健人の知らないところで盛り上がっている模様
ちょっと投稿遅れました^^;
いつもお読み頂き有難う御座いますm(__)m
「ラ~ララララ~ン」楽しそうに馬上でハミングする魔族美少女。朝日がまだ眩しい朝のアクーの街中。起きてから身支度を整えて、健人が駆る馬に一緒に乗っている。健人が後ろで手綱を持ち、ケーラが前に乗っているのは昨日の帰りのパターンと同じだ。
「恋するって素敵だよねー」ね? と超絶美少女スマイルで顔だけ健人に向けて確認するケーラ。
「知らんがな」つれない返事の健人。
「つーか、俺のどこが気に入ったわけ?」そもそもそこが分からない。まさかオッサンから助け出した時だろうか?
「ヴァロックさんと対戦してた時? いや、でも他にも、マシロさんの話聞いたり、君のささやかな優しさに触れたりしたからかな? ああそうだ、やっぱ一番大きいのはボクに勝った事だね」自分でもよく分かっていない様子で、あれこれ思い出しながら答えるケーラ。結局決定的なのは訓練の時勝った事らしい。魔族とは戦闘力が高い種族。それに勝った人族という事が大きいという事だろうか。
「そんな適当な感じでキスするってのはどうなんだよ」今朝の事をふと思い出し、呆れたように笑う健人。
「そう言うけどね、あれボクのファーストキスだよ?」適当と言われて、ほっぺをプクっと膨らまし、拗ねたように答えるケーラ。
「はあ、そうですか」正直健人にとってケーラのファーストキスがどうとか関係ない。ただ、それが当人にとって大事だという事は分かってはいるが。
ケーラは結局今日も健人に付いていって、伯爵邸で修行をする事にしたらしい。昨日言っていた、健人の修行の間あれこれ自分で調べるという予定は多少変更になった模様。多分これからもずっと付いてきそうだが。とにかくケーラはご機嫌である。好きな人が出来たからみたいだが。一方健人は単に面倒が増えただけで全くもって楽しそうではない。いくらケーラが美少女だと言っても、好きでもなんでもない相手から一方的に好意を持たれるのは疲れる事を、健人は前の世界で経験しているから良く知っている。そして傷つけないように振る事の面倒さも。
ケーラは今後一緒に旅をする仲間なので、すぐに振るとかそういう事はしない。そもそも、既に真白の存在を知っていて、更に健人の気持ちが揺るがない事も知っているのだから、既に振られていると思うのだが。それでもめげない、諦めないらしい。余程自分に自信があるのか。確かにそれだけ自信を持っていいほどの容姿ではあるが。
そう言えばゲイルさんが重婚OKだとか言ってたな。ふと邪な思いが頭をよぎる健人。でも思い直して頭を横にブンブン振る。
「どうしたの?」健人の不自然な振る舞いを不思議に思い質問するケーラ。なんでもない、、と慌てて答える健人。そして伯爵邸に到着し、門番に挨拶をして、馬のまま中に入れて貰う。伯爵邸の大きな家の扉の前で、二人とも馬から降り、そして執事に声をかけ、馬を預かって貰う。
そして執事の伝達で健人が来た事を聞いたリリアムが、すっ飛んできた。
「タケトさん、昨晩帰ってこなかったから心配したのよ」慌ててきたからか若干息を切らしながら、真剣な顔のリリアム。
「ああ、ごめん。どうやらかなり疲れてたようで、あのまま家で寝ちゃったんだ」頭を掻きながら謝罪する健人。
「そうでしたの。何もなくて良かった」ホッと胸をなでおろすリリアム。ん? 待てよ?
「と、いう事は、あの魔族の女と一つ屋根の下で?」わなわなと震えながら健人に確認するリリアム。
「まあ、そう言う事になるかも知れないけど、宿には男女混合他人同士が皆同じ屋根の下で寝てるじゃん。それと一緒」別にリリアムに弁解する必要はないのだが、面倒なやり取りが嫌だったのではぐらかす健人。一緒のベッドで寝ていた事は当然伏せている。
「いやまあ、そうでしょうけど」渋々納得するリリアム。そして次に健人の隣にいる魔族の女性をキッと一睨み。
「そしてあなたは、今日は何しにいらしたの?」こめかみに薄っすら青筋を立てて聞くリリアム。
「ん? 今日もタケトの修行に付き合うんだよ」ねえ? と健人の腕にしがみつくケーラ。
「ちょ、ちょっと! どうしてタケトさんにくっつくのよ!」リリアムがあからさまに怒る。そして健人も掴まれている腕を外す。それを残念そうにしながらリリアムの問いに答える。
「だって、タケトが好きだからだよ」
「な! す、好きって? ええ? どうして?」明らかに動揺しているリリアム。
「よく分からないけどそうらしい」好きと言われても全く意に介していない様子の健人。傍から見るとイチャイチャしているように見えなくもない二人に、リリアムがイライラしている。
「そ、そもそも、タケトさんにはマシロさんがいるのご存知でしょ? タケトさんのそばから離れなさい!」リリアムが怒りを顕にして注意する。
「なんであんたにそんな事言われないといけないの? ボクの勝手じゃない」何言ってんの? というより、関係ないでしょ、という顔でリリアムに言葉を返す。全くもってその通り。
「で、でも、でも……」怒りとイライラが増してきて冷静になれなくなるリリアム。
「つーか、とりあえず早く中入れ。時間限られてんだぞ」そこでヴァロックが面倒臭そうに声をかけに出て来た。アイラもいる。リリアムの修行も始めないといけないからだろう。
「そうだな。そのために来たんだから入ろうか」二人の様子を気にもせず、ケーラとリリアムに声をかけ、中に入るよう促す健人。
「……そうね」言葉少なに呟いてから、踵を返して急いで中に戻るリリアム。
※※※
「リリアム。今日は闘技場に行って光魔法の……ちょっと、どこ行くの?」アイラが声を掛けるも、それを無視して走って横を通り過ぎ、自分の部屋まで走っていって飛び込むリリアム。そしてバタンと大きな音を立ててドアを閉めた。普段おしとやかで、王女であるリリアムが邸宅内を走るという事自体、珍しい事だったりする。
「リリアム、リリアム。どうしたの?」様子がおかしいリリアムを気遣い、後を追ってリリアムの部屋の前に来たアイラが、ドアをノックしながら、部屋の外から声を掛ける。
「大丈夫だからほっといて」中からくぐもったリリアムの声が答える。
その返事を聞いて、アイラはリリアムの了解を得ないのに、勝手にリリアムの部屋のドアを開け、中に入った。予想通り、ベッドの上でうつ伏せで泣いているリリアムがいた。
「な! どうして勝手に入ってくるの?」明らかに泣いていた後が残る顔をアイラに見せながら、困惑した表情のリリアム。泣いているのを見られたくないのに。
「少しお話しましょう」そんなリリアムの様子を気にも留めないアイラ。部屋のドアを閉め、リリアムのベッドの側の椅子に静かに座る。
既に泣いているところを見られたが、恥ずかしいのでベッドにうつ伏せになって、枕で顔を隠しているリリアム。
「で、自分の気持ちには気づいてるの?」リリアムのそんな様子にもお構いなく、話しかけるアイラ。
「自分の気持ちって何?」顔を枕で隠しているので、くぐもった声のリリアム。
「タケトさんの事よ」分かるでしょ? と言いながらリリアムに聞く。
「分かりたくないの。だって、無理だから」
「ケーラって子は違うみたいね」先程の二人のやり取りを見ていたアイラなので、リリアムが何故今泣いているのかよく分かっている。
「……だから、悔しいの」正直な気持ちを話す。あんなにストレートに自分の気持ちを語れる彼女が羨ましい。
「私には、あんな風に出来ない。あんな風に」枕に顔を埋めたまま、ヒックヒックと泣き出すリリアム。
「じゃあ、真似しなくていいんじゃない? あなたはあなたでしょ?」アイラが諭すように話す。
「あなたのやり方でいいんじゃないかしら。無理しなくたっていいと思うわ。でも、悔しいならその気持ちを抱えたまま、何もしないのは良くないわね。あなたなりに行動しないと」
「でも、それは……」リリアムが仰向けの姿勢で、枕から顔だけアイラに向け、泣いていた赤い目をアイラに見せながら何かを言おうとするが、アイラが続ける。
「そうね。自分の気持ちを認めないとね」
「……怖いの」気持ちを認めるという事は、もう戻れないという事。その気持ちに素直に従って、突き進むという事。
「そうね。じゃあ、このままでいい? マシロさんはともかく、あの子とも仲良くしているのをずっと傍で見ているの?」
「それは嫌!」ガバっと起きてアイラに向き合う。それを見てフフっと微笑むアイラ。
「あら。もう自分の気持ちが既に決まってるじゃない」
「うう……うえ~ん! お姉さま~!」リリアムがアイラの胸に飛び込んで号泣する。そんなリリアムを受け入れて、よしよしと優しく頭を撫でるアイラ。
※※※
「おらあ! もいっちょこーい!」ヴァロックの怒声が闘技場に響き渡る。
「うりゃあああ!」健人の気合の入った声と共に、オリハルコンの大剣がヴァロックに迫る、が、それをいとも簡単に手でキャッチされる。
「違う! 腰を使え! 体捌きも意識しろ! それに大剣に振り回されるな!」指導しながら健人をポーイと放り投げる。ドサっと土の闘技場に落ちてその衝撃に唸る健人。
「激しいねー」それを闘技場の上の観客席のようなところで一人眺めているケーラ。
「ま、あんな必死なタケトもカッコいいね」ニヤニヤしながら健人が一方的にやられているのを、何故かご満悦で見ているケーラ。
そうやって訓練の様子をニマニマしながら眺めていると、いつの間に来たのか、ケーラの隣にリリアムが座った。
「ん? 何?」また何か文句言われるのかなあ、とちょっと嫌そうな顔をするケーラ。
「負けませんわよ」いきなりボソっと呟くリリアム。
「何が?」いきなり表れてそう言われてさっぱり意味が分からないケーラ。
「だから、あなたに負けませんと言ってるの」キッとケーラを睨んで同じ事を言うリリアム。ちょっと目が赤い?
「いやだから何が?」困惑しているケーラ。
「うがああ!」そこで健人の叫び声が聞こえた。
「おー、リリアム。ちょうど良かった。健人の腕が折れたわ。治してやってくれ」まるでかすり傷を負ったような軽い言い方で、リリアムを呼ぶヴァロック。
「あ、いけない。承知しました」ケーラに答えるよりも先に、健人のところに急いで向かうリリアム。そしてあらぬ方向に曲がっている健人の腕に、光魔法の基礎「ヒール」を唱えて、手をかざすと、徐々に健人の腕が元通りになり、治った。
「はあ、はあ。ありがとうリリアム」息を切らせながらお礼を言う健人。
「い、いえ。当然の事をしたまでです」恥ずかしそうに健人の顔を直視せず、俯いて答えるリリアム。
「よし、続き行くぞ。リリアム下ってろ」治ったのを確認したヴァロックが声を掛ける。健人の大怪我が無かったかのように、訓練が再開される。そして巻き込まれないようそそくさと離れるリリアム。それでまたケーラの横に座った。健人を治療しているリリアムの様子を見ていたケーラが気づいた。
「……あんたもなの?」
黙ってコクンと頷くリリアム。
「そうなんだ。じゃあお互い頑張ろう!」そう言ってリリアムの背中をバーンと叩くケーラ。ケホッケホと咳き込むリリアム。
「な、何するんですの」驚いたのと同時に文句を言うリリアム。
「ライバルだね! でも勿論ボクは負けないけどね」フフンと鼻にかけながら宣戦布告? するケーラ。
「わ、私こそですわ」リリアムも負けじと言い返す。
そして健人は、そんな二人のやり取りを知らず、訓練に集中するのだった。もし気づいていたら、またため息が出ただろうが。