健人。乗馬でのこの世界での最高速度は、平たんな道でも30~40kmくらいだろう。因みに健人はゲームを全くやらない子だったので、ゴーレムを知りません。
そして一旦スマホを見せるのをやめ、いきなりパシャリと二人にピントを合わせシャッターを切る。眩いフラッシュにびっくりする二人。
「で、こうやって、簡単に画像を残す事が出来るんだ」そして今撮った写真を見せる。二人のびっくり顔が写っていたそれを見て、改めて驚く二人。
「……凄いですわ」「……これが異世界の技術」ただただ呆気にとられている。
「さっきの動いていた絵に映っていた、タケトさんが前に演奏していたアレも、異世界のものなのね?」リリアムが劇場でセッションした時の事を思い出し、確認する。
「そう。あのドラムも、この世界にはなくて、この世界に来てからドワーフに作ってもらったんだ」そういやドルバーさんは元気だろうか?
「あ、そういや五年くらい前に来てた勇者って黒髪の黒い瞳で、確か彼女も異世界人だったよね?」ケーラが健人の見た目を見て思い出す。
「そうみたいだけど、俺は神様ってのに会ってないし、能力を授かった覚えはないし、災厄についても何も聞いてない。そしてどうやら勇者と呼ばれる、俺と同じ黒髪の黒い瞳の人間がメディーにいるらしいから、俺は勇者じゃないのは間違いない」
ただ、能力については、直接授かってはいないが、何故か結局持っていたようだが。しかも勇者カオルと同じ能力だったし。そういやメディーのその勇者も、自分と同じ能力を持ってたりするのだろうか?
そういやどうしてスマホはついてきたんだろうか? あ、でも財布も小銭も、ついで着ていた服も一緒だったから、転移ってのは死んだ時そのままって事なのか。でも、イヤホンがなかったなあ。ふとそんな事を考える健人。
着の身着のままなのは健人だけなのだが。
「そうですか……。タケトさんはこの世界に来て良かったの? タケトさんのいた世界は、このすまほ? と呼ばれる機械の中の絵を見せて貰うと、最先端の技術がある世界だったというのが分かるわ。この世界はタケトさんのいた世界に比べて遅れていると思うのだけど。だから不便だし辛くはないの?」リリアムが気遣いつつ質問する。
「そもそも、俺は向こうの世界で死んだんだよ。死んだらこの世界に来てた。だから寧ろもう一回人生やれてラッキーだと思ってるよ。真白にも会えたしね」リリアムの心配そうな顔に笑顔で応える健人。リリアムは優しい子だな。
「そうそう。ボクにも会えたしねー」無理やりケーラが自己主張する。そして相変わらずケーラはどんどん押してくるな。
「わ、私も、その……」何か言おうとして続きが言えないリリアム。
「ハハ。まあそういう事だよな。リリアムが以前一緒に演奏した時言ってたじゃん。人との出会いは縁と運とタイミングだって。俺もそう思うよ。だからリリアムとケーラに会ったのも意味があったんだと思ってる」リリアムが何か言うより先に、健人が言葉を挟む。
「私が言った事覚えてらしたのね」それが嬉しくて頬が赤くなりつつ、笑顔になるリリアム。
二人にしか分からない事を共有しているその様子を見て、一日の長? があるリリアムに負けている気がして悔しくてプクーとほっぺを膨らますケーラ。
「ま、俺の秘密を明かした事だし、これからよろしく頼むよ。俺とリリアムの修行の間、時間があればケーラの人探しや、真白をもとに戻す情報収集をする、って事でいいか?」二人に確認する健人。
「ええ、それで」「もちろんだよ」リリアムとケーラが同意する。
こうしてようやく、三人が仲間として気持ちを一つに出来たのであった。